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作品 - 20201001_274_12136p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ワークス

  自由美学

親父のメッシュキャップには
きまって球団のロゴ刺繍か
「漁協組合」って文字が入っている
野球も観なけりゃ漁師でもない
なんでもないただの親父なのに
あのキャップの主張がなんなのかは
いまだによくわからない

いくつもの鋏ケースを腰からぶら下げ
親父は今日も庭いじり
公道に自慢のワークスをめいっぱい広げては
日がな一日チョキチョキやっている
そんな親父の横顔が
時々JISマークに見えてしかたない

庭の片隅でひん曲がっている親父を
せむしの懸崖五葉松が笑う
サビた一斗缶から垂れ下がる枝は
バカになったマジックテープのようだ
安全靴がゆらりと転がって
苔のうえにあっさり投げ出される親父
まばゆい日差しは
ありとあらゆる主張をひっぺがしていく

野良猫はすぐにのりしろをはみ出したがる
我が家の玄関マットにどっかり乗っかって
目には縦長の切り込みを入れ
胴は山折り
しっぽは谷折り
おでこをお腹にのりづけして
やがてはマットの毛になる

テンプレートでくりぬかれた宿命
そいつを俺にしっかりと貼っつける
瓶詰めにしたそれらを
会社と役所に
そして実家に送付したら完成だ
紙パッキンできっちりホールドされながら
俺は社会になる
なんでもないただの親父になるために

文学極道

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