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しんたに - 2012年分

選出作品 (投稿日時順 / 全4作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


冬の日曜日

  しんたに

 凍り始めたコンクリートの上で、スケート選手の真似をして、スニーカーで滑って転ぶのを僕は見ていた。前の仕事は暑いからとふざけた理由をつけて辞めた。モラトリアムの爆発。料理の腕はみるみる上がっていき、包丁さばきはそこら辺の主婦より上手い自信がある。久しぶりに帰った実家の引き戸はガタついていた。黒服の人達に紛れ込み、見上げた煙突の先から煙が出てきて、その後で雪が降ってきた。新しく見つけたスライスチーズをパンの上に乗せる仕事は、昼休憩の時に頭が痛い気がしてくる。祖母は二十四歳になった僕にお小遣いをくれて、僕はそのお金でエッチな店に行った。相手の女の子は僕を見て同級生に似ていると言った。僕もその子が同級生に似ている気がしてたけど、黙って二つサバを読んだ。上司の顔に熱々のチーズを乗せて、また仕事をなくした。帰り道、口笛を吹いてみようとしたが、あんまり音は出なかった。コンビニに寄ると、レジの女の子が可愛くて、ずっと見つめていると、不審がったその子に目ん玉をくり貫かれた。僕の両目はコンビニの床を転がり、潰れた。右目は自動ドアに挟まり、左目はおばさんに踏まれて。おばさんの履いていた靴はなんだったのか。スニーカーでも、ブーツでもなく、今までに見たことのない不思議な靴だった。まあ、もう目は無いから、これから先、靴なんて見ることもないだろうけど。これでなんにも見なくて済む。なんて、そんなことは無いか。部屋に帰るとコーヒーの匂いがした。僕はそれに牛乳を少し入れて、煙草を吸いながら飲んだ。なにか食べたい、と言われたからパエリアを作った。今では、だいぶ上手くなってきたはずだ。


I am who I am

  しんたに

 僕らがどこまでもなだらかな坂道のつづく若草色した丘の上で鎖骨をわけあっていると虹色の雨が少しずつあくまでも優しいスピードで落ちてきて僕らは無限よりひとつだけ少ない数の中から雨傘を一つだけ選ぶことにして君は迷うことなく赤色と青色が描かれた傘を選び僕はそれをできるだけ遠くまで拡げていって太陽が丘の下に沈んでいくまで始まりの歌をいつまでも始まりの歌のまま奏でつづけて踊ったり揺れたりしていくつもりだったけれど僕らが愛についてとか善悪についてとか永遠についてとか他にもいろいろな話をしたり草の音に耳をすましたりしている隙に闇を運んでくる鷹たちが丘へやってきて月を食べてしまい光をなくした僕らは丘の上から追い出されて林君みたいにクルクルと坂道を転がり回ってどんな色にも染まることのできないビル風の吹く街へ落ちていきコンビニエンスストアとファミリーレストランの間でポコポコと水蒸気のように消えていった。


フォーク

  しんたに

彼女はフォークで
肉片を突き刺し
抉り出す

僕は一つの
どこか中空に設置された
固定カメラに過ぎず

女は年老いていく

クラゲと泳ぐ
男は
いつまでも咲き続ける
花のように

女は待っている
と男は信じている

夕日/海
鳥の羽ばたき/波の音
2/5
の砂浜で
明日には消える
足跡を繋いでいく

男は大きな荷物を担ぎ
歩く
足元には人々の山
(その中には男も居て)

白、黒、茶、黄、
多くの男達、僅かの女達、
男はそれらを
踏みしめて行く

山頂で男は鐘を鳴らす。音が鳴り、横たわった人々は目を覚ます。戸惑いと驚き、その後の歓声。もうパレードは終わったのだと、人々は荷物を降ろし、国の無くなった街へと帰っていく。鐘の音は海を越え、女の元へ。

(彼女はどこか中空に
(設置された一つの肉片
(僕はフォークで
(固定カメラを突き刺し
(抉り出すに過ぎず


88

  しんたに

放つと/手の中に
幸福で/朝は来ず
延長戦の 伸びた線上
いつかの指の先を

日が沈む、と 法則は変わって
アイスクリームの 賞味期限を
書き換える 日記と同じで
溶けてしまわないように
/カチカチで 刺さらなくて
/食べられないかもね

後ろで流れる銃弾の 音調や
歌声に 合わせて
出口の無い迷路の前方へ 
繰り返し/振り返らずに 

黄色い道を北から南へ
無いはずの その穴を
気付くと 立ち止まって
寓話は 一つの小さな波になり
安酒を飲んでみたり/戻してみたり
起床して/眠り

踵の高いヒール 玄関の段差に
叩き付ける/割れて
思い出したら 線は進み
ゆりかごと砂の城

作り替える 日記と同じで
捨ててしまわないように
手を開いて 捕まえる
/離れない

文学極道

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