#目次

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田中恭平

選出作品 (投稿日時順 / 全62作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


#01

  田中恭平


昼、蜩が啼いていた
今日私は遂に夏を認める
昼、蜩が啼いていた、と、私は日記に記さなかった
だから、昼、蜩は啼いていなかったことになるだろう
しかし私は今日、遂に夏を認めた
明日、もし昨日蜩が啼いていたことを忘れていたなら
そして明日、蜩が啼いたなら
私は明日、蜩が啼いたと認める
わくわくして
少し動機が早くなって、バラバラな扇風機を組み立て
扇風機のプラグをコンセントに差し込み、「中」のボタンを押し
扇風機を、私が信仰しているロック・バンドのフロント・マン
カート・コベインのポスターが一枚貼ってある、
白い壁に向けた
夕方になると、昼、蜩なんて啼いていなかったことになっていたし
しかしまだ遂に夏を認めた私がいたので
抗不安剤カームダンを含むと
多分、昼、蜩が啼いていたので、しっかりと書いておかないと
理由も曖昧なのに、遂に夏を認めた私は
孤独になる
私を、助けて下さい
と祈った
姉の買ってきてくれたフライド・チキンを頬張りながら
「愛しています。」
と、一言だけ、携帯電話のメールに
未だ意味の知れない「愛」という言葉の一語を書いて、パートナーに送った

人参果が欲しくてスーパーマーケットで捜したけれど
スーパーマーケットは全焼していた
全焼したスーパーマーケットは初めて見たので
それが全焼したスーパーマーケットだと気が付かず
真っ黒な灰の瓦礫の上で
ポケットからゴールデン・バット、210円の安煙草を取り出して
別売りのフィルターをつけて火を点けて座った
そして、「人参果、人参果」と呟きつつ、ふらふら
瓦礫のなかをさまよった
水たまりに油が浮いており、虹色に光っていたので
ずっと水たまりの光りを眺めていたら
茶色の毛だらけの野良猫が来て、
水たまりの水を舐めはじめた
懸命に、懸命に、毒を舐めていた

ピアノの音が聞こえ
音楽室に向かうと
ピアノが溶けはじめていた
T先生は、ちらと私に目をやると
ピアノが溶けているのは嘘なんだ、と仰った
確かにピアノは溶けていたので
先生の仰っていることが、私には解らなかった
そのピアノで先生は
正確にエリック・サティのジムノぺティを弾いた
梅雨ですね、
先生に告げると
そんな大雑把な季節把握はしてはならない、と仰った
ここまで書いて私が思慮したことは
私に水平に流れる時間というものは
感情がないということだった
意味なんかない
先生はピアノから離れると
白いくしゃくしゃのコンビ二の袋から
おにぎりを二つ取り出し食べた
感情のないこの時間にあって、おにぎりを頬張っている先生
振り返ると、ピアノはすっかり影になっていた
携帯電話にメールが届いて
パートナーから「私も愛しているよ。」という一文だった
私は少しずつ鬱になりはじめ
或る手段を使って
先生を殺害した
動機なんてない
こころの闇なんてない
動機には興味がない
大体何故
動機が必要なのだろうか
カート・コベインは「魚には感情がないから食べていい」と歌った
先生は殺すことができたのに
私は私自身を殺すことができないでいる


「ハロー、ハロー、どれ位ひどい?」

メロディを反芻しながら
夜の郊外の道をまっすぐ歩いた
精神科で処方された薬をコンビニのトイレで含み
ポカリ・スウェットで胃へ流し込む
遠くパートナーの足音が聞こえてきたと思うと
現れたのはファースト・フードの食い過ぎで
肥満したイエス・キリストだった
トイレの洗面所が備えているスペースで
キリストの鼻筋をガツッと殴った
右側でも左側でも、頬ではなかったので
キリストは混乱しながらその場にうずくまった
洗面所を備えているスペースを抜けて
レジに向かい
ゴールデン・バット二箱
百円のアイスコーヒーを購入した
どうせ地獄へと行くのだ
兎に角、今は煙草を喫って良い気分になろう
コンビニの前に置かれている灰皿に入っている水が
自然ドンドン水かさを増して
ついに灰皿から溢れ
ジー
ジー
蜩の声が頭いっぱい広がった
そう
確かに
蜩は啼いていた

 


#03 

  田中恭平

 
百日紅の花は寒に縮みつつ
その先 蕾を遺している


静かにするんだ──

先に服した薬が内側でそう告げた

硝子戸を開け、じっと寒を見つめる

茫洋とした視線へ
孑孑の
騒ぐ声が挿入され
目は
眼となって
百日紅の花の赤さを
正信する
否 
眼が
目となって
百日紅の花の
神の
生成の
妙が知れると

私は陶器の
灰皿を、縁側に置き
煙草を嗜み

静かにするんだ──



舌で転がしてみる

この戦時下
 
パラパラと
舞い落ちるのが
百日紅の
花弁であって
中華人民共和国の降下爆弾

なくて良かった


一弁
一弁
灰皿に詰め
灰皿の灰と
花は
互い
形を失っていく

明日から米の
供給は終わり
煙草屋へ寄ったら
読売新聞しか
置いていなかった

家を引き払い
薬代に換えて
駅前ベンチで眠ろう

左派の私を
雇ってくれる
映画会社を捜そうとも
しかし
東京は灰燼か
郵便は止まった


最後の煙草に火を点けて


静かにするんだ──


しかし

百日紅の花は寒に縮みつつ
その先 蕾を遺している

たとえ
私のこの両目が
義眼であったとしても

 


#04

  田中恭平

 
 
それは東洋的でない
甘い桃の匂いもせず
渇きと
病に苛まされてきた
西の町から
彼女は船の看板に立ち
哀しい話している間
船と
港とを
カモメは
アルコールのダルさと
薬の副作用とに
苦しんで
笑ったように
飛び交っていた


四月の十四番目の日に
私は生まれておらず
ペンを持つことはできなかったが
十月の一番目の日に
彼女の語ったこと
頭に入ってきたことを書きとめていけば
波へ彼女は乗馬したということ
黄金時代は予告され
黄金時代は予定されていた
神がサイコロを
カップからはじき落としてしまうことは
予告も予定もされていなかった


夜は星が栄えるよう漆黒を増し
そもそも ディザイア
 欲望 とは欠損語を冠した星のことであるが
この夜のお膳立ては
神の落としたサイコロが
悪い数字を出したということだった


海が鋭く船を刺せば刺すほど
人は
とおく在る星の栄光を
確信してしまったのだった
渇き
病気
それらが星の
つめたいあたたたさに癒えるころ
約束の刻は近かった


神は
ゲームのツケを払うために
人をさけながら清算しようと向かっていた
ライトはしかと船の進路の前方を照らしていた
少しおかしなことがおこっても
船は確実終わりへと向かっているので
問題なく滑っていた
ひとは笑いながらいろいろな船の娯楽を愉しみ
神は
金に代わる清算方法を考えざるを得なかった
警備員が神を見かけ驚いたが
警備員は毎晩夢で見ていた神は
神じゃなかった と
勝手に安心してしまったので
また船の中を
にこやか歩みはじめた
オーケストラの指揮棒が止まり
乗客は拍手した


病気と同じ名前の青年が
スケッチブックにデッサンしていると
船が傾斜していることに気づいた
青年は己の眼が傾斜しているのだろうと
勝手に安心してしまったので
デッサンを続けたが
彼のデッサン帖には女性のデッサンがない
これも「つづいていかない」という
警告だったかも知れない
そして神は
ゲームの失敗を金ではなく
ひとの命で清算するしかなくなった
青年は己の眼の傾斜が酷くなり過ぎ
ついに己の心象を書き留めていたが
おかまいなしの騒がしさに眼を開いた
青年は
後甲板から滑り海へ落ちた
後甲板に既に深さ3フィート冷たい水がたまっていた


煙突が倒れた
倒れた煙突の重さは乗客の足をくじきくだいた
船は沈んでいた
沈んだ分だけ漆黒の宇宙は広がった
各廊下の下のライトは安心していた
ライトには命がなかったからだ
しかし鈍く明滅していた
エンジンが爆発した
プロペラははじめるために回る筈だった
プロペラは回りつづけたが嘲っているようであった
過負荷をかけられるボイラー
船の弓が
割れてしまった
乗客はためらったり海に飛び込んだ
はやく
おそく
時間は
人間のものでなかった
神は
それを隠しきるに金が足らなかった


それは東洋的でない
甘い桃の匂いもせず
渇きと
病に苛まされてきた
西の町から
彼女は船の看板に立ち
哀しい話している間
船と
港とを
カモメは
アルコールのダルさと
薬の副作用とに
苦しんで
笑ったように
飛び交っていた


タイタニック号は沈んだが
青年のペンは浮いていた

 


忘備の三行詩 3×100

  田中恭平


2015年10月12日(月)


#01

書くということは、記録するということだと
記録しておく為に
キーボードを叩いた。


#02

デイケアで私の画いたイラストに── Why Me?
と画いたら 或る女性は──Way Me? ってどういう意味かと訊ねてこられて
やりくち私?・・・私のやりくち?・・・とにかく卑怯なテクニックをもちいたイラストでした。


#03

或るサイトへ登録するとき、勇気が必要だったから
今日もあの人が私の部屋に来ないで、眠っていたのはよいこと
勇気が必要なとき、私は物を壊すので、あの人が壊れないで済んだ。


#04

椎名林檎の「丸の内サディスティック」を拝聴すると
毎晩寝具で遊戯するだけ、という歌詞が 毎晩シングルで忠義するだけ、と聞こえる。
私にとってはどちらでもさいわいなこと、のように感じられる。



#05

生きているなって常に感じるように、私はできていないけれど
死んでいっているな、というのは常に感じているような気がして
──神は死に、ロックは死に、お前はもう死んでいる、と又、売れない楽曲ができました。


 
#06

コミックスの「ソラニン」の一巻のラストで「ホントに?」って疑問の声が
種田に入ったけれど、これ、もしかしたらロバート・ジョンソンの声か?と思った。
私の中へ「ホントに?」って声は聞こえないけれど、ふさわしい暮しを営んでおります。



#07

日本人のメンタリティーに於いて、その最大公約数=最低水準である、と
自覚したらば、詩でも、詩歌でも、文学でも相当変わっていくと思うのですが
ペスト氏の英詩を読んで、先に行かれたな、と考え、中学生向け英語テキスト眺めた。



#08

0は無である。
−1も又一つ無いのだから無である。
0と−1の違いは、インターネットで調べるよりも、本を読まなければならないだろう。



#09

小学一年生から畑作を教えるべきだと思うのだけれど。
種を蒔く→枝豆が成る、たしか宮沢賢治の「春と修羅」の冒頭で、「因果」という仏教語が効果的に使われている。
そして枝豆をにこにこ食べた夏があって、秋は少しさびしい。

 

#10

詩誌「空想」の同人ということになっていますが、ことし発行予定の「空想」がでない。
しかし、私も「空想」サイト上の投稿板に品載せます、とコメントしつつ載せていない。
ことしは「あいこでしょ・・・」で、暮れるかもしれない。



#11

A5 C5 G5 F5 ×2
F5 C5 F5 C5
F5 C5 D  D



#12

ユース・カルチャーと商業主義とを嗅ぎ分ける、その正確な鼻をもつと
不幸になってしまうような気がするけど
なにもキナ臭くはないよ、という声は、天使のふりをした悪魔だと思う。


#13


あなたの為に生きようと思います。
と、書くことに飽きたので
あなたの為にカロリーを燃やしていくだけです。にしようと、ペンを握り直した。



#14


「今日の夕飯、なに?ラーメン?」 「トンカツ」
「えっ、ラーメンじゃないの」 「トンカツ」
「トンカツのったラーメンがいちばんだな」



#15


itunesで、レート(★)をつける、暇つぶしをしていると
ボブディランの「マギーズ・ファーム」へ、星いくつをつければいいのかわからず
いつも曲名の横が真っ白だけど、それはこの曲にふさわしいような気がする。



#16


愛ゆえパートナーを信頼し、電話をとる。
「田中さ〜ん、わたし、いま、どこにいると思う? 火星です」
万歳! 彼女はついに火星に到達できたんだ。



#17


九日、デイケアでの、Mさんのおはなしの会で、Mさんがその日、私がいないことを確認したらしい。
前回のおはなしの会、私はMさんに宮沢賢治の「やまなし」の朗読をねだったからだ。
「やまなし」は少し手を伸ばせば読めるけれど、Mさんの「やまなし」は二度と聞けない。


#18


パートナー「田中さん、絵本は見つかりませんでしたが、代わりに大量の下着が見つかりました」
私「それ、絵本のお姫様のとちがうか?」
詩と、おっさんギャグの近さよ。



#19


お金がないので、煙草の銘柄は250円のエコーである。しかし460円のマルボロよりもエコーの方がおいしい。
しかし250円のエコーより210円のバットの方がおいしい。
しかし匂いがキツく、要・別売りフィルター。世は、煙草も例外なくフクザツだ。



#20


「アメリカ人がネットで一番検索する単語、GODだって」「ワイアードとヘブンズ・ゲート勘違いしとるわ」
「ヘブンズ・ゲードどころか羅生門だよね」「羅生門、羅生門、醤油なことな」
「君、ネットで堕落したものね」「堕ちきったんや、あとはニュルニュルのぼるだけ」


 
#21
 

「マリアさんが神を生んだんだろう?」「違う、神といっても、神の子や」
「じゃあ、神がマリアさんと」「違う、パワーみたいなもの送ったんちゃう?」
「マリアさんの両親はどういう立場だろう」「だから、神さんとマリアさんの親御さんやろ、複雑なんや、マリアさんとこは」



#22


「言いたくないけど気違いって卑語あるだろう?」「気が違っちゃったってことな、おれや、それ」
「君だけど、キティ・ガイって可愛くしたらどうだろう」「なるほどな、キティちゃんのTシャツ着たおっさんな」
「・・・・・・」「おるな、原宿に、マイケル、西海岸から来た52歳とかな」
 


#23


 今日はよく書いた。さすが体育の日だけあった。パヒュームの「ポリリズム」が流れていて、あなたは踊っていた。
ポリリズムは複合拍子をさし、だから拍子の分だけ、パヒュームのメンバーは増え、あなたもメンバーのひとり。
ゼロ年代の、残響のような夢さめるまで。



#24
 

詩人よりも、芸人の方が、言葉のことわかっている気がする。詩人より劇団員の方が言葉を知っている気がする。
お金とか報酬とは別に、詩人は言葉を使っている。それは言葉に対する侮辱のような気がした。
底辺のとこで、言葉の力を信じていない。胸がさわいで、それがずっとつづいた。


#25


煙草を喫ってしまった所為か、睡眠薬の効きが悪くて、ノートパソコンを開いて、またタイプしている。
空を仰いだら、星は比喩が要らないくらいうつくしい。
ほんとう、比喩の要らないものすべて、それらはうつくしいのかも知れない。



2015年10月13日(火)



#26


「痴れ者夢をみる」というけれど、本当のことなのだろうか。
 しかし病が酷いとき、とても生々しい夢を毎晩見ていて、床に就くのが怖かった。
 今朝、夢をみなかった。



#27


税金を多く納めていた方が、立派だと思っていたけれど
税金を少額でもかえしてもらった方が、賢い、ということになりそうだ。
私は立派と思われるのも賢くあるのも目標にしていないけれど、熱心「軽減税率」について、新聞を眺めた。


#28


今朝はしずかなので、ニルヴァーナの「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」を聞いた。
「十代の魂のような匂い」、嗚呼、うつくしいタイトルだと思っていたけれど
「ティーン・スピリット」っていう制汗剤が存在すると知って、ロックのお家芸で、意図はない歌なんだろう。



#29


どこでもないってことは、あらゆるところで、ってことだ。
なんでもないってことは、たくましい、ってことだ。
英語の歌を聞きはじめて、言葉の裏口を見つけるのが、たやすくなったような気がする。



#30


冷えるので、お気に入りの灰色のカーディガンを出して羽織った。
以前、煙草でやってしまったのか、左の袖に穴が空いていた。
今日、デイケアのメンバーに言われるな、と思っていたら、言われた。普遍性とは、煙草でやったカーディガンの穴だ。



#31


まだデイケアへの出発までに時間があるので、ネットのトランプ占いをしたら
今週を暗示するテーマは「誤解」であって、嫌だな、と思ったけど
私は愚かだけど、めちゃくちゃ賢い人に見られる誤解もあるだろうから、良しとした。



#32


「しかしなぜ、太宰は芥川賞とれなかったのだろう?」「太宰は、或る阿呆の一生、をずっと自己バージョンで書いてたようなものかな」
「いや、でもちょっと明るい作品も書いていたよ」「川端康成に懇願しても、落ちたんだろう?」
「正直、芥川より太宰の方が文章巧いよな」「だから落とされた、というので合点いくな」


#33


きみたちがいて僕がいる
は、チャーリー浜だったろうか?
この詩があって僕がいる  チャーリー浜に勝てない



#34


いただいた命だ
かえすなら命をかえす
そのやり方は、死ぬことでない



#35


墜落は仕方ないけれど墜落はいけません
ダラク ハ シカタナイケレド ダラク ハ イケマセン /ツイラク ハ シカタナイケレド ツイラク ハ イケマセン
ツイラク ハ シカタナイケレド ダラク ハ イケマセン/ダラク ハ シカタナイケレド ツイラク ハ イケマセン



#36


いま、お金があるから、言葉が書けるのだけれど
言語がないから、金(きん)が必要になったのであろう
貨幣制度をばら撒いた英国人が、文献の中で批判されつづけるとは、皮肉が効いているね



#37


マイナンバー宝くじ
紅白歌合戦の途中おこなう
景品は詐欺を考慮して松坂牛など地域特産品にする 紅白が視聴率とりかえし、地域広告になる



#38


考えない方がいいよ、とよくいわれるので
なぜ考えない方がいいのか、と
考えてしまうひとと、今日もすれ違ったのでしょう



#39


二日目にして、三行詩は理屈っぽくなってきていますので
三行目は絶対に モーレツ清掃員 にします
モーレツ清掃員



#40


東海道中膝栗毛も好きだけれど
上方落語の方が好きだ
喜六と清八はどこも旅しなかったから、あらゆるところにいたのだろう



#41


主語を消して詩を書いても、どうしても自分が滲んでしまうので
三行目に主語だけを書き置いてみようと思います




#42


ここです(→「 」)
ここにパソコンのウィンドウの染みがあったのですが
一行書いたらなくなりました 報告終わり



#43


「ムラカミハルキが、もしノーベル賞候補にならず、ネット小説家になっていたら、とか
 やっぱりワイアードの夢は、残酷過ぎるかも知れない」
「現実だってあんがい、こころの中を歩いているようなものだよね」



#44


 もし、あなたがプリンターとライターと水のたっぷり入ったバケツを持っているなら
 この詩をプリントアウトして、一番近くの路上で燃して消火しなさい
 (オノ・ヨーコ、いまいくつ?と思った方は、ウィキペディアでオノヨーコを検索しなさい)



#45


いきつけの床屋の親父さんまで
ゼロ円スマイル・サービスはじめたなら、その代わり
マクドナルドで煙草喫わせてほしい。ゼロ円スマイルが郊外潰しています



#46


明日、職業安定所へ行くと予定していましたので
明日、髪を切りに行くと予定していましたが
明日は十四日、そもそも散髪代が、十五日の年金支給日にならないと頂けないのでした
  

#47


「なんとなく、クリスタル」は最初、読む気が起きなかったが
なんとなく「滝川クリステル」の数枚の画像を眺めるだけで、読了できるという凄い小説だった。
人が読んでいないのに読了できる凄い書籍にほか「ジム・モリスン詩集」がある。


 
#48


 ネット詩人、ペスト氏はベスト氏ではない。
 英語にすれば一目瞭然である。Mr.Pest notequal Mr.Best
 英語にしないと大変に誤解することがこの世にはあるようだ。おやすみなさい。



#49


「望」という漢字を分解すれば、「月」を「亡」くした「王」である。
 欲望を指す英単語 「Desire」は 欠損を指す接頭語「De」を冠した「Star」である。 
 月、星を失った状態が、望むことであった。

 

#50


 煙草を喫うことは絶対忘れない。
 服薬することはときどき忘れるけれど一日通して飲めた。
 でも眠る前になると、何か、忘れている気がすることも、忘れている。


2015年10月14日(水)



#51


携帯電話が、メールを着信した(音)。
目覚めれば、いつもの天井のプリントの(柄)。
携帯電話を開けて、メールを眺めれば(言葉)。



#52

 
中島らもが「大麻より煙草の方が旨い」って言っていたらしい。
不味いものは禁止されて、旨いものは合法化されたのではないか。
2015年、郊外の、朝の空気は不味いから、郊外が禁止されるかもしれない。



#53


2ちゃんねるの「煙草板」のぞいたら、みんなどうやって煙草やめるか書きこんでいる。
詩のサイト、現代詩フォーラムの作品を少しずつ読んでいるけれど、多く「現代詩」でない。
現代詩を書いてほしい。



#54

 
ザ・ビートルズの「ハピネス・イズ・ウォーム・ガン」という曲が好きで
ブローティガンの詩も、読んでいてさいわいになるから、「ハピネス・イズ・ウォーム・ブローティガン」。
あたたかいブローティガンは、お風呂からあがった後か、酔っています。

  
 
#55


日本で「バンバン」というと「ビリー・バンバン」である可能性が高い。
「GOD」の語を反対にすると「DOG」だが、「DOG」が柴犬である可能性は低い。
「神」の語を反対にすると「みか」だが、現在、これが「中島美嘉」である可能性は割と高い。



#56


右翼でも
左翼でも
どちらか翼を失ったヒコーキは飛べない。



#57


ニュースショウを観ているが、芸術を越えているのかもしれない、とすら思う。
「運が悪かったですね」
と表現する為に、CGまで駆使している。



#58


昼は、うがち過ぎる私であった。
 鯛鮓や一門三十五六人 子規
三十五六人、に、勝手、のちの夏目漱石が加えられていないかと。



#59


自動販売機の前に二人
「きみに、缶コーヒーをおごりたいのだけれど
 お金を貸してくれるかな?」



#60


自由ヶ丘の書店でフーコーを立ち読みして、書いてあることを知ったひとと、わかったひと。
知ったひとは自分は 不自由ヶ丘 にいるような気になるかもしれず、
わかったひとは自分は どこにもいる ような気になるかもしれない。



#61


けちであるということは、お金に対して嫉妬しつづけていることか。
断ちきるか、独占した方がいいのか。独占を結婚といいかえるならば
私は生まれる前から、お金と結婚していて、見捨てたり、裏切られたりして、けちしてる。人が虫になるのも無理はない。



#62


三人で会話していて
「大貧民」と「大富豪」が同じゲームだと知って驚いた。
「呼称はどうあれ、人はみんな死んでしまうからね」と言って、知ったかぶった。


 
#63


会話していて、自然
「おれが死んだら、その先には何もない方に命を賭ける」と言ってしまって
 リスク・ゼロだ、失敗した、と思って、どうじ、命がなくなって、かつ命を賭けられた世界があった?できた?


 〇死亡確認の男性、検視直前に覚醒で大混乱に インド

【AFP=時事】インド・ムンバイ(Mumbai)で、死亡が確認されたホームレスの男性が、検視台の上で目を覚まし、検視を始めようとしていた病院の職員らを仰天させる出来事があった。地元当局が13日、明らかにした。

 警察によると、氏名不詳のこの男性は11日午前、意識不明の状態で発見された。さまざまな感染症を患っており、病院に搬送された。

 AFPの取材に応じた地元警察幹部によれば、公立ロクマンヤ・ティラク総合病院(Lokmanya Tilak Municipal General Hospital)の医師が男性の死亡を確認し、「遺体」は検視に回された。だが、「検視を始めようとすると男性が目を覚ましたため、大混乱となった。その後、医師たちは私の部下から死亡証明書を取り上げ、破り捨てた」という。

 一方の病院側は、ミスが起きたのは警察のせいだと述べている。同院の院長によると、警察はナレンドラ・モディ(Narendra Modi)首相の到着に備えた警戒措置に追われており、同病院の医師らは、病院の外の路上で男性を診断するよう頼まれたという。

「警察は一刻も早く、首相の警備に戻りたがっていた。屋内での診療が許されていたら、うちの職員もちゃんと診断できていただろう」と院長は語った。



#64


ポケット・モンスターは発売されて、すぐ買った。お婆ちゃんにねだって。
僕がリザードン、レベル100で、四天王と闘っているとき、みんなトレーナー・バッチ二個位しか手に入れてなかった。
マスターボール、四天王のとこクリアすればするだけ、貰えるものだと思って、テキトーなポケモンに使っちゃったんだよ。



2015年10月15日(木)


#65


文字の入ったTシャツはいまでも需要あるらしい。
助けてほしいひとは助けてって書かれたTシャツ着て、助けたい人は助けますってTシャツを着よう。
──「俺の背中に助けてくれって書いてあるのか?」(映画「グッド・ウィル・ハンティング」より)



#66


図書館の本を返しそびれている。
返却カウンターに本を出して去っても
本は頭の中に置かれたまま。


#67


断酒六年になった。
 酒止めようかどの本能と遊ぼうか 金子兜太
お酒を飲むのは一つの本能であり、業ではないことをわかって、救われた。



2015月10月16日(金)



#68


国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。
私は自叙伝を書きたいとずっと思っている。
生前の長い無を抜けると私であった。 でも抜けたときを覚えていない。



#69


良識はけっこうだと思う、
しかし、それをかいくぐるものではなければ
他にかいくぐったものの撒いた、悪を知れない。



#70

 
──温かく見守って頂けたなら最わいです。
──最わい? 私は辞書を開く。
幸い、という字を知らない者同士、付き合っている。



#71


「こころをなににたとえよう」「ねぇ、何で眠らないの?」
「眠らないんじゃなくて、眠れないだけなんだ
 だから薬を含んで、眠れるようにするんだね」


 
2015年10月17日(土)



#72


「今は面白くないけれど、昔
 覚醒剤打たないで、ホームラン打とう ってコピーあったんだって」 
私は、覚醒剤打って、バンバンホームラン打っているひとを想像した。



#73


彼女は、こどもっぽいことを嘆くより
こどものままで
口紅を塗る。



2015年10月18日(日)



#74


露伴を読みながら橋を渡り帰路をいくときも
パートナーとサイゼリヤで安すぎるピザを分けあって食べているときも
こころの桶が コンッ、と鳴る。



#75


「その話は忘れているよ。気にしないで
 感謝したいよ
 忘れることは、一つの幸せだから」



#76


「あっ、かわいい赤ちゃん、赤ちゃんが欲しいな」
「ああ、かわいいな、スーパーで買ってくるか」
 すると、空から天使が下りてきて、女性は受胎告知を受けた。



#77


腕時計を外し、宮沢賢治コレクションをひらく。
第四次延長の中へ腰をおとすとき
時間は無視されなければならない。

 

♯78


夜の縁側に立っていたら
鶏頭の目が、私を見つめていた
私は白い両手で、己の目を覆った



2015年10月20日(火)



#79


カタカナはカタク
ひらがなはひらく
漢字は、日本語の中で、息が詰まりそうになっている。



2015年10月21日(水)



#80


昨晩、ジミヘンみたいな味のカレーを頂いた。
やっぱり、胃が荒れている。
E9thを孕んだまま、秋日の下をふらふら歩く。


 
2015年10月22日(木)



#81


弛緩した身体の波へ
身体は乗り出して、──果て、燃される。
身体は分子となり、秋の夜の中空を更に進んでいく。



2015年10月24日(土)



#82


ギターは死んだ木だが
死んだ木はギターではない。
私は人間だが、人間は私ではない。



#83


汚い言葉、知っているよ──カート・コベイン
汚い言葉、知っているよ、嗚呼、とてもうつくしい言葉。
きれいな言葉を書き連ねようとするのは、虚栄心でしかない。



2015年10月27日(火)



#84


笹のふるえは心臓のふるえ。
急がなければならないか、は竹を見つめていればわかる。
急がなければいけない、と考えつつ、縁側ずっと秋日浴びていた。



#85


読む、という行為は封印をとくこと。
過去 という言葉が過去に書かれ、過去にあるままの
未来 という言葉も過去に書かれ、過去にあるまま。



2015年10月28日(水)



#86


私は毎秒生まれ変わり
年齢は数字でしかない、しかし
亡くした祖母の思い出が、今年も疼く十月の終わり。



#87


「何を読んでいるの?」
「言葉だよ」
「ワイセツな言葉、よね」



#88


神無月になったら
神さんがいなくなるから(このからだからも)
私は、私の言葉を書けるだろう



#89


人間は意味する存在
意味することは生きること
だから、今日も私は、雑巾を絞っている



#90


「野ざらしの」を上五において、俳句、一句創ろうと思ったけれど
野ざらし、なんて見たことがない。
見えないのか、隠されているのか。



#91


High(ハイ)になったまんま
天国までいってしまった奴を知っている。
僕は努力しつづけよう。地に足つけて。


 

#92


文は人なり──マルクス
暗喩に頼る私は、仄暗い言葉の海に於いて
水母に夕餉だと出されたカレーライスへ、日章旗を立てた。


 
#93


サルスベリの花びらと、煙草の灰と
白い陶器の灰皿のなか
お互い、形を失ってしまった



#94


眼は、ただの目だった。
何も、視えていなかった。顔に、はりついていただけだった。
思い出せば、哀しみがやさしく包む。ポケットが一杯だったころ。



#95


不安だったので、てのひらに「デパス」って書いて飲み込んだ。
「理由のない不安、であること」が
不安の原因であることが多く、缶コーヒー握りしめて立つ。すると秋風。



#96


夢は終わった、ってジョン・レノンは歌っていた。
僕は千円札をポケットに突っ込んで、原動機付バイクで急ぐ。
僕たちの夢は、外食産業だよ。平日、ガラガラのサイゼリヤだよ。



#97


これはまことに自惚れるようですが びんぼうなのであります (山之口獏)
という詩が、ブックオフで四百円で、叩き売りされているのは
ふさわしいような、むしろ、グッとくる。


#98


楽しいことは少ない。だから、急がなくちゃならない。
言葉は何度でも読める。だけど、ロック・ショウは一回きり。
このセンテンスを読むのは辞めて、ライヴ・ハウスに電話を掛けて。


#99

ホームズがワトソンに電話を掛けた。ワトソンがホームズに電話を掛けた。
残念なことにお互い、通話中だった。
ホームズはワトソンと通話していたし、ワトソンはホームズと通話していた。



#100


この三行詩も、100回、300行で終わろう。
次に詩を書くときは、もっとやさしいことを書こう。
ごめんね。罪人なんだ。詩じゃなかった。正確な冗談ばっかり、書いてた。


#05

  田中恭平


This is a pen.
そう
これは、This is a pen.
おれの握っている物は、ペンなんだよな


当たり前のこと
それが、間違っていないことに
慄いてしまうようになった


病院の敷地を、超境することは
毎晩、ギターフィードバック・ノイズと
ガナりと
餓鬼への挑発で
──超越していたから
さもないことだった


はじめて
ギグを見にいって、夜更けまでねばって
テキトーにジャムってるロッカー達を
眺めているときは
さいわいだった
火のように熱かった、──感興!


