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たなべ

選出作品 (投稿日時順 / 全4作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


鳥と死と社と列車と信仰

  たなべ


1

腐葉土に埋もれる、錆びた電池
形骸にはみんな興味ある?
嬲り殺しにしたんだ
よってたかって言葉と石を浴びせ
その墓場には時が積もって
ひとりひとりお別れの用意をいい始める
もう植生が変わるから
わたしはわたしを灌養した
男の喉仏を捉えて
締め上げる太い縄の
一端にはもうだれもいない
なんでみんな泣く場所を決められたように泣くのか
納得なんてなんにでもつけられるさ
手のひらの体温が伝わってほしくない
まるで風であるかのように
ふわり去っていきたい
永遠、永遠
発明家もしくは馬鹿が生み出した概念なのだ
それにぼくたちは手をつけることができずに
悲しんでもらうふりをしてくたばる
午後のひかりが傾いていくのが
いつもと違うも違わないもくそもなかった
息遣い
喉が絞まるような声は
泣いているんだ
鳥は縮尺を間違えずに飛んでいくぜ
ぼくたちにできないわけがあるだろうか?
この世から看板の総てを取り除こう
真面目な顔がやめられない
真面目な、いや
その顔をやめるんだ
雲を観測することしか許されない国へ
縁側から日没までに飛びのがれた

2

夏とはぼくにとってこれまでなんだったのだろうか
いつも目指していた時空(長い休みと付随するうれしいあれこれ)
なにを思ってもよかった
きみを好きだといっても
この詩は終わる気がしないぞ
ぼくに余白を残すことを許してくれないのはいったいなに
全部、全部つまびらかにしてしまおうねって誰かが
誰かの蒙昧に腹を立てていった言葉を
復唱してきただけではないのか
そこに優しさをみいだすことも困難
おまえらあわれむのが好きだよなあ
特にじぶんのことをよお
おまえらみないふりがうまいよなあ!
じぶんのこととか特によお
誰がたえうるわけでもなかったんだ、もともと
尊敬する、といってその中身は軽蔑していることはないか?せいぜい尊敬すべきと自分に言い聞かせるのが関の山、その中身は。
なんて疲れるんだ、人生!
考える(られる)ことが多すぎる!
結局はみんな脳みそでつくりだした檻に閉塞されているだけで
そこから飛びたっちまえばいいってだけの話なんだもの
ぼくは誰よりもすぐれた人になりたかった
ぼくは思い通りにこの世を動かしたかった
ぼくは解釈を覚えてずれを埋めてきた
なんとさみしい
ああなんとさみしいのだろうか
おとうさんおかあさん
ぼくを産むまえにどうして死んでくれなかったのですか
こんなことを言ってごめんなさい
改札機の不透明性にすら腹が立つぜ
死にたくて仕方がない
違うな
消えたくて仕方がない

俺の生き方はマラソン大会で路上に出るまでに全力を使い果たしちまうやつみたいだったよ

3

智恵が身につかなかったらよかったと
ずっとまえから思っていて
波が寄せて返すところの家々は
まじないを帯びた巨躯のいきものみたい
というのは
幼児が大人を正当に叱ったとき
それは神さまの審判にも近づくからです
潮風に社の梢がざわめくのでも
きっと人はあるべきかたちを肉付けて観る
無知という状態が羨ましい

4

喜ばしいなら喜ばしいといえばよかった
しかし口をつぐんで大事にする必要があったのだ
言葉はいつもうわすべるが、そうでなかったら、それはそれでかなしいとおもう
秘密をのせて幾つもの駅をぬかして
あかるくしかくい列車ははしる
弱った奴のまけなんだ
かちまけだとしたらだけど
そしてそれは悲しいことでもなんでもない
午前中の太陽を合言葉にして別れようでは、ないか。

5

だれが神を信じたってわたしが信じなければわたしは救われないのだ。のか?
見えざる手の、手垢がいまだつかない陸地の端し、
寄せて返す波にあわせて働き、食べ、眠るところ。
だれだって祈るよな?
唾をはき、砂を蹴るよな?
それが信じられないやつには意地のわるい態度で仲間はずれにしてやりたい。
体重をかけられ続け、偏平になった信仰をほんとうと言うのかい?
大きい声など出ないのはそれでいいんだよな?
大きい声を出してもそれはそれでいいんだよな?
いちいち咎めることはしないでくれよ
おまえが神さまじゃないのだったら。


やぶにらみ改善体操

  たなべ


嵌め込まれたひとみは頭蓋の中を旅した
いろんなところをめぐった
沙のさらさら無限におちる惑星
とおく燃えるそらいちめんに頭を垂れた 川縁の絶息のみじろぎ
森の匂いが窓から二階の一室に
ひそやかなおしゃべり
ああ、網膜にうつるひとの
生まれるまえに切りすぎた前髪!

