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作品 - 20201109_517_12205p

  • [優]  出奔 - 滝本政博  (2020-11)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


出奔

  滝本政博

瞼を開けた朝は直立した眩い裸体だ
はたして わたしは そこにいた 
あなたが そこにいたからには  
鳥達は今日も空で生きる 
わたしたちは あなたは 笑うだろうか 
野辺に咲く花のように香るのだろうか 

季節の風を身に纏う芳しいあなたと 
野茨の靴で戸外へと歩き出す
幾多の昼と夜を超えて進む 
移りゆく空の色彩 
地の輪郭に沿って 隆起の丘を越えて 
窪みに沿って 森を向け 小川を渡り 
途中までしか書かれていない小説のような 
開かれた頁の上を踏む 
読めない展開を進む  

滲み広がる赤 
夕焼けを飲み込み 
半開きの空が閉じてゆく 
太陽が最後の瞬きをする
二人を掴み揺さぶる明暗
ひととき山裾を燃やして空は暮れてゆく
  
夜を歩いてゆく 
今日の公演はお終いと劇場のカーテンを引き 
人々が犬とともに眠りについたその後で 
川に沿って海までゆこう 
海はいいね 
眠る海の胸は上下して 
海の底冷え 風はぴいぷうだ

渚 足を水に浸し 
あふれ 胸を張るものを前に 
注ぎたそう千粒の涙を 
幾億粒の砂より掘り出そう 
埋もれてしまった 何もかもを 
樹々を その果実を 
わたしたちの恐怖を 巡る季節を……

景色は息づいている 
輝く瞳の揺籃期は 
見るものすべてに意味があった 
魚が 蛇が 動物が 蝶が 花開き 世界に組み込まれてゆく 
あなたの白い胸に散る雀斑の数さえ 
宇宙の星と繋がる

元気よく手をふって歩いてゆこう 
唇には歌を 唄いながら
春の歌を唄え 冬の歌を
ここにわたしはいる あなたの傍にいる
 
春 雲は胸のあたり 半身を出し淡い色彩を歩く
夏 二人は薄く汗を着て いまだ物語が始まるずっと手前にいる
秋 絡まる橙と青の静脈の毛糸 ほころびてゆくとき
冬 狼の横顔 馬の尻 あなたの歩く影に雪が降る

歩きつづける 二人は旅人
空の下 地平の彼方からやってきた 
わたしたちのことは忘れていい
遠くまだ見ぬところへ歩いてゆくのです
空の下で眠り 空の下で起きる
二人は夢をみる 大抵は悪夢を
でも、ときおり 美しいものがちらりと見えたりするのだ

文学極道

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