「おい、そこの餓鬼、観てるだけでいいのか?
 ギター貸してやるから、ジャムってみろよ」
「ああ、ぼくが弾くと、ジャムのレベルが下がりますから」
  謙遜して、そう答えると、今度は随所から
「そりゃ、そうだわなぁ」

死にてぇ、って
常々思っていたつもりだったけど
ほんとうに死にたいと、思ったのは
それが最初か

でも

当たり前に死にたい
と思うことが
──間違っていないこと、
それは怖くないな


林を抜けて森を抜けて
白い患者服を脱げば
グラッジな、レッド・ネックスタイルで
くそロック・スターだ
くそロック・スターであるということだけで
病棟の外、喫煙所に行かせてもらえたら
逃げだすことは、容易いだろ

病院は、少し考えた方がいいな
皮肉屋
ゴシップに書かれた通り、おれは皮肉屋なまま
林を抜けて森を抜けて


クリス、

クリスをおもっているけど
クリスが、クリスであることは当たり前で、って
考えてしまうことは、さいわいだよ
はじめておれがマリファナを喫ったと
きみへ告白したとき
きみは、どんな顔をしていたっけ
悲しみの果て
何があるかなんて
おれは知らない
見たこともない
ただ、あなたの顔が、浮かんで消えるだろう、と
 ハハッ、
浮かばないな

また降下していくのか
わからない
おれは、他者ではないから


深夜テレビで、仏教漬けになったっけ
いま、落ち着かない
印税で買った、家のテレビを点けても
もう、仏教講座はやってない
まあ、ヘロインキメて悟るのと
苦行して悟るのと
それは、同じ悟りかな
悟る、って何か
わからないだけ、体がふるえる
存在する、
当たり前のことが
間違ってない、ってことが
怖くなって
怖いのは、救われないからだ
だからまた
血管へ針を射す
ツメタサ、
カンコウ、


This is a pen.
そう
これは、This is a pen.
おれの握っている物はペン
当たり前のことが
間違っていないことへ
慄きつつ
筆を走らせる
走らせた筆はころぶ
丁寧、抱えてやって
立たせてやって
また、筆を走らせてやる
背中を押してやる
筆の走りの速度が
わからなくなってきてしまって
ああ
時間の概念がなくなった



仏陀へ

これは明らかに弱々しい、幼稚な馬鹿の言葉だ
だから、理解するのは簡単だろ
何年もの間
パンクロックのすべての警鐘は
独立心
コミュニティーを、受け入れることに関係していた
いま その論理へはじめて入門して以来、ほんとうであったと感じるよ

おれはずっと長いこと
音楽を聴くこと
曲を作ること
何かを書くことに
喜びを感じなくなってしまった

ステージ裏へ戻って
照明がすべて消え
熱狂的な聴衆の、絶叫をもってしても
聴衆の、愛と崇拝を喜び
楽しんでいたフレディ・マーキュリーが感じたように
喜び、楽しみを感じることはできなかった

フレディ・マーキュリーみたいにできるのは
本当に立派で、羨ましいと思う

おれは、みんなに嘘をつくの嫌だ
ひとりも騙したくない
おれが考える、最も重い罪とは
百パーセント、楽しい、と嘘をつき
ふりをして
ひとを騙すこと

ステージへ出ていく前
タイムカードを押しているような気分だった



愛してる



間違いなく
それが、銃口であることに慄きもせず
銃口を
口に咥えた

銃口は
鉄の味がして、冷たかった

それは
当たり前のことなのに
間違っているような気がして
すこしだけ、笑ってしまった








※ロックバンド、エレファントカシマシの楽曲「悲しみの果て」より歌詞引用あり。
 しかし句読点を配し、厳密な引用ではない。
※カート・コベインの遺書より引用あり。訳は筆者に寄る。

 


#06 (冒涜)

  田中恭平

 


  郊外から、眺めることのできる「富士の山」も、十月十九日の初冠雪から、かなり積もり
 現在白いペンキを山頂へドバッ、とぶちまけたような、かくたるべし「不二の山」となりました。

 
  冬来たりなば春遠からじ、と言いますね。私はこの言葉を、季感を意味する言葉であると思っていましたが
 「今は不幸であってもいつかは幸せがやってくる」という意味なのですね。
 春も、夏も、秋も、常々冬来たりなば春遠からじ、といいましょうか。
 しかし、あなたの乗車しているであろう汽車は、きっと時間や、空間さえ無視したところへ到達していることでしょう。


  はて、季節、とは、時間軸の中に納まるものではない、のでしょうか?
 地球には、季節が一つしかない国もあるそうですが、それは季節のない国といえそうです。
 私はお金がないものですから、旅行はできません。日本は、ガラパゴスと呼称されていますが、つまりはヒキコモリ日本人で生涯を終えそうです。
 しかし季節のない国について知っても、行かなければわかりっこないですね。
 ヒキコモリではなくむしろ活動的過ぎたあなたが、パラサイトと揶揄される書籍を読みました。
 あなたをダシにして、現代のパラサイトたちを煽りたいのでしょうか。癒したいのでしょうか。
 私はパラサイトとして、少し声を漏らして、笑うことのできた本でした。ほんの一瞬、だけですが。
  人類全体が幸福にならない限り、個人の幸福はありえない
 しかしそもそも
 どこまでもいける切符はたった一枚しかなかったんだ。そうでしょう?


  すいません、嫌味に読めるでしょうか。
 いいや、私はあなたに常、感謝しているのです。
 人にはそれぞれ立場があり、あなたは人を越えて、動物や虫、植物、石にさえそれぞれの主張があることを知っていた。
 そして、わかっていらっしゃった。
 話は飛びますが、次の米国の大統領選で共和党党員から大統領が選ばれたらば、やはり戦争がはじまるのでしょう。
 わたしはわたしの幸福の為に、米国を応援するでしょう。
 そして、米国は、米国の幸福の為に他国を撃つ。
 それでいい、それでいいんだ。人が死んだ、としてあなたは
 その死を死人の幸福の内に、勘定するでしょうか。


 苦々しい独り言も書いてしまおう。唯脳論はどうなった。
 マヤ暦の、あの世界の終わりのカウントダウンは。暦は。世界の終わりは。
 皆、それぞれ、自分の世界しか生きていなくて。同じ「眼球」をもっていないかぎり。
 同じ「脳」をもっていないかぎり。
 等しい「身体」を持っていないかぎり。
 等しい・・・・・・かぎり。等しい・・・・・・かぎり。等しい・・・・・・かぎり。
 等しい世界に生きていないですね。





雲はちぎれてそらをとぶ
お日さまは
そらの遠くで白い火を
あたらしいそらに息つけば
ほの白い肺はちぢまり


まことのことばはうしなわれ
けふはぼくのたましひは疾み
たよりになるのは 
陰気な郵便脚夫のやうに
ほんたうにそんな酵母のふうの
くらかけつづきの雪ばかり



風の中から咳ばらい
あくびをすれば
そらにも悪魔がでて来てひかる
青ぞらは巨きな網の目になった


ほんたうに
けれども妹よ
けふはぼくもあんまりひどいから
二つの耳に二つの手をあて
喪神の森の梢から
ひらめいてとびたつからす
烏さへ正視ができない
あやしい朝の火が燃えてゐます
水の中よりもつと明るく


たしかにせいしんてきの白い火が
水よりたしかにどしどしどしどし燃えてゐます



いかりのにがさまた青さ
唾し はぎしりゆききする
はぎしり燃えてゆききする
立ち止まりたいが立ち止まらない
寒さからだけ来たのではなく
またさびしいためからでもない

電線のオルゴールを聞く
(ひとつの古風な信仰です)



これらなつかしさの擦過は
日は今日は小さな天の銀盤で
朧ろなふぶきですけれど
吹雪も光りだしたので
ひとかけづつきれいにひかりながら
四月の気層のひかりの底を
ああかがやきの四月の底を
そらから雪はしづんでくる


もう青白い春の 禁慾のそら高く掲げられていた さくらは咲いて日にひかり 
さくらが日に光るのはゐなか風だ
黒砂糖のやうな甘つたるい声で唄ってもいい


 まことのことばはここになく
 けらをまとひおれを見る農夫
 ほんとうにおれが見えるのか
 風景はなみだにゆすれ
 修羅のなみだはつちにふる
 ぶりき細工のとんぼが飛び
 雨はぱちぱち鳴ってゐる


いかりのにがさまた青さ
唾し はぎしりゆききする
はぎしり燃えてゆききする
立ち止まりたいが立ち止まらない
寒さからだけ来たのではなく
またさびしいためからでもない
おれはひとりの修羅なのだ


青ぞらにとけのこる月は
やさしく天に咽喉を鳴らし 春は草穂に呆け
うつくしさは消えるぞ


笹の雪が
燃え落ちる 
燃え落ちる


みんな時間のないころのゆめをみてゐるのだ





PS.あなたの南無法華経して、書かれた物語に於いて
   しばし散見される浄土真宗のロジックにあたるとき、私の顔はほころぶのです。


   2015年12月02日(水)  田中恭平より





(注・途中、宮沢賢治心象スケッチ集「春と修羅」の「春と修羅」のスケッチ群より引用し、構成した。 )


 


#07

  田中恭平


二〇一五年十二月二日に、人間は考える葦なので、私の目は勿論、節穴でした。
一日は煙草ではじまる。ソフトパックに煙草が十一本。昨日、九本喫ったということ。
昨日の、九本目の煙草は、昨日で去るべき一本。今朝の一本目の煙草は、今日まずあるべき一本で。
火を点け、その火へまた、更に火を点け。それは人の感涙に対する、涙だったりするもの。
路上に、缶が転がっていて、缶は、寒の中に転がっていて、十二月の月間、缶は、寒の中に転がっていて。
沁みるのは、何ですか。水ですか、痛みですか。想い、書きつける為の、ペンのインクですか。
ともかく私は、縁側で煙を吹き、それは浄土へ届かないとわかっている。今朝は、朝陽が目をうるませて。
こんにちは、ニコチン。そしてポケットから出す、リボトリール錠。すこし、清い水でもって含んで。
ピンッ、と、唇が水の冷たさに切れ。血は、智とならず脳の報酬系に訴え、私は出血を笑ってしまいます。
おはよう、おはようと、すべての神経に訴えようと、もう一本分エコーの煙を含みます。


あなたは、スクランブル・エッグの、スクランブル交差点を渡らずに立ち止まり。こころはどうしている?
こころを、フォークで突けば、やはり冬のフォークの冷たさ。両手で覆った両耳の端も冷たい。
言葉が、耳へ挿入されないのが救いで、周囲の人はみんな黙している。ノイズはあなたに加害する。
周囲の人。父親、母親、兄弟、ペット。そこにいても、非在であったとしても、みんな黙している。
そんな朝にも慣れてしまって、スクランブル・エッグを平らげるに、黙々、フォークを動かす。
あなたと、周囲の人みんな、とに疎通はない。孤独という自由はあっても、息を深く吸い込むことができない。
あなたはスクラングル・エッグを平らげ、「いただきました」と告げる。しかし言葉は返ってこない。
寝室に戻り、ノートPCを開き、詩のサイトの詩を読み、家族関係に、呪われている人の詩を読む。
読んだ詩は、家族を称え、感謝しているのだが、あなたは呪いを念じ、書かれていると、かんじてしまう。
スクラングル交差点を渡らないまま挙手をして、しかし、何を口から発すればいいかわからない。


私はエコーをジュッ、と水で火を消して、吸殻を、ガラス・ケースに詰めると縁側から寝室へ戻る。
楽しいことは少ない。楽しいことは、この世のダイヤモンドだ。八千円そこらのギターを抱える。
音楽は数学であり、ギターはパズル・ゲームであった。録音機の電源を入れ、RECボタンを押す。
譜面はなく、あったとして、読むことができない。パズルに解答は不要だ。解答があっても答えは私が決めます。
今、という言葉を書いても認識するときそれは古い。い・ま、の「ま」を書くとき「い」は過去にある。
今を追いかけ、指を動かし、今を追いかけ、指を止め、静かに音律は脳を、溶解させていき――――ピンッ!
パツッと、ギターの弦が切れ,頬にアタり傷をつけ、私はその出血を笑ってしまいます。
ち、が、見えますか。ち、が見えますが、血は、皿の上に乗った、小さな点です。
調子の悪い腕時計が二本、デスクの左端に置いてあります。彼らの蛍光灯の数字、鈍く、光り。
共鳴しているのは、時計の盤上にない「13」の数字。それはどこにあるのかと、少し窓を開ける。


オハヨウゴザイマス、タマカワサン、イラッシャイマセ、モウシワケアリマセンデシタ、タマカワサン
タマカワサン、オソレイリマスガ、ハイ、カシコマリマシタ、タマカワサン、ショウショウオモチクダサイマセ
シツレイシマシタ、タマカワサン、オマタセ イタシマシタ、アリガトウゴザイマシタ
マタオコシクダサイマセ、あなたは十の言葉のくりかえすにつとめる。鏡の前。
オハヨウゴザイマス、タマカワサン、イラッシャイマセ、モウシワケアリマセンデシタ、タマカワサン
タマカワサン、オソレイリマスガ、ハイ、カシコマリマシタ、タマカワサン、ショウショウオモチクダサイマセ
シツレイシマシタ、タマカワサン、オマタセ イタシマシタ、アリガトウゴザイマシタ
マタオコシクダサイマセ、あなたは十の言葉へ身に浸す。トイレの鏡の前。タマカワサンは多摩川でした。
退社の時刻となり、あなたはオフィスを出て、少し歩いて東横に乗り、東京方面に向かった。
多摩川は暗く、あの夏の、夕焼けに栄えるうつくしさはなく、恵比寿で下りれば、そこは明るかった。


私はライヴ・モニターを通して、夜の郊外をさっさと見ている。ライヴ・モニターはこころでした。
スーパーマーケットの前、365日、朱い風車を吹き回しつづける、初老の男を越えて、北進する。
枯れそうな、鶏頭花の頭には目がついている。目は瞳となり、瞳は眼となった。無視して進む。
風がつめたいのは、こころが冷たいからだと思う。コンビニが明るいのは、こころが明るいからだと思う。
トリスのあたらしい瓶を買い、古くなった体へ少しながしこむ。喉から胃までを、すこし燃やして。
胃も、こころのシニフィエに過ぎない。血管も、弛緩する体も、やられる脳も、こころのシニフィエに過ぎない。
寒椿も、落ちた葉も、葉の先よりこぼれる露も、月もこの雪も、すべてこころのシニフィエに過ぎない。
強い父も、賢い母も、やさしい姉も、頭の良い妹も、飼い猫も、野良猫も、野犬も、あの初老の男も。
現実は、こころのシニフィエに過ぎない。だから私は白いこころを吐きつつ、こころを踏みしめて、歩く。
嗚呼、しかしライヴ・モニターにノイズがまじって、鶏頭花の眼が、ゴロリと落ちた。


あなたはほろ酔いで帰宅して、やはり言葉のやりとりのない家のキッチンで水を飲む。水は美味しかった。
昨日、ほろ酔いで帰宅して、言葉のやりとりのない家のキッチンで水を飲んだ。水は美味しかった。
一昨日、ほろ酔いで帰宅して、言葉のやりとりのない家のキッチンで水を飲んだ。水は美味しかった。
変わらないことは、素晴らしいことだよ、と、スクランブル・エッグは、多摩川は、伝えてくれたような気がした。
変われないことは、素晴らしいことだよ、と、スクランブル・エッグは、多摩川は、伝えてくれたような気がする。
変わらないことは。変われないことは。どちらも、等しい意味のことに思えるけど。
変わらないあなたは強く、変われないあなたは弱かったので、あなたは椅子に体をくずし黙した。
あなたは確かな足取りで、鏡の前に向かった。コンバンハ、タマカワサン、と鏡に向かってニコリと笑った。
じっくりと愛着のある髪を眺め、でも、変質を加えたいんだよね、と鏡の左側の棚を開いた。
次の日、オフィスのあなたの髪の色はショッキング・ピンクだった。カワリマス、タマカワサン。


私は歩きつかれて。青いベンチに腰掛けて、ベンチの上に、トリス瓶と、鶏頭花の眼球を置いた。
黒い夜は、漆黒の夜となり、そして星冴え冴えとして、私は体を楽にして、天体を楽しんだ。
そして、チラと鶏頭花の眼球へ目を向け、この眼球をじっと見つめた。そして下を向いた。
思考する。ポケットから煙草を一本取り出し、ハートに火を点けて。―― ハートは脳の報酬系?
まず鶏頭花は、花ではなかった。鶏頭であって、そして鶏頭は、ニワトリの頭部であった。
ニワトリの頭部だから、眼球がついていて、それはくり貫かれた。くり貫いたのは、私だった。
溜息と共に煙を吹く。わからなかったんです。やはり私の目は節穴でした。
オリオン、人間は、考える葦であるから、勿論、私の目は節穴でした。
ポケットから、ナイフが落ちた。ナイフに、血がついていた。胸がくるしい。
トリスの瓶を開けて、グビッと景気づけに飲む。山は静かで、煩いのは私の胸の内で、「ウルサイ、」と言った。


オハヨウゴザイマス、ブチョウ、イラッシャイマセ、モウシワケアリマセンデシタ、シナガワサマ
ハセガワサン、オソレイリマスガ、ハイ、カシコマリマシタ、ヨシダサマ、ショウショウオモチクダサイマセ
シツレイシマシタ、オイカワサマ、オマタセ イタシマシタ、アリガトウゴザイマシタ
あなたは、アア、あなたは、社会に順応してしまって、脳が腐らないように、気をつけて下さいね。
私は、時間も、空間も、人間も、そして労働も、その概念も知らず、ただ何かをしていただけだった。
何なのか。何かは、とおい記憶の向こうにあって、もう、それを見ることはできなくなってしまった。
休むことは知らず、眠ることはできず、ついに脳が腐って、あなたのようには、一生なれないだろう。
だから、哀しいほどにあこがれる。郊外に身を隠しても、自分がまだ、オペラ座の怪人だとでも思うよ。
沁みるのは何ですか。水ですか、痛みですか。想いを書きつける為の、ペンのインクですか。
自然公園の水は身に沁みて美味しい。帰って、また、正確な冗談書いて眠ります。トリスの瓶は空だった。


re:re:re:re:re:re:re:re:re:re:re:re
こんにちは。こんばんは、かな?久しぶりの連絡になります。御無沙汰です。
あれから色々あって、といいますか、何もなかったんですけど、会社辞めてしまいました〜〜(笑)(笑)
そしてやっぱり、会話のない家族ってつまらないじゃないですか〜〜。実家出て、一人暮らししています!!
寂しくないですよ、実は障がい者就労移行施設のスタッフしてまして、利用者さんにガンガン元気貰ってます!!
送迎バスが白じゃ、いかにも、でしょう?だから勝手にショッキング・ピンクに塗装しちゃいました〜(笑)(笑)
利用者さん「やさしいね、仏さんになるのか?」って冗談言うから、思い切って坊主にしちゃいました〜(笑)(笑)
なりますよ、私、仏になりま〜す!!色々愚痴読んで頂きましたが、理屈とか、もうどーーでもいいって感じ。
ああ、でもここは、静岡ですけど、時々やっぱり桜木町と、あと多摩川のこと思い出しちゃいますね〜〜。
夏の多摩川の夕方の雰囲気って、ほんとこころをうつものがあるんですよね。浄化されてました〜〜(笑)(笑)


二〇一五年十二月六日、携帯電話をパチンと閉じて、私は縁側へ煙草を喫いに出る。
一日は煙草ではじめる。外はまだ暗かった。ライターで着火すれば、そこだけ明るくなった。
あたらしい時、私は存在できるだろうか。存在は、ただそこに存在することではなしに。
何を話し、語り、伝え、書き、そして何する。そして私の世界は、変質し、変色するか。花のように。
昨日買っておいた久々のゴールデン・バットは美味しく、私は久々のこころを吹く。空が、少しずつ青く。
ポケットから取り出すリボトリール錠。清い水でもって含んで。冬なのに風はやさしく。
沁みるのは何ですか。水ですか、痛みですか。想いを書きつける為の、ペンのインクですか。
はい。沁みるのは、フラスコやビーカーといった透明なこころにハジける光の、その音です。
煙草の灰を灰皿へ落とし、私は、多摩川を通過する電車の音を、想起する。
庭の隅へ捨ててあった、ニワトリの眼が、それを見ていた。


 


#09

  田中恭平

 
百円ライター・
アグニの神を懐に
十四枚の舌で
十四本の煙草を喫った日
火は冷えびえ
白い四角形の隅の所定に私


デカルトじみた硬い眼が
あなたは機械であるという
背骨は
痛みつつ黙す 
吠える者は弱いものだけ
私は弱いが 
猛々しくもダンボール箱を壊しつづけ
つづけるに奥歯へ身を委ね
定刻まで身を崩さず運べ
AからBへ 
BからA’へ 
妙味のない水はながされた


米粒が 
米粒を勘定していた 
そこに米粒は自分を入れた
てのひらが
米粒でいっぱいになった
午後の天気はライス・シャワーになるでしょう
落ちるまでそれは花であって 
落ちたら塵であった
火と水と 
それから米粒と 
血管へカリフォルニアの風が吹く
それは人が言っていた 
カリフォルニアには風が吹くんだよ
私は頷いたけれど
わからないまま運びつづけた
A’からB’へ 
B’からA’’へ 
妙味のない水はながされた


六本百円の棒パンをすべて頂き 
嬉しくなるのは舌先だけ
富士の山を見ていた 
直線の光は眼で少し歪んだ
アグニの神をカチカチ鳴らす 
傍で真剣なはなしがされて
私はシャッターを切ったが 
真剣なはなしが感光しない
リーは行かなければならない 
私はリーを知らない
ボロボロのジーンズで
枯木の林を真っ直ぐに
リーは富士の山へ向かう
私はリーを知らなかった
リーはガソリンをかぶって燃えたと 
会議室のテレビが伝えた


祝祭 がはじまった 
リーがアグニの神より天へおくられ
だから妙味ある水がたらふく獲れた 
ライス・シャワーがふって
ふりつづいて
私はさいわいであったが
おかしかったのは風のこと 
しかし望まれた風でしょう
私はB’’からA’’’へ  
花は塵になった


仕事が終わった 
アンフェタミンを夕日が誘っていたから
鐘の音を知る前に 
私はわかっていた
揺りカゴの車で東名高速を運ばれていった
見えた多くは機械であった
私はグッタリして
シートに身を委ねようと 
アグニの神がポケットから落ちてしまった
 
 


#10

  田中恭平



天井は軋み 脚はしろく弱々しく
その脚を拭う間も 天上は軋み
天井は軋み 初不動の日 花はふるえ
日は削ってしまおうと大工 天井は軋み



世に夜が詰まり朝を締めあげている
裸木は巻き込まれている 水を与えてやる
眠気も抜けきっていないのに 丁寧虹のある
デスクの中を確認する 湿度計を確認する



午前四時というと やぶれ長屋に闇が漏り
眼をひらく者 闇に眼をやられ
呼吸をのぞむなら 星の発光
その連続 連続を孕みつつ午前四時は過ぐ



目覚めは 男は男であると信じさせ
目覚めは 女は女であると信じさせ
ベッドからおりたら 生き方は選べるのに
似合っていない服を着るとこころが軋んでしまいます



夢を脳へ押しこむ強さで 何か殺めたい
時間が時刻を譲らない力で 何かを殺めてみてもいい
そして神へ捧げたい 神が喜ぶところ平然と立っていたい
本当はこの貴重な一日きっかり 無駄に捨ててしまってもいい



日に命を吹きこんで 立たせてやれば駄目な日で
こんなにグラグラしては あんなにグラグラしたままだ
日はいつか寝小便しやがって 懐かしさの摩擦に燃える
そんなにグラグラしていれば きみの歯のことだよ



言葉より退いて預けて 野へと出た
花の女神今日ない と教えて貰う
風は冷たい 火は冷えびえと
案山子が燃やされている



言葉は永遠遺るもの
言葉は永遠へかえるもの
言葉はとにかく強いもの 鉈を洗って鉈ひかる
言葉はよわよわしさで沸騰するのに



鉢の金魚は沈んでおり 鉢の表面は凍っている
氷は氷らしく黙すばかりだ
花が咲き この言葉不要のさいわいの季節
どうしてペンを握って感じている



これはバナナではない そう呼ばれているだけだ
私は私ではない そうのぞんでいるだけだ
頭の中の茸は 畢竟フランスの国旗であるが
さっきのぞきみた茸 そう記述したいだけだ



もっと食べるにしてもものがなく
ものがなしく 仕方なく空気をいただく
枯渇しつつ 命の循環の中で
打てば響く 触れれば湿るこの地は何か



安定剤で背骨を焼いて ふつつかですか煙を吐いている
会話の芽は開いて 花々が閉じていく
あっけらかんの空で正しくゴミは分別されている
否 何も確認しなかった だいたい眼球のオイルは切れた



パンの耳が聞いている朝
昨日の終わりの一片の感光 その響きを
期待して この小さい影は立っていたか
ああ 確かに少年で 見ろ 握りこぶししている



よしなにしなさいは反復され
反復された分の喧嘩はよしなにした
熱い風はもう吹かないが ミサイルが飛び
しかし眺め入る空に雲一つなし



血は胃袋へ向かい考えられない
善意を御金で示してしまった
まだ眠かった 電話を待っていたのに
電話が夢の中へ流れ落ちていってしまった



唯一の枝は折れそうに 枝に葉はない
向こうから前髪まで風が吹いてくる
くさはらを旅人のように眺めつつ 畢竟旅ではなく
鳥のようには歌えない 鳥のように他の地を知らない



春をのぞんで児をなでる
花郎がとべば露となり
凶所を知り尽くしつつ もう運は関係はないと
もうまぼろしの蛇と遊ぶ 歌を書き下した



火の不知は知っている 火は少しぬけている
雨で舌は洗えない 雨が洗うのは路傍である
画家は瞬間の反応に 時間を経ているのか
彼らに私のフラジャリティを嘲る資格をやる



星は日がまぶされて消えたこと 実際
その時をしっかり見ていなかったことは省略しつつ
星は日にまぶされて消えたこと 実際
遺ったものは 言の葉の香り



日は絶えて 冬の昼は涼しくなった
益々寒いといえるほど
百に一つのさいわいは蜂蜜の飴玉
もっていると知れても知られなくても構わない



ゆるりの音は暖簾をあげて
油に水の われわれは天ぷら蕎麦にサイダーをいただく
預言も未来ももう要らない
油と水の 共通項はそういうことだった



赦されつづければ生きていけるのかと はた
それは赦されないことと同等であった
月がきれいですね 月がきれいですね
青空の下 地蔵菩薩を雑巾で拭いつつ


 


#11(インプロヴィゼーション)

  田中恭平

 
 
ストリート・ジーザス
聖か俗か
それを越えてしまった者に
なってしまったあなたは呼ばれている
ストリート・ジーザス

エキスのイエス
私の文章に力を与えて下さい
イエスのエキス
赤ワインは飲めません
私の脳が病んでいる為に
孤高と
吐息は闇を抜けていく
あざやか都市を
墓場からのぞむに汗を拭っている


一体どうしたいんだ
ただ汚れを
タイルの垢をとりつづけて半日終えて
詩を書いてもいいのだが
蒲公英
濁った池の中で
必死気泡を捜して歩行く
しかし美しい気泡でなくていい


