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作品 - 20200902_468_12084p

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罪業に如くはなし

  

悲しみは夢に落ちてゆくようである。笑みに羽ばたく蜻蛉の空が、薄明りに集まっている。紅葉の幼木に一匹が、ぴたっと止まった。撓みながら、互いの命を揺らし合えば、風は古より興り、景色に色を与え、心の淵に宿る。意味が音を伝い、束の間を昇ってくると、波は海へと繰り返している。月は季節を慰め、無常の儚さを灯している。郷に帰るものの旅末に緑を擡げる道草の色も、遥かなるものである。
知らないうちに人々は、多くの言葉を人生に捧げている。私たちの読点は、より良い句点へ、今日も加速している。夕暮れの改行は、余白の後ろで未知に終わりを告げている。夜空は君を、星へ置き去りにして僕を、善意に導いている。間違いなく外国語の宗教で。言葉はガラクタだ。証拠もないのに信じている。言葉はガラクタだ。願いもしないのに生まれてくる。言葉はガラクタだ。祈ると願いは思いに戻ってしまう。言葉はガラクタだ。母音の前を子音が移り過ぎてゆく。
逢坂の関の近くの、毘沙門堂門跡の宸殿の玄関で、僧が脱いだ草履を見るのが好きだ。いつも、堅苦しくなく揃えてある。左右が、ほんの少し明後日の方向を向いて揃っているのが、これまた暖かみがあってとても良い。特に冬の寒い日には胸がジーンと熱くなる。

文学極道

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