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作品 - 20200818_279_12062p

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蝉と秋

  月屋





うるさい蝉が唐突に落ちていくことを夏の終わりだねと笑ってしまう君は夏を知らない。入道雲が膨らむと海水の塩分濃度が下がって、文鳥は眠りにつく。うるさい雨はただの通り雨だったけどそれを秋が来るねと喜ぶ君は冬を知らない。あ。そっか、君は何も知らなくて、だから巡っていく季節に春夏秋冬なんてつけない。ただ気温と空だけを気にしてたまに衣替えをする。
主婦湿疹で荒れた指が痺れる。蝉がコンクリートで騒いで飛び去っていく。皮膚がまた剥がれて、ぴりぴりと痛む。錆びたかんかんに雨水が溜まっているから蹴っ飛ばす。あ、ちょっと遠くに行っちゃった。エレキをうるさく鳴らしながら君が夏の終わりを嘆いている。そんな気がするよこのコード進行は。
夜はだいぶ秋だったりしますね。秋は好きです。私が生まれた季節なので特別です。と、純粋な子が微笑むのを同じく秋生まれの私は幸せでなによりと思っていた。夏が好きな私は夏に生まれるべきだったのだろうかと勝手に考えてしまう。夏が終わっていくことは別に悲しくなく、それはただ来年も生きているというだけの自信だった。まぁ、蝉は来年もうるさければいいと思う。いつまでも夏の虫として生きてほしい。

文学極道

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