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にゃむ

選出作品 (投稿日時順 / 全4作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


  にゃむ

とある春の訪れで
生卵は
卵飯を
産み落とす
殻は苦痛を
もう忘れ
髪のはりついたまま
生まれた飯に
笑んだ。
眼鏡の男の
小さな首が
炊飯器の蓋から
幾つも伸びて来て
卵飯を犬食いにして

女の前で
笑んだ。


黒い犬

  にゃむ

五円玉に穴があいている
その道理で
紐を右耳の穴へ通したくなる。
穴がひらいた犬は口をあけられ
私服の歯科医がお日様を背中で浴びて覗いている
その出来事は 庭の中で起きたのだった。
庭は私が買ったのではなく
親が買い 私はその家に住んだ
木があり陽がさす
それだけにすぎない。
脱臼をした日
私の耳には穴がなかったが
腕が白いとほめられた頃
私の犬は虫歯になった
黒い犬だがワタと名付けた、
その道理で
日々を幸福と呼ぶことにした。
寝そべる犬と庭。
全ての由来は
瓦の上で干からびているが
私はまだ見たことがない
ワタはなおない。
父はたまに屋根へ上る、
雨が漏る翌朝に。
母もそれを知っている。


貫通

  にゃむ

天使が食券を買いソバを待つ世界の裏側で 煙り続ける日々の為に、見えるものがない。しかし問いだけは こちらの地平のどれへも繋がってゆけない、片っぽだけのスニーカーであったから 浅海のように照り止まなかった。港町で猫を飼う大工は小指を振って「これだよ」とにやけるが、彼女の白い翼は今タバコのやにを含んで疑問の感触に膨らんできたのである。「どこへ行くのか?鯨を裏がえした林道の果てへまで?」果てにある、破水した蘭の片靴へ額を寄せる ところまでもう 彼女だけで来てしまったことを奴は知らない。それから 跳ね上げられたきり帰ってこない空を見上げたまま 凝ってしまった小さな首に、乗せた水色の舟を 閉じて眠りにおちるとき 後ろ向きに倒れてゆき そのまま地面を軸に反転して 着席して股をひらく ざわざわした世界で、半券を握っているあなたは天使であろうか。ビルがろうそくのように溶け 鳩が花火のように消えてゆく。


亜閻魔

  にゃむ

キウイのような
模様のある灰皿に
常温のバタを 塗っていると
玄関がひらいて
真っ青に
眩しいのであった。
わたしのぶち犬はけさ
さわやかな雨あがりのアスファルトに
ジュース屋の自転車が
倒れているのを
跨いだという。
わたしはこぼれた灰をあつめ
ジュース屋のあなたを想い
醤油のボトルで
幾度も犬をなぐりつける
それから光のようになって
窓を飛びでるので
部屋が白くなった
おまえがきゃんきゃん泣いて
部屋へ呼びもどしたから
窓の外は
白いのである。
殴られたおまえは
悲しげに醤油なんて舐めるので
黒に吸い込まれて消えてゆくのだ
ジュース屋のあなたは
疲れて立ちこぎをやめたから
くらいサドルに トプンと尻から消えたのだ。
わたしの愛煙癖と
ひとさらいとは無関係である。
これからわたしは
うでまくりをし
白昼
弾かれたひかりに浸って
あなた方の舌の色彩(いろ)を
たぐらねばならない。

文学極道

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