芋粥を温めつづけ
熱帯魚

しずか元気だ
あなたの手紙を読みかえし
言葉は鈍く頭を打つが
過大に書かれ過大にとらえているだけだろう
風呂屋さんで働く姿が見えるのに
現実に想像しているから嘘だ
風呂屋さんで働く姿が見えるのは
明け方六時の蒲団の中であってほしい


空に映るのはこころか
他人か
自転車をひきつつ坂を下っていく
掃除をしてはうしろをふりかえる必要は消え
春の原っぱを眺めにいける 
滴が水に濡れるところを眺めにいける
溜息
薬の匂いがして
コカ・コーラを焦りつつ飲んで
歩行いては汗から薬の匂い
野犬を囃したてたらもうフェスティバル
空気職人の
ブコウスキーな
武骨なロックンロール
空気職人の
ブコウスキーな
向こう見ずなロックンロール
躍れ
牧神パンは華麗に踊り
しかし眼に遺るのは白と黒の顔だけだ


火は伸びやか日になったので
もう文句はないのだが
次のあくがれ 
胸に充るまでが苦労する
大体時間が長すぎる
コーンフレークの袋が爆発
そして宇宙ははじまった
ひとは私を若いといい
こころは二〇一六歳
情の壁に指で字を書く
少し笑いつつ溜息をつく
このマスクを外してしまえば
牧神パンになれるだろうか


必ず事件は起こることを知った
妙のない水は流され集落は流されてしまった
全員が無事であったが
数に含まれないアイツの明るい笑顔を覚えているよ
やっと作りあげられようとしている
四季の農婦の偶像も
近く剥奪されるか壊される
畠もマンションへと変わりつづける


村を二つに分けよう
もう私をつくらせない
村を二つに分けよう
もうあなたをつくらせない
こちらからあちらへあなたを眺めつづける


どれだけ神経
削がれていないか知った
死も
芸術もない
デスクの上に領収書が満ちて荒れている春
絶えまなく働く頭に
偽りであっても悟りが必要
ぱっかーんと
大体悟りなんて自己申告制に近いような気がしている
私は冷水を浴びろ

なあ
ストリート・ジーザス




電話が鳴らなければ
益々電話を嫌ってしまう

あなたと会う度
益々あなたと会う時間が短くなって当然

朝は
教会の鐘の音に
比喩の花眼は眩む、その
太陽の悠久ゆえ


 


#13

  田中恭平




透明な百日紅として
透明な薪をくべ
あの雀の考えを入れつつも
背骨はすっと伸び
ペンの先で ふるえていた私
今どこまでも歩いて行ける


のぞむところへ
もうはからいでいるというとき
また別のところをのぞんでも
もう別なところのはからいで
私はもう別のそこにあるから
のぞみはどこまでも広がっていく


水紋は 水紋とぶつかろうとも
矛盾もまた一つの考えであって
矛盾の飛沫は
私の 指を動かすさ
私の 翅をふるえさせるさ
胸のプロペラ 全快にして
いつでも だから書けるじゃないか




自然法爾のなかに身を置き
それをこちらから 眺めているよ
約束だから
信用に足らなくて
それは互いの弱さゆえだが
何よりここに現代的玩具はないし
あなたを知ろうとすることは
大体もうあなたの繭の中だね


透明は百日紅
透明な薪をくべ
しかし百日紅は 薪であって 等しく雀であって
雀は 遊んでいるアイツだっていいさ
貧富でなく
賢さでなく
そんな証に目をとられて失くした
ペン先でふるえていた だから

この二月の
透明な気層の底の下の
どこにもいないとして
あらゆるところで遊んでいます



  


#14 (A 一〜五十)

  田中恭平

 


眠りは 昏睡にとどかなかった
眠り のしたを波が揺れていた
その波は意識のように思われる
日が射すと投げ出した腕の下 波が枯れていた




アスピリン の響きは宝石名のよう
しんじつアスピリンは宝石であった
それは確か三時間前
いまだ 頭の中 水母は心臓を腫らしてのたまっている




船 というからには船長がいるが
神 とは船長なのか船大工なのか
人類のエゴは 時間という水平運動のさいはて
私をどこへいざなう




蒸気は胸の内より出て気層の下へ
見えないけれど 感じることはできた
言葉が論理にならないようつとめようと
情 を挿入するが とき 情は冬の木のように冷たい




私は他者である とランボーは書いた
あなたは私である と書く それは手紙に
手紙に熱はない しかし字には熱がある
これは錯覚に過ぎないが 手紙は灰になった




あなたにはわからないだろうが
私にだってわからない 私が
怪物になりたいのか 人間になりたいのか
袋一杯の錠剤を受け取るとき この問題をいつも忘れている




頭中に頭痛を注入するために ピースを喫っているのでなかった
頭中に宇宙を注入するために 書籍を読んでいるのでなかった
胸の内に 胸の内に 疑われ ついに燃され
痛みも 知識も 蒸気として私をぐんぐん動かす




バリのついていたこころはどこへ
今朝 まだ水はぬくんではおらず 旅人はかえらない
青空のうつくしさは 何もないようにしてしまう
私は内省を孕み なにもできない




神は深手のまま 本当の神になれば
人は傷つき 本当の人になるのではない
無垢は生成をやめず 雨に苔は息吹く
あなたの中 無垢はあたらしい望みのようにきらめく




無垢に姿はなく だから生成とも書かれるが
私は生成をやめたいことも 散髪代がかさむから
この春の下 命を少しずつ譲ってやりながら
こんな素晴らしい世界を送っていこう


十一

ミンザイを含んで少音量でアコースティックの
ニール・ヤングを流す この音源にしんじつ
マリファナ臭さも アルコール臭さだってないこと
私は色々摂り過ぎてしまい 本当にほしいものが知れない


十二

犬は言った 弥勒はまだ還らんよ
僕は僕に言った 旅人帰らず は
本当に? 旅人帰れず、ということもある
その僕は言った 弥勒は犬とお前に言わせているな


十三

犬は言った 弥勒はまだ還らんよ
僕は僕に言った こっちの寿命が勝手伸びるから
会えるかも知れないさ、するとその僕は
生きる時間というものと命が混ざるのはお前の心じゃない


十四

風の味を嗜んでいると 夜が明けた
風を嗜んでいたから 私は風であった
不確かな変身願望は 雨に打たれ
一変 今朝の仕事へ


十五

雨は雨に濡れ つまり水は水に濡れている
あなたはあなたを語り あなたとなるが
花は
万感に濡れつつ咲き 語ることはない


十六

ロックはロールすることをやめて
なお踊ろうとするのかは
きみの意志だというから哀しい
命を削り踊りつづけるあなたは 哀しいほどうつくしい


十七

この不治の病が治ったら
頼るものがないな 薬モグモグ
紙一重に生きることを止めても
ナイフの刃先を歩いているように 薬モグモグ


十八

夢を育てようと 現実を与えつづけた
水差しの現実が尽きて 夢は風にふるえている
夏は遠すぎる
私は信じようとする 無意識のカキクダシも現実の内と


十九

妹へ
お兄ちゃんの脳は委縮といって、段々小さくなっていくけど
その分文章を書いて 計算して脳を鍛えるから大丈夫だ
お前の好きなスリーピオみたいになるからね 手紙ありがと


二十




白い腕を皿の上にのせ耽美派がついにカンニバルな春


二十一

もう解けない問題を 解けなくてもいいのに
学校でテストを受けている夢を見た
学校から 赦されたくて
その力で 私は路傍で暮らすことにもなった


二十二

ブレイクスルー トゥ ジ アザ―サイド
ブレイクスルー トゥ ジ アザ―サイド
私は農耕民族で 今朝は白米ごはんに味噌汁、卵が格別
ブレイクスルー トゥ ジ アザ―サイド


二十三

きみは私の故郷
きみはかつて東京に住んでいた私の故郷
きみは天使が囲う私の故郷 その筆致のうつくしさ
きみは私の故郷で やっと出会えた私の故郷


二十四

歯痛激しく ミンザイも効かない深夜二時
明日 仕事がないことはよいこと
時給八百円で四時間清掃する仕事がないことはよいこと
私は正しく騙されているし、自覚している


二十五

アイリーン
おまえはインスピレーションの泉を沸かす
私にEm7thのコードをアルペジオで弾かす
アイリーン おまえは一体誰・・・・・・?


二十六

南無きみ きみに帰依する
南無きみ 余暇時間は四時間しかなくても
南無きみ 携帯電話は怖くて開けないけれど
南無きみ


二十七

月の香りだと思ったら
草蒸れて 発する草の香りで
そもそも幻臭で
無月かと 歩いている


二十八

はらわた煮えくりかえっているので
そこに生じらすを入れて
釜あげしらすにしたのだが めちゃめちゃ旨い
はらわた煮えくりかえっている


二十九

恋という魔法が
恋という呪いに変わったころ
私の頭の中に風が過ぎてすずしいけれど
何も告げずに 日の下を歩む


三十

無垢 と 無垢 との衝突
その火花
愚か と 愚か が口論しあっている
その先一番を歩いているあなたが好きです


三十一

短歌を何首も書き下す
毬つくように 毬つくように
石段の上 手をひいてやった真理子が跳ねると
真理子は月まで飛んでいってしまいました


三十二

役に立たない体は
万感の感興でもって嬉しそう
春の雨にうたれ ぬるい風うけて
役に立たない体は


三十三

太陽の中で愛しあう
あなたの為に魚をさばく
まな板は燃えた 包丁も燃えた
魚をおいしくいただいた


三十四

トマトを逆さから読むと
トマト だった
新聞紙を逆さから読むと
いったい何を伝えているのかわからない


三十五

雨ふる土曜日の
土の呼吸は苦しそう
昨日は 金曜日の呼吸
空気中微小 金粉が舞っていました


三十六

水が滴ろう としている
その影に 私のこころを置く
水が滴 して
私のこころの動悸が増す


三十七

私はずっと幸せでした
あのひとを見るまで
あなたはずっと幸せでしたでしょうか
私を見るまで


三十八

乳酸は苦く足を鈍らせた
からだを温水で打たせた もう眠ってしまおう
眼を閉じればおもいだす
日は西へたんぽぽの花照らしつつ


三十九

時正の日 日の 
そして宇宙のネジは回されきり
今朝から 焼けるようなこの腹へ
薬を飲み下すことはやめ あれこれもない


四十

休日 日も休み
一日 夜だった
大きな月を眺めつつ
気づいたら月の中に突入していた


四十一

中原中也は歩いて 書いた
海鳥はテクテク歩いて 飛んだ
児は 泣きながら歩いていた
母はそれを眺めて 息絶えた


四十二

幸福な月曜日たちから
血の味がする
ワンマンバスの扉が開く
下りるものも入るものもない


四十三

くりかえして くりかえして
私は透明になっていく
透明な無垢として
花明かりの明かりとなった


四十四

灰皿へ落とした煙草の吸殻
容器に補充したボディ・シャンプー
私は 俺の生は
露悪と清涼でなり 詩とし成す


四十五

情報が錯綜 立ち止まるしかなかった
継続の信念しか 切符にはならなかった
今、車窓からきみの町を眺める
車窓には雨滴うつくしく、町をうつくしく思った


四十六

夢のなか天使をあやめて
私が天使になっていた
福音と、クリスチャンに下らないこと
告げずとも 世は暴言に溢れ膨張していく


四十七

孵らないヒヨコにとって 卵の中は世界
ヒヨコのまま 寝室 裸のランチを読んでいても良かった
ビートニクの朗読に、カートのノイズ・ギター
いま私はスーパー銭湯で、排水口の髪を取り除いている


四十八

空腹に錠を含むと 腹からカッカする
ふるえることのなくなった指
ふるえることのなくなった郊外の青空
山に 言霊はなく 蒸れた風が吹くだけ


四十九

フロイトの文献に於ける
私は肛門人間にあてはまる
口から肛門まで もう固いものは通さず
あれら 雲の滓を食べ 私は痛み荒んだベンチだ


五十

覚えていたメロディーはすべて塵になって
つまびくメロディーは はたから塵となって
落下しているメロディーを 拾い吹きあげて
これはポツポツとした花の明るさだ


 


#14 (B 五十一〜百)

  田中恭平



五十一

四月一日 深夜三時
コンビニエンストアへひとり歩いていき
ドリアを買ってチンしてもらい 食べず
布団をドリアのようにあたたかくして睡った


五十二

さくらまじ 麗らか勤めへ
父母にいただいたこの体は
動き汗をかくことを嬉しがる
しかし生まれ落ちたときの衝撃で のち死ぬ


五十三

万愚節は要らない ほんとを見たことがない
ほんとを聞いたことがない
ほんとを味わった あの夜も
いま あなたのなか 朽ちた家の瓦になっている


五十四

山葵田の鐘に日当たる四月かな
分け入る 分け入って 脳が変色し
さっき食べたものは何
私はこの月に埋葬されるだろう


五十五

誰も椿の背景は暗いといわず
鬼子母神の御堂のなか
母胎回帰願望は冷えていく
ああ 風わびしくもあたたかい


五十六

チューリップの目が本気
その目の瞳孔をじっと見つめた
気分が悪くなり
アスピリン、カフェインを含み煙草を喫って整えた


五十七

さくらの枝を折り盗む花泥棒が
私のパートナーを折ってしまった
パートナーの名に「花」があったから
それからはずっとあなたの体を撫でつづけた


五十八

梨の花ながめていると なにか忘れた
菜の花ながめていなくとも なにか忘れている
と思い出して
テレヴィが欠伸を止めるなら上唇を舐めろと伝えていた


五十九

つくづく つくづくし
つくづく つくづくし
半分透明になった父が
夜 泣いているような気がして睡らなかった


六十

花疲れしている路を歩く
疲れた路へ しずみこんでいってしまった
夢の上に起きた
机の上にぬるい缶コーヒーがあった


六十一

束ねたコピー用紙はすべて詩作品
私のセンテンス・スプリング
 書き殴られたセンテンス
 なんとかやってたブルー・スプリング


六十二

さくらが今年も自刃している
するとゴトーがついに現れた
ああ 後藤さんか
借りた煙草は必ず返します


六十三

日を点火 月へ打ち水
こころ大きくなり
しかしチラチラを憎んでいる チラチラは
服薬に於ける副作用、眼球運動の誤作動をそう呼んでいる


六十四

穢土鈴木がテレヴィに映る
彼はほんとうは ウド鈴木というが
ウド鈴木のウドは独活なのか
そんなことよりよい風の吹く


六十五

うまごやし きみのたましいこゆるまで
うまごやし きみのたましいこゆるまで
摘んで ネックレスを編んであげる
きみの欠損した部分へかけてあげる


六十六

日は白い
太陽は赤い
むかし 私は混同し
日を赤く画いてしまった


六十七

西行は行きつづけている 西へ
ノイズを消そうと 私は
バッハのレコードから針を上げ 泣いてしまった 
西行は行きつづけている 西へ


六十八

巷に風のひかり
由比にゆすら しろさのさかり
透明 雀の子へ力込め
放て 世界の中心へ


六十九

清水の手前に濁火
うららか じっと見つめているのは
障子の笹の影
ささい 生死の影


七十

核の子の誕生日
涅槃雪ふる
咳をしなくてもひとり
荒がる声もとおくなった


七十一

接ぎ木見ていた
接ぎ木を見ているのは不安ゆえ
鬱を受け入れられない自衛隊員が
ヘリを操縦している春の終わり


七十二

はなまつり 甘茶年々甘くなる
古い体をじっと感じている
風呂は年々熱く 出ては
星を眺める男になった


七十三

懺悔は平和の水面か
いでて咲くか 平穏の花
燕は知るか 雁は知るか
知っていて 来たり 帰ったりするのか


七十四

辛夷の白い花咲く
今日私はエゴを傷つけた
ひとの為動き ときに泣け
できなければ死んでしまえ


七十五

のどか 喉から手が出るほどほしい
すべての電子音 止め
でも電子音の一音の 純なこころもちで
生きていってもいい


七十六

南無馬頭観世音と猫の塚に唱える 
陽炎が脳の内
昼の月はまた 星の内
手に入らないものの比喩で


七十七

何も貫く矛
何も通さない盾
矛は盾を貫き、盾は矛を通さなかった
なんの矛盾もない


七十八

案山子はいないか
いるわけないやろ 長兵衛の家や
そうか 長兵衛はどうだ
花のように死んだわ


七十九

昨日は今日で明日だ
それらは一として人生だ
水平運動に抗うなら 垂直すること
脚立の上で背伸びをした


八十

この車は動かない たましいが抜けているから
この風車はまわらない たましいが抜けているから
あの肩車はもうできない たましいが抜けているから
部屋をぐるり見わたせば たましいの抜けたものばかりだ


八十一

げんげだに げんげ(※)している

【げんげ】
嚥下できず吐き戻すこと


八十二

線路を歩く 木瓜の花に
歩いていくたびに ほうけていくよう
かつて理屈を武器にしていた口元
いま 明るい唄をうたっている


八十三

義経がギリギリとまつりの中心で唸る
啄木忌
海の市には何が売られているか
そもそも海市へはどうして行ける


八十四

げんこつ山の狸さん
おっぱい飲んで 寝んねして
次の日の朝
避けきれなかった車に轢かれて死んでしまった


八十五

月も知っているおいらの意気地
その月 朧んで
とても静かに
額のあたりから草の匂いでいっぱいだ


八十六

透明な
その雨ふる
晴れ間のような力で
時という壁へ 自由を書き留めたい


八十七

ローリンしていると甘いので
日がな一日
ローリンしていると冷たくなった
もうローリンはときどきにしておこう


八十八

もうすぐ二十九歳になるけれど
なりたいものが
なにもないことを
新しい自慢としていつまでも動こう


八十九

精神世界の入り口は
そこらへんに沢山ある うんざりするほど
でも出口はないんだ
グルさえ知らないんだって聞いた


九十

さびしいと
感じない為に
十時路で悪魔に魂を売ったのは
世田谷の 春の夜更けでした


九十一

春を売っている
みんな みんな みんな
遺った季節を眺めながら
黒い箸をタクアンに突き立てる!


九十二

自分の愚かな考えを
通す為に
駄目なものを良いと言っていたけれど
わかってしまった 生きるべき人間とそうでない人間と


九十三

カーテンを開き
夜の明るさを確かめると
夜の暗さがわかった
間違っているんだ


九十四

吠えるな
馬鹿
俺は鹿じゃなくて人だ
神のナントカでもなんでもない


九十五

コップに底はある
コップの底に底はない
日 一枚を切符とし
なにかがわからなくなった散策でした


九十六

赦されつづけるということは
けして赦されはしない ということだから
曇った夜のそらへやっと星を見つけ
小さくお祈りをした


九十七

黄色い戦争は今毎年の花粉症の比喩
ララ物資 私はあたたかいコーヒーを飲む
与えられるだけで良かった
勝ちとる必要はなかった


九十八

四月某日は 四月にない
四月某日は いろいろなところから
拾ってきた集積の一日
勿論 死がたっぷりと含まれている


九十九

有名になりたいときもあった
コカ・コーラのように
セブン・スターのボックスのように
この国中に私は供給され 空っぽになって良かった




やはり野に置け蓮華草
日本人なのにブルーズを弾いている
清掃員なのに詩を書いている
休日の朝が とてもまぶしい


 


Radiances

  田中恭平


今朝も風なんてまるで
恒常的平和であって
くりかえさないが
くりかえし
くりかえさないがくりかえし
ああ
くりかえしか
風はニッケルでしょう



わたしが高校で学んだものは
ラジオ体操くらいなもので

だいたい嫌なやつらといると
情報はぜんぶ嫌になるものだろう

一番辛かった病症
一番辛かった病症なんて
高校生活としか言えないだろうと
寝室を抜け縁側で
今夜最後のラッキーストライクを嗜めば
思い出す

鹿の角のようにうつくしい女性の肌を
どこで撫でたんだろうか

思い出せないってことを思い出した
高校生活はただの幻覚だったんだろ



路傍で生まれたわけでなく
移動中の車中で生まれたわけでなく
しかしいつからか
路傍に好かれ
草にさえ
愛され愛した
ジーザス
ご存知のとおりに

みえるのはハイ・クラスの街
気になった
税金のとりたて
路傍に郵便受けはないから


朝の四時
太極拳の連中が
朝の四時からジョガーどもが
わたしを起こす
教会の炊き出しに早く
ポケット・バイブルを読むにまだ暗く
嗚呼
ヤハウェ
わたしが
眼をいたわっているのはなんのため

過去の狼藉を
しっかりみつめる勇気もない
こころ貧しいわたくしが
未来を見てもいいのか
だから自然
この眼をいたわっているのか

花の匂い
路傍の両側花が植えてあって
それは
とても小さい女のひとと
かつて
というか今も
いっしょに
ふさわしさ以上の
暮らしをしている
アパートの一室まで
つづいてる
わたしは今日
そのひとに言えるだろうか
もうすべて
終わっていたんだよって
ほら
バイブルは雨でぐちゃぐちゃ
眼を細くすれば
少しずつ
この運動公園の
向こうの丘の上の
ハイ・クラスの街の灯りが
ともりはじめていったでしょう


こころと
体がうまくあわず
資料用CDの
ゼップのアルバムを開けば
エイフェックス・ツインのCDが入っている

この夏はいつかの夏で
眼はまだ春をひきずっていたけれど
いつかの夏に
私はもっと老いていた
乱雑としたそのアパートの一室
笑う エルモのぬいぐるみの
眼球は
煙草のヤニできいろくなっていき
あなたはだんだんつかれていったが
私は死んでいっていたのでわからなかった
大体! 今もなんでもわかりにくい!

朝に音楽は聞かなかった
昼はドアーズを低くならし
夜はサティを大きな音でならし
その家具の音楽が
ついに寝室を支配し出すと
あなたはコロンと寝てしまった
私は眠らず
ずっとベランダで
電車の渡る橋を
──そのときには時代の亡霊が歩いていたくらいで
橋を見たり
絵本を読んだりしてじっさい何も考えず
考えられず
夏へ身を入れてしまった



ノートに書きつけた
信念のことばも

まるっきり生気なく
昨晩喫った煙草の苦みが
今朝も口へとのこるように
まったく不甲斐なく感じ
ベッドに足を放り投げ
その足へ
この季節らしい蝶がとまれば
おもしろい

今朝も風
明日もまた
開かないあたらしいドア
開けないあたらしいドアはむしろ
この携帯電話の
電源を落としてしまおう



低体温な感情で
低体温の畦道へ出て
ふりそそぐ
それは
ちりぢりに夏を孕んだ
まだ、春の日

いつかの約束は
約束だから信頼に足らなくて
私は文字を筆で書かなくなって
不安の通奏低音をそのまま進む

アコースティック・ギターが上達しても
己のきもちを
しかと表することができない
大事なことが
音にはならない
ましてや言葉にならない



体の冷えはあたらしいはじまり
呼んでいる
体の冷えは
着く
あたらしいはじまりへ
歩く

ミネラル・ウォーターの
とうめいさにとどめ
体から抜けていく
もの、と
花は
今、へ落ちる


Bye.thanxs.bungoku!


郊外

  田中恭平


 
いつかとうめいの中を飛んでいた鳥は
兜をかぶって鳥兜として咲いていた
鳥兜は水葬した された
わたし わたしらで
下流の方にこの川を生活水として利用される
民家のあることは知っていた 知らなかった

くらしは暗くとも静謐な生活
ふさわしいくらし 休日の為私は親族を何人殺し
その休日は壊れていく体に必要な休日で
殺した数にして神経の神は一向にベッドから出れずやむなし

賢治の「やまなし」読みかえし
ユングが意識混濁より眼を開いたとき抱いた
この世界にまた存在する哀しみ
その深さの底へ

───クラムポンはかぷかぷわらったよ

薪割り
薪割り
ときどき向日葵
薪割り
薪割り
いただいた御茶がおいしくほほえむ
夏蝶が瞼を重くしたが
御茶のカフェインがかるくしてちょうどよくなり
薪割り
薪割り
くりかえし
からくりのようにくりかえし
あっ! 町内会の連絡網まわしてなかった

カアサン、ついに秋山さんとこの爺がアブサンに手を出して無茶してるって
狼煙上げとけって電話あったよ

ああ、そう、あそこらは女衆が足らないから今から行ってくるね
あー、腕がなるわ!



夜は勝手に肌へ接触をはかる湿気にくらべ
堂々としているからクールだった
わたしは、わたしの一日が二十四時間より長いことをわかっている

「僕の薬箱」は服薬中断を告げられ飲まなくなった錠剤でいっぱい
時間が有限なのか知らないけれど
明けない夜が、デスクの二段目にある


狼煙が上がっている 
この郊外の中心を通る大きな車道のインサイド、アウトサイドから
犬が吠える 
犬が吠える

ここに唯一明るい
コンビニのバックヤードで
深夜勤務労働者がじっとスマートフォンをめくる
わたしは彼の友達らしかったが 
わたしは彼にとってのお客様である


ガラケーからショート・メッセージを送る
「トリカブトの写真とってあるけど送る?」
「キツ でも送って」

「やっぱいいや 検索ですぐ見れる」
「はいよ じゃあ朝の六時までファイトっす」
「うす」
「今から行こうか?」
「うーん さびしい、かなぁ〜」


わたしは夜の底を歩いていく いつまでも 
いつまでも
いつまで ───クラムポンは
かぷかぷわらったよ 


フラジャイル

  田中恭平



夕方、祭りは夢を孕む
透明な小さな袋の中に
少女のすくった金魚が四匹在る
少女がその袋をあまり揺らさぬよう
ていねい祭りから去るところを
神が見ていた


今朝
目覚めると水の中だった
水と水のぶつかることは
水の中にないのだと知った
(勘違い、かもしれないけれど)
わたし
あなた
かれ
かのじょ
それを見つめる少女はわれらの
比喩か
それら少女を含めたわたしらを
神が見ていた
そしてその神をふくめたわたしたちを見つめるものが
誰かが わたしには知れなかった


白夜

 白夜が、夏の季語であると知ったのは最近
 この語がほんとうの白夜を示すものなのか
 比喩としての白夜なのか
 私はそのことを知る為に検索エンジンを使おうとは
 思わない
 ? 何の話か
 検索エンジンに昔の友人や恋人の名前を
 打ち込んでしまった過去は そこにとどまり
 陽は夜にあってもずっと、ずっとそれを照らすのだ 
 恥ずかしい
 果実のように恥ずかしい

 でももしもあなたが元気でいたらと
 そう祈りつづけつつ
 何か他のことをしています



只の夜

川はまるで時間のように流れるが
口語自由詩の内在律か
うねりブツかりおじけづき、切れ
川に流され運ばれて導かれることは
あなたを導くことになるのだとしたら・・・そんな大仰な!
わたしらの哀しみを 怒りを
この川一本のさびしさの中
 ( ──まっすぐな道でさびしい  種田山頭火 )
ネガティヴを
オルタナティブにできるかな
神の力でなく
その神を上から見つめるなにがしかの力でなく
わたしの
弱さという
ただそれだけの
はかなくつたなくしどけない力で

 


秋津

  田中恭平

 
バズ・オズボーンの、グラッジ(よごれた)なディストーション・サウンドが出せるペダル・エフェクターは
重た(へヴィー)過ぎたから売り払った。

2010年。
冷凍都市の語は、東京から転じ、凍今日、からきていると秋津のキャンパス・ノートの
のたくって、ひとくった歌詞の書き殴りで知った。
冬に死んだ秋津のノート。

秋津の死んだ日。
東京に於けるアルバイトの産んだ利潤がめっちゃ良かったみたいなこと
携帯からヤフー・ニュースで読んで
酒飲んで
賭け損で
バンドを解散するかどうか男臭いバンド
汗臭いスタジオ
秋津はアレだ、蜻蛉だったから、寒さで死んだんだよ、とか
ノースモーキングの赤字を無視して煙草喫いながら話した。

秋津の部屋どうなるんだろうな、親来て片づけるにしては秋津、児相のこと話してたしな。
学費も確か奨学金っていってたな。
実家、平和島だっけ。
秋津、言うこと無茶苦茶だったけど、急に敬語使うんだよね。
田中さん、あのぅ、ヤ―・ブルースのリフはノリに任せて変えないで頂けないでしょうか?お願い致します!! 
似てる(笑)。
赤色のモヒカンが、お願い致します!!(笑)。 
秋津フジ・ロック嫌いだった。 
商業主義とか言ってたな。フジ・ロックは商業主義ですよ!プレイヤーの汗があのデカイステージからキッズに飛びますか!! 
似てる(笑)!
 
あのね、なんか、夜ね、秋津から電話かかってきたんだよ、
ラジオで、ロックとかパンク紹介するラジオ番組だったんだけど、
その番組のご意見番みたいなおっちゃんが、それ言ってたらしい、同じこと、フジ・ロックは商業主義だ、って。 
ああ、そのおっちゃんの真似だった。 
違う、単純に同じ考えだったみたいなんだけど、
そのおっちゃんが、次のラジオの収録前に死んだんだって。

死んだ? 

