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作品 - 20200801_905_12030p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


芸術としての詩

  田中恭平

この作品を書く前に
あたたかいシャワーを浴び
洗面所で
再度
手を洗った
髭を剃った
それでも鏡に映ったのは
たぶん
ほんとうの
わたしではなかった

ビート・ジェネレーションの系譜は
拡大、拡張しつづけるばかりだ
もっと大きく
もっととおくへ
ジャズから電気音楽へ
ボルネオ アラスカ そしてジャポン
わたしはもう若くなく
いつか
四国遍路したいという夢は
読みすぎた文庫本のよう
ボロボロになってしまった
でも
飛びたちたかった
まるで、ヒッピーの間で愛読された
かもめのジョナサンのように
もう
数日も
まともに食べていない
反対
肌が
きれいになったのは凄いことだ
本能を感じる
ちょこちょこ、っと
食べている
バームクーヘンの四分の一や
向日葵の種をローストしたもの
アイスクリーム
あとはよくコーラを飲んでいる
お守り程度に青汁も飲んでいた
それでも自然としごと
肉体労働はできた
さっき
最期の煙草を喫った
血中のニコチンは
一晩ですべて抜けてしまう
だからスモーカーは朝
煙草が喫いたくなる
禁煙のピークは二日目で
三日で完全にニコチンは体内から抜け
脳波の遅れも解消され
しぜんなドーパミン反応をすることができる
そうだ
今から
明日の休日を使って
煙草から足を洗うのだ
いったいわたしは何を書いているんだろう?
じぶんの読みたいものを書いている
わたしは書庫の
膨大な本
漫画

対峙する前に
まず
今の自分が
読みたいものを書こうと考えた
考えた、だ
思った、
ではない
思いには力がない
すぐに胡散してしまう
それはどこかへ行ってしまう
まるで衛生か、自由のように
夜の階層が上昇してきたが
現在 午後七時半
とどまりつづける
とりのこされる
それが
今は相応しいと考えるから
わたしは平屋に
ひとりで暮らしている
コロナで大騒ぎだが
この平屋で
個性というウィルスを培養しているようなもの
それは社会参画に向かない
こわれやすさ
フラジャイル
とくれば
キーになるのは「障害」だ
床に落としたお菓子でも
三秒以内なら食べていい
それが原因で脳障害を起こすみたいに
わかりやすい障害ならまだいい
ただ
わたしの場合この障害は
原因不明だ
原因不明なのに薬を飲んでいる
四錠を
朝 昼 夕 
効果的な薬というものは
えてしてシリアスな研究によってではなく
半ばトラブルで開発に至る
ある都市のゴム工場で勤務していた労働者が
ほとんど酒に不快を感じて飲めなくなってしまった
それで嫌酒剤が開発されるに至った
とか
つまらない話かな
蝉のこえが聞こえる
まだ彼女からの電話には時間がありそうだ
ウィスキーを買ってくれば良かったが
コカ・コーラで我慢する
コカ・コーラは元々薬局で販売されていた
企業はひっしにその歴史を隠蔽しようとした
そしてそれは成功した
元々コカインが入った気つけだったんだね
そういえば
この前イオン・モールに行ったとき
未だブロンが陳列されているのを見て
「おっ」
と声が出てしまった
常人以上に
せきに悩まされているひとがいるのだろう
そういえば昔デイ・ケアで
リタリンを処方されていた方で
リタリンが処方禁止になったことで
たいへんな禁断症状を味わった方がいた
聡明そうな女性だった
下痢 手の震え 悪寒
ただ禁断症状が強いものはやめられる
とも言える
煙草は禁断症状がつよくない
ただ依存性は高い
だからやめられない
これらをごっちゃにしてはいけない

薬の話を書いているけれど
親鸞は
悪人正機を曲解した
つまり
悪人が浄土へいけるのならば
悪いことをしでかした方がいいのだ
という連中に
念仏というよいくすりがあるのに
すすんで毒を飲むとはなにごとか
と一喝したという
わたしの人生に影響を与えた
いろいろなキャラクターがいるが
彼ほど聡明な思想家はいない

少し部屋がぬるくなってきた
ここまで物を書いてきて
未だ彼女から電話がないことが
胃に火がついたように
腹立たしくなってきた
この感情に覚えがある
東京にいたときに遡る
夜勤を終えて

