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Canopus (角田寿星) (Canopus(角田寿星)) - 2006年分

選出作品 (投稿日時順 / 全3作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


殲滅せよ!悪のフラワー軍団(Mr.チャボ、鬨の声よ高らかに)

  Canopus(角田寿星)


夕焼けの空き地で
空を見上げてひとり泣いてた

ヤツの名は
怪人ヤグルマソウ

いちめんの夕焼けに動けなくなって
風にゆられて
沈みゆく夕陽をみつめて
ヤツは泣いてた
ヤツの影が
うすく長くのびていた

ヤツは明日死ぬ
悪の組織 フラワー団の幹部として
ヤツは激しい戦闘の末に
茎も花弁も折れ果て 敗れ
たぶん爆発とかするだろう
そしてヤツを殺すのは
この ぼくだ

世界のどこかで誰かが誰かを
わかりやすい悪に仕立てあげようとして
そして世界のどこかで誰もが
悪を倒すヒーローを待ち望んでる
何の疑問もいだかないまま
高笑いしながら悪をやっつける
ぼくは
正義のヒーローだ

ながれる涙を拭おうともせず
ひとり口笛をふいてた
ヤツの名は
怪人ヤグルマソウ

ヤツの口笛はぼくよりはるかにうまくて
その美しいメロディを
ぼくはまだ少しだけおぼえている

今日は どうしてだろう
みんながぼくにやさしくしてくれる
ぼくを抱き起こす みんなの手は
働き者の あったかい手で
よく見ると
血に汚れていない


対決!VS フラワー団総統(雨の日と紫陽花とMr.チャボと)

  Canopus(角田寿星)


紫陽花が咲き乱れるそんな雨の日には
ひっそりと人は死んでいくのだと
昔 誰かに教わったような 記憶がある

新薬開発のアルバイトで
一週間も引き留められて雨のなかを帰宅する
玄関口 傘もささずにひとり
フラワー団の戦闘員がぼくを待ってて
「そんなんで世界の平和が守れるとですか」
ぼくを軽くなじりながら
黒い縁どりの通知を手渡した

怪人アジサイ男
彼はぼくの留守を知らずに
決闘のため雨のなか三日三晩ぼくを待ち続け
肺炎をこじらせて死んだ
今夜が通夜で
今すぐ出発すればまだ間に合うという

Yシャツと黒ネクタイ ぼくの分と戦闘員の分
お得な紳士服2セット価格で買わされて
戦闘員に半ば引っ張られるように
となり町の会場へ取り急ぎ私鉄各駅列車に乗る
ちいさな公民館を
町内会のご好意で貸し切らせてもらえた

母ひとり子ひとりだったという
息子を亡くした母親は濡れそぼって今にも折れてしまいそうで
ぼくに向かって
「あんたはわるくない
 あの子はいっしょうけんめい生きた それだけです」
と 何度もおなじことをくり返す
ぼくはことばもなく
コメツキバッタのようなお辞儀をするしかなかった

そして通夜の会場は

  花  花  花  花  花  花

フラワー団の献花と 怪人が咲かせた花と
町内会が用意した花で溢れかえっている
花の嵐のなか しずかに
人間だった頃の怪人アジサイ男がほほえんでいる

花を咲かせて献花と焼香をすませる

「よう 裏切り者」のことばに振り向くと
そこには酔眼のフラワー団総統が
ぼくの肩を抱きながら強引に酒をすすめる
聞けば
怪人アジサイ男はながく難病に悩まされて
すでに闘いに耐えられる体ではなかったという
この度の法律改正も手伝って
医療費の捻出もままならなかった
そしてフラワー団の改造手術をもってしても
彼の病魔を駆逐することはできなかった

ぼくの知らないところで
世の中のあちこちでいろんなことが起きて
ぼくはそれらをながめてばかりいた
会場には通夜の花弁がこれでもかと舞い落ちる

フラワー団総統と差し向いで愚痴を聞いてる
総統はすっかり酔っぱらって呂律もまわらない
あいつはドクターストップを振り払って
フラワー団に恩義を感じて闘いに赴いたんだ
母ひとり子ひとり
ひどい暮らしをしていた
たったふたりの人間を誰も助けてあげられなかった
それは誰のせいだ 誰のせいなんだ
おまえは おまえは

「おまえは倒すべき相手をまちがえてる」

いや それは
次から次へ刺客を送ってカラんでるのはそっちでしょーが
といいたかったけど
覆面に隠れた総統の眼をみてるとそんなこといえなくて
正座して無言のまま こんこんと説教をうける

雨はまだやまない
公民館のせまい庭に
紫陽花が咲き乱れている


世界を救え、正義よ(Mr.チャボ、勝利の方程式)

  Canopus(角田寿星)


ぼくは正義の味方だから
曲がりなりにも
今日できることは
今日やっておこう

向かいの大家さん宅に新聞を借りに行く

朝ごはんは?すませてきました

いつもの嘘をついて
縁側に腰かけ新聞を読ませてもらう
最近は兇悪な事件が多くて胸が痛むわね
奥さんが世間話の代わりに切り出してくる
お茶を一服
いただく

ぼくの目の届かない世界のあちこちで
ぼくの手が届かない 心の奥深くで
あらゆるものが壊れていく
音がきこえる
ぼくは地方版の下のほうに目を通して
フラワー団が線路に置きソテツをしてないか とか
高圧線にツタを絡ませて町内を停電させてないか
駅前通りをいちめんのスイカ畑に変えてないか
ひとつひとつ確かめていく
記事はないね
ちいさなためいきをひとつはく

この世界の
あらゆることを見渡したり
許したりすることのできる誰かが 存在するとして
そいつは昨日の日記帳に
いったいどんなことを書いてるんだろう

ぼくは正義の味方だから
曲がりなりにも
ぼくができることは
とりあえずやっておこう

いつもどうもすみません
いえいえおかまいもしませんで
大家さん夫婦に いとまを告げる

こっそり門前の掃除をすませておく

文学極道

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