うん、なんか死因はその追悼の放送では言わなかったけど、秋津がね、フジ・ロック批判したからそのスジの人に消されたんですよ!とか
声荒げて言っててかなり焦ってて、田中さん!僕がね、フジ・ロックがどうとか言ったのは本当に内緒ですよ!僕も消されてしまいますよ嗚呼、駄目だ!
この電話も盗聴されてる、って。
それほんと? 
ほんとほんと、これは秋津追い詰められているな、って、関係妄想みたいなの出てるな、って、
だからね、秋津、きみな、ジョン・レノンでも清志郎でもないんだから盗聴されているわけないじゃん落ち着きなよ、って言って、
したら、田中さん、清志郎は盗聴されてませんよ、って、ちょっと笑ってた。 

俺、秋津のアパート行ったことある。
えっ。
部屋中にCDとそのプラスティック・ケースが散乱してて、で、部屋の高いところにね、「百万回生きた猫」の絵本が飾ってあったんだよ。
アレ?「百万回死んだ猫」じゃなくて? 
いや、俺もそういうタイトルだと思ってたんだけど、「生きた猫」が正しかったらしい、
で、おっ、何この本、って言ったらね、秋津が、それは親父が贈ってくれた唯一の本です、って妙に真剣な顔して言って。

それから秋津が、僕はご覧の通りパンクスですけど、そんなレッテルを貼ること自体もうステレオ・タイプなんですよって言って。 
んー? 
僕はね、生きかえるんですよ。この生はだから、いいんですよ、あと何万回も生きかえるんですから。

秋津がニコニコして、で、これ秋津の歌詞のメモのノート。俺は、秋津が死んだんじゃないと思うんだよ。俺らが残されただけなんだよ。
 
 


書くことは思い出ならずや

  田中恭平


 
Salem、カナンの地の都サレム、オレゴン州州都セイレム、魔女を焼いたマサチューセッツの港街セーレム
きみの訛ったSalemは、それらがまるでひかりと濁りの調和とし佇んでいるSalem
それは歪みつつカッチリ響く根音5度の和音─パワーコードの残響、確かに俺はそこを知っていて、わかっているような気さえした。
24度の寝室、異袋のなか、効きのすっかり去った眠剤と、オロナミンCの甘さがとろんと、恋をするとき。


十代の苦悩は重大だが、重罪ではないだろう、外でラッキー・ストライクを喫っていると、彼らは歩いているが、歩かされているだけ、
ほっとかれているだけ、なんだと29歳の男の体のなか、老婆を宿している、俺はわかっていた。この体は健全であって、つまりどうかしているんだろう、
きみは形あるもので物語っているのですか? きみに高学歴がなくてよかったね。俺もひとしく馬鹿だから、この国ではそれで過ちが少ないんだろう。


堕ちることは上昇だと考えたら、敬虔な死んだ女は水に沈むのか、疑問を持った。敬虔な死んだ女が語る言葉が聞きたいけど、郊外のファミレス、
コーヒーを口にし、煙草を吹かし、299円のドリアを分けあいながら、死んだ人間と語る、無理も承知だけど、俺は今も丁寧、死んでいっていて、
今年の正月には「今を生きる」と大書したのにね。でも死んでいくことそれは、なんでこんな面白いんだろう。ダメになった筋肉を無理に動かすのは楽しいよ。


従っているものに従ったけれど、私に従うものがいない、望んで叱られたいなんてマゾフィスティックだけど、楽しいこともあるよ。
サウナの高温の鉄棒を、水で濡らした雑巾で、ていねい、ふきとる。雑巾はたちまち焼け焦げサウナに異臭がたちこめても、裸の男らは
年始から今までつづくテレビのていたらく芸能ニュースに、必死くいいってる。
真黒の雑巾をゴミ箱に投げ込んだら、向こうのレイプ事件もこっちのこころの傷痛も忘れたいけど、物を握るたび顔をしかめた夏でした。
白桃色の女が川のながれに馴染んでいるのは、製紙工場の匂いのせいなんだろう、と、ぼうっとした秋のはじまり。


骨が成長すると俺は痛くて堪らなかったけど、痛くないと生きてる気もしなくなった馬鹿になってしまった。
望んでいたダディはいつかダッドだったけれど、今では電気保安事務所を構えコンビニの点検業務にルーズいそしんでいる。
セ・ラ・ヴィ。
きみに勇気があれば希望なんていらない、種があれば、植物は勝手、生えるようなもので。
製紙工場の匂いの手前、黒い川ながれ、月が映る。
現代この月だって荒らすことができて、アメリカはかつて星条旗を立てたけど、時という手術代の上できみの心臓からガラス片すべてとりのぞくに
きみ自身でやらなくちゃいけないのなら、慈悲をメスとして伝えたい。
コホン、えー、この手術はたいへんに難しい、しかし、きみは正しい、きみは正しかった。親切はとき、人を活かし、ころす。

寝室の窓を開ければ、森の闇が広がっている。
意識しつつ存在しないようにできないだろうか。
そして存在しつつ意識しないということはできないか。


 Love and Sympathy  2016.8.30(火)
 


2010年をころせない

  田中恭平

 
 
夜が明けたら
残ったのは希望と書かれた使用済み切符
それ一枚っきりだったので

あのひとの憧憬が冷たい男性か
あたたかい女性かも

冷たい女性であったか
あたたかい男性であったかも

もう一度見ただけで全く忘れてしまいたくなりそうで

頭の、頁はさらさらと秋の打ちくる水へ滴らせつつ
にも似た、いいえ、もっと暗い方法だって使って
しまいに
泣いてしまったのです


びくつく
びくつく
という言葉が固まりびっこってるので
こころが正確、歩けるように語ったらば
あなたは
まるでわたしが手の上であなたの心臓を転がしたように
ゾッ、としてしまい
ついに即座さっさと歩いて
店を出てしまいました

ナップ・サックから「裸のランチ」を取出すと
確かに
最初の章のおわり
ジェーンは死んだ
と記述されていましたが
それがその行の
少し前
マリファナ信奉者によってか、は、
あの独特な匂い
それを匂わせつつ記述されていないことが
とても良いことのように思えてなりませんでした
確認を終えると
ホットコーヒー二杯分の料金が支払い済みだったことに
ハッ、と驚き
私は走って店の外へ出て
あなたがいないか
一応、捜すよう街路に目を配ったのですが
もちろん
あなたの姿はありませんでした
しかし
なぜ
あなた、も
神さえも見ていないだろうと

そのとき頭の中
神様のことなんて
一切
なかったのに
どうして店を出て
あなたを捜すふり
なんてしてしまったのでしょう


駅で
東京では人身事故に寄る電車の発着遅延が
日常の内であることを確認し
渋谷から代々木へとグングン歩いていると
秋の風が頬を撫で
まるで新しい母のようでとても嬉しかった


アパートに戻ると鍵は壊れたまま
新聞屋が
勧誘のとき置いていったビール缶がころがっています
新聞屋と契約し
缶ビールを六日で飲み終えてしまうと
とるのをやめてしまったことが悔やまれる、このテレヴィがない部屋で
私は小さなアコースティック・ギターを爪弾くと
それが宇宙の全てであるよう思え
まるで世間が小さくなってくので
別段
いいのですけど

冷蔵庫を開けると
誰かが置いていった
コンビニ・エンスストアの
スナックの廃棄品の肉があったので
それをレンジにかけたあと
更にバターで炒めます

いつか佐藤伸治さんが
「窓は開けておくんだよ」
と歌ったので、窓は開けておくのですが
この部屋には電車の軋み走る音、ロクな音しか入ってきませんでした

涙は流れてこないのですけれど
肉を炒めるといって
まるで死んだものを
さらに殺すことのできるような気がして
黙ってするのです


次の日
出勤すると二日酔いのあなたがいて
わたしはバックヤードの電球を取り換えようとして
電球は発光するのですが
凹凸の噛み合いが悪いのか、電球が固定しません
結局ガムテープで
電球の周辺を天井と強引に接着させました
そして
死んだ木の中、あなたとわたしはふたり黙々と仕事をしました


夜のはじまり
あなたは「コーラが飲めるのなら、まだ大丈夫だね」
とあたたかく、冷たく言いました
あなたはいつも水を飲んでいました
「いいじゃない、実家に帰ってフリーターやって
 それで機材を買って」
「はい」
「じゃあ、これで別れだ」

二人で駅へ向かって歩くとあなたは
「何か食べてく」
と言いました
「ラーメンですか」
「ちょっと、中見てきて」
とあなたは言い、私は中華料理屋に入り予約票に名前を書いたところ
なぜ、外から見ても店に他の客がないのに
中を見にいかなければならないのか

それと待っているひともいないのに予約票に名前を書く私を
店員が目の前で止めないのか
さっと考えましたましたがわかりません
中からも
客はわたしたち二人しかいないことはわかり、大人のところに 2
と記入して
店員は何も言わないのでした

予約票に名前を書き
外へ出てあなたに予約票に名前を書いたこと告げ
二人店に入るとさっきのニコニコしたまま静止したような
店員はおらず、わたしたちは一番奥の席に座りました

瓶のビールは、あなたが頼んだのか、わたしが頼んだのか
覚えていません
それは、あなたがわたしのコップにビールを注ぎ、それを口にしたとき
わたしの東京があなたとともに
ついに波にボロボロとくずれさり、なくなり、ひろいあげても
もう一度、うつくしく、くずせ、と言われ
無理なことだからです

 


#01

  田中恭平

 
ぼうっと、橙の灯りが雨霧にさびしがっている
かあちゃんに連絡入れとけ
って
エアロスミスの「Mama Kin」 聞きながら
俺はTシャツの二枚重ね着
加えてカーディガン灰色に腕を通し
飼い猫が
またどこかへくわえ運んで
靴下が見あたらない
今朝はとても寒い

疲れた眼を
労わりながら
ラッキー・ストライクを喫うと
季節外れの油虫が
すっと縁側を抜けてった
新しい朝は
また
いつもの朝へ変わってしまう


そして
僕はこんな詩を自然朗読していたっけ



 弥勒

モランは日本の古い動画を見ている
モランは「yasu kiyo」の動画を見ている
Yasu はこちら側を向いている
その笑顔は、どの学校にも必ず一人はいるような
それは、ここにいることそれ自体の嬉しさ
Yasu は
みんなに僕がみえているかどうか
いや、ときどきは、僕はみんなのことなんて見えないから
「Megane! Megane!!」
どっちにしろ
一方通行、だった

モランは日本の古い動画を見ている


イエス・キリストの実際の顔とされる
浅黒い肌の鼻の少し低い男の写真を眺める

ロバート・ジョンソンのCDを
わざとテープへと取り直し
その音源を流したものを
簡易レコーダーに吹きこみ
インポートし
8ギガのipodの
白いヘッドホンで、聞いている


精微され
全ての価格が上昇した
至るところに
十字路はあるが
かつて嘆かれていた
他国それ自体の教会を
捜してもない(のかな?)

この国の教会自体、それは
至るところにあるけれど
私の眼には四辻
こそ
こころそれ自体なんだと
足を
ドン!
ドン!
踏み鳴らした
血流が上がる
息が上がる
脈のスピードは人と
違ったり同じだったりするの?
左腕の脈の
 トクン トクン を眼を閉じ
確認すると
わたしたち は複合(=ポリ)していると
考えることはできるれど 
冷凍された 
脈のない人間を今後
証明の内へ入れるか 否か


  弥勒 は 
mean to a rock なのか
牛乳 
なのか・・・
今も一方通行の違反に人がいらついたり笑ったり



最近は
何もできないことへの自負に
一本の道にだって涙もろくなって困る
まっすぐ進んでいくのに
すれ違うあなたがいなければ困る


 大人だろう
 勇気を出せよ、か

 ぼうっと、橙の灯りが雨霧にさびしがっている
 本当はもうあまり考えたくはないのに
 このうつくしい百日紅は
 うつくしいなあ
 と

 きみへメールを送ってみた



 
気にしない 気にしないで
大丈夫だよ
気にしない 気にしないで
ここが今だから
ここがすべての今だと僕は願うよ


すべての子ははじめてのあなたのひかり
すべての子はあなたの空
すべての子はあなたの人生


私に気づいてほしい
私のことは知らないだろうけれど


なぜそんなに言葉ばかり読むの

これは私の番、みんなもずっと
出発だろうと 途上だろうと
誰もできはしないこと


いつも いつも
でもそれは私の夢 僕の夢
すべてのとき すべての人生で
あなたがすべて


俺は本当は薬なんてとりたくないし
ワインの味なんて知らない
きみの彼なら知っているだろ


雪が降るのを知っているくせに
いつも新聞が読めるのならば


それでいいだろう もう少しだけ眼を信じていたい
ぼうっと橙が
雨霧の中にあたたまりながら

おっと
午前九時になったら、缶コーヒーを買いに
外へ出よう そして
休館日の図書館の前で
うまく笑えたのなら 嬉しい


 マジで


 


re:poket

  田中恭平


空き缶のふちがキラリと夜の路上で光っているラッパー。背中のチャックを下ろして俺は物真似を辞めようと思った。偉人の言葉を借りることを辞めよう。霊力の力借りてことなすべきか。ラッパーAAA。お前のanarchism。日本の闇の深さゆえか、だから何だよ、通りを歩いていくと、柳の木の下でブルーズマンが歌っている。天より入っている。それは幽霊じゃないぜ、いつかの誰か、俺のことかもしれないぜ。あなたと話して楽になったよ。きみは僕の愛する人のことだ。トン、トン、トン とボブ・ディランらしい大人が、少しずつ私から私の背中のファスナーを下ろしてくれる。ごめんじゃ済みそうにない。ぶちかましてやる。苦味は漫画を現実化することしかできない兄だからだ。悪かったさ。これからも悪いだろうさ。ストローで活字を飲み過ぎたメロンソーダそしてアイスクリームを添えたものをいつか僕は飲んだっけ。大切なことだ。そんなことすら憶えてないんじゃ俺は俺を拒否する。そんな大切なことの為、電話恐怖の俺の代わりに電話を掛ける電話ボックス。 「なあ、あの小説読んだ?面白かった、 目の前の書類をすべて放り投げたいくらいだ、それにしても、足が何もしてないのに疼いてしまう」
俺は、そのままアパートの寝室に戻りラジオを聞きながらギターを小さな音で弾こうとしたけれど全然駄目で、それはまるでギターで宇宙?ふざけんじゃねぇ、すたれたアパートで描くように、己の心臓そのままを放り投げるように歌えたらな、とか信頼を、ぎゅっと握りしめたら、天井の壁の木目をずっと眺める日々か。またあなたを泣かせてしまうだろうか。だってさっき、迷いこんできた犬、その犬から目をそむけて、今ここに俺はいるのだから、噛みついてきていいぜ、ボコボコにしてやる。パーティがはじまる。楽しみには危険がつきものか、ともかく炭鉱のカナリアたちは声を張り上げて諳んじるさ、てっぺん掛けたか、てっぺん掛けたか。全部錯覚だろうぜ、エモーションで手前らを応戦しようとするが、司法はドンと構えている、法こそが問題じゃなくて なさけなさ そのなさけがやさしさゆえと、知れないふりした僕の罪さ ギルティ モアギルティ? すっきりしたいぜ
この芳醇な世界でみんなパン屋になりたいんだろうか?ともかく、この病を治したい。
ポニーが駆け巡っている。草原の中で同じヒッピー、といって色々な考えがあるだろう、純粋に、純粋になってしまわないように人間臭さ、がそこにあるように、匂いに気づかえるように、そんな繰り言だってわかってもらえるなんて甘いもんじゃないんだ。55日間の免停期間も受けたことがない。なにもない場所に、何を置こうか考えることに、僕の首は自然上を向いて歩く。
バタ臭せぇ、とは面白い言葉だ、なんて思う、白い軽トラックからQさんが笑って下りてきた。その映画が終わってしまって、それから俺の人生がはじまる。リトライじゃない、報復とバトルロワイヤルでしっちゃかめっちゃかで、ミュージシャンの階段が外れるぜ。ドキドキするもんだ。この先に何が訪れるかどうか、それがわからないから。「よし、その詩を書き終えたら、俺の役は負えられるだろう? 甘い言葉ばかりで申しわけがないから、しゃべりかけているんだ」 或る録音器は物語る「夢・・・夢・・・夢」
それは「嘘・・・嘘・・・嘘」
……現在時刻 2016.10.28(金)
  20:37
 机の上にはブルース・ハープが置かれている。このブルース・ハープはニヒルな奴だろ、と俺に光っているんだろ。ハープのキーはG。ギターはまずEm、指一本を五弦の2フラットを抑えると、きれいになるんだ、それだけを一番きれいにならせるまでが難しい、なんて話しかけても、話しかけてもきみは眠ることばかりが好きで、逃避でなく、きみをガチで愛し尽くす。ただ眠ることが好きでしかない、何もしないとしょうがない、俺に対して何もしたくない人がいて、当たり前だろうと思ってさ、芝生の草のにほいを嗅いでいる。
ピック三枚、フェルナンデスのギターが好きなんです、くだらねぇ冗談。
 ハッと我に返って影たちが進撃をつづける。日本の雪が被って以来のことです。ザスッ、ザスッと、ただ冬しかない国の中を歩いていきます。連中は。3月があるかも知れない、この国のことをどこかで、胸に火を宿しつつ。それらがなくなり、いいのか、わるいことなのか、きっと我々は音楽家なんだろう。ミュージシャンではないのだろう。今伝えにいきたい人に向かいました。未来長く生きる意味を問い直しつつ、合唱しつつ影たちは前進をつづける。生きるならば燃え尽きるまで長く生きるためにここに文神を殺すぜ。
 ラッパーたちが、フォークシンガーに俺の町ディスってんじゃねぇ?と因縁つけてる。
ディスってんの?ディスってんの? 俺にはなんでそんな諍いがあるのか、重々ぶっこわしていかなければいけない宿業の中で、あなたの声を肯定することのみ、未来、あなたの輝くことを肯定する。メモリーの中で、またブルーズマンが歌い出す。

「到底手に負えた代物じゃないんだ 到底手に負えたもんじゃないんだ 降参しろ 白旗を高く掲げろ もう震えが止まらないんだから いつでもしゃべりつづけてろ でもわかっているんだろう 自分の業から足を洗っていることを それで損しているならお前の方が危険だぜ メール・ボックスが一杯になるぜ」

 ジュークでもう一人の男が歌い出す

「おい、ブルーズをなめるんじゃないぜ お前はできるだろうさ いい手をしてるんだから 女の子と遊ぶためじゃないんだ お前の指は単純抑えが悪いんだ ともかく練習を繰り返すことだ ひたすら弾きつづけることだ 愛の詩なんて嘘くさくて当然じゃないか
嘘の詩が、愛であることだって十分大そうなことだろ、違うか?」
 俺は立ちはだかる。いつでもこの最後の文学の中にいる。


潜り込んで、冬の道へ

  田中恭平

 ポエットの落とした滴に残像が、コカ・コーラのラベリング・カラーに変わって、マッシュ・ポテトのような聖夜が、いつか人間であった聖人をおもいださせてくれます。ピリオドを打てば、人は文明があり、そこに侵入した者、そして手先は、「今」あまねくまま、ピアノをガシャーン、ガシャーン、濁音させます。
冬の花の戯言、聞かないこと。僕とあなたは手をとりあって、どこにでもある、使用の禁止されたブランコで、言ってはいけないことだって言います。
すべては戦時下の日本に於いて、この文章は記し成されます。敵か、味方か、判別のできなくなった私はどうにも、統合失調的足取りで、背中から、影の入ったところ、入り乱れる遊戯性に、骨と化してしまったから、入りやすいのでしょう。
賢い者は語り始めます。口を問わず身体で、進行方向と真逆に向いた風の中に、耳を澄まし、あどけないプリマドンナは、その愛らしい一張羅を、私に見せて下さったのです。
僕は手帳をもって、そこに記します。「dear:〇〇〇〇〇」
あまねく、すべての思想そのままに、しかし思想に満足せぬ餓鬼たる私は、考え過ぎているのでしょう。ただ愛することが励しみ、だった頃よりつづく、飛行機の滑空、に、それを手帳の中に記すとして、私はワイアードの中で、配列の組換えを合法的薬品をもって、受動的になしているのでしょうか。いいえ、私は歩いています。ただ一本のさびしい道を歩いているのです。 どうでもよいことこそ、かつてランボーがめいでたもの、であったとして、あなたにかける明るい想いは命ひとつ。
この一生では足らないのか、とさくっと思えば、涙が両目からほろり流れる。
いつまでもそれらを眺める時間にいる、弥勒に於いて、ライスシャワー、降らずとも確かにのブランコの感触を、赤いテーピングと記録しつつ、忘れてしまうのでしょうか。いいや、そんなことはありませんよ。と、先導者がいることに気づきました。充足なる、充実なる営みの中で、ラッキーやチャンスを製造する者がいるとして、しかしこの身焦がれるわたしたちが互いに過去、毘沙門天祭に於いて一度離れたとして、「今」野遊びに交際している事実、あなたはいつもシャンプーの香りをさせて。先導者とふたりの間をすすっとレモンカラーの自転車に乗った傀儡子が遮りこう述べました。
「この道は、何もないからいけない。この道をいっても何もない。ふたりには愛しかないから。愛に換算できるものがないのだから、この道を行ってはいけない。特にオマエ、なんだその伸ばした髪を切ってみろ」
 詩、がふりました。さらさらと詩の頁が、ふりそそいできました。僕の手帖からだって詩がブワッと溢れて、それらがこの冬の日に透かされながら、さらさらさらさらと降り注いで消えていきました。彼女は、先導者は、傀儡子は「今」だけを遺して静かにその詩の中へと納まっていきました。さようなら、さようなら、さようなら。宇宙形をした茸が静かにウン、とそのままに、その茸たる宇宙にいて僕は、やっぱり孤独だったのでしょう。
またクリスマスがやってきて、僕はサンタクロースに電話をかけようと思います。「今年は不勉強なのでプレゼントはいりません」空っぽのコカ・コーラの瓶の前で。


hana

  田中恭平

 いってきます。おざなりにされた希望たちへ。一見変哲もなくこころ澄み、過ぎたものたちへ。僕らの春は残酷に富み、越えて夏の渚を夢見、歩きつつ、しかしこころ枯れるは自然ではなく、冬には蜜柑。未・完成のまま孤独を離れ皆の中に帰す。みんななんで物を書こうなんておもったのだろ? 
 今、放たれたる聖なる言葉の子供の言葉、是は落とされて割らされた陶器の灰皿、そのときも過ぎ去り。
(灰皿をのけようと思えば落葉と灰が一緒になっている)
 見つけてほしいよ。お父さん、お母さん、いつのまにかぼくらは病みすぎた夕方の為に
反対、純に澄みすぎてしまって融通が利かぬ。まるで吠えることしか知らない犬のように。
(しかし犬の総ては知れず、なにものの総ても知れず)
 そして子供の語る聖なる言葉のように、力なき言葉に、価値なき言葉に、ラアラア、精を出しては恥ずかしいよ。
 花は花としていつでも、今、そこに、あるがままにあって。ほほえんで下さるでしょうか。
 きみの挑戦に未来、拍手がなされますように、そして今日もテレヴィで黒煙を見るのかな。
ねぇ?読んでいる?未来の子供たち、未来人へ。僕は今をかえりみないから、悪くて、散々悪い文句を書いてきて、仕方がないから、今この記述をラッピングしないそのままに。
 嗚呼、枯れていく僕らは今に於いて勝手にしろ、という声も聞いたが、この不条理な今に於いて「さっぱりとした手相だね」という彼女の言葉、彼女も花の、胸に誇らしくいつか空へかえり、土にかえり、川へかえり、海へかえり、いいたかった、おかえりなさい。


#02

  田中恭平

2017年2月9日
17:47

 早朝の四時間の労働のために、わたしの二十時間が費やされていることは
まるでブラック・ホールに放り込まれたような気がしてならなかった。
携帯をパカッと開くときみの簡素な顔文字付きのメールが問うんだ、「何してるの〜(‘ω’)ノ?」。
脚から足かせがスッとはずれたように体軽くなって、それで僕は返信する。「ベッドで横になって、つかれを癒してるよ」。
想起すれば、きみは新鮮な空気を与えてくれる木。僕は歩いていく。日が射している。
明日のことなんて頭からメルト・ダウンして忘我こそして
不眠症の僕は眠りにつくことができるんだ。距離が離れていようと、きみに寄りかかる。
風の滋養を得る。しかしすぐに新鮮な空気は汚されてしまう。
それを成すのは悪人でも善人でもないただの人間たち。僕はアートについて頭の中に酒がまぶされるように悟るけれど
フカフカなベッドの中ですぐに忘れ、生きている木に対しまるで死んだ木のように
春先冷たい風に痛めつけられメソメソ泣いているようにまた文章を書いている。
雪がふるように、魚がふるような演出は昨晩行われ、それは神によってなされた。
しかしそのことについて誰一人だって覚えていないし、僕は嘘をでっちあげて書くだけだ。
嘘を書いているんだ、渇いているんだ。路傍にフワリと浮く神様の握手のようなコンビニエンスストアのビニール袋。
眺めつつ渋茶はまだかと苛々しつつ、仏壇に置いたままの携帯電話をまだ捜している。
まず眼鏡さえ見つからないこの暗闇の中で、幽体なんだ。
幽霊になってもきみを愛したい。僕は悪人だ。だから救われその間世に悪がはこびることになる。
まるで烏のように風葬されるまで、善人は軽んじられるなら、僕は悪人のままでかまわないし、進んで毒だって飲むさ、
とラッキー・ストライクに火を点けた。ピカドン、メタドン、今日の昼食はあまりおいしくないファミリーマートの中華丼だった。
罪の意識によって浮かばれない魂は、この穢土をさまよい病者を増やしていくだけ。
オカルティストを増やしていくだけ。
グシャッ、と蛙の卵たちを掴んで地面に叩きつけた。
でも実際には悪人であるからこそ救われるという説を疑われる。
それはやはり木のおかげで。揺れる葉音のおかげで。あなたのおかげで。
オゾン層は回復に向かっているらしい記事を読み、古い本は捨てた。
古い本は悪い。古いからだ。古いくせに死なないからだ。
死んだ木に新芽が生えて、裏返せば得体の知れない茸だって生えていると
眼鏡を見つけてかけたら希望が見つかった。決して光ではなく、ただの暗さに過ぎなかったが、普通の暗さだったから
比喩すらいらない暗さだったから良かった。
それから仏壇の携帯電話を見つめたときには、何か新しい発見でもしたときのように嬉しかった。
ガリガリと猫が開かない襖を齧っているのを見た時はまるで自分を見ているような気がしたよ。
夜、暗さと暗さが重なり合い、蛍光灯の明るさ、きみとたのしく話をした。
頭の中からポトポトと窓辺を濡らす、酒のような雨がふる。僕は歩き出す。歩くこと、動くことからは逃れられない。
十字架に白い鳩が止まり、ルソーの本は五十円で売れた。
水に濡れたルソーの本は五十円なんだな、と思った。
見回してみると、人間たちが全員同じ顔をしていて同じ方向を向いて歩いていた。
僕とは反対の方向だった。唇が青くなっていく。
行かなくちゃ。あの木のもとまでいかなくちゃ。時間が二十時間経っていた。
そして僕はホット・コーヒーにクリープを雑に落とし、指を舐めたら甘かった。またあなたに電話しようと考えた。
 
 


#05(ダベリ)

  田中恭平

 残りのiqosのヒート・スティックは三本だ。
巧く構成した詩編をかけたらいいのだけれど、ともかくトライしてみようと思った、簡素で温度25℃の寝室で。
 何度も繰り返し書いてきたことだけれど、欲望を指すdesireは欠損語de を冠したstar 星のことであるということ。
星を失くした事象が欲望の根源であるということ。なんでこんな話をしているのだろう? と、なぜ私は私に問いかけているのだろう。
去勢された雄猫の睾丸部分はその精巣がないにしろ、ぷくっ、と二つ膨らんでいる。
私は猫と戯れているときそのぷくっ、とした膨らみを指で押してみることがしょっちゅうである。
猫はいつも通り寝ぼけまなこでこっちに顔をやるがすぐに背けてしまう。
何か文献で読んだのだけれど、猫は一日十九時間睡眠を行っているらしい。
これは生理現象を行っている最中でなければ大概はまどろみの中にいるということだ。
 まどろみといえば、私は白夜を想起する。グリーンランド、ロシア、ザ・ユナイデッドステイツのアラスカ州。
猫は我が家にいつつ同時グリーンランドで生きていると思っているのかも知れない。
二匹の雄猫は去勢されて大変穏やかになった。やはり苛烈な生の衝動は睾丸にその秘密があるということだろうか。
まあこんな睾丸の話はこれくらいにしておこう。それにしてもビリー・コーガンの歌はなかなか悪くないんじゃないか?