この暖かい部屋の中でひとつの不具者だ
五感は危険を予知するためにはなく
ただ精神ひとつが
この世の断崖に追い込まれている

坂の勾配を無視するようだ
頂上から夕方の濃淡に接続するようだ
でも遠くへ行きたいと思うのは
元点があるからだよな?

おれは旅路を虚ろの海とした
はるか昔におまえが髪を切った日を
思い出していたのだ
なあ愛なんて適当なものだと
そう思わないか
あのときおれはすらりとした黒い髪に
愛をささやくことばかり考えていた
今になって
風にあそぶ金の髪
ざんばらに陽をすかすおまえの姿を
冬の日の種火のように思い出しているのだ

平明な救いに手を伸ばして
ほほえみを湛えるその姿は
もう糸が切れた人形みたいかい
それとも真理に触れた幸せな人?
いつまでもあるように錯覚する
見た目には呼吸しない呼吸する数々
何か忘れていることがあるの?
夕暮れをもっとしっかり見ようとして
風のせいに涙が
引き攣れた口角には愛は宿らないのか?
平明な救いに手を伸ばして

水のなかに遊ぶ泡の足取りを
真似したいと思ったけど
賢しらな唄は瞼をようしゃなく引き摺る
誰のせいだ?
空がこんなに重いのは
誰のせいだ?
軛がこんなに重いのは
石を打ち欠いていたころの夢は
消えてさよならして死んだ
襞が必要だ
きっと涙が折り畳まれていて
朝になると声をあげてぬるく溢す
何かが見えてるはずでしょう?
見えざる手に胸を掴まれたのでしょう?
不死身の体は
もういらない

弥終にたどり着いたとても
おまえの笑んだ顏をもう
瞳にみることはないのだ
ただまぶたの後ろにだけある
約束したいではないか
塵のおれにはもう約束しか
残されていない
おまえはどうだったろう
あるいはどうだろう
約束をしてもいいと思うか?
それが涙を拭うなら、と言うだろう

悪いことを数えても
焚き火する榾にもなりやしないわ
雲ひとつ追いかけたほうが
ずっとましだと
言ったのにあなたは死んだね
湖の周りには薄水色の花が咲いた
腐ってしまう目に見えない臓器
涙で治癒できるなら
とうにしているのだ
蹄の数をかぞえることで
意味を見つけようとした
もう森の中には入れない

言葉を言いながら
言いながらする顔をみせてくれたなら
もしももう一度ひとつだったら
太陽であり風のように
始めから言葉などいらず
海であり波のように
こうはならなかったのに

まだ夜にはほど遠い
涯にいることを信じたいのだ
善悪ごときに唆されないように
みじかくながい息をしてみる


呼吸癖

  たなべ


蕣が硝子のせんいでできてる気がする
もうどうしようもない静脈の揺れ
選挙カーが視えない角を曲がる
ひっぱって立たせようと想ったの、と
静物画のように
牝馬のように
形状記憶合金のように
でも悲しいね、手を放すと倒れて
みんな血で払えば購えると思っている
古くなった調味料で
夏を作る、わたし、
貝がらという季節になって跛行する

あしたからそんなふうに笑わないでね
いまどこかのほねがとけていく
返事をするまえに
返事ははしりだしてしまうもの
きえてほしいと思ってるわ
園芸のほんをかって
この世をどうするつもりなんでしょう
いくらだってわらってあげるよ
あなたが知らないひとだったら

ぼくの見ないところで
波がずっとうごいている
すべての流れる時間を
そのひとゆらで
かぞえたい
星空のしたの仔馬の寝息ひとつで
おさな児の光映りこんだ瞬きのいちどで
はじまることなんてなにもないと
いっても
いくらいっても
だれかの呼吸がそれを否んでくれること
わかってるんでしょう
言葉をゆびさきで千切って
くさはらに捨てるんだよ
明日があるみたいに誤解をつづけて
名づけたなら
ほしもあなたのものになった
しんだひとには
煙もみえずに


うつしみ うつせみ

  たなべ


わけもなく悲しくなることはもうあんまりない。
最小にちかい生活ではわけを見定めることは容易だ。
だいたいのことにはわけがある。
例外はわけがあると信じない精神の内側だけ。
誰かをいじめてみたくなるのも、
壁に穴があくことも、


腐った死体みたいなあなたの愛情。
町の本屋で料理本を買って順番を鬻ぐ。
神棚のように広い舌、わたしは何を載せよう。
道路の模様をつたう幼い規則を世界中で。
返事をするたびにはい、と捲れる吻と犬歯を
たとえてみました。遮光布と街灯に。
星にたとえられなかったのはわたしの弱さ。それから
あなたのおうちを知っていたせいです露台から見えるあの四つ辻、宇宙ステーションの部品みたいな自販機。


形相が花にまけている
記憶の蠢く片田舎の脳裡で。
いったい幾度すれちがったんだろう?
たったひとつの景色が寒天みたいに、じょじょに固まってゆくまでに、
何度ことばを交わさなかったのだろう?
たちのぼる農道に絡まった右手を振ったら
空にはじかれたたらを踏む。

文学極道

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