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津島ことこ

選出作品 (投稿日時順 / 全5作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


塩小路

  津島ことこ

*化石

ならない電話をのみこんで
渦まくコードの
耳から漏れる
おとのかたまりを見つめてた。


*氷菓

たて波の断面のように
歯こぼれしていた、
底冷えのあさ
薄切りのきゅうりを
しおもみする
あなたの手なれたてつきは
迷いひとつなく

(ちそうをてさぐる
(はりめぐらされた地下鉄
(ぼうぜんとしながら、とおりすぎてゆく
(息つぎの しろい
(雑踏

おどろくほどかるい
すかすかの骨を並べて
路線図を模すと
せいぜんとした、標本のように
収められてゆきます


*流木

しもやけが
路肩のあたり
いちめんを覆う
わきたつ感触

まざまざとあらわれる
干渉縞の
波うち際で
(かつて根があり、気孔があった)
幹は
流線をとどめたまま

交錯する袋小路で
削ぎ、おとされた
受話器を置く


とりのは

  津島 ことこ

はこがまえ 挙動ふしんの空白は ふれない頬とほほの衝突


金よう日、ラジウムみたいに放射して裸子植物を食む子にもどる


黒鍵を人差し指と薬指で押さえたらいちめん緑


点描の夢をみました。それだけです。ただ輪郭をみつめただけです。


高架下まで三脚を引きずって くさかんむりを手向ける考察


アスパラの茎がみるみる伸びたので子葉はすべて退化しました。


ウエハース製の座卓をかじってるわたしの中のマトリョーシカたち


草原をすべるボートは音もなく 楕円のかたちにふくらむ白夜


満たされぬものがなにかも知らないで満たすエーテルひかりになりたい


一辺と一辺になる西の空 折り合いをつけた鳥が飛びたち


錯覚の 明日を向いて腰かけた象の背中は亜寒帯色


点描

  津島ことこ

濃淡を、くりかえしながら先割れのスプーンに近づいている朝


演じるということ、やさしさということ、おろし金から飽和する雪


質量をもってしまった画家はもう手のひらを返すようにかなしい


ましかくに凍えるような病棟でビニール傘を写生するひと


引き潮がさらわれてゆく静けさのなかで東京駅に降り立つ


連弾をしているずっと/ひとりきり はると見まごうプラネタリウムで


きゅうくつに体を折り曲げしあわせをちいさく握りしめている、猫


ちょうむすびしている春がこんなにもやさしすぎても誰も責めない


いちめんの菜の花畑で露光する(月光、液体窒素、フラワー)


ひらかれた感光紙には職人の顔をしている知らないあなた


お手数をおかけしますと梅雨入りの午後、ファックスで送信します


雨の日の断片アジサイすきだった ひとをなくしてわたしそらをとぶ


むじゅうりょくのなかでみつめるやわらかな名前、ピアノの上で跳ねるの?


とうめいな打ち上げ花火 ひび、ひびと 身をまかせれば素粒子のうみ


あめであることを忘れる(ハレーション、)はくさい色の虹をみていた


立冬

  津島ことこ

うつくしい人の想像をこえた
あなたのかかえているもの
すべては朝だった

*

きもちいいくらいの遠心力で
渡り鳥は群れていて
ふゆ、なんてたった一言で
言っていいことと悪いことがある

*

記憶の底のひまわりの庭で
あおい影と
ひかりが交わり
(虹彩のように見開く)
湖はいつだってしずか

*

ひみつの話をしようよ
そうやっていつだってやさしい
あなたに近づけないほほえみ
相容れない、北極星の
ゆるぎないあかるさがひとつ


はるか

  津島ことこ

うすむらさきの雲の向こうで
夕日がしずむ
水羊羹の表面を
スプーンですくうように
なめらかな冷たさを泳ぐ

信号機が ぱっぽう、と
くりかえし諳んじて
歩道橋はひとの重みにたわむ
みんな きちんと弁えている
(お前はえらいね)
(と、そこにはいない野良猫に呟く)

かつて
湖のほとりで
生まれたものがあった
腕のうちがわの
いつだってしろい部分が覚えている
ねむらない夜は
寝返りをうつたびに
短くなる

紫陽花のリースを
たいせつな人のために買った
帰り道
どうしようもなく鼻歌があふれて
かろかろと
空色の
前庭にちかい場所で
まわり続ける

文学極道

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