 睡眠薬にはその多くに依存性がある。このテキストを書いているとき、私は既に眠剤を服用している。
その上でコーヒーを飲み、パソコンのウィンドウの前で体を固定化させてこのテキストを書いているということだ。
それにしても、このテキストの一体どこが詩文なのだ?
しかし、書く、という行為に関しても依存性が生じるようでなければ詩人とはいえないだろう。
私は詩人ではなくて幽体だけれども、いつも議論の俎上にのぼる詩人の条件とはテキストと書くことに対する依存性を獲得しているかどうかに依るのではないか。
自ら依存性を獲得することが、賞賛されるべきものかどうかは別として1950年代ビート作家達がこぞって物を書いたこと
これに対してフランス文学の鈴木創士氏はとてもおかしなことではないか?と疑問を呈していたが、書くこと自体に依存性があるのであれば
自らマゾに自身の中に依存性を獲得しようとしたビート作家どもがこぞって物を書いたとすれば何ら不思議なことではない。

 私は昨日、四年半毎日コピー用紙に書きつづけてきた日記を書くことを辞めた。
色々な変化がこの一週間の内に起こったのだけれど、何より恋愛と勤労という二大テーマに挟まれて日記を書くことに対するウェイトがしんどくなってきて辞めてしまった。
それが今日の昼になったら、今日の昼食──はくまいごはんに納豆に豚汁と記述していたのであった。
記述に対する解毒剤はないのであろうか!
さて、話を睡眠におけるまどろみに戻せば私は酷い睡眠薬依存症に陥っていたことを告白する。
私は統合失調症を発症して、20のときに発症したので9年間この病気と奮闘を繰り返していたのであるが、
やはりこころがはりさけるように苦しい狂いに耐え消えなくなって、最初は、夜含む分の睡眠薬の錠剤を割って、口に含み、蒲団の中に入ってじっと天井を眺めていた。
今起きても、まず目に入ってくるのは、独特の模様の形をした天井柄である。
多くの小説を読んできたつもりだけれど、朝目覚めるといつもの天井だった、といった表現は読んだことがない。
まあ、フランスの写実に長けた文学者はこの手の表現をとっくに行っているのだろうけれど、もしもされていないとしたら
私が特許申請みたいなことをしておく。狂気によって奇行ははだはだしく、窓から夜裸足で家を抜け出ると、コンビニで食事をとった。コンビニの店員というものは裸足、コンビニで入店しても別段気づかないのか、気にしない、ということを私は知っている。庭で小便をして、朝四時に起床するようになり父に激怒され、自分はこのまま生きながらに死んでいる、つまりずっと眠っていた方がいいように思えてきたことは睡眠薬依存に拍車をかける結果となった。
 
今はすっかり回復している。それにしてもニコチンが止められない。
芥川龍之介だったか、煙草は悪魔が日本に持ち込んだ、と書いていたような気がする。芥川は一日に百本は煙草を喫っていたようだけれど
短編小説家という印象が強いせいか、百本煙草を喫っていたにしては生産性が少ないような気がするのは気のせいか。
音楽が流れている。ルー・リードのベルリンのライヴアルバムである。コーラスが天使のようだ。いつか過ごした白夜の夜の数々に感謝を。
私はやっと深層部位から清々しい水を掘り当てたような気がするよ。
感謝に睾丸二つでも捧げたいけれど、私には愛するパートナーがいて、あと三年くらいしたら子供を生んでほしいと考えている。
ラヴアンドシンパシー。
今日もあらゆる土地で去勢がなされた、コーヒーが飲まれたり残されたりした。
煙草が喫われた。
病者の口が渇いた。
睡眠薬が服された。
セックスがなされた。
みんな、おやすみ!おやすみ!
iqosのヒート・スティックがなくなった。


薄明

  田中恭平

 
C Am7 F Em7

屈強な夜が
明るかった
それはひよわくもあった、いいえ
脆弱な朝の首を
ぐいぐい絞め上げている、
だから。

酒のような雨が降る
僕らの
否、

の、
フラスコの胃
は、この酒のような雨を拒否する、
二日酔いで、
なんてことがあったらいいのに。
みんな騒いで銃を乱射するような。
悪い者しかいなくなって、
善いがなくなってだから悪いが反吐が出る位上等に普通になる。
というかなっている。音楽が止まった。嗚呼、僕は酒が飲めない。
祭りの日を、
楽しく待っているのは甘酒が飲めるから。
キリキリと胃痛がとまらない、ついに胃痛にディストーションが掛かる、母親がペダルを踏んだ、どこに買い出しにいくんだろう?

友達は東京で音楽していて
最近メジャーからインディーレーベルへ落ちてしまった。
彼らとの意思疎通
それはいつだって落とし穴だった。
東京で落とし穴に落ちたのは僕だった。

・・・・・・・なんもやってねぇよ、なんもやってねぇよ、なんもやってねぇよ

シンナーの香り。告白している受付嬢。オレンジシャンプーの香り。そんな記憶と
神なんとか駅近く、客にボコボコにされていくローソンのレジ係と
アップ&ダウン、アップ&ダウン、やっぱりフィッシュマンズのナイトクルージング(名曲!)と
酔ってダウンした友人の喉に指を突っ込んで丸のみされてた椎茸を取り出したこと、
フィード・バック、ケツの穴、ポリバケツ、ペットボトルの甘味料への不満、
ポコンと酒玉が胸から抜けて良い気分になって乗ってたタクシーは代々木で。
反対に最低のタクシードライバー。
訴え損ねたもんだ、
訴え方を知らなかった・・・・・・。
熟考するベーシスト、そして自由ヶ丘のバーのホームシックな外人、ジョン!

生きるものは今でも生きている、死ぬものは死んでしまった。
水タバコをやってたひと、水死体になったひと、歌がうまいひと、もう先はないと震えてた。

お前がのぞむなら、世界をやるけれど
世界をもらって、何も変わるまい

なんでって知っている筈だろう、どれだけの死と、屈託のない笑顔をみてきた、
それからどれだけ詩を書いてきた。しかし言葉は尽きない!
ねぇ、ちょっとだけコーヒーを頂戴。それから五百円を頂戴。
領収書を書いて頂戴。そうだった、税理士にあったことすらない。

脳、が
ねつ造できないあの東京を
倶楽部を、僕は薄明と呼ぼう。
薄命とかかっている。

 


郊外

  田中恭平

 
夜の郊外の
ひかりが上下振動している
風車のように山の向こう
闇が回転している
いい風
滋養ある風だ ふふっと笑いながら歩く
背中がバッサリ斬られていて、歩いたあとに白い血が光る、のを
僕は後ろから見つめている
だから。
激痛に快楽を感じつつ夜の町を歩いていく
テクテク、テクってく
これはナイトクルーズ
夜の遊泳は薪小屋でつくった歌を歌いながら


 だれも悪くはない
 きみの悪いな、という感情が燃えてるだけ
 気付いたら踊っていることがあるでしょう
 ほんとだよ



山河から上昇 ho ho と叫ぶ
犬が呼応する 僕は犬にまでなってしまったか
川の手前には馬頭観音菩薩像がある
犬が昔ここで沈め殺されていたのだ

ときどき想いだす、根っからのセンチメンタリストで
だから。抒情の壁を嘆きの壁と呼ぶがそれはノート・パソコンのウィンドウで
録音する 振動する信号機の音が入る
ピー ピー ピー 吹き込む 「イエイ!」
嗚呼、煙草を一服。 今 全宇宙と交信中・・・・・・

drag on dr. drag in die drag on ice? ??
上昇 下降 水中にいるさ 例えここが大きな岩の上でも
みんな眠ってる 夜は鎮静の方へ向かう
一方でアンフェタミンの方へホワイトサンダーが走る
ざー、ざー、ざー、ざー
恵みの雨に、髭まで濡れている、己の自己愛が嫌になる もっと軽やかに活きたい

携帯の電源を入れる
明日のきみを救いたい 勝手な願望 または冒涜
安心したいだけ 俺が、俺が、俺が。

見境なく木々を蹴り飛ばす
ナイフでズタズタにする
その分人は傷つかなくていい
傷は癒えない
だからつくるな、もう

干渉野郎 十分なメダルだ 寝室に飾りたい
立てかけた写真
僕は写っていない
Ho ho ho

点々と白い血の後を帰る
血はバクテリアが食って発光して星になる
森が、路傍が宇宙になる
その宇宙を
僕はジャンプした、

イエイ!!

 


希望灯

  田中恭平



頭の辺りに僕の血が帰る、
飛散、していた血が帰り
冷静となり
耳に冷たい花をつける
二人は口づける
鳥の嘴のようにカチリ、と
憂鬱と、怒りと
種は蒔かれる、
僕は哀しくなる。
生きているのが許せなくなる。
自分のことだ、、、

もう短調の曲は要らない
天国の味をしめてしまっているんだから。
徒労しているのは営みで
営みに依存しているんだ、

胸が苦しいのは
カフェインの摂り過ぎか、、、

今朝いつ起きたとか
今朝何を食べたとか、
そんなことはどうでもいいのに
時計に
それからパンに
僕らの会話は唯物論者のような舞踏しかできぬ
そのように語りむなしくあらねばならぬ
ぶちやぶってやる、
ぶちやぶってやろう
僕らにはポエジーが在る。

何が流行だとか
スターに胸を痛めないように
音楽を聞いて鈍感になりつつ
実際、鋭くなっている

嘘のていか、
または鈍感で同時に鋭くなっているんだ
嗚呼、天使の羽が空気を切るぞ!



俺はカフェ イン で酔っぱらっちまって
フェード アウト してゆく怒りのこころが
書けば再燃するぞ
グシュウ、

汚れているものを
汚れているもので守っている
ずっと
水は水に濡れていた
(これは余談)

ここは木屑でできたふたりの寝室で
その明るみは透明性を保持したままここに在り続けます
死はもう勘定の内に入りません
燃やし尽し、されることを生業として
桜の木の下自分を失ったのは誰でしょう
古い
古いお話です
私の眼は今を見ている
今、は動いていないぞ
そうして、自分の頭をキャンパス・ノートの前に固定させておいて。

昔はむずかしく語ったものだ
昔が、五十六億七千万年
前か
後か、もうわからなくなって
でも考えることは止められない
いつでもふざけたことを考えている俺は飛行士にはなれない、
体をはって壊すことしかできない、
それは否定ではない
できることは事故を起こすこと


風が吹き、アクセルを吹かす
頭のなかに風が吹き、頭から白い煙をあげている男、
イエス・キリスト!
生まれながらの手紙書き
とおいあなたへ手紙を書こう、帰れたら
蜜蜂のようにはやく帰ろう
蜜蜂のようにさっさっと書いてしまおう

あなたは眠っていました
(体の半分を影として)
闘い疲れた体はぼろぼろ、
でもそうは見えないからうつくしいね
と、語りかけないように
きみの隣で眠る
きみと
反対方向を向きながら
この部屋にはサティがスロウに流れている、、、

おならのように恥ずかしいふたり
時もしずかにみつるのでしょう
働き盛んな蟻が一匹、
白い壁を這って
もうすぐだ!
もうすぐ灯りまで届くぞ
アウト、
してカメラは庭をうつしている
百日紅は、灰皿は最悪だ
つつじはうつくしい
仮に生まれ変わるなら人間じゃなくてつつじだな
金勘定に悪戦苦闘
やなこった
呪いに洗い
やなこった
という私は天国生まれ
冴えない頭は現実酔いです。

日は冴え冴えとくうきを送る
僕にあなたに
世界は終わらない
世界は弛緩してゆくだけ、、、
ぼうっとすれば絶望的で
強くあるなら希望になろう
よい匂いのするあなたが
ぎゅっと手を握りました。


 


春の川 自由律俳句百句

  田中恭平



ていねいに字を書く朝(あした) 

仏壇にあげる茶がなく水とした 

いつの世もこんなもんだぜって歩く野良猫 

すべからく澄む、終わりのはじまり 

愛を負って走る自転車チリンチリン 

どろっとした泥に自分みつけた 

豊かに苦い土の塊 

きみのため大切にとっておく職安のプリント 

くすりのんでくをすることの雨あたたか 

嬉しいことのそして風呂を磨く 

何か飛んで静かな朝のくらやみ 

体冷えきって静かな冷汗をふく 

早起きしてぼろぼろの体整えとる 

ぐちゃぐちゃな体ととのえてさびしい 

きみを願って今朝も働きに出ていたよ 

わたしの中にも仏性はあってほしかったのに 

敢えて定型
二十九の大路に母は喜ばず 

寒い日は寒さたのしむ床の中 

良い湯いただいて枝を折りとるおと 

わたしとひとは地球と月のとおさだよ 

火ィ消したか消した消したさむ、さむ 

もう聞かないで言わないで、雪、雪 

今ここにあるがままといって年とった 

ほのかな紅のめんこさと会う 

天使がいればあなたである 

カップのコーヒーこびりおとす十本の指だ 

障害に負けず息吹く、山の雪をみにいこう 

地球回転太陽煌々、そらいいぞ 

冬の野焼きはわたしが燃したここちする 

両眼泣く世の定めとしての大みそか 

野暮を競って芋ばかり食む 

つつがなく明日も今日の雑草として 

太陽にこにこ俺はまだ竹のごとくに 

竹のひかり充ちること体にいりくる 

さびしがらせる幻の声をまた聞く 

もったいなくも物捨つることやり直すため 

猫の寝ごとの昨日の鬼が怖かっただろ 

ねぇ子供すべてを知って飽きていくのか 

ひかりのどかな日洗濯機まわれ 

今日の昼食下げて父くたくたと帰ってきた 

敢えて定型
雪割草南無不可思議光豊潤苦 

寝すぎてはひとひ終えるに力の余り 

泥棒をしてこころの悪さとして鬱する 

北窓塞いで本の中心におる 

紅葉かわきゆく我がこころをみた 

賀正しんじん情けはひとを重くする 

図書館わたしの寄せた本があって嬉しい 

歩き足らない日を口中に埃の味 

仕事のない冬はつらい 

吊るした汗だらけのズボン 

春の川きらめき胸のそこまでながれ 

春の川神様になにもねだらず歩く 

春の川もう歩けないほど歩いてしまった 

春の川たたずむよくわからない体と 

ぽっと何やら春の川にひかりながれ 

いっしょに歩く春の川のとなりをきみと 

湯冷めしつつ縁側出ればゆうやけこやけ 

日がとなりのお寺へおちる 

脱世間月天心眼介宇宙 

すべての道は母なる樹へつづく帰る 

ここにある今筆をとり書く 

また幻聴のして野に咲く花は黄色い 

野に出ることもなくなり冬の金魚 

流れ歩くことお地蔵さんがにこにこ 

救われようともせず雑草は生える 

笹ゆれているくもりの日にひとが恋しい 

たゆみない川、会えないひとに会えない 

陽の甘そうにしかし冷たい風だなあ 

濁りやすいこころに新芽芽吹いた 

ひとり眠れば正しい時計 

安定剤含んで文句を捨てる 

低空飛行のことばを排しどこまでも 

よい仕事をしたあとの缶コーヒーの甘さ 

古い日記捨ててよい夢をみる 

皿が沢山在る 

髪ぼさぼさの物臭坊主こそわたくし 

止まれば山の歩けば山の山又山 

しんとした部屋にペン走るおと 

冷えたこころいやされ雑草のひかる 

川見て川としてながるる 

病者のそれはそれなりのくらし 

今はよろしい春のぬるい風受けつつ 

峠さびしい犬がずっとないている 

雑草ひかりわたしに春が芽吹く 

あたたかい部屋落ち着いて書く 

たんぽぽぽんぽん庭に咲く 

すずしさか寒さか朝のくうき 

シャッター開けると星を見つけた 

勤労の汗したたらせ帰る 

よい湯の今は自分の体を信じられる 

つつじに蝶の休息 

雲となる日まで草でいるわたくし

猫が風を求めて走る 

わたげのたんぽぽふっと吹いて縁側に座った

恋しい夜のしかし落ちつけてひとりで 

元気なきみにみえてふたり坂道下る 

ふりそうな空の暑さだけ残る 

ふたりのり弁食べてみどり濃くある 

さびしいなぁ、あそこの草に苛々する 

水飲んで醒めていく朝 


 


蘇生幻想譚

  田中恭平


またやっちまった、
月にミサイルが突き刺さってら
心臓が変奏して青くなってら
ドクダミの白い花が咲いてら
とんとん、と
夜を靴でこづく

虫の声が聞こえる、それは
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀佛と聞こえるが
寺が近い所為か、実際には求愛のコールらしいが
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏
僕の耳は白い
僕の顔は浅黒い
もう夏だなと、冷えている耳


五丁目で語調を整え胡蝶蘭。
と言ってみた
誰もいない気が、しなかったから言ってみた
庇護者かも知れないと思った
携帯電話は家へ置いてきた
御金も置いてきたからとても不安になるのは何故?


白い粉、アーバンな午前四時、シャッターが上がり
呪われた者同士が言葉を交換しあう
僕が案山子に語りかけてみると
肉欲を迫られたので、つんのめって、バア
遊びではいけないのですか?
遊びだからいけないのです
それにセイコウしても丁稚が生まれます
なぜ?
その児は生前真珠を飲んで喉頭がんで亡くなりました
嗚呼!
これが絶望ではない、


テクテク、テクっていくと案山子は元の茶畑のなかに戻りました
それで宜しい
僕はラッキーストライクを吸い、玩具のカメラで歪んだ町を
もっと歪ませて録ました
その晩僕はそのネガに呪われて、死にました


次の日、生き返ってみますといつもの天井でした
昼食は天丼でした、蠅が飛んでいました
なぜそんなことを訴えているかというと自分でも定かではないが、
最近話し方が可笑しいのです
先生に診てもらいますと
これが何に見える? と三本指を出しました
私は答えました
三本です、
もっと言いたいことがあるだろう、
ホラ、これはただの指だよ、
うまい具合に調律があっておるから、人間としてはおかしい
どういうことですか?
きみは一度死んだかね?
精神的な意味で、ですか?
違う、二元論ではないんだ、
精神と肉体とかじゃなくて、端的に死んだのかね?
はい、それは歪んだ町のなかで動けなくなりました
ネガの中に入ったのかね?
はい、すると玩具のカメラごと燃されてしまったので、
僕は自分で勝手に死んだんじゃないかぁ、と思っていたんですが。
生きとるよ!
ああ、そうですか、とするとやはり蘇生に成功したか・・・・・・
何を言っておる?
それより先生は今でもお煙草は?
吸っとるよ!
やめられないのが、人間ですねぇ

月にミサイルが突き刺さっとるが・・・・・、
アメリカがやったんでしょう
北じゃないのかな
先生はなぜそんなに聞きたがる!
きみのことに興味関心がある、
案山子の方がよっぽど役に立ちますぜ
あいつらはおったてるだけだ
先生だってその気があったりしてな!
何をふざけたことを!!
ああ、五月蝿い、五月蝿い!
大体あんたは精神科医じゃないじゃないか
ただの歯科医じゃないか!
──それはきみの妄想だよ
誰?
──きみは失敗作だ
誰?誰だ
──きみは失敗作だ
──きみは失敗作だ、ゆえにうつくしい
なんで失敗作であることがうつくしい理由になるんだよ
──完成しないという幻想を込めた
誰と話しているんだい?
百分の一を作ったヤツです
統合失調症の発症率か、
──どんなに高い塔を作っても、バラバラにしちゃうよ?
俺は普通の人間になりたいだけだ、今は、
──過去の罪状を今泣いても遅い、邁進せよ、
気付くと
夜を、靴でこづいている

 


回帰幻想譚

  田中恭平

 

 それは一般的に海と言われているが、わたくしには恥ずかしい果実、葡萄の崩れたものにしか感じられない、で、歩いていた、ら、白い砂がわっと風で舞い上げられて、口内に、眼中に入ったが為に、あららとお道化るようなオーバー・リアクション、スローモーション、が少しかかったこの世に於いて、「ボクノ、コエニハ、ディレ、イ、イ、イガ、カカカッテテテッ・・・イル」と呟いて、ペッ、ペッ、と砂塵を口中から吐き出す。眼は大切なので慎重に涙に任す。顔が洗いたいなと思う。

 「弥勒菩薩はとしおえん、弥勒菩薩はとしおえん」
 蒲公英みたいな黄色い帽子を被った幼稚園児がそう歌いながら歩いている町へ出た。俺は魚だった。まるで。廃れたスーパー・マーケットで売られているような魚だった。おえ。気分が悪いよ。まるで。そこを虚無僧が通っていった。俺を喰って成仏させることもできない、清貧な坊さんだというか。昼、虚無僧はラッキー・ストライクを駅前で吸った。俺、袋の中から見た。まるで。煙草の草は天高く浄土へ辿りついただろうか。その晩俺の首はバッサリ斬られた。まるで。
 
 二つのエピソードが脳の中で葛藤をはじめつつ、パソコンに向かってキーボードを叩いている。ぶちまけたいことがあるということは悪夢だけれど、いい悪夢だね。だね、って誰に言っている?書いているんだろう?きみのオルグをやんわりと拒否し、軽快に歩けるのはポケットの中に御金が入っていない、財布が入っていないから。さいわいだね。不幸だということは。この階層までおりてくるものはいない。と、やっと顔を洗えた。公園。ラッキィ。ひとつラッキィがあると、もっとラッキィが欲しくなるもので、何分自分は努力もしないのだけれど、書くことは好きなので物を書いている、内に巧くなっていったのか、好きこそものの上手なれ、ということだねぇ、と魚の首がつぶやく。頂きました。ちょっと焼きすぎてしまったね。畜生にちとくれてやろうと思うたが、畜生のヤツグルメになって、今じゃ私すら喰わない、鮪のヤツばっかり食べて、鮪のヤツ地獄行きだよ。可哀そうとも思わない。あんなスピードで生き急いでいるから悪い、と蛇口をしっかりしめると、蒲公英みたいな黄色い帽子を被った幼稚園児ふたりが俺の方をじっと見つめていた。俺、変?「ねぇ、その歌どこで覚えたの」と声をかけた途端不審者がられるのか、妄想なのか、その境目がわからずに、俺はその幼稚園児の腕にぎゅっと抱きしめられると、中川家の猫になってた。で、俺みたいな魚。まるで。を猫な俺が食ってた。なにこれ珍百景。泣いていいのかな、
 

 気付いたら走り出していた。浜の俺は、魚な俺は、猫な俺は、自分でもうつくしいと思った。何かグッドなフィーリングだと思った。特に魚な俺がグーンと碧い海の影から明るみに出る時その一呼吸だって捉えて、ぎゅっと粉砕する、浜辺な俺だった。指からこぼれ落ちるものがあった。きらきらと輝いて。なにこれ珍百景。パワー!!絶対この後鬱になるなと思ったら、感じただけならまだよかった。俺は書いている。少し蒸し暑い寝室で。
 

 今はギロチンに興味関心がある。聖母に興味関心がある。乳房に興味関心がある。クリープの粉に興味関心がある。こころの底から笑ってみることに興味関心がある。ダーンス。が済んだら、またつまらなくなるんだろう、俺の、わたくしの両指よ。あったかくなったこころにやっと入れ物が見つからなくなりそうだよ。でも、それは絶望ではない。多分!


#06

  田中恭平


昨晩の大雨が嘘のように、時計の針の残像も消えてしまった、今朝も僕の魂は病み、潜在的犯罪者にされてしまう僕は、僕らは道路の右を歩くのか、左を歩くのか、ふと考えては忘れようとして、する。政治。反対に生活は静か過ぎるもので、今わたくしの耳にはパソコンのファンと、隣のマンションの幼児が笑う声しか聞こえない、耳が四枚あっても是なのだ、白いビニール袋を溜息のようにデスクへ置き、わたくしというこの充つ蒸留水は、けして曇天と喧嘩しようなどとは思わないし、彼ら雲達も考えてはいないだろう。龍神。の、ことを加味しつつ、あらゆる天災はメッセージなのだろうか。ひとはそうあって欲しいのだろうか。龍神。は、遥か高みにおられ、我々人間のことなど眼中にないのか、ふと考えては忘却しようとして、する。ということを先程書いていた。その間蒼い炎は蛇口を捻じ曲げ「アラーは偉大なり」という言葉と共に消えていった。ほのおを誤って書けば、ほのうとなって歩脳と変換され、脳が歩き出す。その1リットルが歩いているのは砂漠なのか、ニューヨークのセントラル・パークなのか知れない。大体、神は概念であると言える立場にわたくしはまだ滴りと怒りの沸騰を挙げられる立場に、いないのだ。ここ郊外は世紀末をひきずっていて墓ばかりある。我々は残されたものでしかない。それだって生活にはなんら支障のないことだった。筈だった。傷つけることも、自分ならば、死ぬことも、他者ならば、嘲ることができる、けったいさを許してほしい。そう書く己は赦せないけれど。昨晩のこと。昨晩のこと。死神が勤労中にも関わらずかまってきた。死神といえど神なので、幻聴と知れようが、四枚の耳で聞いていた。知り得たのは、私は未来より見られるものだということ。必死の抵抗の末、といっても丹田式腹式呼吸だが、職場で発狂せずにやり過ごし、微熱が言葉に変わる幻覚のなか必死振り払って帰ってきた。帰って寝室の床に尻を落とし煙草を喫った。死神。死神は去った。ざあと梅雨の嵐がやってきた。さもあらん死神も入ぬ梅雨の室、にはならなかった。忘れることのできない幻影は夢のなかに雪とし積もる。眠りに眠った。カラン、と茶の氷が落ちる音で目覚めた。キインとしたその氷音──造語、が耳鳴りのように今も残って、落下傘部隊が落ちていく間に、僕はガムを噛んで苛々を殺している。ざっと90グラム噛んで、腹が緩くなっている。緩くなって、緩くなって、どんどん細くなっていく。そのまま消えてしまうんじゃないか、という光りの中に一人居る。透明なこころ、滴して晴れろ。回覧板で今日も喪報が回ってきた。花は喋らないからうつくしい。ただ生きていますとメッセージしている。また花を捧げなければならないのだろう、と考えていたら今まで実際してきたのか疑問に思った。花の真実も知らないで。人間より植物の方が偉いのに。茶色い戦争、とは言い得ているな、とふと考えて忘れようとする。サーカスの道化師の哀しみよりもっと深い生活の哀しみがある。観客さまは皆鰯なのだ。弱いのだ。アメリカが内実アラーの神を畏怖していることは知っているが、等しくそれはYahwehなのだ、と考えた瞬間、何かのボタンが押された気がする。いとも簡単にあっさりと。亀さえ啼く国に生まれ、獰猛であってならない理屈はない、からここまで書いた。僕は詩をやめようと思う。煙草をやめるより難しそうだけれど。嗚呼、でもこんな戯言、あなたの眼球に映って良かった。


(遊泳の為の)リハビリ

  田中恭平

 
熱っぽい体、──煙草止めたんだ、
何も想起されて現れない空を飛んでいる、
自由は寂しさに似て。

クーラーの螺子が
水を発し、
ギュルギュル回転する音。
 ブロウ、するマイルス。

私は濡れていて一人だ。

分解できるくらい一人だ。

湖水。
カワセミの白と青が反転する。
湖水は空だった。
私が倒立していたから。

樹をよりどころとして
よりどころは樹しかなかった、
嗚呼、父なる樹よ
呼んでも黙し
揺れているだけの樹よ
枯れる樹の
枯れる前の樹よ。
母はこわいと言っていた。
だから地面が心臓を握りつぶした。

私は
電話の向こうのあなたがこわかった。
──うん、煙草止めたんだ、

冷夏じみた午後に、
「枯葉」が鳴っている、
僕は中空で眠らされている水か
脚がムズムズする、
足らない鉄分

欠損は世界の至るところにあり光っている。

きれい。

八月の郊外の夜
マンションの廊下、
また蝉が死んで落ちていた

 


#08

  田中恭平

未だこんなに熱を持っていたのかよ
と北東の寝室に冷える
僅かな痛みは、コピー用紙の上で鮮やかな赤となった
紙コップ
清涼飲料水
スズキ君
スズキ君はいませんね
メスで切る心臓の部位は、緑色に染まるキッチンの昼食となる、
黄昏まで永い、どれ位のジャズを聴くことができるのだろ
スズキ君 スズキヒカル君
スズキ君はいませんね
骨は体感として煤となって国旗を汚す
いけない なぜいけないのか知れないが
きみはいってしまった
可能性?
のなかで欠伸をしつつ白い花を見ている病者の祈りは
よくあろうとするという病気に
みんなかかってしまっていたそのときを越えて
地震は来る 祠が毎日教えてくれる
毎日 歩いて通う 
汗だくとなって帰る
時々コンビニへ寄る
馴染の店員さんとジョークで笑う
ボロボロの切手一枚を大切にしている
白い樹が杖となって
万緑は暴力となって
外からは見えない痣となっていますので
みなさんお気をつけて
気をかけてやって下さいな
そんな地点から俺をみるな
嗚呼、山鳥が飛んでいるな

