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作品 - 20200814_210_12055p

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不安の記録

  おでん

ひとつの顔が落ちてある。 あなたはそれを見なかったことにするだろう。 その顔が自分の顔に瓜二つだったとしても。 あなたは階段をのぼる。 ひとつひとつの足音はあなたの足音だろうか? 階段の段差は、妙に大きくなったり、妙に小さくなったりする。 あなたはドアを開ける。 それはつまり何を意味するだろうか? ドアを開ける、という単純な動作が何を意味するのか、あなたは考えてみる、ふりをする。 今考えたことは、ドアを開ける、その行為それ自体が、希望に満ち満ちているものと、あなたはそういうことにする。 あなたは風呂に入る。 それなのにあなたはますます震える。 あなたは風呂が恐ろしくて堪らない。 あなたは風呂のことばかり考えている。 風呂、それは人生のスパイスなりや? 気がつくと、あなたは夜空を見上げている。 (勿論、服は着ていますよ。) 星の一つ一つが、妙に輝いて見えるのは、やっぱり夜空が怖いからなのだろう。 星の一つ一つがなければ、あなたは夜空を見上げることもできなかっただろう。 あなたはひとつの不安である。 あなたはあなたを喰い散らかしてしまう。 そうしてこの話は逆転する。 あなたは不安が好きだった。 不安のとても濃い色が、あなたを旅人にする。 不安はとても冷たそうだけれど、本当はとっても温かいものだと、あなたは生身で知るだろう。 不安とは人工的な感情の一種であるか、あなたはそれを確かめることができるだろう。 どこから光が漏れているかで、あなたはその不安の完璧さを知るだろう。 あなたの(あなたの?)不安はあなたを疲れさせるが、あなたの好きなところへと連れて行ってくれもするし、この世の地獄へと連れて行きもする。 あなたはやはり不安はとても恐ろしいものだと再認識する。 この世にあってはいけないものだと、臆病者のあなたは言うだろう。 あなたは不安を見つめている。 不安を? どこにもない、目に見えない不安を、あなたは見つめることができる。 その不安はあなたのものではないから。

文学極道

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