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作品 - 20200905_704_12092p

  • [佳]   - 月屋  (2020-09)

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  月屋

窓ガラスが砕け散って、頬に痛みを感じながら、ひび割れた世界を見ている。夢。

嵐の前日らしいよく晴れた土曜日。脛骨と腓骨にぶら下がるふくらはぎと落ちそうな靴を空ごしに見ていた。皮膚が日に光って、肉が食べたいとか考える。

風は、まだ夏なのに。あなたは。

粉々に散っている蝉の羽の筋があまりにも綺麗な夕方に、手の小指の血まみれのささくれを引きちぎって、鏡が割れたらいいのになぁと、祈りながら爪を切る。

あなたは、そうね。一つだけ伝えるわ。

昔の記憶は全部、眼鏡の中だろうから、ひびが入ったら困るなぁ。なんてね。ぐつぐつうるさいお湯にそうめんをばらっと入れる。
あなたの顔が思い出せないけれど私、最後に言ったことは覚えているのよね。

秋まで待ってなんて、もう言わないから、あなたのいいところを伝えたいと思うわ。あとね、一つ、お願いがあるの。先にそれを言うわね。
お願いよ。どうか、頬に、

そうめんが茹で上がったから、出来合いのかき揚げを乗せる。嵐が去ったら秋が来るんだろうか。熱湯がはねる。頬に痛みを感じる。私の血液は美しいだろうか。鏡を見たって分からないんだよな。あれ、光しか映さないんだから。
ちょっとそうめん茹ですぎたな。私の家の食卓には、ほとんど会話がなくてテレビ頼り。特別崩壊しているわけでもなく、食事中は話をしないというのが暗黙のルールというか美しさとしているだけ。
窓ガラスが砕け散ってもいいようにカーテンを画鋲で留めておく。せめても。暖かい明かりは部屋の温度を上げるから、今日は早めに目を閉じる。眠れないけれど。

文学極道

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