アパートのへやに帰ると
同棲していた女性はいなくて
部屋中の家具が
ひっくりかえしにされていた
わたしが夜帰ってこなかったことを
怒ってしたんだな
と今では理解できるが
そのときもう病気は発症していたのか
ただそのへやのなかで
正座して
ぽろぽろと泣いてしまった

高校のころ
暴力事件をおこして
親を泣かせても
泣いたことなんてないのに
というか
その日以来わたしは泣いていないんじゃないか?
さびしい?
さびしいとはどういう感情なのかわからない

ただ何かを恨んでいるのだが
今は世界よ、おわらないでくれと祈っている
核は廃絶されるべきだ
何百本核ミサイルをもっているか
自慢大会はやめるべきだ
寧ろ、どんどん核を捨てる競争をすべきだ
ただ
このレベルに至るまでに
まだ数十年、数百年がかかるだろう
日本は核被爆国だ
文句をいう資格はあるだろう
アメリカ様を例外化すれば
いいや
わたしはアメリカ様の文化に
感化されて育った
イメージの裏側
われわれはアメリカ様の植民地人でいつづける
そしてそれでいい
勝負は終わって
負けたのだから

勝手に負けやがって



ユリイカの中島らもの特集で
鈴木創士氏が
なぜビートの連中は物を書いたのだろう?
これっておかしなことだよね

と発言している
これは同感だ
そして
なぜ今わたしも物を書いているのかわからない
というか
ひとり語りに
ダベッているのかわからない
完備氏のコメントにも今賛成だ
物をかかなくて、悟りを開こうとしてもいい筈だ
ひとつあるのは
物を書くと
どこかへいけるからだと考える
物を読んでもそうだ
さいきん何読んだ?
「漢詩鑑賞辞典」は手に負えなかった
本棚をみればそのひとがわかる
これは嘘だ
本を読んでその人が何を考えているか
これはわからない
そういえば芥川龍之介の「或る阿呆の一生」を
風呂で読んだな
睡眠薬中毒で
いちにち一時間しか起きられなくなった男が
あんな明晰なテキストを書けたのは
ニコチンの少ない恩恵かな
足穂も
著者紹介の欄でニコチン中毒により
一時文壇を離れる、とは
こんな勲章はないだろう
ああ 馬鹿馬鹿しい
いや足穂はいいよ
いちばん好きなのは「弥勒」だね



夜の階層が上昇し
それでも
とどまりつづけていた魂が

羽化したい

背骨より
天へ還る
もろもろの感情たち

こころの荒野が
苔むすまで
ふっただろ?
雨よ
いい加減にしろ

仕方ない
蛍光色の
グリーンの服を着て
郊外の道を
とぼとぼ歩く
歩くのはいいと聞いたから
でも
なんで雨の夜に歩いているんだろう


祈る
祈るのもいいと聞いたから
なんでも受け容れてしまうんだ
そしてじしんの空っぽを知るんだ

わたしは空っぽだ

けして
空っぽであって
ダイナマイトではなくて幸いと
傷害罪で捕まったひとの
ニュースを想い出す


あなたが勝つというのなら
負けつづけるよ
努力するよ
すこし頑張ってみたいんだ
晴れた日に
ラーメン屋で
チャーシューを渡したときみたいに
あなたの笑顔がみたいんだ
それだけかな
月が「尊い」


摩耗してゆく
もの
こと
忘れないように
みんな写真でとる
写真をとるのは簡単だから
わたしもできるような気がして
でもできないんだ


外国人の方が礼儀正しいのなぜ?
困っているときにはTELしろと
メモをくれた
アメリカ人
わたしは
繁華街の裏に座って
花畑の幻想をみていた
にっこり笑って
サンキューといった
メモはない
メモは消えるためにあるようで不思議だ


倉庫内では走っちゃいけない
それでは規定時間が短すぎる
ストレスがなにものかわかったぞ
矛盾だ


とか


考えて辿り着いた
自動販売機
130円で、たかっ、と考えながら
アイス・コーヒーを買う
コカ・コーラはもう要らない

帰って
わたしは手を洗う
あたたかな湯で洗う
いつか背中をさすってくれた
あの手になるように

 

文学極道

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