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芥もく太

選出作品 (投稿日時順 / 全3作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


弓張月

  芥もく太

やっと納骨式も終わり
疲れていても眠れず
小さな川の獣道のほとりを歩く
ほどなく行くと獣道も草に覆われ行き止まりとなる
私はそれでもこの川の水は海に届くと信じている

輝く弓張月の明かりは
私の影を作りその中の孤独を語る
巣にいるゴイサギの親はその孤独をじっと眺めている

何も出来なかった冷たい罪深い風が
私の頬を叩き通り抜けて行く
働き者だった母よ
子供の時のようにもう一度
あなたの細い背中におんぶをして欲しかった
いや逆に私がおんぶをしたかった

思い出とは朝日が昇り夕日が沈むようなものだ
いや月の満ち欠けに似ているかも知れない

気がついて滲んだ目で空を眺めれば
まるで三十日月のような月が空に浮かんでいた


雑踏

  芥もく太

抗癌剤の治療を終え
疲れてヤニだらけの古いアパートに帰り
湿った布団に兎のように包まって寝る

悪い夢でも見たのか
早朝に覚醒をする
寝汗で背中がやけに冷たい
最近はよく寝汗で起きる

早朝の駅の近くに買い物に行く
駅前の雑踏は烏が鳴きながら
残飯を狙い飛び回っている

私はスーツ姿の人を見る
売店で新聞や雑誌を買う人たち
慌てて煙草を吸う人たち
飲み物を一機に飲み干す人たち

みんなバラバラのようで
時には蟻のように
時には波のように
結局は纏まって
押し寄せる来る

全ては会社勤めの人々
私は人々の顔を見る
皆 今日の仕事を考えている
私はそれに憔悴する

流れの波に足が動かず止まる
むしろ後ずさりする
なぜ私ひとりが人々の波に
逆行しているんだ

夜と朝の狭間で生きている
夜と朝の狭間で身動きが出来ない

私は知っている
仕事の圧力に潰れ
烏の白い糞が頭に落ちたことを
生きる意味を忘れて
流れる背中の汗に
今日も焦燥し続けている
自分がいることを


公園

  芥もく太

腕時計を見たら午後2時半だった
小さな公園があった
もう秋風は冬風に押されていた

綺麗な滑り台があって
ブランコには小さな子供が母親と遊んでいた

私がブランコに向かうと
母親は慌てて子供をベビーカーに乗せ
過ぎ去って行った

ブランコに乗って漕いだら
椅子が低くて膝が土に擦りそうになり
私は思わすブランコを止めた

少し離れてベンチがあった
そこにはまるでホームレスのような老人が
鳩に餌をあげていて

こちらを見て前歯が一つ欠けている口を開き
優しそうに笑っていた
老人は公園に溶け込んでいた

不思議な感覚だった
幼い頃の私には公園は無限大の広さで
溶け込んでいたはずだ

今の大人になった私には灰色の都会の喧騒の中
公園は異様な空間に感じた

腕時計を見たら午後3時5分前だった
私はブランコから立ち上がり

公園は吹く風の季節を追いやるだけでなく
人間の刻む時間も追いやるのかと思い

公園の存在を心に問いながら
仕切りの役目をしている白い壁の向こうにある
待ち合わせの場所に歩いて行った

文学極道

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