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作品 - 20051029_861_673p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


枕を探して

  りす

猫の背中をハードルのように跨いで妹の家へ向かう
枕に調度いい曲線が見つからない
埼玉の猫の質も落ちたもんだ
玄関を塞ぐ妹の背中は 跨ぐに跨げず
つんつん押して 先をうながした
太っているほど 徳が高いのよ
地層プレートがずれる時代
郊外のアパートメントに住む女子労働者にも
高級な思想が滑り込むものだ
高級な妹には高級なお土産
コージーコーナーのデラックス苺ショート
苺がのっているだけでなく スポンジの階層の中に
苺のスライスが織り込まれている 崩れやすい一品
食べるの下手ねえ、育ちが知れるわ
育ちは一緒の筈だが 曲がった角が違ったのだ
おっ、いい枕があるじゃないか
ソファで丸くなるアメリカンショートヘアに顔をうずめる
ああっ、ジュピターに何するの!
ジュピターの背中は香水の匂いがした
昼間は一人でいるの?
誰が?
ジュピター。
持ってくの?
何を?
ジュピター。
猫のマークのダンボールが 壁画のように並んでいる
仲良く二匹 同じ方向を向いて たぶん同じスピードで
五年と三ヶ月かな
ふくよかな五本の指が意外に素早く折り畳まれ
ゆっくりと時間をかけて元に戻る
最初の一歩が早いのに 戻るうちに追い越されてしまう子
狭い場所に車庫入れするように いつも腰のあたりが戸惑っている
やっていけるか?
ジュピターなら大丈夫、適応能力があるから。
猫の背中をハードルのように跨いで家に帰る
埼玉には何でこんなに猫が多いんだ
跨いでも跨いでも夜になると 並んでいる
人が捨てた枕の数だけ猫がいるのだ
だから適当なのを持ち帰って 枕にして
寝てやるのだ
ジュピター、君は枕のように
夢の染み込んだ猫になっちゃだめだ

文学極道

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