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榊 一威

選出作品 (投稿日時順 / 全3作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


1week

  榊 一威


鏡が割れた数だけ映す事象に 変わる形が付属したりする 誰かが退室する気配に空気が泳いだのを よく知っていた いつも群れて彷徨うデフォルトが 破片に現れ消えてゆく 瞳だけ開いた空洞の人形さえ 静かに濡れて佇んでいる コールサインを見落とした人が道の上に墜ちてゆく ゆったりとした音楽が耳の奥から聞こえる 括り付けられたオブジェに 一瞥してメインストリートに流れ出した とても最悪の日だ。


まだ遠い日のうちから覚えていた 蛍光灯の光に様々なモノが照らされている 今日は夢の端から食われてゆく 答案用紙に1マスずらして書き込んだ違和感がまとわりつく 書き込んだレスは少しも反映されていない 教会の扉を境界を越えてあけた誰かは影だけ残して去っていった さようなら 夢の人よ 隠れたつもりが 半分開いたドアから覗かれていて 急に光が強くなる そしてきっと忘れ合うんだろう ずっと。


過去形の次元で話すから困惑するのに 差し込まれたダイレクトメイルが暗号で伝達する サバイバルゲームのようなステージで 乱射された弾がどしゃぶりの雨となって戻ってくる 言葉は意味のない記号に加工され 紙面を飾り若者は虚ろな眼をして没頭している 気付かない 誰も気付かない 間違い探しに紛れ込んだ本物さえも 自分の存在を疑っている 乾いた風が砂と共に南から吹き付けてくる 何処にもない街。


昔沈んだ心の残響 揺れては引っかかり奏でられる 書きかけのノートブックに戦士達が跡を残し 堕ちてゆく 研いだパレットナイフの切っ先の緊張感に 血液がドクドクと脈打ち磔られる そんなとても静かな夜にカンバスは色を乗せ 残響と共に旅立って行く 屍を跳ね超えてきたプラットフォームが 集まったカンバスで一杯になる 教士達は次の基礎となって またディスプレイを汚し 隙間をぬって消されてゆく。


砕けた鉱物の欠片が錯綜した交差点で衝突し フォントはそのままで即興でそれを詩にしていく カチリカチリと時計の針がスロウペースで動いている 規則的な数列で表された譜を鉱物は確認し シグナルが赤にもかかわらず 詩人のために砕けてゆく 時間が過ぎるはやさに 追いつけなくなったヒカリ 思い出せば 連動であり 情動であり 胎動であった カットシーンで 歴史の動くはやさで 譜号のぶつかる速度で。


クラッシュされたレモンが 氷と溶け合ってダイヤのような水滴を作る時 カウチで寝ていた人形が目を覚ます 午前三時 街はずっと薙ぎ払われコンクリート1色になる 氷の溶ける音とユーモレスクのハミング以外何も聞こえない サインはゼロ HPも無いに等しい 柔らかい雨に打たれる 人形が少しずつ濡れてゆく 日々の近くで壊れていくことを初めから予言していた鳥が 大きく1回啼いて彼方へ飛んでいく時。


沈みかけの夕日に 現れる安らぎの危険信号 ノートブックは記号で一杯になり どこからか進化したデフォルトが ひっきりなしに消去していく 誰かがドロップスを花の代わりに配り それはどこかの葬列にまぎれ いつの間にか沈んでゆく 隙間のない声 少女が歌う声が 聞こえるか 記憶の底から湧き出る微かな声が いつも鳴っていた 少女の背中に翼が見える 鳥の羽が舞う 雨の空から掌へゆっくりと舞う。  


プリムローズ

  榊 一威

花の香が立ち上る その香に包まれながら差し込んでくる陽に目を少しだけ開けて小さくおはようと云う いつもの通り低血圧の朝だ でも今日は一段と綺麗 ベッドから手を伸ばした先にあるプリムローズは 心地よい温度の中ささやかに咲いている 君は綺麗 もう一度呟いてみる 散るために在るのに こうしている間にもトクトクと時は終わりに向かって進んでゆくのに どうしてこんなに生きようとしているんだろうね 僕たち エアマットに沈むステージスリーの躰が不思議がるのも無理はない ねえプリムローズ 

時計の秒針の進む音をどのくらい聴いていたんだろう 繰り返す一周は僕の時間を正確に捉えてゆく 時にはプリムローズの香りと共に微睡みの底で繰り返した音を 何故か愛おしくおもう 躰が動かなくても不思議とそれを聴いているだけで動いているような錯覚に陥った 囚われていることがこんなにも安心するモノだろうか 枕元においた時計は 普通の腕時計なのだけれども 僕にとっては生きている証そのものだ 一つの花が萎れると哀しくなる それと一緒でこの時計の音がなくなるとき僕は 果たして此処にいるのだろうか

蝕まれた感覚それを解ってはもらえないだろう 痛み、それも無理だろう モルヒネを最大投与され麻痺した頭には掌のプリムローズの感触も時計の音も届かない でも触っているし聴こえている 個室のカーテンは多分爽やかな風に揺れている 僕は今笑っているだろうか せめてプリムローズが咲き終わるまでとは思っていたけれどでも どうして終わりはこんなに生に近しいのだろう 生きている音が心臓の鼓動と重なる 腕時計を巻いてもらう ねえ、プリムローズ 君は綺麗 とても綺麗 そしてゆっくりと意識を失って、




*プリムローズ=シバザクラ、初夏の花


ぬくもり

  榊 一威

横から下へ
飛んで
風が

夜の月に
瞳に
浮かぶ
そして
吹けば

人のカゲは
見ていないところで
動きはじめる

洗脳されないように

柔らかい
タオルケットに
くるまる

ゆっくりと

笑う
頭を抱えて
ぬくもりを思い出す
だから

そんなとき

君のところへ

すごく すごく
行きたくなる

文学極道

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