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リョウ

選出作品 (投稿日時順 / 全3作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


高級娼婦になりたかった女は

  リョウ

少しだけロリータ少女になったらしい
風の噂で聞いたんだ
彼女はロリータ少女に








****






「私はね、高級娼婦になりたいの」
彼女はそう言った
「そうか」
そう答えた
そうとしか答えられなかった
煙草を吸う 煙を吐く 精一杯だ



「私はね、政界を動かすような高級娼婦になりたいの」
彼女は詳しく言った
「そうか。愛してるよ」
そう答えた
そうとしか言えなかった
髪を撫でる 事しか
出来なかったんだ


彼女は思ったよりも容易に股を開き
数々の男を飲み込んできたらしい
(願ったり叶ったりだったよ)

「高級娼婦になりたいの」
彼女は微笑んだ
「愛してるんだよ」
俺は呟いた
煙草はとっくに燃え尽きて
フィルターが露出している事に気づかず
下を向いて缶コーヒーを蹴飛ばした
高級娼婦になりたい彼女は
甘い煙草の香りが好きだった














*****


高級娼婦になりたかった彼女は
ロリータ少女になったらしい
風の噂で聞いたんだ
今はあの煙草を吸わなくなった


少しだけ詩を書いた夜

  リョウ

高校生だった僕は
泣いて
泣いて
チンピラに憧れて
チンピラになりたくて
夜の街を歩いていたのです

高校生だった僕は
お金も無くて
遠くに行けずに
ただ地元の真っ暗な商店街を
あても無く歩いていたのです

100円ライターとタバコと
虎の子の120円を持って外に出ると
夜の風は知らん顔をして吹きぬけて行くのです
それでも僕は
チンピラに憧れて
泣いて
泣いて
夜の暗い商店街を歩いていたのです


毎朝使う駅は既に眠っていて
その前に頭を抱えてしゃがみこむ制服の男子学生が一人
酔いどれ天使のギター弾きが二人いて
僕は少し離れて座り込んだ
甘いコーヒーが好きだった

酔いどれ天使が歌う
ブルージーな「愛を取り戻せ」に
チンピラになりたかった僕は涙を流した
学生はずっと頭を抱えている
僕と同じ中間考査で悩んでいるのだろうか
隣に座ればわかりあえたかもしれない
でも僕は動けなかった
彼がいなくなればいいと思った

目の前を
千鳥足ですらない裸足の女神が引きずられて歩いてゆく
僕はチンピラになれない事を知っていて
少しだけ神様にお願いをする

どうか僕を不幸にしてください

チンピラになりたくなくなった僕は
家に帰って
少しだけ詩を書いて眠った
チンピラになんてなりたくない
不幸になんてなりたくない



家のベッドはやわらかくて暖かかった
120円の缶コーヒーを幸せにしていた夜は
もうすぐ開けてしまう


  リョウ

もしも不二家のペコちゃん人形に
高速パイルドライバーを仕掛けて
世界の不条理を叩き込もうと暴れる豚がいたら
それはきっと俺だから
「落ち着けよ」って言ってやってくれないだろうか

仮面をつけて生きるのが苦しいって言って
何処か別の場所でも何かしら仮面をつけてるのが現状
一番奥の便所で「紙が切れた」って言って
無表情のピエロみたいに泣いてる豚がいたら
それはきっと俺だから
「これで拭けよ」って言って
便所紙を投げてやってくれないだろうか

生きてちゃいけない気がする
けれど
死んじゃいけない気がする
次々と豚が噛み付いては
嗤いながら去ってゆくんだぜ

殺意も愛情も無い日が過ぎてゆくよ
足がどんどん地を離れてゆく
もがけば もがくほど!
仕方なしに今日もベッドにもぐり 震えている豚がいたら
それはきっと俺だから
「泣くんじゃねぇよ」って言って
寝るまで傍にいてやってくれないだろうか

もしもケンタッキーフライドチキンのカーネルおじさんに
高速でコブラツイストを仕掛けながら
世界の理不尽や真理、定説をわめいている豚がいたら
それはきっと俺だから
「落ち着けよ」って言って
煙草の一本でも分けてやってくれないだろうか

それはきっとお前だから

文学極道

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