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作品 - 20050926_159_558p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


Contra- No.558

  コントラ

枕崎の海岸に打ち上げられた記憶は
入管で取調べを受け
入国を拒否された

係官が彼らのシャツをはたくと
砂がぼろぼろと落ちてきた

それは
上陸できずに
浅瀬に埋まっていた
みたされないおもい

あやうく県知事肝いりの
護岸工事で
テトラポッドの重みの下に
沈められてゆくところだった

生協スーパーのまえでは、旗を手にした
主婦たちが集まって
スピーカーで何か叫んでいた
手にしたチラシの山
カラー印刷の光沢をすべる真昼の光線
彼女たちは「子供たちの未来を守るために」
声を張り上げる
「アジアのひとびとと連帯するために」
スピーカーをますます高くかかげてゆく
交差点はかたちを変え
信号機のランプは青から黄色へ、そして赤へとかわる
でも彼女たちの声のトーンがあがればあがるほど
街からは陰影がきえてゆく
公園は無人になる
残ったコンクリートの堆積で
区切られたアブストラクション
そのうつろな質量を「平和」と呼ぶ

天気図は60年前のあの日と
同じ配置をしめしていた
南西にちぎれゆく雲
その親指ほどのすき間に
顔をのぞかせる アジアの島々

ゆるやかに南下する海流
その軌跡は若い兵士たちの足どりを
なぞっていた
目を閉じて足をひたして
流れてゆく

高いヤシの木にまもられた
マングローブの入江
丸太で組み立てられた小さな埠頭で
手を振る男たち

海流はそっといだく
大人もこどもも
ヒステリックな女たちがかかげる
スピーカーも
仏壇に目を閉じ祈る祖母の背中で
振り子時計が8時を打っていた
あの朝も

この国の歴史教科書には海がない
かつて船で見送られていったひとびとが
かいだ潮のにおい、故郷への想いや
はるか遠い世界をみすえたまなざしは
海の底
乱反射するガラス瓶の集積のむこうに
いまも癒えることはない

一夜あけたいま
海岸には土砂を積んだトラックが何台もとまっていた
集まったライトグリーンの作業服の男たち
トラックの窓から煙草をふかし
見つめる先には今日も
眠気をさそう
波ひとつないアジアの海

文学極道

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