ふしぎに嘴を洗う水鳥のそのさきで
わたしがたわわに木になって
美味しくもぎとられる青さに
さわさわと躰をねじらせる
すこし寒くて浅い空気が
頭の中心と茂みの隙間をするするとかけてゆく
昔に使われたランプの横に廃れた回転木馬が沈黙していた
わたしはわたしの中心で母を孕み 水分のだいたいがそれを保つためにきえていったように思う
髪が波打ってみどりに沈んでゆく
水々しい肌が青く染まり 瞳がちからなく黒く鈍る
そのさき
石造りのアーチに咲き
低く飛びついばむミルクの掌 瞬きが出来ない開け放った綻びがひかる
口からプラチナの雫がぽろぽろこぼれ落ちて 照らされはしないちいさな靴のあとに 垂れていく熱のいくあて
わたしがたわわに木になって
さわさわとなじられる感触に
はねかえるあおさに
わたしは小さく呼吸する
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扉
開閉
窓の向こうの
外の
もっと向こうの
高いところから
耳の奥で音がする
びゅんびゅんと
私のまわりの
例えばバイクにかかったビニールや
隣のお寺の柳の幹までを
飛ばそうとしている
休日
私のからだといえば
まわりの温度より多少低くできている
指の先は(ひとさし指)
干からびてきていて
毎夜 クリームと水分が滲みこむのを確認して寝るけれど
朝を迎えるとともに
外の気温に合わせてからだは
冷えていくので
ひとさし指も元に戻る
こどもはもうしまわれている
木陰の笑い声を踏みつぶしに
たくさんの大きな足たちが
そのあとにまだやわらかい耳元へ囁く
「いいこはもうねるじかん」
私はずっとずっと
瞼を降ろせないでいる
春の雪が積もっていく
耳の奥は 教室であったり、電車が通ったり、地下室がひろがっていたるする
ちかちか点滅しながらちぎれ
ももいろに染まり
私の内臓をとかしていく
日差しだけでは
もうあたためれない
少しでも口を開けたら
私は溺れていくだろう
もしもあす
正しく過すことができたら
風も私の思いの
ままかもしれない
干からびている指も
吹き飛ばせる
高いところからのあおりに
いっとう背を伸ばしてみながら
わたしは
明日の天気を気にしている
結晶
あしたはお葬式だから
わたしたち夜中ていねいに
からだの準備をする
やさしく膨らんで
剥がれていく熱を洗面器にためて列に並び
つまさきを揃えて
ぐずぐずと、甘くなる夢をみる
空気は冷たくてつんとしているから
裸足になるのに臆病だった
ひやりとしてからわたしたち
唇を撫でながらお祈りをする
ふやけて甘いかたまりは
空にかえしていった
白いひとの横たわる
足の裏がわでいくつもの色が交差している
睫毛のかげが遮られ
そのかわりに
たくさんの腕がうごめきあっている
なぞる手のひらが宙を泳ぐ
ぱさぱさに
乾いてしまっている
空気の淀みを
くちびるをきちんと結び
吸い込まないでいる
息をしていないのに
吐き出したいものがある
わたしたちの簡単な正装は
いつでも雨に濡れてよかった
からだの中身がきゅっとなる
もう準備はできている
音はどうしても静かで
沈んでいったわたしたちの
正確な微笑みを
もうだれも取り返そうとはしない
西の空には密やかに夕暮れが静止している