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いかいか (New order) - 2012年分

選出作品 (投稿日時順 / 全5作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


おい、磯野、野球やろうぜ

  New order

水平線から、
投げ出された、
球体が加速する前に、
内ゲバで、
あらゆる人が、
美しく殺しあうように、
応援する、

映画は、はじまったばかりだというのに、
水に浸されて、
コップは投げ出されたまま、
置かれている、
その下で、
私たちは駆けまわる、

革命は、
きっと、殺し合いだから、
愛のある形で、
皆が殺しあう姿を
八月の雨の晴れの中で、
応援しなくちゃならない、

君の彼氏が、
君の顔面を、
革命の形而上学のために、
ぶん殴るとき、
君は、きっと、1メートルはふっとぶ、
でもそれが、革命のための愛だから、
許さなければならない、
救いのために、殴られることが、
一つの罪なら、
もっと多くの花が咲く、
平原で、裸の人達が、
にこやかに、原初の踊りと
喜びを祝っている人達を、
また強く殴らなければならない、

腕に重みがかかり、
払いのけるように、
鈍さが宿るとき、
貴方の、背後で、
天使が、八月の、
風にのって、
貴方の背中に、
キスをする、

おい、磯野、野球やろうぜ、
この革命の季節に、
誰もが甲子園で、
泣きながら、愛しあう者たちでさえも、
殺し合いをはじめるように、
応援するために、
野球をやろうぜ、

おい、磯野、野球やろうぜ、
世界中の誰も彼もが、
バッターボックスにたって、
俺達を打ちのめそうとする中で、
俺はどこも守らないまま、
お前のボールを受けてやるから、
おい、磯野、お前が燃えているのか、
俺が燃えているのか、
そして、泣いているのか、
笑っているのか、もうわからないまま、
お前はボールを、この夜の球場の明かりの中で、
投げて、観客はだれもいなくなったとしても、
俺が受けてやる、

気でも狂ったか、
いや全然、まだまだま足りない、
だから、
球体は、いつだって、
雨の中、一人で加速して、
遠くへ投げられている、


akuro

  New order

春、花が咲くようにして、
幽霊達を埋葬する、

踏み固められた土の上で、
また踵を鳴らす、
姉が、土間に並べられた、
靴の中から、長靴を選んで、
妹の咳が、台所に中で、
食事に降る、
母のエプロンにとまった、
甲虫に、西瓜を与える、
父の、足は裸足だった、