鹿の啼く季節だな
踏み込めば白さ上昇する
ほのかに嗅げばまだ命に未練ある
つかれている
鳥のように
食われている
鳥のように
食らっている
もののことは話したくない、汚いから
逃げたいからいっそ幽体となって
あなたと彼方交わす再会のキス
記す、丸太に斧を入れたら甘かったよ 香りが って
時計が壊れた
また壊れた
時間がおかしくなっているから
致し方なし
梨をほうばりつつ
椅子がバラバラに解体されていく
いつかの災害の
記憶のように
整理される暇を
僕らは潰す
ようにしかし楽しくできもしないのに
写真は真実を映しているから嫌いなので致し方なし
良好な天気、お天気さんが黄色いブーツで走っていった
僕は虹を見た まだ枯れられる余地はあるとおもった
だけで、体の余裕はなかった
ニコチン中毒だった おーまいごっと
最近走っていなかった
だらりと蝋燭のロウとなっていた
腹が煮えくり返って、音だけがうつくしかった
と錯誤させている身体があった
乾いていた 煮えていた 人より自転車に乗れるのが遅かった
歩こう 
何に急かされて?
携帯のバイブレーションを無視して
空白をつくろう
その空白に言葉を書こう
丸めよう
燃そう
神さまはゲイであることの、
スズキヒカル君
とんでもない失敗は記憶に残らなかったくらい幼かったから
お金が燃えていてうつくしかった
またうつくしかった
うつくしさには飽きる
この人生にも飽きてきた
白秋なのね
作戦を練ることだ、
ときみは言って
嗚呼、ここまで覚えている
Yes と僕は言い
警戒線を解いたら蜘蛛が逃げていった
垂れこめる雲は黒く降りそうでふらない、
煙草の煙を足してやれ
雷の音はどうしようもない
どこにもいけない幽霊たちが
痛みとなって俺を撃つ
ふるえる
ねむる
起きる
働く
たのしく
死んでいく
キーンと飛行機していたダンデライオン
鳥達に食われて死んでしまったアイデスで
なんで背中から鉛筆が出てくるのか誰か教えてくれないか
9時45分 スプリットキック聞いて一日をはじめる
アートブレイキーの、
を、パソコンのWordに収めちょっと眺めていた
スズキ君はいません
死にました
まだまだ冷えるのか
シャワーを浴びようか
考えて
もいないけど
感覚的に動いているだけで
僕に
足はない

 


#09(回想タクシー)

  田中恭平

 
焼け爛れた腹の底から礼を言うよ
(否定──、黙認、馬鹿野郎ふざけるな、という怒号
キャンディを舐めている
キャンディを 
ミルキー・ウェイなキャンディで
気分宇宙旅行)
そして孤独
さびしいという感情を俺は知らない、
そもそも論さびしいがどういう状態を
こころの状態を指すのか、
俺は知らない
否──こころがわからない、そもそも論。) ガクッとオチる運転手
信号は赤
24時間、信号は赤
なーんだ、心臓か苺のことですか   週刊誌をめくる運転手
俺はフレディ・マーキュリーの動画を眺めている
すると
口のなか、一杯に練乳が放出されて耐えられなくて出しちゃった
(ごめん! 誰に謝っているんだろう、すいません! この罪悪感はどこからくるの?)
死んだ木を奏でていると、自分が多重化する、
ひとりがふたりになる
右と左になる
保守と改革が牽制しあって、ギターは奏でられる
フィ―――ド、バック・ギター!!
「兄ちゃん、なんやそんなけったいなもんもって、田舎じゃまるでチャカやがな」
タクシーが赤信号に飽きて発進
僕らはトラックにぶつかって粉々に砕け散った、
路傍に放り出される苺たち。私の死んだ国で買ったんだった、私の死んだ国で、俺──
兎だった。
人間の言葉?を、話せる虎達に食われてしまった兎だった。絶命の瞬間思い出した、
絶命の瞬間が、一番浄土に近いからか、色々なことが解ってはすぐに死んでいく。
(大学で哲学を専攻しつつ「脳病になる」といって辞めた正岡子規は晩年
 それこそ死期が近づいたとき、あのときのわからなかった哲学がまっさらわかった、
 と言ってのけただか、書いたりしていたそうである。参照先はない。参照なんてつける
 偉く見せたがり屋じゃ、俺はない。)
なんの話だっけ?
そう、俺には臨死体験が三度ある。
仏に好かれる身を持ち辛い。
一度目は、時速三十キロの道を六十キロで飛ばしてきた自動車に轢かれた。
自転車は粉砕し、僕はスローモーションで中空を飛んだことを覚えている。
その日のデートは行けなかった。長い髪のあの娘の肌は白くて夜に栄えていた。
その透明性に触れることなく、ふられてしまった。果実。果実のように恥ずかしい。
二度目はK寮にいたとき、ジャック・ダニエルを半分飲んで眠ったのだが
煙草の火をしっかり消したのかどうか忘れた。夢のなか、僕は幽体離脱していた。
K寮は豪快に燃えていたので、嗚呼、これ死んだわ、と思った。
目を覚ますと、いつもの天井だったが、もうこれ以上酒を飲むのはやめようと考えた。
冷汗をかいていた。部屋の壁中が汗をかいていたのだ。煙草も濡れていたが今でも辞められない。
三度目の臨死体験は、過酷なギョーカイに入って不眠症になりながらも激務をつづけたことで、統合失調症の起因は多分このケースだと思う。三日眠れないで、三日眠れないと死ぬと思っていたが、医者には行かなかった。精神科の「せ」の字も知らなかったし、まさか自分が狂っていっているなんて信じられないくらい元気だったから。花が小指のようにうつくしかった。公園に向かい、一晩中花を見つめて過ごした。幻覚は道の起伏からはじまり、気づいたときには町全体が波打っていた。ドラゴンの地下活動だった。パートナーが田舎まで俺を送り届けてくれた。新幹線の中で俺ははっきりとヤハウェを見た。僕はあの町を去ることでドラゴンの地下活動は終わる、やった、俺は町を救ったんだ、と感涙の涙と笑顔でパートナーに「愛してる」と告げた。
彼女は黙ったまま何も言わなかった。
 何の話をしているんだ?
本当の霊能力者、宮沢賢治さんとの魂の邂逅、家の北東のクーラーの中に住んでいる鬼の小僧、隠密、中島らもの幻影、南無阿弥陀仏に悪人正機説、ニルヴァーナの海賊版のライヴ版CDコレクション、carinという名の小さなギター、グッド・ウィル・ハンティングのDVD、磁場がおかしい場所に建っている家、スクラッチ音、ほったらかしのジャック・ダニエル、おくすりカレンダー(全然使っていない!!)、パートナーとの朝晩二回のTEL、ペロスピロン、タスモリン、リボトリール、それから労働。馬鹿だと思われたくないので何も喋らないで黙々体動かしてもうすぐ一年。最近出たラッキーストライクの新しい青い煙草良くね?アイコスいいけど高くね?
の、
中で僕は言葉を紡ぎつづける。
ストレス、
ストレスを食べて、
正しく体を壊してゆく、
反対、
ストレスに耐え、
正しく体を鍛えてゆく、
バランスだといえばそうだが
分裂とも言えそうだ、
星、
田舎から観る星はいいぜ。
夕焼けは都会人の絶命の赤い血なのさ、
凝り固まったその魂が星なのさ、
墓ばかりある
墓ばかりある
デイサービスばかりある
(サニーデイサービスばかりある、CDラック、クラック)
まるで人生のロードマップ
今走り抜けている道路そのものが人生じゃないか
原チャに乗ってる、
待ち侘びたTEL、
鳴らないBell。
次の一行の冒頭が俺の直感で
それにつづくフレーズが俺の理性だ、
スカッド、
スカトール、
便器に首を突っ込んで死ぬまで、
書きつづく、
涙に強く、
タフに、
しかしどうしようもなく脆弱なままで、
竹がしなって、
何か失って、
気づかないで。
忘れないで。
ほしかったのか
また言葉を書いている、
ここに一つの携帯がある。
きみの着信があった、
携帯がある。
きみを目覚めさせる為に、まずは僕が目覚めよう。

 


#10(キープ・ザ・ローリン)

  田中恭平



怖気づいた僕は呼ぶ、
お父さん、おとうさん!
ぬかるみはうつくしい蓮の華を咲かせた、
夏も終わり
終わったんだよ
恋焦がれている、オン・ザ・道路
説明書を読まなかったのかい
説明書は読めなかった、
日本語って難しくて
ぬかるみだろ、
ザクザクと裂かれて落ちる新聞紙
自由、
より甘い言葉知らないよ
この世、はあの世
否、
あの世でこの世は地獄だったって気づくのかなあ、
一切皆苦、瞑想のようにギターを撫でて、
ギターの愛液に蜂が寄ってきます
秋の蜂が寄ってきて、
その眼のなかに
すすきっぱらと秋津蜻蛉の群れが飛んでる。
僕はピーッとハーモニカの高い音を出す、
夕暮れ、
青春の終わり、
どこまで走れば。どこまで走れば人に会える?
いい人に、良い人に会いたい。
水晶世界の洞くつで死んだように眠る、
毎朝毎朝、夢をたべて生きる、
書けるよ、読めるよ
ともだちできるよ
人生変わるよ
ハハッ、すくいの言葉は苦行の顔を連れて
あお鯖のようにそれは煙ったい、
くすぐったい。
さやさやしているから、すやすやしているから
落葉のなかに宝物を隠してあります
それは死です
おとうさん、おとうさん!
詩ではありません、と忠告する詩人
飽和する粘菌、すすき野原に雪の気配、
お祭りがあります、
僕は労働しているのでいけませんから
人生をお祭りにするばかりです。
仮装しても
制服を着ても
正しい自分にかえるだけ、
だからといって裸になると捕まりますので、
川魚を釣って満足するのです、
電子タバコを吸って
満足するのです、
できっこないけれど、だからああ苛々する
あそこの樹に苛々する、
人間に苛々する、
自分に苛々して、
日々に苛々して、朽ちるときとても後悔しそうなので
寝室をきれいにして
キース・ジャレットを流して
一抹、
一抹の安心を中くらいまで大きくして、
鏡の向こうの鏡
出られそうか、
生きることが難しくって、
息ができれば奇跡だぜ──ボブ・ディラン
ヒートしていく自画像、凍傷で、
黒い色をぶちまけろ
夜の花より黒く!
一匹の蚊への謀殺が人生にオイルを塗ってしまう、
もがく!
ぬかるみ
信仰していますか、あなたは信仰していますか
行と信ならばどちらの座敷に座りますか、
このフェーズで
生きているだけでいいという境地に僕はいますが?

 
 


家 その他三編

  田中恭平





その声は少し歪んでおり
脳のなかにいるかのようだが
どこまでも追いかけてくる、
ハニートーストをかじっていても
ホット・ミルクを飲んでいても
偽りの童心が浮かぶのみ、
逃げ込んだトンネル
幽霊が、
幽霊が怖いんだよ

世界が薬を飲み干して熟睡、
悪意は寄せては返す波のよう、
郊外の町中なのにね
いっそ放り込んでしまえ
自分自身を
ダダイズムから禅へ
禅から個の全へ
自己暗示で宜しい、
あたらしい遊び
本気、
本気の遊び、
最近眠れないぜ、

──ききあきたシーディーがあれば売って下さい
そんなに神経が鈍麻な奴がいるのか?
今日もノイズ、にヘッドバンキング
見つめているんだ
逃がさない奴を
そいつに近づくと
そいつは泣いてしまうんだ
俺は消えると取り繕って
ミルキー・ウェイ・キャンディをやるんだ
やれやれ
これで家族だなんて。


再訪するあなたへ

妖しい、妖しい、
最期の煙草は
煙突として
白いミルクの蒸気を吐き、
みんな妙に
怖れているみたい、
わたくしもその内に含み。
気にしていた一日鳴りつづく警報機が止まり
安堵の溜息を吐いても、
なにかしらの進行が
止まっただけなのだ、
アーメン、
スパゲティを平らげて、
すこし元に戻してしまうことの、
儀式はどこかで
密やかに行われている、
痛みを、
痛みを。
アーメン。
聖痕の、
額から肺にかけて、
飛び立つ勇気は、
理想のみ、
で、
歯痒い。
クイカイマニマニ歌いつつ
ホームに還ってきて、
くれて、
ありがとう。
さびしかったんだ。
きみの、
いない五日間。
塔の中で循環していた。
 

 ELEGANCE

幽体に近い、
この体は、声は。
朝の活力を求める、
枯葉の滴を原因として。
たかぶる、
闇夜激しく
愛しあった
夜と曙は。
ミルクの中から
熱を帯びてくる、
コップはとうに下げられてしまって、
天使の翼は本当は汚い。
あちらこちらを飛んでいるので。
というのを、
視ている目は
路傍に置かれており、
花を愛している。
花に、毎日、ラヴレターを
書くほどに。
すべての音を消して、
アールグレイティーに神経を注ぐ。
神経は弛緩していたのだが、
張りつめる。
動悸がする、
薬を服す。
飲んだ薬は天上で回収される、
それもきれいなものではない。
朝焼けがきれいだ、
旅人もきれいだ、
これを憧れというのでしょう。
どこへもいけないものになってしまって
旅は
こころの中。
嗚呼、背骨より天へ逃げる諸々の感情たち。


 サムバディ・タッチド・ミー

いのちが先行して歩いていく
俺は冷えつつそれを追いかける
天国まで行くつもりだろうか?
帰るつもりだろうか?
いざこざを
愛するひとをそのままにして
俺は、

いのちが先行して歩いていく
風のようなスピード、
流行歌を歌いながら
さっきまで
肩を並べていたのに
たった一言に
いのちの態度はキレた、
どんどん歩くスピードが速くなっていった

ブロック
ポケットに紙
電子タバコ
もやもやしている煙がしろく光る夜
俺は俺を見失い
途方に暮れていたら
花に水が滴って、きれいだった
鳥が鉄のような声を上げ、
ハーモニカを吹きかえそうとしたらなかった、
ああ、哀しみという伝染病
あなたの写真を眺め
祈りを捧げた
祈りは聞き入れられ
俺は路傍に一人じゃなかった
あたたかいのか、つめたいのか
確かに手が触れた
誰かが俺の背中に触れていた。


掃除をしていたら降ってきた話たち

  田中恭平

 

 年賀状が出せない話

 そろそろ年賀状について考えてもいいころだ、と思って今年はどういうデザインにしようか考察していると、喪中はがきが届いている。
この家は確か去年も喪中で寒見舞いを出したような気がすると調べてみると、かれこれ五年喪中をもらいつづけていたのだった。
こういう時である。死神の存在を確信するときは!


 チューニングメーター

 ギターを調弦しようとしたが、その機械チューニングメーターがない。
仕方ないので自分の耳で調弦するが、自分の耳はおかしいので何度やっても失敗する。
仕方なし、おかしい音のギターのままでブルーズなどを弾く。あんまり耳汚しなものだがら、ギターの裏側を叩いて音を出す。両手を使って音を出す。楽しくなってくる。
それを聞いた森の動物たちが集まってきて、仕方がないので寒いがキャンプファイヤーを行った。
目が覚めるとお礼なのか、マッシュルームが沢山葉っぱの上に置いてあった。


 髭

 髭という存在が解せぬ。大体髭を伸ばしている人間の方が少数ではないか。髭が文化だった時代も終わり、清潔感やら、チラシを見れば健康志向というのが今のご時世だ。
頭の毛も要らぬ。すね毛も要らぬ、要らぬ、要らぬ、と断捨離をつづけていった結果、自分のあしあとさえ消してしまって
何で自分は生きているのだろうか、はてな、などという現代人が現れる。なるほど、髭はそのために生えていたのかと、その存在を解した。

 
 カフェイン

 今年は日記を中断した。変わり映えのないセピア色でもしていそうな生活を活写して何になるのだ、というか飽きた。
代わりに毎日コーヒーを飲んだ。しかし、毎日日記を書いて三年目になるんです、と人にいうと、ほほう、と何か感銘を与えられるかも知れないが、三年間コーヒーを飲んでいます、というと
別段風が吹くのみというか、だから何やねん、つまり、物を書くことは,物を摂ることの上位にあたるのである。
本当にそうか?という自分がラーメンを食べたあとの欠伸をしている。


 大道芸人の死

 ある夜のこと 冬の寒さで大道芸人が腐りかけたベンチの上で死んでいた。
ポリスは躊躇したようである。この大道芸人のメイクを落としていいのだろうか。
結局身元確認の為に、大道芸人の死体のメイクは落とされたが、それを落としたポリスはそれ以来夢というものを見なくなった。
味気ない人生になってしまった、と思ったそうである。


 詩人の夢

詩人は夢のなかでも詩を書いている。Aが詩人になった理由は夢で詩を書いていたからだそうである。しかもそれはたいそう長い詩で最初、
 よからん報せと草花は言う
の一行しか覚えていなかったらしい。時々同じ夢を見ては二行目、三行目がわかるのだが、それではいつになったらその詩は完成するのか。
 Aは口の悪い親戚から早く天国に行ってしまえ、といわれている。


 使命

ある日散歩コースをテクテク、テクっていると、絶対に風邪をひいている、という着ぶくれにマスクをかけた男が座っていた。
彼はなぜ風邪をひいているのにベッドで横になっていないのだろうか?気になった僕は「大丈夫ですか?」と声をかけてみた。
男は無言のまま手をさしだしてきた。五百円玉を一枚のせてあげると「もうすぐ子供たちの帰る時間だ。俺には子供を守る使命がある」と言った。
僕は何か間違っていると思いながら、何の価値もない自分の人生にいたみいるばかりだった。


 コンビニエンスストアの煙草

 ある夜のこと 禁煙しているが思い切ってコンビニエンスストアへ入ると
そこにはやはり壁一面に煙草が二百種類くらい売られていて、みんなスベスベしてきれいだった。
これぞ文化、といおうか辞めた身からすれば一体人間は何をやっているんだと思いつつ、ルル滋養内服液を買った。
風邪の神様が、「目で読める嗜好品を書くのが詩人です!」と云っていて、うるさい夢だった。



 ペニスが二本あってもしょうがない話

 ペニスが二本あるひとが世界を動かしている。そのコンプレックスゆえにそんな下らないことをするのだ。
さて、わたくしは上記発言で誹謗中傷を受けるだろうか?
僕も胸が痛いのだが。


 秋の月

 すっかり十二月下旬の寒さといわれるが、ある日の夜月が人をおかしくすることにも飽きてしまった、と相談の電話をかけた。
対応したケースワーカーの体は徐々に自分の体がカルシウムになってしまっていることに気づかなかったようである。
段々白熱する電話に、ケースワーカーは全身の汗でとけて消えてしまった。


 ルーティン

 金が欲しくて働いて眠るだけ と忌野清志郎は歌った。僕の人生もおおまかにいえば御金が欲しくて働いて眠るだけである。
ただ僕はテレヴィを視る代わりに自分の夢をみているのである。
それでルーティンという語感がポッキリと折れそうなところを、なんとか今宵も耐え抜いているのである。


 ぼんやりとした不安

 芥川竜之介は大変なヘヴィスモーカーで一日に百本煙草を吸っていたそうである。
その彼の遺書の「ぼんやりとした不安」だが、煙草というのは恒常的不安感を作りだすと、アレン・カー著書の「禁煙セラピー」に書いてあった。
芥川は煙草のことを悪魔が持ち込んだだか悪魔だが、どうのこうの書いていたが、煙草によって殺されたのかも知れない。
個人的に、私は私の年齢より下(三十歳以下)で煙草を吸っている子に憐れみを覚える。
いいじゃないか、禁煙一日目、全身がボロボロになって作動しないという地獄に身を置けるおまつりが味わえるのだから。


 自殺つながり

 カート・コバーンは現在でも広く処方されている睡眠薬、フルニトラゼパムとシャンパンをカクテルしたものを嗜んでいたらしい。
そうしてラリリして気持ちよくなっていたところは直接的な自殺の原因ではないとして、ところできみはしっかりとした靴を履いているか?
私は毎朝仕事の為に安全靴を履いているが、なかなか良い感じである。地に足ついている感じが大切なのである、と嗚呼、説教臭くなってしまった。
たまに白樺の木に安全靴でキックを入れていい気になっているのは内緒である。

 

 


団栗

  田中恭平

 
溜息は
複雑を
シンプルにして
ひとつ吐かれる
ふたつ
吐かれたところで
聖なる


鳴る
栄光の
鍵を
聖なる
重たい
鐘に
刺し込む

きみは芽吹き
潮を吹き
よく
整頓された
このベッドルームは
初春である
わたくし

団栗を
弄っている
団栗は
陰茎の
比喩

ない
ただ
団栗を
手で
弄んで
いるだけだ
そして物になった
きみと
貝になった
きみと
語り合って
ついには互い
泣き出してしまう
ありがとう
ごめんね
高らかに
杯をあげようとすれば
きみは貝から人間に戻る
ひととき
おかしな
空気が
流れている
それは
換気扇、
の向こうから流れてきている
まるでミルクのような匂いで
まるで家庭的なので
ぞっとしてしまったが
きみは別段
鼻炎で気付かないのか
何か言っていたのは
俺だけだった
TELで

を押して
電話は
受付に繋がって
退出時刻を告げると
このベッドルームの出口に
入金の機械があるから、
そこに入金を済ませて出なさいという旨
告げられ
俺は「わかりました」と一言だけ告げて
気持ちいいものを
自然に戻して
集めた団栗を
木の下に返して
ふたり外へ出た
気持ちいいものを
自然に返すのは
なかなか難しいことに
外に出て気付いたが
きみは
慣れているようだった
ただ鼻炎が酷いらしく
何回も
ティッシュで
かいだ鼻は赤くなっていた
ゴーン
ゴーン

聖なる鐘は
俺の頭痛となって
しろい息は
益々多く出て
俺は路上に座り込み
少し嘔吐した
きみから
ティッシュを借りて
口を拭うと
握りしめていた
聖水で
口を濯ぎ
二回かけて吐いた
吐いたところには
聖水を
かけて、立ち去った
まるで烏になったような気分
だとして本当に烏が一羽
近くへ下りてくると
きみは
怖い
と言った
アイツくらい俺は醜い
と俺がいうと
きみは
大丈夫?
まだ調子悪い?
と訊いてきたので
一年で363日は調子が悪い
と応えて
懺悔した
烏に
どうか無事に
わたくしと
この娘を
帰して下さい
日が
まだ残っていたので
日にも
願った
どうか
僕を
救って下さい、
彼女は
なぜ僕が
笑ったように泣いているのか
知っているようで
それが怖かった
ぐんぐんぐんぐん
歩いて
マツモトキヨシで
タクシーを
呼んだ
待っている間
雨のように
団栗が落ちてくる
妄想に
うたれ
奥歯をガチガチ言わせていた
何より外は寒かった
彼女は着ぶくれしていた
団栗は
急速に芽吹き
木になり
マツモトキヨシの駐車場一帯が
森となり
野犬に怖れ
僕は
両耳を
手で塞いだ
森の中を
一台のタクシーが走ってきた
ふたり
タクシーに乗り込み
僕は
みっつめの
溜息をついた
T病院まで行って下さい、
と告げて
きみは寡黙なままで
窓の外の
町の灯り
そのころには
もうとても
外は薄暗くなっていたので
町の灯りを眺めながら
眼を
きらきらさせていた
その
きらきらした眼が
好きだった
T病院に着くと
お互い財布から
タクシードライバーに
千円ずつ出し
きみがお釣りは?
というから
いいよ、
というと
きみは
ありがとう
と言った
どういたしまして
と応えて
きみが去った後
僕は病院に
ズカズカと入っていき
トイレの洗面所の水で
頭をひたした
特別な罪、

何も
あしあとを
残しませんようにと
ポケットに入っていた
一粒の団栗を
ゴミ箱に捨てながら

 


シャンメリ

  田中恭平

 
気がついたら
死んでいた
にならないように
いいえ
気がついたら
死んでいた
でも
良いような気がする、
言葉の
波を
見つめていたら
ふと
そう想う
もうひとりの
自分もいて
自転車にのって
海岸線を走って
どこまでも
どこまでも
僕、
から
遠のいていく
わたくし、

見ていたら
目が
苦しくなって
目の
渇きを越えて
苦しくなって
奥歯を
ガチッ、
と噛んで
ずうっと
ずうっと
綿あめのような
しかし少し翳のある雲を
眺めて
ひとりで
年の瀬
歩くに
足は
一歩
一歩

痺れ
まるで
夢の世界、といおーか
全身が
痺れている
ベッドの上。
悪いものには酒をくれろ、
という詩句を
目を覚ました僕は
覚えていた。
やがて去りいく寝室も
きれいにしておかなければ
もしものときに
情けなくなる、
と思うと
病も
深さ
その負荷を
身体的には
変えないままに
精神的に
重たくなってゆくのです
見つけたのは、貝
見つけてくれたのは、火

となって
踊れば
ひとは喜んで
しばし佇んでくれるが
雨がふれば
相手にしてくれるものは
無用のひと
あなたしかいない。
私はもう怖れない。
咽喉が、
咽喉が、
全身を代表して乾くのは
くすりの副作用のせいだが

になった者には関係がない。
水を、
水を、
聖水以外の水を、
注いでくれるな!

薪ストーヴの前で
見つめていると
ちくま文庫の
教科書に載った詩のアンソロジーがあって
やけに宮沢賢治の詩が
長いことに興味を持って
やはりパッションといおうか
魂を削って
書いていると
言葉は長くなるのでしょう
おはようございます
ありがとうございます
も明確に発声できない
わたくしは
怖れていては
ひとり窟のなかで
詩を、
みなさまに
読んでいただきたい言葉を
書き、
落としているが
今日は
2017年12月25日の
クリスマス
潮の白さも雪のよう
いいえ、見ていないんですけどね
聞いて
わかっているだけなんですけどね
ちらちらと
詩は
ふりそそぎ
詩は
華となり
咲き
死ぬ
だけならば
丁寧書いてやろうとして
しかし素早く刈らねば萎んでしまう
その詩の熱さに驚きつつ
嗚呼、そうか
僕はもう火ではなくなったんだ
画面の中には
眠れないものしかいない
それが聖夜なんだな
とか
考えて
書き落とす
一枚
一枚
さらり
さらり

近くの
電話ボックスでは
遠距離恋愛の女の子が
坐りこんで話こんでいるけれど
時代が違うのか
僕が嘘を書いているのか
嗚呼
もうどうなったってかまわない
僕は
完璧に
ごちゃまぜの混乱を
体現していて
両指の爪は剥がれ
キーボードの上は
血で汚れているから
それにしたって許せない
ダメヤンの奴が
どうしたって許せない
まだまだいけると
言ってくれたのに
したら
やきがまわったな
って見捨てた
恨んでいるとき
あいつの
ダメヤンの眼は
潤んでいた
全く俺の焼け爛れた腹の底から
ダメヤン太郎君のことを否定したい
しかし太郎はいつもやさしくしてくれる
でもそのやさしさの根底がうつくしすぎるから
逆に腹が立つ
俺の焼け爛れた腹の底が立つと
痛い
痛い、
痛い!
めっさむかつく
といって
窟に籠っているんですけれど
寧ろ抱きしめてやるべきかな
とか
考えつつ
蝋燭の
火を
消す、
誕生日おめでとう
イエス・キリスト
ダメヤンは
天国に逝けますよね?
それが知れたら
まっさきにぶんなぐって
「良かったなー」
って告げてあげるのに。

貝を
食べました。
CLASSICに
生で
そのまま食べました。
メリークリスマス!
ネットで買った白ワインが
今夜は届く筈なのに。


 


元旦

  田中恭平


カートコバーンのことはもう忘れよう
なんせ僕も三十になってしまった
今年三十一になったら
中原中也も
終わっちまった青春も
精神的コロニーのことも忘れよう
郊外に
ほんとうに
ほんとうに
一人だ
禁煙を破っちまったこころのように
賀正の青い空にすくっと立つしろい煙のように
いまここひとりで年始のことばに代えて書く、詩

皿が沢山在る、
見事に朝の光りに充つ皿が沢山在る
翳っているのは僕の魂だ
まだまだ燻ぶれるとかもうどうでもいいんだ
出世するんだ
忘れられ
しかし望まれる
恵みの雨のようにいいことをするんだ







時計の秒針が崩れ去って
物の壊れることは
こころが荒れているということだから
去年与えられた宿題たちに
解答を与えつづけてゆく
野に出れば
セブンイレブンで買ったアイスキャラメルラテを含みつつ
銀河がとおのいていくように
そしてそれが見えないように
ひとり
谷まで行ってしまう
Sayounara
Sayounara

そうして
また会える頃には
何物も
少しだけ変わっているね
町の変化が激しいと
鎮守の森で唇をさびしくさせながら
朗々と
涙をこらえきれない
爽やかな
爽やかな
新年でありました

涙も涸れきり
血も吐きすぎてしまいました
医師はスプーンを投げました
祖父と祖母にお年玉をくれました
祖父と祖母はその一万円を使わないで
お守りにしているそうです
善鬼神とはほど遠い
この田中恭平が
何よりも勝り難い
苦悩を持っているとして
それは大概
世のみんなが持っていることとして
語らないからわからないことを
今、書き落としてゆきます

兎に角去年も書いたものだった
己の指を頼りに
そして己の耳を何よりの糧として
もう詩人以外に何者とも呼べもしない

社会を勘定に入れれば
最底辺の病者として
かれくさを握り抜いては願いはなった

己の無力さに
言葉 精神の暴走を必死静止させながらの
マインドフルネス瞑想は
冬なのに汗をかいてしまいます

一年中人が好きでした
一人になった今もそう思います

明日から仕事
また朝の三時に起きないといけないとして
毎朝僕は神に祈ろう
ときどきは神の
直感的ダイレクト・メッセージに身を任せてもいい
きみは
きみは一年ただ元気でいたまえ
生きることにあなたは
意味があるのだから、
ないものがそう言っているのだから
本当のことなのだから
嗚呼
センチメンタルな詩文になってしまったな
もっと抒情的にきみに伝えたいことがあった筈なのに







