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渚鳥

選出作品 (投稿日時順 / 全3作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


日々の錆

  渚鳥

窓枠から見えた空/まるで昨夜の憂いを抱き留めたよう/な、乱層雲

雨/に昨日/を忘れるよ/そこから始めよう/人々/の歌うような足音/が街へ続く橋を渡る/瀬よ/、誰を癒さんとして流れ続ける/私を追いこしてゆく/一人一人/のビジネススーツ/が風にはためいて/、きれいな黒い鳥みたいに見えた

帰り道/橋の両脇に灯る外灯に/閃きながら落ちていた冷雨/疲れ/、涙と熱が混じる目/歩道に泳いだ視線/靴の先でぱたぱた/、と/瞬きを上回る速度で/咲く/黒い花

湿度をはかる/ように/いちど深呼吸/したら/傘を開いて/もいいですか

重い鞄を支えながら/いつかこの日々が雨に錆びるよう/に壊れるのではないか/と考える/けれど私は/まだ歩いていた/この荷物をおろせば楽になれると/誰もが/そう/知っている/それでもそうしない/のは/理由/が特に見当たらないせいだろう

道路は一瞬の渋滞/整列したカー・ライトがフローアップして/誰かの外した首飾り/のように/一様にきらめいた

区間急行バス/に乗り込めば革命/の予感/コートのポケットに/いつかのチョコレート/を紛れ込ませて

欠け始めた月を/古いカメラに納めて/トンネルから吹いた風に酔う/今日もとりたてて変化はなかった/ついこの間/アクアシトラス/とは何かな/と手に取った消臭剤/はかき氷のシロップにそっくり/な香りだった/今頃その香り/でいっぱいのはず/の私室を思う/ずっと続いている/玉兎の観察ノート/二足跳びのrhythmを記憶に刷り込んだら/家に戻ろう

編み上げたマフラー/に3ヶ所の失敗/白い空を見上げたら春雷/、キャラメルマキアートの呼気が昇ってゆく


萌芽(ほうが)するまで

  渚鳥

(大事なものはどこに?)

的を外すための
散弾レプリカは幾千を唸り
プラスチックの装填は尽きて
悩ましげな春から転がり落ちていった

干からびた一途はことさらに
我が身に呼吸を合わせること自体おのずと
巡り合わせる息吹きのカタチだろうと呻いていた

…私はぽかっと空いた木の虚(うろ)の周囲をキョロキョロと窺い

わたしは知る
自分の血へ浅く深く流れ込む術(すべ)を
そして気づいたときには遮音された月の水底(みなそこ)で
ton ten fuwa… tsu… tsu

さまよい歩いていた
既に
上方の高みから覗いている視線を受けて
…ひしめいているおぼろげな夏の供養をあらためてなぞる


それらははじめ
…ポトン…チャポン……と
まばらに水面に投げ落とされ
クウルリ… と踊ってみせては
水の濁りを沸かせながら
すぐにもとの水面(みなも)を目指してしまう

私は彼らがフ… と溜め息を落としたあたりから
…すうと底を離れ始め
やがて …すーっと吸い上げられては
大きなホログラムの指先を
なんら迷いもなしに
…とん と蹴る
あとは太古の木の根の洞(ほら)を抜ける
薄墨(うすずみ)色の道しるべをすぐに見分けて急ぐ一方で
後方から頻りにサヤサヤ… と繁る青葉に続き
あとから
ザワ… とおおきく揺らいで
そして
夏の雨にさらされたあの( あき )がカサカサと
次々に土をめがけることだろう
やがて冷雨が駆ける
そんな予感を抱(いだ)いて
〈 …私は真水に近づくごとに
…ゴボ …リ むせて
いくつかの鱗片を余計に …きらきら と手離した
重たかったはずの鈍色が
今はきらきらと
それはよろこんで光ることだ
脱(だっ)する過程はこんなもの …〉


そして顔を覗かせたとき
'しるく'の小枝を
ボウッとくすんだ水海に馴染ませながら
まざまざと口中に捕らえていた
濡れた髪へハラリと差し込んだゆびさきは
  カラスのあしあと 笑窪 朝のひかりに透けながら儚げな微笑をこぼすあなた
  ああそうだったか
( もう いない 秋 )

刹那
フルッ… と燃え立ってはチラチラ… と消えた火影(ほかげ)を
眼窩に深く …見納めながら〉…

また移ろうのだろう
感覚が指先から足先までとたぱたと敷き詰められるまでの間(あいだ)
鼓動に包まれてゆく感情 …時計の音

そして大きく息を吐(は)いた
わたしを呼び続けていたものたちは
ソッ… と褪めてゆくのだろうな

( すけてゆく'わたし' は)

スラリと長い草の陰
とった
つたっ
と杖をつき あるいは
廊下を孫の手に引かれながら
大輪のアヤメに笑いかける
小さな目の祖母

何もかも消えたあとに蘇る光
生まれた季節を僅かに越えながら
還っていった母親たちの光は
私をやわらかく押し返す

私は
点と点の真ん中へんを
目指してゆこうか

* メールアドレスは非公開


  渚鳥

1.
君の飼っていた蟹が
雨の日に
私を黒い水溜まりでさばくと言う
それまでにAmazonで新しい接着剤を買う


2.
雨が降りすぎたらそれもしかたない
──所詮は進化した猿でしかない

といって
大きな羽を一枚置いて青空は旅立った

私は旅の話を書き留めながら
体から夕陽の色が溢れているのを見て
ナスの苗を植えた

文学極道

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