テレビの中の生活が、
時間通りに始まって、
席に着くはずだった、

野球をしに出かけたままの、
弟は、帰ってこない、
仏間にいけられた紫陽花の、
裏で、語られなかった記憶が、
飴玉のようにころがって、
蛙の口に触れる、

テレビの中で、あの家族は、
手を合わせない、
彼らには宗教がない、
だから、悲しい、

後ろを振り向けば、
貴方が歌う歌がある、
帰りはこわい、といって、
さらわれないように、
手を絡めた、

引かれたままの、
髪が、少しだけ抜けて、
祖母が笑った

ゆっくりと引き抜かれるように、
私は、口をぱくぱくさせて、
走り去った足が、
もうついてこない

貴方の乳房が
優しく発狂するように、
私は少しだけ、子供になる、
その手から飴玉が転がるようにして、


孵化、火学

  New order

神の暗闇が部屋に満ちて、
異国の言葉は、

「もし、孤独が一つの連続体の、
 総称として、私たちを、
 海へ、ラプラスの海へ、
 投げ込むとするなら」
「ええ、貴方は、そこで、火学、を、
 言うのね。あの古い忘れ去られた
 魔術と呼ばれるようなものを」
「失われた空間は、恐怖で満たされているのよ」
「そこに、火を、千切れた魂を燃やすようにして」
「そうね。そして、私は嘘をつくのよ」
「特異点として、私は偽りの、心を」
「今日、心から願う、か、あの彼、そして詩人であった、
 彼が、詠ったように、」
「私は限りなく演算された一つの値ではないわ。」
「むしろ、固有値を持った無限」
「それはおかしいわ」
「いいえ決しておかしくない」
「私の不安は無限であると同時に、私の孤独は有限性の中で
 値を振り切って、「止まっている」のだから」
「私は教科書ではないのよ。ましてや、方程式に満たされた
 世界の終わりの向こう側で、肌を晒しているの」
「傷口は、論理を破綻させる。」
「そうね、知性は初めから傷つけられているのよ。」
「火の値を探して、貴方は、その傷を観測したわけだ」
「瞳は孵化する、こんな詩的である表現が「科学的」であるわけがない」
「貴方は、ラジウムの洗礼を、あの放射性物質の持つ洗礼を受けなければならない」
「それは、失われた神の恩寵とでもいうのか?」
「いいえ違うわ。神は失われた恩寵そのものであるのよ」
「じゃ、定義しよう。そこで言われる神とは?」
「火と魂の物語が終焉へ近づくに連れて、無限に閉じられていく有様」
「あまりにも詩的すぎるね」
「そうね。私は今、貴方を煙に巻こうとしているの。」
「煙に巻いたところで、その煙は一体何がくべられた火から?」
「ミモザよ。ミモザの語源は、パントマイムの語源であるミモスからきてるのよ」
「なるほど。では、貴方のそれは、行為は一体何なんだろう」
「火学、負荷が始めにこの魂には持たされているの。いや、魂が負荷そのもの、
 私たちは、この魂の重力から逃れられない」
「孤独と恐怖にまつわる火の物語を、火学というのか?」
「それも違う。火に物語が、魂の負荷と同じように、初めから、
 孤独と恐怖を内在しているの。だから燃えているのよ。
 さぁやさしい数学の時間よ。方程式は永遠に閉じられて、私達の間では
 何の意味ももたない。どうする?」
「個つまりatomismを越えようと?」
「違うわね。原子論ではなくて、原始論なのよこれは」
「くだらない冗談にようにきこえるけど。」
「起源は常に覆い隠されている。私たちの歴史は、歴史それ自体その起源を
記憶していないのよ。だから、終局から、本当の終わりから、燃え始めていて、
遠い未来から私たちに向かってすでに火が私たちを追いかけているのよ。」
「遠い未来から「追いかけてくる?」。よくわからないな。」
「だから、私たちはここで、孵化しなければならない。私たちと火が衝突する前に、
 羽でも生やして、飛び立たなければならないのよ。」
「どうやって?」
「私の、そして貴方の、失われている起源、を、捨てて、私の起源は貴方、そして貴方の起源は私、
 私たちの起源は私達、と言う風に、魂を分け与えるのよ。その時、火に焼かれるように、お互いの
 魂が痛みを感じるだろうけど、そしてより深い孤独や恐怖に陥るだろうけど、それが、起源として
 刻み込まれるはずよ」
「つまり、それは 始めに言葉が、あったように、すでに、その言葉には火が内在されていたと」
「そうで、私たちは、言葉を吐くたびに、この唇を、この口内を焼け焦がしながら、そして、向かいあった
 相手すらも焼き尽くすようにあるのよ」
「まるで、それでは殺し合いじゃないか」
「そうよ。それは、すでに絶対的に決められている逃れることの出来ない「事」としてあるのよ」
「外は雨だね」
「雨の中で、私たちは火を噴く、まるで怪獣よ」
「小さな怪獣としてこの世界を火で包むと」
「それは私たちの魂が凍えてしまわないように、痛みは私たちを傷つけて破滅させるけど、燃え上がらすわ」
「じゃ、君と私は今から殺しあうわけだ」
「そもそも、私と君はこの会話では、同一性を保っていない。私そして貴方、いえ君、は誰と話しているのかしら」
「火とその物語の孵化のために」


失われた、母の、

  New order

ここは第三層の、
母の平原、
そして、父の焼かれたままの、
湿地帯の中で、
蠢いているのは、
かわいそうだった、
私たちの残滓、
と呼ばれたままの、
砂浜に打ち付けるような、
浅い幸福、

父と母の、
結び目に、
赤く伸ばされた、
目の中で、
翻ったままの、
娘という、
私たちが、立ち現れて、
あらためて、
こんにちわ

湿地帯が、禁止された、
言葉なら、それを、
優しく、描写すればいい?

留まった、水の中に、
手を差し入れるように、
泥の中で、多くの、
鳥達が、たち現れては、
飛び去っていくような、
もっと具体的に?
19世紀の、血みどろの、
戦争の中で、
取り囲まれた、地図上で、
滑り続ける、指の、
感覚だけが、
海を広げていくように、

「歴史は癒されることを、待っているのよ」
「ずっと遠い未来から、ずっと近い過去まで、
 あらゆるすべての、罪と祝福が書き込まれては
 投げ捨てられていった、記述の、間に、
 私たちは繋ぎとめられたまま」
「死者は僕らの父でなかった、母でもなかった。僕達の子供でも娘でも息子でもなかった」
「生者も同じように、私たちも同じよう」
「この都市は、死者たちの記憶で作られている。どこもかしこも、すで死んだ者達か、
 今、死に行くものの思想や空想で作られているのだから」
「死者が見た夢、または死者が見続けている夢に住む私達も、死者達の夢なのかもしれないわね」
「では、生者が見る夢は?」
「生者っていうのはなし!生きる者にしましょう」
「そこに意味があるとは思えない」
「意味があるとは思えないことがすでに、私たちが生きていることへの、乾いた欲求」
「歴史を癒すことで、私たちが癒される?」
「屋根に登る時に、はしごが必要なように、そして登った後、誰かに手を振っている間に、
 梯子は取り外されて、もう降りられないように」

