海のない手のひらの庭
土を踏む三脚の椅子
雪、重なる雪、そのあいだに
燃えるものがあるなら
空白を焚きつける
指先の罪悪を冷たい鍵にする
小さな灯りに目を細める
たったふたつの隠微な痙攣
光、降りる朝に遺された爪痕
重なっては崩れる雪片
堆積する間もなく滅びてゆく
か細い陰影だけを残して
いつか肘掛けに置かれていた
精悍で滑稽ですらあった腕
健全な重み、溢れていた緑
その陰で交わされた対話
舌先に遺された発音
繋がらなかった対話の描線
回遊する雪虫が
白い風景に溶け込んでゆく
人の形象が夜を演じる
星の口唇術が指先を誘う
窓の向こうから
手のひらを見せながら
網膜にひろがる街
あたらしい椅子の匂い
まだ雪は、届けられたばかり
声は失ったばかり
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sample - 2014年分
星座的布置
害虫
夜の蜘蛛を生かして
償われた指腹のよどみに
吹き溜まる星々は研削され
なめらかな肩口を晒し合いながら
目まぐるしい渦中からの
放逐を同意してゆく
霧散する、フラグメント
融点の狭間で点、を穿つ
蠕動する点、は凝集し、繋がり
硬い皮膜に拘留された
やわらかな部位を露出する
開示された身体は隠逸のために
腕を束ねた偏平足たち
暗い池沼にひたされた足おと
泡沫の潰えた水面に
なだらかな額を投影する
月はゆらいで扇状に煌めき
分岐する白糸が露に濡れている
封じられた羽虫の触角が微動する
断たれたばかりの
白目が反照して眩しい
しずかに湾曲される関節
後ろ手に粒立った呼吸が
ひとつずつ壊死してゆく
不純な渦、体液の流れるおと
/雑/踏/。/朝/が/来る
外殻の街、中空、網状の導線が
絶縁されてゆく幻視の中で
おなじ空を見上げて
佇む、人がいる
ばらの花
言葉と子どもが走り抜ける橋の下で
焚いた火は明るく
配達され続ける魚を燃やして
皿の上に描かれた
細密な骨の水路は
若い母の背中にあった
痣のような海の記憶を圧し流して
排泄して
こぼれ落ちた情緒は骨を溶かし
なにもない皿へと
空腹だった子どものまま
きれいな手が伸びる
意味も解らず嘔吐した
溶けかけた宝石を拭ってくれた
考えるだけで泣いていた
眠り続けていたい
天井を蹴破ってみたい
一生のお願い
を、たくさん抱えている
朝はいつも怪物が訪問する
冷たい空気を吸い込むと
肺に魚の骨が突き刺さる
咳と痛みを創造する
幼児の悲しい魔法
なわとびをしていた
もう、どれほど飛んでいるのだろうか
握った手のひらに汗をかき
ロープが滑って抜け落ちていった
コンクリートの地面に
プラスチックの部分が叩きつけられて
響きのない、乾いた音が鳴った
片方の手から足下に垂れさがる
ロープの曲線を何度も目で往復させながら
今日はこれでおしまい
ロープを手繰りよせて結んだ
もう解けないくらい
きつく結んだ
窓から遠くの緑をながめる
もっと目が良くなりたいから
燃え続ける星を見上げる
剥落する光、口、あけたまま点眼する
目をつむると
清潔で真っ白な布が瞼に裏打ちされて
黄色い染みが小さく浮かぶ
それは波紋のように広がってゆき
耳のうしろへ、背筋のくぼみへ
やがて一枚の画用紙の上
尾ひれを生やした子どもになって
水色からいちばん遠い色ばかり
すり減らしていた
嘘だと知っていたから
一瞬、笑いかけた
あなたは、
橋の下から拾ってきたのよ。
そんなはずはないけれど
息継ぎを忘れるほど泣いた
お風呂にしようね。
息を大きく吸い込んで
浴槽に頭を沈めた
髪の毛の間に気泡が留まるのを感じた
目をひらいた、なにも見えないな
手のひらをひらいてみる、閉じてみる
苦しい、浴槽から顔をだす
排水口にお湯が逃げてゆく
流れる音は徐々に高くなり、細くなり
消えてゆく
並んだ隣の布団から
母の寝息が聞こえる、規則的な
息を吸う、止まる、息を吐く
繰り返す、母のそれに合わせて
呼吸をしてみる
けれど、それだとなぜか
息が苦しいような気がして
いつもどおり、呼吸する
息を吸う、息を吐く、ただそれだけなのに
同じではいけないんだ
真っ暗な天井を見つめる
かすかに、耳鳴りがする
橋の上から川をながめている
流れのない安らかな水面
遠い町の、名前の知らない川
両岸から木々の枝葉がせりだして
濃い影をつくっている
呼吸をする、その音だけが聞こえる
とても静かな時間
子どもが僕のうしろを駈け抜けていった
二羽のすずめが水面に触れて
そのまま林の奥へ消えていった
つぎに向かう駅の名前
それを確認するように
小さく声にだしてみる