吐息に赤が混じって終わった

  田中恭平

 
雨がひどいね
置いて帰るね

酷さの中を
歩いていた

口の中が渇いて
才能の枯渇は目に見えていた
元々
そんなもの
無かったのかも知れないのにね

見たことがない
植物を捜して
あたたかい
あたたかい地へ
行った日もあったが
結局は焼け爛れた
腹の底から
血を吐くに帰し
にやにや笑って終わります
今日という日も徒労に終わる
物が腐った匂いがする
冷凍と
冷蔵を
間違えてしまえば

置いたのは心臓
山羊の頭蓋
歌が聞こえます
聞きたい
歌が聞こえますか?
装填して
裸の
下半身は
雨に濡れています

という
想像、

どういうことか
休めということか
昨日は休みすぎた
一昨日は歌いすぎて酔っぱらっちまった
前頭葉、

損傷しているかも知れないと
己に知らされて六年
筆を休めたことがないことを
密かな誇りにしています
(ほんとだよ)

こんなことは言いたくなかった
こんなことは書きたくなかった
雪がふって
楽しいだなんて
生活主義者として
言いたくはなかった
雪をのぞんでいることさえ
この谷では罪になるのか

おもうと


断固真実の言葉を書け
俺の財布を盗ったのはどこのどいつだ
呪い
なぜ俺が汚くなっていかなくちゃいけないんだ
いいや愛している
みんな愛してる
ほんとだよ
ほんとだよ

あったかい月
眠るに勝る楽はないこと
皿に、雨
本当に参ったことがあったとして
その原因は捨て去った
たださびしいこころがあるだけだ
花の名前を一つ覚えた
嗚呼、血を吐くようにうつくしい
でも、花は強い
わたくしは弱い

手紙を下さい
この孤独なわたくしに
あなたの言葉をください
簡単な言葉の方が届くとして
ただ愛してるみんな愛してると大書して下さい
馬鹿者よ
と書いて下さい

僕はボクサーパンツ一枚で震えている

最近は
文字だってうるさくなっている
血を吐けば
血を吐けば
血を吐けば
忘れている
また読んでしまう
余りにとおくへ
それはあなたの近くへ
来たものだが
今日は帰ってきた
雨の中を
雨の中を
僕はボクサーパンツ一枚で震えている

 


sukuware

  田中恭平



日常、

不在性を
置いて
皿の上
春の雨がふりしきり、跳ねる
私はそれを
視ていなかった
聞いてもいなかった
ただ
とおくある
あなたの声を
聞いていた、
霊性が踊る、
よじれる
笑う
途端
トタン屋根に打つ雨の音が
近づいて
視れば竹たちは元気です

いって
この語り部を
信用してはならない、
大分
弱っちまっているからさ、
ノイズ
の所為で
頭を
掘った穴の中に(ほんとうに?)
入れたいくらいなのさ(やれやれ)
かよわい動悸で
火にゆるされる
その火は
鬼火だった
その夜に
救出されて
川辺はきれい
輝いていたから
ふるえて
たゆまぬ努力も(ほんとうに?)
無駄ではなかったが(していたの?)
救われて
それに酔うということはできない
それはゆるされてない
ただあなたの笑顔が
ズームに記憶され
くりくりの眼が
うれしかった、
ので
喪服のサイズを確認し
目にとめたボタン
銀のボタン
ではないが
においを
喪服の匂いを嗅ぐと
落ち着きます
も、
濡れて
漂着していた
カムパネルラ
じゃないけれど
さよならも言わずに
猶予だけ
与えて下さって有難かった
雨は更に
近づいて
溜息は
壁の隙間に入り
もう出てくることは
ありません
いつまでも
平穏無事ではいられない
だって
力が
尽きていくから、
カラーフィルムの
世界を丹念切ってゆくと
母が
居た
それは欲しいものだったので
ポケットへ入れて
三日の内三日寝る
起きると
まだ雨が降っていた


haru

  田中恭平

 
 
ささやきを
おとなしくさせて
コーヒーカップのように静か暮らしてる、
パワーや
霊性は
そこらに散漫して、
春の庭先は穏やかです、
とまるで
サナトリウムからの
手紙のような詩を書く
こころは割れてしまっている。
楽しいことの余韻が
さめないうちに出掛けよう
瓶ビールを
川辺に冷やしにいこう
飲めないけれど、
楽しいから御金を払おう

そう考えたあとに
必ず溜息をついている
薪ストーヴ
火はついていない
火にゆるされることはできない
腹に手をあててみると
病が沈殿している
胃袋はくすりで冒された、
多分ね
スコール
彷徨う足取りは深く
一歩
一歩
溜息をつく

雪山山間のきれいな川に
これもきれいだが
こころない魚たちが泳いでゆく

林の
木と木の間に朝の月は在って
座していると聞こえる
こころない魚たちの唄、

突き動かされて
しかし何かに呼び戻されて
歩道に立ちすくみ
ついに瓶ビールを買いにいけない、

ふと
梅の花が咲いている
ひかりを受けてその枝先までの醜さを
反転、
させてうつくしい。

香を嗅ぐ。
目に映る草木すべての
帰するところが
観えたような気もして
からが、
春だ

こころない魚たちは
こころ捨てたことにより自由であるなら
わたくしは不自由で宜しい

確かに地に脚は着いて
車の走行音に目覚める、
痛みを持って
生を確認する
春だ!



 


めんへら。

  田中恭平

 
 摩擦する身体
は、もう耐えられそうにない
と考えていたのに
気がついたら
幸福になっている
この不思議をコップに注いで飲む、
昔の話がしたくなった
もう歳だね
禁煙のはなしはケースワーカーに聞いた
その返答がまだかえってこない間
お目汚しの文章を読んでくれる?
きみに時間がないなら
きみだけのことを精一杯やればいいさ

桜の季節になると想い出す
それは闘争と遁走の桜であった
若くて財はなかった
ロックンロール・バンドのリーダーだったんだ
蛇がうねっているところを観客に幻視、
させることだってできた
ある日部屋に帰ってくると
部屋中の家具がひっくりかえっていた
癇癪持ちの女がやったんだね
当時から煙草以外はクリーンで酒もやらなかった
毎晩サティのジムノペディを聞いて寝た
電気も水道も止まった部屋で。

睡眠嗜好症なんだと思う。
部屋に帰らず、近くの公園の芝生で
寝たことだってある。
終電で眠って最終駅まで行っちゃって
仕方なくタクシーで帰宅したこともある。
御金はそんな風に使っていた。
今じゃ信じられないよ。
そして徐々に脳が弱っていったんだね。

煙草を喫っているとさ
嗚呼、これがドーパミンか、って
脳に意識を向ければわかるんだよね
嗚呼、これは適切な言い方じゃない。
でもまあ、いいか。
ドーパミンが全く出なくなって
鬱で死んでしまったひとのことを知っている。
大事なひとじゃなかった。
でも今じゃ彼をシンボルとして僕の喫煙はつづいている。
きみは煙草やらないの?
やらないにこしたことはない。
ニコチンってのはデビルの別称なんだぜ。

朝が来なかった。
わけのわからないことを口ばしった。
友人がきみは統合失調症じゃないのか?と言った。
僕は疎かったから、何を言ってるのかわからなかったけれど
精神科に連れていかれた。
そのときには完全に自分のことを日本国最初の人体実験被験者、
だと思い込んでいた。主にロケット関係の・・・・・・、
何を言ってるのかわからないだろ?俺だって今わからないよ、
診断は全般性不安障害だった。
最初から適切な診断が下ることはレアリティがあるもんだ。
自分が統合失調症だと診断してもらうなら正確に云えよ
「俺は、今、国家のモルモットにされかけている!」
でも
「クーラーの隙間に鬼の小僧が住んでいて喋りかけてきます!」
その誤診が悪かった、
薬の副作用でぶくぶくと太り始めた。80キロはあったかも知れない。
それでも平然と働いていたんだから面白いよ。
昼間はスタジオで働いて
夜になるとドラゴンと語り合って食事していた。
嗚呼、それは六月の都会の夜!

リーマンブラザーズの件で株価が暴落して
なぜかこのままでは死んでしまう、と思って
新幹線に乗って実家に帰った
それから二日は寝ていたようだ
癇癪女と友人たちとの永遠のさようなら!だ、
新幹線のなかでヤハウェを観た
今じゃ寝室に分厚い聖書が置いてあって
こころのどこかでナザレのイエスがわたくしを
御救いなさってくれる、と信じている、
敬虔な浄土真宗の家なのにね。

いつも思うんだ、物を書いていると。
なんで物を書いているんだろう?と。
ビート作家達だってそうだ、なんで
みんなそろいもそろって物を書いているんだろうか?
一種の個人的ベンチャーみたいなものか?
この日本語おかしい?まあ、別にどうだっていいけど。
もうword三枚分は書いてしまった、
ちょっと付き合ってもらうには長すぎるかな、

俺は、郊外で、ときどき東京の友人とやりとりしながら
よろしくやっている。
朝三時に起床して、Amazonの荷物と格闘している。
最近は財布を盗まれた。中には障がい者手帳が入っていて
そんなものを盗んで見る奴は絶対に地獄にいくと思ってる。
度々幻聴が聞こえる、俺はそれを無視しない
面白いことを聞いてくるからだ、かといって路傍で
笑うなんて絶対にしない。
最近も自失を考えたが、もう俺には大切なひとがいる。
嗚呼、もうめんどくせぇ、
この文章は全体的に失敗している。
俺はそれを知っている。
だが俺は一度書いたことを書き直そうとは思わないし
大体生活がよろしくやってるから、そんなことどうでもいいよ
ってな具合の関係ねぇパワーだ
アジールの向こう側で俺を罵る声が聞こえる
大丈夫だ、きみ、アジールは絶対不可侵だから
雨がふる、雨がふる、彼は風邪をひくだろう


冷やし中華はじめましたの前で

  田中恭平





思ったら
とけてしまう
丁寧に取り扱ってください
白い皿
二つに割った記憶
笑い



降りてくるメロディー
胸のラジオから溢れ
夏に
冬の歌聞いてる
有機体、
として
はじまりのはじまり
けっつまづいてやなこった
蝗が飛ぶまで
もうかりまっか
ぼちぼちでんなぁ
草と泥の会話
夏野
夏の
のはら
ひらかれて隠されていたものが明らかになる冬の後日談
全部冗談だったんだよな
気にしなくてもいいさ
でもきみの代わりに僕が生きていてごめんね
ハミング
ラストソング
勘違いと糞の会話
夏野
夏の
野原
高らかに
僕らは
制限されていました
拘束されていました
今日も
明日も
明後日も
自分というものがなんて邪魔なんでしょう
おもひでぽろぽろ
おも


ぽろ


あったかくて冷たいものってなんだ?
さいごのなぞなぞを問いてみろ
きみが言っていたような気がした
大動脈瘤乖離

亡くなった
きみに詩を書こうと思って
ペンをとったけれど


としか
書けなかったんだ
俺も段々弱ってゆく
世界は嫌なもので溢れているから
ひとは夢をみる、

だったよね
キハツしてゆくピアノ・メロディー
きみと労働の話しなかったのが不思議だね
すべからく鬱にかかる
すべからく鬱を祓う
金箔の入った酒を飲んだね
自由ヶ丘駅前のバーの
ホームシック・ジョンはまだいるのかな?
誰に語りかける、
俺は郊外で
夏の涼しさに震えている
音楽を消して
鳥の声は俺を無視している
和のなかに入りたい
一応何かには収まって
安心な夜がくるなら嘘だ
でたらめばかりに会う
ただそんなことを愚痴ったりしない
苦笑 苦笑 苦笑
草 草 草
夏 夏 夏

中で
鉛筆を尖らす
一人
もういたずらはやめてください
もういたずらはやめてください
冷やし中華はじめました

前で
少年が大きな声でグループにそう告げていた、

一瞥し
スピリットが湧いてきて
きみのこと
思い出した

歩いたな
今日も
眠る


 


あッ!

  田中恭平


朝が
朝帰りして
朝になった

俺のロード―の
半分は終わっている
汗している
血は
流れつづける
踵に痛みが
ズキン
ズキン
と響いて
この交響楽団は良い

サウンドトラックを
聞いている
寝室。
空に謝りたい感覚。
何を待っているの?
弥勒菩薩を。
大丈夫
生命線がけっこう長い
白い薬も飲んでいるし

許されない
体を酷使して
どこまで疲れられるのか
人体実験
瞼が震えている
地球も震えている
から
気にしない
というか
麻痺してしまって
細胞よ
いい方へいってくれ
ここちよい方へ
非生産的でいい
反生産的なのは駄目だ
幽霊になったことがある
俺だからいう
戻れなくなる
変質を用意に受け入れると
後悔する
涙流れる
新古今和歌集は
ミントの香りがする
風は涼し
障碍者手帳酷い証
ピッコロの練習がはじまりました
となりのマンションから
弾き語りビビったり
はじまらないな物語
あッ

と思ったら
飛散している
思考
脳が
分解されて
あッ

ヨダレ。
被爆の外を
走っている
一心不乱に
腐敗も
道の

気にせず
走っている。
俺は病者だ
病巣を掬って
食べている、
お前らと
いっしょなんだよ
洞窟に
病巣を
掬って
食べている。
フェードインする
ユニクロで
コンバースな

海の匂いがする
から
海が近い
んじゃなくて
きみが海だ
お前が海だ
見つけたぞ!
何が?
どれくらい酷いか!
あはははは
笑うな
はい
銃を
こめかみに
突きつけている
男が
世界の
極北にいる
イメージの
現実の
なかで
腰を下ろした
*どうしてもっと楽しく生きられないんだろう?
粉末をこよなく愛するフーリガン
とても遠くにいるリチャード・ブローティガン

TEL
もしもし
もしもし
聞こえてますか?
死後の世界に
僕らの声は
届いていますか?


血を
溶かす。
ホワイトチョコレートを
噛み砕いて
胃の中を
白くする
パサ
っと。
胃の
上部まで
痛みだしたら
病院に行こう
それまで


底煮え。
*詩は安定をもたらさない
書いても
書いても


響いてしまう
音響設備
耳に心地よい
ことしか書けないのか
お前は?
俺は?
俺の場合は
統合
する為に書いている
昨日を
未来を
今に
キャッチ
して
キーボードをぶったたく
キーボードは死ぬ
骨を叩く音が響く
嗚呼

*それは本物のおと


のらり
くらり
暗闇を
歩いてきた
誰にも理解されない浜辺で
ビニル傘が吹き飛んでいった


少し出た
今日は
よく眠れるだろうか
きみも
友人も
入れない
この
王室

俺は
ジャンキー物の王様
本物の粉は
持っていない
持っていないよ
二回言うと
本当は持っているように響く
この喉は
煙草で焼けている
のだ
のだ
嗚呼
、、、
俺は差し出すもの
価値をつけず与えるもの
名を恥じないもの
天を侮蔑したら
雨が降ってきた
きみがよわいときは
俺は呼ぶな、

また
きみを残念がらせる
言葉を語った
舌を
俺は
信じない
ただ
使われていれば
いいのだ
舌は。
鐘が鳴る
日本列島は
耳の形をしている
その中で
バラバラな
音の粒子だ
僕らは
競争も
平気面してやる
昔から
気になっていた
*なぜもっと愉楽できないのか



なぜか
夏の坂道を下る
自転車で、

イメージが
来た
拾い上げて
脳に嵌めてみたが
その熱さにこめかみを
火傷した
燃える十字架
人類最初のバイオテクノロジーは酒
ペスト
からくじが夜空にまかれ
俺の男根は
天狗に盗られそう
うう
腹が減った
うなるのだ
うねるのだ
苦行の果てに辿り着いた
いつもの部屋
何を
しているのだ俺は
きみの眼が欲しくなって
また何か忘れそうだよ
嗚呼
体に
平穏が訪れない
煙草を盗んで
(ないよ
 ないよ)
喫ってしまった罰だ
捨てても
捨てても
余計なものに
溢れた
部屋
そこで俺は
気分を害したまま

詩を書いている
痩せた体に
肥った霊魂が
書かせる
欠かせる
欠損させる
出たものを
俺はひとに捧ぐ
霊魂は痩せてゆく
この行為を
繰り返していけば
言葉の前に文化はない
俺はできるだけ読んだ
不純なものも
清潔なものも
好奇心で
ひとは死ねる

知った
寂しかった
家には誰もいない
マンネリズムで
死んだ家
まだマシさ
色んな家をみてきた
闇を暴露する活動をしてきた
ような気がする
あッ

耳鳴りがする
ヒー
ヒー

やはり
疲れているんだろう
だから語ってしまうんだろう
くりごと
ひとりごと
してしまうんだろう
ノートが
キャンパスノートが
余っている
いつもそこにある
それが俺を苛々させる
ゴーストノートを
追っている
ジャズを聴きながら
軽快な指使いで
放置していた
この詩のつづきを書く
ピラミッドは好きか?
俺は好きだ
ピラミッドの建設で
ひとは労働の
なんたるかを知った
のではないか

考えている
電話のベルが鳴る
はい
もしもし
父は今家におりません
失礼します
と電話をすると
なぜかくらくらした
血が足りないのか
血が余っているのか
わからない
近くの家の
葬式準備の夜
夜は怖ろしい
考える時間だからだ
嗜むものは断った
時間が永すぎる
眠剤でエスケープ
いつも
いつも
血ではなく
今日は
汗で書いている
楽しみは希少
退屈に身を委ねてしまった
ルーティンだと思っていた
マンネリだった
文章はhighにさせてくれない
文章は、
鎮静化させる
獰猛な動物でないと
俺は否定できる
物を書いているから
物を書きすぎているような気もするが


悪くなってしまって
必死で小さな文字の
「地獄の季節」を読んだ
なかなか好みだったが
悪徳に足らないような気もした
後半に美しい詩が一編出てくるところなんて
ちょっと笑っちゃった
はは
お前はもう
語るんじゃないよ

語っている
ひとりごとは
ノイローゼに良いらしい
俺は妄想する
統合失調症がなくなった俺を
ニコチンが抜けきった俺を
下らない買い物を
しない俺を
神は死んだ
として
長い
長い葬儀だ
埋葬だ
お赤飯を炊く
風呂をピカピカにする
時間が過ぎ去ってゆく
今さえ過去に過ぎない
みんな思い出だ
思い出のなかで息をしている
動悸がする
まだ
「疲れ」

とれていないのかな
普段は避けている音楽も聞ける
おかしなことに気づく
今日も自分という謎にぶつかった
肩が当たって
謎はポケットからペンを落としたよ
そのペンで
俺は物を書く
爽やかな風がぶわっと吹く
紙がばさばさと飛んでゆく
部屋中紙まみれさ
気にするな!
ここはまだ峠ではない!

疲れた体は
もう駄目なのに
・・・
・・・
水は冷たく呼吸していて
「はあ」

溜息をついて安心した
水で
手を
丁寧
洗い
ノートパソコンを開いた
老いが病なら
皆病人なわけで
その治療法は
自殺しかないと
どこかで読んだことが
まだ
頭の片隅で響いて
天体に願いを
太陽に讃美を
素直に贈れずとも
そして
ライフラインに感謝を
俺は冷えた部屋にいて
きみの返信を待っている
あッ

もうすべては
書き届いてしまった
シンプルにした思考の
すべて

書きつけてしまった
絶命
詩の
絶命
南無妙法蓮華経
母は
近所の葬式に
かかりっぱなし
俺は部屋に
ひきこもりっぱなし
聞いた危険な話
煙草は脳に悪いんだってさ
他者暗示も悪い方へいって
本当に脳に悪いと思えてくる
から
疑いをもって生活に
取り組まなければならない
俺はよわきさ
円環する塔を
三歩昇って二歩下がる
臆病なのさ
それにおだてに弱い
いつも体調が悪い
へへ
笑っちゃった
もうこの詩の構成とか
どうでもいい
この飛行機は飛ばない
飛んで
必ず落下するだろう
というか
落下しているんだ
終わりの気分が大好きで

身もこころも快楽に捧ぐ
ギリギリ
死は避けられている
時間の問題さ
きみとか
大切なものと
快楽
どちらを優先すべきか
嗚呼
脳が冷える
カッチンコッチン
ニコチンに浸った脳が
カッチンコッチン
ひゅー
ドカン!
今2900文字書いた
目的の
3000字を前に
詩は
飛行機は
墜落してしまった
痩せた体の
肥えた魂
八月の
*意味深長な郊外の雨の夜!
不出来さ
夢を観ているみたいに

書いても
書いても
発話の不自由性にやられてしまう
でも
練習しているんだ
自由に飛べるように
何より次の飛行機が
落下しないように
くりごと
ひとりごと
以外は
寡黙な実験はつづくのだ
俺はしつこいよ
悪徳に関しても
徹底的だよ
良くも悪くもあるよ
大体が駄目だよ
勝手に書いてることで
劣等感は抱かないよ
燃焼してゆく
飛行機
エネルギー
諦めないよ
きみを刺激したいよ
気づいたら、
俺の痛みはもうないよ

嗚呼

終わりの気分が大好きで
それが劣等感の原因なのだが
蜜柑を頭の上に置いて
真剣な話し合いに参加している
ようなものさ
デ・ジャヴ
俺は思い出のなかに生きている
息をしている
タールのない
加熱式煙草を喫っている

雨だ
狐の嫁入りだ
うつくしい日本語
使う
欲を抑えた人々
俺のように
快楽を第一に置かない
ひとびと
眩しいよ
眩しいから
断食でも
それは文献に則り
してみようかと思う
休日には
嗚呼
すべての生命が
弥勒(救世主)でなければならない!



 


幽霊とあぶく

  田中恭平

 

 言葉は幽霊の所有物。ひとは幽霊に言葉を借りているに過ぎない。と、重たい頭をもたげベッドから這い出し、この文章を書く俺は、ひっきょう幽霊の複合体に過ぎない。きみだってそうだろ?なぜ美しいと感応するのか、自然のさざめき、朝の鳥がすこし五月蝿いと想うこと、ひとを愛すること、とにインスピレーションがこの冷えきった現実にきらきらと発露されるとき、きみはインスピレーションの訳語が霊感であったことを思い出すだろう。

 終電を見送って、始発で帰る元気はなくなっていて、ヘイ、タクシー!俺は酔っぱらっているから気前がいいよ、代々木八幡まで行ってくれ。と行く、行く、行く、を、繰り返した結果、実家のパソコンの前に2018.9.4.居る、不思議、でもなんでもないような、必然の結果でこうなっているからしょうがないと思うんだろうね。今日もよろしく働いて、時給1150円分働いて、終えて、祈りを捧ぐ。それは言葉の形をとってこの世に現れることも多々だ。ダンスの次に多い。ダンス、ダンス、ダンス。

 俺は明滅を繰り返す。雨の湿気にウンザリしながら、ローリング・ストーンズの完璧さに打たれながら、少し顔をあげて、また顔をウィンドウに戻し、要はこの身体というのは乾いていて、それはこころとか精神の問題ではなく、実際に乾いていることで、涙が塩辛いことにひとり、うなだれながらも、感動、なんてしてしまうんだろう。感動、なんて陳腐な言い回しだけれど。

 自分の脚を眺めれば、いじめられっこみたいに青タンでいっぱい、擦り傷でいっぱいだ。すべて仕事を行ってできた痣、傷だけれど、捻くれた頭は、これを自分の勲章とか、誇りのように勘定してしまう。目を閉じれば今まで仕事の最中に吐かれた暴言でいっぱいだ。こんな暴言たちも、俺といっしょに墓に入って浄土に蓮の華の滴として煌めくよ。別段死ぬことを考えているんじゃない。でも明日の朝、ふとこの世から消えてしまってもいいと思うんです。ドロン、と。だって元々幽霊の複合体なんだから。

 蝋、といえばいいのか、身体機械論を信奉しているわけじゃなく、俺は夢想する。全身が少しずつ蝋のようにすり減ってゆくところを。脈打っている血管が、嘘のように感じられる。生きていることが、驚きのように感じられたことはないか?感じる、の次元を飛び越えて、生きていることが、「認識」されたとき、すべての価値あるもの、俺にとって、ギターとか、パソコンとか、お金でもいい、それらが、あぶくを吹いて次第に消えてしまっても、俺は別段驚きはしないだろう。そのとき俺は、五六時間は我慢した煙草をやっと喫えたときのように、法悦の顔をしているだろう。あほうづらだね。ほら、次第に身体の明滅の回転数は減少していき、蝋のような体は、あぶくを吹いて、寝室は蒸気でいっぱいだ。つと目を向ければ、窓から百日紅の花、ピンク色のかわいらしい花が視える。机に寄りかかろうとしたら、やはり体はがくっと崩れ落ちて、置いておいた仕事道具すべてが落ちてしまった。


 


返済

  

 カリカリとなにか食べ物を食べて、息を潜ませているのは何故か。家には猫以外だれもいないに関わらず。無意識に手を伸ばしたコーヒーカップは空だった。ごくり、と何か飲料を飲み、そのあたたかさに安心していた筈だった。こんなに気が立っているのには理由があるが、よくある話に回収されそうなので書きたくない。冬、冬、冬。幻臭なのか、血のような匂いがして、それからエチルの鼻を刺すような感覚がやってきた。罰が与えられたのだ。しかし何に対しての罰なのかは検討がつかなかった。それほどに罪が多過ぎたからだ。どれだけ免罪符を買おうと、対処不能なほどに。しかし、罪の蓄積がわたしを喜ばせるのは、それは罪を重ねるほど、大人になったような気がしたからだが、考えてみれば子供っぽい発想だった。今、部屋があたたかいのが救いだった。太陽は頂点にある。わたしは太陽が好きだった。目に悪いとわかっていても眺めていた。好きな季語は「日向ぼこ」だ。ちょっとほうけている感覚─センスが好きだった。ある日。身長が175センチあったのに、測ってみるとなぜか173センチしかない。わたしは現在35歳である。なのにもう老化現象がはじまっていた。なぜかわからないけれど、わたしに昔から母親がいなかったのと等しく謎だ。わたしには38歳の妻がいて、たいへんにヒステリックだったけれど、なぜか最近はとてもやさしい。というか普段がしずか過ぎる。全く口をきかないのだった。いつかわたしが飲み会で禁煙中だったのにも関わらず、もらい煙草をしてしまった。それも何本ももらってしまった。帰宅すると匂いでばれて、妻に殴られた。するとわたしの顔が変形してしまった。罰だな、と考えたのになぜか痛みはまったくなかった。痛みは度をこすと痛くなくなるのかも知れない。口の中を砕かれた歯の破片で切って、吐血は妻の顔に噴射された。それ以来だ、彼女が変わってしまったのは。それ以来だ。わたしは変形した顔のまま日々生活を営んでいる。鏡が、我が家の洗面所にしかないのが救いか、人間は鏡がなければ、じぶんの顔が見られないというのは、幸福なことですね。おっと、こうしてノート・パソコンを叩いていると、手の甲に悪魔の顔がひょっこり浮かんだ。わかっています。罪の返済でしょう。なぐられたとき歯は二本抜けて、そのままテーブルのかたすみに、ハンカチをひろげて置いてあった筈だったのに、なくなっていた。今度は小指が消える。パソコンを打っているとき一番わかるのだが、一瞬なぜか小指がふっ、と消える。薬の服薬のし過ぎによる幻視かとも考えたが、今度はタトゥーのように手の甲に悪魔の顔が現れるようになった。次第にうまく歩けなくなった。緊張して力を入れればまっすぐ歩けるのだが、そうでなければ、右足がよれて、どんどん、右の方向に寄っていってしまう。まるで酩酊しているかのように。どれだけ多くの方に「足、どうかしてるの?びっこひいちゃって」と言われたことか。電話が鳴っている。出るべきか、出ないべきか迷う。こんなとき、妻が家にいてくれたら、いいや、妻は今・・・・・・。冬、冬、冬。「最後に何か書き残しておくことはないか?」と云われて、久しぶりに長文を書いた。猫以外誰も家にいないというのは嘘だ。わたしの35年間の罪は清算できないそうである。パソコンの画面がグワングワンと揺れている。彼がさっき、わたしに何を飲ませたのかわからない。我がワイフ。わたしのインスピレーションの泉。正義の比喩。申し訳ない。それできみは生きているのか?はたして言葉を読めるのか?冬、冬、冬。言葉、言葉。言葉。


過誤

  