土曜日に見る夢は、日曜日のための夢ではなく、
すでに過ぎ去った日々のために見る夢でありますように、
そう願うために、手の中で、皺が蠢いて、
体中を這い回る、
体を構成する、すべての、
原子が、私たちを通して、
衝突するような、席を、
石段を、

陽の当たる部屋には、枯れていく、植物達が、
眠れるように、台所に、置かれた、
花瓶には、茶色の、水が入っていて、
その中に手を突っ込む、
のは、私ではなく、昨夜、帰ってきた、
戦いを終えた人達、

「じゃ、凍えるような一言を
原発事故の比喩は、すべて死んでいる」
「お前や、私に関する、比喩も、すべて死んでいる」
「突然、何を言っているの」
「突然何を言っているの、と、言っている、貴方もすでに、
 死んでいる」
「オウムもフクシマも死んでいる」
「カタカナになったものは皆しんでるのかもね」
「記憶にとどめておこうとするればすルほど、忘れ去れて行く」
「バカ、も死んでいるの?」
「バカって言葉は、死んでいる奴に使われる言葉なのさ!」

動物を苦しめる父の、姿の、
記憶が、母の、苦しめた父の、
姿の、間で、私の、
始めての出産を、邪魔するように、
「貴方は知っているかしら?今は失われたふるい風習を」
「どんなの?」
「新生児が生まれる、くしゃみをするたびにその数だけ糸を結んでいった風習を。これは明治の頃まで行われていたのよ」
「なんのために?」
「タマ結いのために。私たちはタマ結いをする母の手つきをもう失ってしまったのよ。それは失われてしまった母。タマを結びとめ、魂が出て行ってしまう
 ことを防ぐために、母親が、結ぶ手つき。魂を繋ぎとめる手は、もう失われてしまったのよ。そして、魂を呼び止める手を持った母も失われた」
「なるほど。」
「そして、この死者の記憶でできた都市で、私たちは踊り続けるってわけ。そうしないと、私たちの魂は出て行ってしまう。」
「鎮魂祭だね。」
「そうね、私たちが、踊り続ける。ここが、世界の中心になるように。」
「とはいえ、この会話はここまでよ。私たちをしゃべらせている作者が考えている小説のネタの一部でもあるからね。秘密ってわけよ。」
「作者のトランス状態も少しずつ落ち着いてきたみたいね」
「そうね。こうやって会話させている私たちについては一切描かないのだけど。」
「描く必要性がないと思っているんじゃないの。」
「どうなのかしらね。」

私たちは、生き続けて、
あらゆるものに転移して、


さんすう

  New order

孤独は限りなく演算された、
私の部屋、

演算された値は、
私の皮膚を覆って、
この船に乗り込もうとする、
友人達の口を焼け焦がした
灰の一つ、

ところどころ燃え落ちていく、
島の門をくぐるために、
私は錨を、右腕に、
絡ませて、
そのまま海へ引きづり落とされる、
凝固した科学的実証性によって
何も与えられなかった、
「あ」という濁音に混じらない、
人の背後で、蠢いている、
そして囁いている


地獄は限りなく、
平均化された
数式上で0の値を
導き出して、
一気に、針を
振り切って
止まった、まま
凍えている
息を吹きかけた
温まるように、

手を合わせるようにして、
開かれた世界に降る雨は、
死体など一度も焼かなかった、
肉が溶け落ちて、
剥き出しになった、憎悪が
固まって、骨になって、
それが、友人達を、
突き刺す夢を見る、

穢れた手など、
どこにも存在しなかった、
ましてや、穢れる前に、
私たちには差し伸べる、
手など初めから無かった、
私たちはただ肥大化しただけの、
グラムに換算されるだけの脂肪
となって、止まるだけの、
静止物、

大げさな身振りで、
手振りで、孤独や愛を、
うたう、友人の、
魂を、いくら捧げても、
誰かを救うことも、
何かも助けることも、
できないことは、
わかりきっている中で、
いまだに、歌だけ歌おうとする人の、
口をふさごうとして、
私は怒りの中で、蠢いている、

千の亡霊の、
首を駆るようにして、
言葉を吐き出す、
魂より、
重い言葉を
捜して、

文学極道

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