 返礼品の中には詩集が入っており、パラパラめくるに一冊を通して一つの話を物語っているようだった。わたしは詩集を函のなかに戻し、それを玄関の花が活けてある辺りに置くと、今朝から考えていた問題に頭を巡らせることに戻った。それはなぜ私が呪われているのか?という問いだった。この郊外にこしてきた当初、別段おかしなことはなかった。のどかで、牧歌的とも云えて、この中古だが新しい家での生活に満足していた。ある日のことだった。一人の男が訪ねてきた。ひょろっとして、丸刈りで、眼鏡をかけていた。右腕には数珠をふたつ巻いていた。彼はじぶんは風水をなりわいとしていると語った。そして私の顔をじっと見ると安心したような顔をしたのが第一印象。先月こしてきたばかりなんですよ、というと顔面がみるみる青くなっていくではないか。彼の言葉を率直に書けば、ここは風水上最低の鬼門である。最悪の場合死につながる。はやく出ていかなければ呪われる。ということだった。それを彼は何重にもオブラートに包んだ言い回しで伝えてきたのである。西は浄土の方角なんですよ、ほら、西向きの玄関でしょう、毎朝、死に向かって出勤するというのは、と彼が言いかけた途端、私はキレた。いい!出ていってくれ、私は新しい住処を散々に言われて腹が立ってしまったのだ。しかし、そこから日に日に私の生活は悪くなっていった。庭に梅の木があった。となりに百日紅の木があるが、百日紅の木はもうおかしくなっていた。そこで百日紅の木を抜いてしまおうと、近くの庭屋へTELし、見積もりをとってもらった。七十万円した。なんで百日紅の木を抜くだけで七十万もかかるのか、問うと、ここの家は土壌が互い互いで緊張を保っている、もしもそのバランスを少しでも欠いた場合、他の木も倒れて最悪家に当たり、損害が出る。慎重に物事をきして百日紅を抜いた場合、これくらいは当然かかる、というではないか。ありえない!と私は怒号をあげて電話を切った。それ以降呪いについて気に掛ける日々がつづいたのだが、いつの間にか考えることも忘れていた。すると今度は犬が近所のガキにチョコレートを食わされて半死、病院にも連れて行ったが死亡した。私は自室で過ごすこと大抵なのだが、そのエアコンから幻聴が聞こえ始めた。自分は鬼の子供でここらでゆったり過ごすことが好きなのだ、と言った。あっけにとられていると、今度はお前のツイッターを閻魔様は大変関心をもってご覧になっている、とその内容まで朗々と語りはじめたときには開いた口がふさがらなかった。まだ自分に非があり、その罰として災難を受ける、というならば話はわかる。悪いのは私なのだから。しかし、私はいたって普通の人間であると自分を評価していた。特別悪いことをしたこともない。堅実に、いや、必死になって生きてきた。誤りがあれば正し、害を与えれば補てんした。弁償した。しかしこの世の不幸の中には罰にもあたらない、ただただ不条理なものがあることも一連の「ここ」での生活のなかで理解した。私は焦っていた。半ば泣きじゃくるように、逐一己を点検し、罪がないか確認した。いくら捜しても見つからないのだけれど。私がしたことは「ここ」にこしてきたことだ。毎朝「死」に向かって出勤したことだ。昼食を終えて、返礼品の詩集を眺めるよう読む。どうやら旧約聖書のヨブの物語を主題にしているようだ。

 神がそうならば応えて下さるはずである。私には何の過誤もないということを。


花のような音楽と

  田中恭平


 
やっと落ち着けて
花のような音楽を聞きながら
水のようになっている

林のなかにいるよう
このやさしい音楽はアメリカ製
あたためられた草のにおいのような
音楽でもあるよ

ペンを眺めている
うつくしいペンを眺めている

定住しているのに
明日も流離うのでしょう
おかしなことでない
ここが借宿に過ぎないのならば

夕暮れの時間
今日は曇って雷鳴までしている
空が
あちらこちらで閃いている
わたしの頭のなかは空っぽ

コンビニエンスストアに入って
エナジー・ドリンクを買って出てきた
出てきた瞬間
蓋を開けた

雨が降ってきて
水のようなわたしは
溶けてしまった
変身願望が
叶えられて
嬉しかった
タオルで首の
辺りを洗った


 


  田中恭平


どれだけ酷いかなんて
聞かなくても知ってるだろ
俺たちは名前のない花
或いはエイリアン
椎間板の形状変化は生活に影響する


来るって言っていたのに
行くって言っていたのに
スマートフォンは雨で濡れていた
記憶を辿って雨から滴して浄化槽へ
俺は歯ブラシで排水口を磨きつづける
神の日がいつ来るか知れないから
おまえさんのように


弱いヤツを狙えよ
持っていないヤツは最初から見切れよ
と男は言った、男は言った、男は言った
と三回言う
ピザが余って
腐臭を出しはじめている
俺は愚かで、変われなくて、利用されるんだろう
付き合うなら賢いひとがいい
コバンザメのように俺に離れる理由はないのさ


労働の放熱が寝室を満たしている
とりかからなくちゃ
でもなんで風景が変わっても
ひとを信頼できないんだろう
吐きそうなくらい
昔はひとが好きだった
今は本のなかの人間が好きだ
考えとでもいうのかな
ひとの考えが好きなのは
肉の温かさがしないからさ
といって今日も肉を求めてしまうんだろう

 


告白はまだ終わらない

  田中恭平

 
わたしは今まで
自分の為に
詩を
書いてきた
赦されはしないが
癒される為に
ジャック・ケルアックだって
路上を書く前に
父を亡くしていたと
映画で暴露
されていた
発露
己は汚らしいが
文字はうつくしい
ということに
わたしは気づいた
そして躊躇した
どれだけ日々
労働し
マインドフルネス
瞑想を行い
こころを
きれいにしようと
つとめても
人は
文字のように
言葉のように
うつくしくなれない
こころが
先天的に
うつくしい
という方はいる
わたしのパートナーがそうだ
彼女はまるで花
活き活きと雨に濡れ香る花
それに比べて
わたしは造花に過ぎない
だから書くことがやめられないんだろう
告白

やめられないんだろう
偽装だ
言葉を費やすことは
いま
非常につかれていて
禁煙も解禁したり
禁煙したりを
くりかえし
言葉も
書いては消し
書いては消し

くりかえし
ミザリー
どんな朝が
好きなのか
も忘れてしまって
好きな朝が
きたところで
もっと
好きな朝が
あることを
経験したことが
ないのかも知れないし
煙草をはじめたのだって
ほんとうはマリファナがしたかったが
日本では合法ではなかったから

過ぎない
なぜって
ボブ・ディランや
ビートルズのメンバーも
マリファナをやっていたからね
中学2年で
わたしはロック青年だった
わたしの書くこと
いうことは
誰にも理解されなかったし
いつも孤独だった
ザ・ブルーハーツは
知らなかった
リンダ・リンダは
知っていたが
パンクスが僕という主語を使う
それだけでやっぱり違うな
本物っていうものがあるんだと
どこか思っていた
そうだ
天才は世に出たからず
というが
本物があるんだ
その本物の発露
その一抹も
つかめないままに
32歳になってしまった
脳は
薬と珈琲でコントロールするように
なってしまって
あゝ
あと瞑想か
労働もそうか
ともかくも
こんなことをしていて
いいのだろうかと
金だけは貯めて
パートナーと
週一のデートを楽しんでいる
ここまで
わたしはごく簡単に
告白程度にとどめて
比喩もそうそう使わずに
ここまで書いてきたけれど
比喩は
どこかわからない世界に
ひとを置いてきぼりにする
そんなさびしい行為を
さいきんは
恥じるようになっている

とにかくわたしは
作品の上では饒舌で
生活の上では一切喋らない
見たもの
聞いたもの
ふれたもの
それらを作品の上では吐き出せるが
ドライ・アイスを素手で運ぶとき
炎症を起こす!
なんて
騒いで運んだりはしないで
ただ走る
汗をかいて
恥をかいて
月10万円くらい
ここに障がい者年金が加算されて
月16万
御金を受けとると
ひとの脳内ではドーパミンが発生すると
仮説されているが
ならば貧乏人が煙草をよく喫うのは
報酬の額によってドーパミンの
発生に差があると考えられる
貧乏人は足らないドーパミンを
補わなければならない
煙草で
酒で
いったいこのひとは
何をしているんだろう?
そんな人が
この町にも数人いる
彼らの生活ルーティンは強固で
会おうとすれば明日にでも会える
そして半分は
わたしはそういう人種なんである
毎週火曜日
この町の図書館に行けば
必ずわたしに会える
水曜日は郵便局
木曜日は本屋
金曜日はスーパーマーケット
わたしはそこにいる
土日はわからない
わたしと
まったく違う人種である
パートナーと
電車に乗って
どこかに行っているからである
といって車内
わたしはリチャード・ブローティガンの
短篇を何度も読みかえしている
この本なしでは電車に乗らない
わたしは移動しつつ
本の上にいて
動かないのだ

話がつまらなくなったところで
わたしは昔のことを語ろうと思う
東京での生活だ
わたしは東京からの逃亡者だ
切符の買い間違いで
改札のバーをキックして
それから乗り越えたことがある

なぜ昔のことを書くのか?

それは東京が広大だからだ
敷地ではない
記憶だ
清算しても
清算しても
悪夢のようにふりそそぐ東京の記憶
東京から帰って
わたしは精神科に送られた
東京が狂人を生産しているのではない
いや、そういう側面もある
でもそれとは違って
わたしの脳の病気は先天的脆弱性
つまりフラジャリティ・マン

あることに起因する(らしい)
東京の公園でよく野宿した
芝生の上で寝るのだ
ハイ・クラス・タウンの灯りが
とおくで煌めいていた
三時、四時になると
ジョガーや、太極拳をするグループが
公園にやってきて目覚めるのだ
寒さと陰気をごまかす為に
わたしはあらかじめコンビニエンスストアで
トリス・ウィスキーの小瓶を買っていた
トリス・ウィスキーが体をあたため
落ち着かせるにいちばん手っ取り早く
安かった
こつじきと間違えられて
御金を受けとったこともある
千円貰えた
なぜ野宿していたかというと
アパートの鍵をいつもどこかで
紛失してしまうからだった
当時のパートナーは朝にならなければ
帰らない
鍵は失くす
いまは失くさない
脳が呆けていたのかも知れない
当時はよく職場で感電した
労災は隠蔽され
やぶ医者の病院で吐いた
東京は
とにかく五月蝿かった
近くに駅のレールが走っていた
狭い部屋に不釣り合いな巨大な冷蔵庫があった
それが児相上がりのパートナーの願いだったのだ
巨大な冷蔵庫を夢にみていた女
入れるものなんて何もないのに
喧騒から逃れる為に
わたしは近くの図書館で
エリック・サティのCDを
借りてきて
ヘッドホンでひとり聞いていた
いまだに女はその部屋に住み続けているのか
もう何も知らない
わたしの携帯電話から勝手に連絡先を消した女
実家に帰ってきてから気づいて
わたしは久々泣いた、とおもう

これくらいにしよう

冷夏にあって
改革の冬にあたる

占いで読んだ
わたしは何もルーティンを変えられない
朝は三時に起床して
食パンを二枚食べ
すべての器官を刺激する
コーヒーを飲み
薬を服し
四時半から仕事する
帰宅したらば
瞑想をして
寝室掃除をして
詩を一編成す
昼めしを食べたら
眠ってしまうんだ
怒ることはなくなった
わたしはまるで去勢された猫みたい
あゝ
また比喩を使ってしまった
比喩中毒は未だ治療の余地あり!
それにしたって神様は
遥か高みにおられ
人間のことなんて
ほんとうに眼中にあるのかな?
まあヤハウェ的な神のことだけど
浄土真宗だからどうでもいいことだけど
さいきん
よく考える
さじ加減がないな

世のなか
容赦ないじゃないか
世はアンフェタミンの方へ流れているのかも知れない
それからとりのこされるのは
本当は
きぶんがいいね
小説の中に生きている男になったみたいにね

 


はじまり

  田中恭平

 
詩に
没入し
世間に
放り出された
身を
救う

そこには花のような音楽があって
雨でぬれて、光っている
花も泣くのさ
帰り道
まちがったまま歩く

空への
階段をめぐり歩き
深くまで
やってきた

素手で
ドライアイスを
掴めるか
きみ!

わたしは疲れきって
冷たいカルピスがほしい
乳酸菌を武器に
第三次世界大戦
ヒロシマをかんがえた

物憂げ
空は晴れて
かつて黄昏れ
今日のおわりのこともわからない
斜視を正し
写真に写る
巡礼がはじまった

 


幽霊たち

  田中恭平

 
彼女は落ち着き払っているが
すでに幽霊たちはうごいている
ここらは色といえば黒で
記憶もインクで霞んでしまう
ことをいいことに
幽霊はわれわれを操作しようとする

怒れば地獄の釜がひらかれて
安心すれば天国の
ドアをノックする勇気もふるいたつ
ノック、ノック、ノック!
ここらは統計で無視されているし
彼女がベランダに出ないように
わたしは警戒しているんだ

巡り塔の警備員は
煙草を喫っている
あの高いところで
喉頭がんを患いながらも
煙草を喫っている

ハンドルを握ってもオイルはない
井戸から桶をあげても水は入っていない
切符はあっても行き先はない
時計はあってもそれを眺める暇がない

月、火、水、木、金
土はエスケープ
日はぐったりしてしまう
星の明かりを消して
さっき舐めたものはなんだったのか
ぐったり考えている
この文章は秘匿されている
幽霊たちにはこの通信を知られてはならない
彼らは平気で毒を薬という
お気をつけて



けさは
桃色のナフキンで口を拭って、急いで
幽霊の音楽
のような
古典ブルース

聞きました

鳥肌
鳥じゃないけれど
人間
なのに
人間の出している音が
わからない
まさに幽霊の音楽
古典ブルース

聞きました

コーヒーがシリアスに
冷えてゆき
わたしが点描図になったり
モノクロになったりするのを
「彼ら」
はのぞいているのでしょうか
そういえば
インスピレーションは
霊感が訳語です

仕事中
笑いました
わたし
ええと
何について笑ったのか
わからないのですが
これらが今朝の印象です



どんな幽霊が
この家に憑いたのか
何を
飲まされたのかわからない
眼が痛くて
涙をながす
母はパソコンのしすぎ
文字の打ちすぎだという
そもそも謎なんだ
ビートニクの連中もそうだけれど
なぜ物を書いているのか?

memo

祈り
ということばが
頭に浮かび
わたしの朝は
静謐である

くりかえされる支払い
生活とはつまりくりかえしの祈り

陽のしたに
天使としてふたり

とろけてゆくアスファルト、に
永遠になじんでゆく身体

memo終わり

一体誰がこのメモを書いたのか
幽霊としかおもえない
わたしが幽霊ならば
天使のふりをして
ひとに近づくだろう
だから書いたっけ お気をつけてと

 


やはり詩へ還る

  田中恭平


 
とおい銀河がひとつはてたころ
わたしは剃刀で髭を剃られた
動いてはならない
わたしは不自由性に身を置く
すると詩ができる
自由にしろ
と云われて
公園で草の花を採集する
ことしかしなかった

おしろい

すれ違って
こかこうらを飲んでいた
夏は
こんなに眼が
バチバチすることはなかった
冬は
病の季節 半面
ろまんちっく
でもある
私の頭の中に回収されてゆく
星の死のイメジ

詩はびる・えばんすに習った
それからアマチュアの詩を読んで
私には書けない
と考えた
どうしておかしくなってしまうんだろう?
どうして普通の人のように
詩を書けないんだろう
痛みはない
鈍麻がある
万年筆の先がこわれて
青い液体を放散する

 


  田中恭平

 
こころに
蜜が生成されていて
おや?
と考えたが
アコースティック・ギターは
書斎にしまってあったので
トンボの鉛筆噛んだ

時計
ひとつひとつに意志があり
月はひとつじゃない
と知れた夜
ミルクの国という飴を舐めながら


味わっていた日々も
いい加減にしないとな

わたしは旅をしている。存在している
とぺソアは書いたらしい
おれの息は荒く
この繭
このへやは
こころにできた蜜を
くすぐってくれる
あは
あは
たのしいよ

一度気を失っただけで
人生すべてが滑っていってしまった
親から舐められる日々がつづく
それでもまあ
書くしかないんだ
田中書人
いいペンネームだろ

 


書く

  田中恭平

 
中心の
なくなった世界で
わたしは斜め上を狙った

ばかり生産してきた

問う
わたしは存在しているのか

ポエムを書けるほど
作為的で
天才(天災)ではなかった
わたしの
人生の明るみは
あきらめを出発点にしていたんだ
いこう
れっと・ごー!

ころな
ころり
ころさないで
呟きつつ
郊外の
大きな道に出た
存在を疑いながら
ときどき
腕時計の音に
耳をすませながら
散歩するのが大好きだ
こころは滴する
滴のためにまた歩き 空を仰ぎ

コンビニのイートインで
文運堂の小学生用ノートに小説を書こうとするが
また、日記になってしまうのを
眼は中空を見つめ否定しながら・・・書く

 


日記

  田中恭平

 
 水を飲んで、けして一杯じゃない。血がうすくなる位、水を飲んで、頭痛がしても水を飲んで、水自体になるくらい水を飲んで、欲望を忘却しようとする、あたらしい依存の形、に、なってしまわないように、気を引き締めながら、水としてマインドフルネス瞑想をして、雑念に塵(ちり)のレッテルを貼り、きらきら光る、これは理解できない、何か物を観ている。苦渋にぎゅっと握った左手。いま解放し、楽にしてやる。左手の小指にもたましいは宿る。歯のいっぽんいっぽんにたましいは宿っている。だから口内はボロボロ。鏡でのぞくときナルシスト。すとん、すとん、と野菜を切って、そのままにして原付に乗って森の入口を目指す。コーラス、何番?水だけ持ってきた。分け入っても分け入っても青い山。種田山頭火。生活に、労働に、つかれきって、水をゴクゴク飲む。地下水の軟水だ。口の中に広がり、思考が自然脱臼される。肩が抜けたようにこころはまだトイレ消臭剤の匂いがこびりついているから、それは捨てる。脱ぎ捨てる。爽やかな風。アメリカでは風は福音の比喩。なのに相も変わらず得るものはなく、こころの内戦は止まらないから、また水を飲み、座する。木々のこすれる音が聞こえる。鳥の啼く音が聞こえる。黙って水晶を採取する。それで何かをするわけではない。家というポケットに入れる為にまずは、汚らしい、汗臭い作業ズボンのポケットに入れる。時が経ち、じぶんは森のポケットのなかにいるのだと考える。跡地にゆく。いつか父がそこにひめしゃらを植えて、それは誰かに抜かれ盗まれてしまった。父が哀しくもなく、もう笑い話に昇華されている話をなんども聞いた。わたしは昇華できないでいる。その話を聞くとただ哀しい。その跡地に向かう。孤独に一軒家で一人暮らししていると、さびしいから、唯一の繋がりであるような、父との、その跡地で座し直す。でもほんとうはさびしいということがどういうことなのか、最近、わからなくなりそうになっている。それが怖い。座すると必ず顕在化する。労働は障がい者雇用で行っている。朝の八時から、午後三時まで。やっぱり馬鹿にされているんだな、とおもいつつ、できることしかしない。できることしかできない。小雨の予感、家へ帰ろう。自分語りにいきがったり、少しだけする弾き語り。すべては無にかえる物語。原付は爽快。している間に何かを忘れたり、失ったりするから、今度は歩いてこよう。中原中也も歩いてから書いたというではないか。そんな話もやっと思い出し、しんじつなのかはわからない。カチャリと鍵を開けて、手を殺菌消毒する。コロナで、もう一生分は手を洗った。ころり、ころな、ころさないで。自然と一になり、パソコンを立ち上げれば無限となるのか。ほんとうか、それは。頭痛したまま、又水を飲む。五時を報せる鐘は、夜への出発の鐘だ。いこう、れっとごー。夜の階層の最上階まで。わたしは水として、架空の青年、リーを癒す。諦めることは明るめて認めること。たぶんそうなんだろうな、と思いつつ、清潔なシーツに横になり、いつもの天井を見つめる。わたしの刃はボロボロだ。研がなくては草を刈ることはできない。にっちもさっちもいかないとき、人は本当に活きている。ニュースは見ない。テレビを疎ましく思うのは病気の性。野菜をもう一度切り、肉がないことに気づく。カチャリと玄関を開け、ふらふらと業務スーパーへ向かう。抱えているのはおさなごころ。業務スーパーの光りは強烈過ぎる。から、その店先で座って、小学生がするように、水を飲む。なんだか月の香りがするよ。

 


芸術としての詩

  田中恭平

この作品を書く前に
あたたかいシャワーを浴び
洗面所で
再度
手を洗った
髭を剃った
それでも鏡に映ったのは
たぶん
ほんとうの
わたしではなかった

ビート・ジェネレーションの系譜は
拡大、拡張しつづけるばかりだ
もっと大きく
もっととおくへ
ジャズから電気音楽へ
ボルネオ アラスカ そしてジャポン
わたしはもう若くなく
いつか
四国遍路したいという夢は
読みすぎた文庫本のよう
ボロボロになってしまった
でも
飛びたちたかった
まるで、ヒッピーの間で愛読された
かもめのジョナサンのように
もう
数日も
まともに食べていない
反対
肌が
きれいになったのは凄いことだ
本能を感じる
ちょこちょこ、っと
食べている
バームクーヘンの四分の一や
向日葵の種をローストしたもの
アイスクリーム
あとはよくコーラを飲んでいる
お守り程度に青汁も飲んでいた
それでも自然としごと
肉体労働はできた
さっき
最期の煙草を喫った
血中のニコチンは
一晩ですべて抜けてしまう
だからスモーカーは朝
煙草が喫いたくなる
禁煙のピークは二日目で
三日で完全にニコチンは体内から抜け
脳波の遅れも解消され
しぜんなドーパミン反応をすることができる
そうだ
今から
明日の休日を使って
煙草から足を洗うのだ
いったいわたしは何を書いているんだろう?
じぶんの読みたいものを書いている
わたしは書庫の
膨大な本
漫画

対峙する前に
まず
今の自分が
読みたいものを書こうと考えた
考えた、だ
思った、
ではない
思いには力がない
すぐに胡散してしまう
それはどこかへ行ってしまう
まるで衛生か、自由のように
夜の階層が上昇してきたが
現在 午後七時半
とどまりつづける
とりのこされる
それが
今は相応しいと考えるから
わたしは平屋に
ひとりで暮らしている
コロナで大騒ぎだが
この平屋で
個性というウィルスを培養しているようなもの
それは社会参画に向かない
こわれやすさ
フラジャイル
とくれば
キーになるのは「障害」だ
床に落としたお菓子でも
三秒以内なら食べていい
それが原因で脳障害を起こすみたいに
わかりやすい障害ならまだいい
ただ
わたしの場合この障害は
原因不明だ
原因不明なのに薬を飲んでいる
四錠を
朝 昼 夕 
効果的な薬というものは
えてしてシリアスな研究によってではなく
半ばトラブルで開発に至る
ある都市のゴム工場で勤務していた労働者が
ほとんど酒に不快を感じて飲めなくなってしまった
それで嫌酒剤が開発されるに至った
とか
つまらない話かな
蝉のこえが聞こえる
まだ彼女からの電話には時間がありそうだ
ウィスキーを買ってくれば良かったが
コカ・コーラで我慢する
コカ・コーラは元々薬局で販売されていた
企業はひっしにその歴史を隠蔽しようとした
そしてそれは成功した
元々コカインが入った気つけだったんだね
そういえば
この前イオン・モールに行ったとき
未だブロンが陳列されているのを見て
「おっ」
と声が出てしまった
常人以上に
せきに悩まされているひとがいるのだろう
そういえば昔デイ・ケアで
リタリンを処方されていた方で
リタリンが処方禁止になったことで
たいへんな禁断症状を味わった方がいた
聡明そうな女性だった
下痢 手の震え 悪寒
ただ禁断症状が強いものはやめられる
とも言える
煙草は禁断症状がつよくない
ただ依存性は高い
だからやめられない
これらをごっちゃにしてはいけない

薬の話を書いているけれど
親鸞は
悪人正機を曲解した
つまり
悪人が浄土へいけるのならば
悪いことをしでかした方がいいのだ
という連中に
念仏というよいくすりがあるのに
すすんで毒を飲むとはなにごとか
と一喝したという
わたしの人生に影響を与えた
いろいろなキャラクターがいるが
彼ほど聡明な思想家はいない

少し部屋がぬるくなってきた
ここまで物を書いてきて
未だ彼女から電話がないことが
胃に火がついたように
腹立たしくなってきた
この感情に覚えがある
東京にいたときに遡る
夜勤を終えて

アパートのへやに帰ると
同棲していた女性はいなくて
部屋中の家具が
ひっくりかえしにされていた
わたしが夜帰ってこなかったことを
怒ってしたんだな
と今では理解できるが
そのときもう病気は発症していたのか
ただそのへやのなかで
正座して
ぽろぽろと泣いてしまった

高校のころ
暴力事件をおこして
親を泣かせても
泣いたことなんてないのに
というか
その日以来わたしは泣いていないんじゃないか?
さびしい?
さびしいとはどういう感情なのかわからない

ただ何かを恨んでいるのだが
今は世界よ、おわらないでくれと祈っている
核は廃絶されるべきだ
何百本核ミサイルをもっているか
自慢大会はやめるべきだ
寧ろ、どんどん核を捨てる競争をすべきだ
ただ
このレベルに至るまでに
まだ数十年、数百年がかかるだろう
日本は核被爆国だ
文句をいう資格はあるだろう
アメリカ様を例外化すれば
いいや
わたしはアメリカ様の文化に
感化されて育った
イメージの裏側
われわれはアメリカ様の植民地人でいつづける
そしてそれでいい
勝負は終わって
負けたのだから

勝手に負けやがって



ユリイカの中島らもの特集で
鈴木創士氏が
なぜビートの連中は物を書いたのだろう?
これっておかしなことだよね

と発言している
これは同感だ
そして
なぜ今わたしも物を書いているのかわからない
というか
ひとり語りに
ダベッているのかわからない
完備氏のコメントにも今賛成だ
物をかかなくて、悟りを開こうとしてもいい筈だ
ひとつあるのは
物を書くと
どこかへいけるからだと考える
物を読んでもそうだ
さいきん何読んだ?
「漢詩鑑賞辞典」は手に負えなかった
本棚をみればそのひとがわかる
これは嘘だ
本を読んでその人が何を考えているか
これはわからない
そういえば芥川龍之介の「或る阿呆の一生」を
風呂で読んだな
睡眠薬中毒で
いちにち一時間しか起きられなくなった男が
あんな明晰なテキストを書けたのは
ニコチンの少ない恩恵かな
足穂も
著者紹介の欄でニコチン中毒により
一時文壇を離れる、とは
こんな勲章はないだろう
ああ 馬鹿馬鹿しい
いや足穂はいいよ
いちばん好きなのは「弥勒」だね



夜の階層が上昇し
それでも
とどまりつづけていた魂が

羽化したい

背骨より
天へ還る
もろもろの感情たち

こころの荒野が
苔むすまで
ふっただろ?
雨よ
いい加減にしろ

仕方ない
蛍光色の
グリーンの服を着て
郊外の道を
とぼとぼ歩く
歩くのはいいと聞いたから
でも
なんで雨の夜に歩いているんだろう


祈る
祈るのもいいと聞いたから
なんでも受け容れてしまうんだ
そしてじしんの空っぽを知るんだ

わたしは空っぽだ

けして
空っぽであって
ダイナマイトではなくて幸いと
傷害罪で捕まったひとの
ニュースを想い出す


あなたが勝つというのなら
負けつづけるよ
努力するよ
すこし頑張ってみたいんだ
晴れた日に
ラーメン屋で
チャーシューを渡したときみたいに
あなたの笑顔がみたいんだ
それだけかな
月が「尊い」


摩耗してゆく
もの
こと
忘れないように
みんな写真でとる
写真をとるのは簡単だから
わたしもできるような気がして
でもできないんだ


外国人の方が礼儀正しいのなぜ?
困っているときにはTELしろと
メモをくれた
アメリカ人
わたしは
繁華街の裏に座って
花畑の幻想をみていた
にっこり笑って
サンキューといった
メモはない
メモは消えるためにあるようで不思議だ


倉庫内では走っちゃいけない
それでは規定時間が短すぎる
ストレスがなにものかわかったぞ
矛盾だ


とか


考えて辿り着いた
自動販売機
130円で、たかっ、と考えながら
アイス・コーヒーを買う
コカ・コーラはもう要らない

帰って
わたしは手を洗う
あたたかな湯で洗う
いつか背中をさすってくれた
あの手になるように

 


(浅利の)

  田中恭平



浅利の
貝殻を
ひらいてみると
手に負えない、にくい
そして致し方ない
ひきこもり性、
のような貝柱で
中身がしっかりとはりついている


わたしはある男性から
村上春樹の「海辺のカフカ」上下巻を
借り受けていて
読んで返しにいくと
本のことなど一切、聞かれず、問われず
男性はそれを
ただ邪魔な物のように
面倒臭そうにとると
家のなかにひきあげてしまったが
わたしはその態度に
あたたかい父性を感じた

まるで本は
嗜好品に過ぎないように
嗜好品それにも劣るように
それから感じられ
そうだ
ひとときの感動で
本を愛することはできない
感動は
すぐに胡散してしまう
ものの類なのだから
わたしは
今宵も本を分解する、破壊する
それがいつか
組み立てられていった様を
そっと、想像、したりしながら


 


(平屋に住んでいると)

  田中恭平

 
平屋に住んでいると
背が縮みます
秋雨が身に染みる、とは
このことなのですね

安心を得る為に骨を捨てました、
しかし法悦には満足しております
ぜんしん、が脱臼して
髪は煙草の灰のように白いです

満ち欠け、と
いえば月 けして年齢によりませんが
一度、礼に向かいますので
そのときに その不思議なお尻をお見せください  敬具


味のしないガムのような念仏、
法悦はもう無い、くすりの服用によるさっかくか
副作用は日々強くなる
さいきん 嚥下ができなくなった

ペヤング ペヤング ペヤング 週五
胃袋から全身へペヤングソース焼きそばが送られ
わたしはもう人間ではない
かといってダイナマイトにはなれない


平屋に住んでいると
背が縮みます
秋雨が身に染みる、とは
このことなのですね

また 手紙を書き直している。自然法爾に、放流、

  

文学極道

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