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作品 - 20200720_703_12015p

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Pure Acceptance

  kale

いつもなにかを願っていた。あしたの天気のことだとか、つまらないからといって、まだ幼い弟の浅いねむりをさまたげてしまう姪のこと。喉の腫れを放置して痛みをおぼえて、はじめて死に至る病気についてとか死に至らない病気に残されているはずの寿命の早さとか、速さとか、距離、重さ、みたいなものを乗りきるための、両ひざの軟骨成分はプロテオグリカンがいいのか、コンドロイチンがいいのか。さいきんスマホの電池の減りが異様に早いこと。ピエゾと呼ばれる圧力が宝石を振動させていくその変換の出力はちいさくて、アルコール消毒はGel TypeではなくGem Typeになることはけっしてないのか。R-TYPEの超束積高エネルギーの実現可能性のこととか。すきだった俳優の三浦春馬が死ななければならなかった理由とか。あたらしいものはほとんど増えていかないのに、日常はそのすべてを織りこんでしまうこと。ふるいものばかりが増えていく部屋からなにも断捨離できずにいて、こんまりがショッピングをすすめてくる棚のなかで、川端康成集が埃をかぶっている。駅前のおしゃれな食事処で食べた白米がおいしかったこと、選ぶことのなかった十五穀米のことだとか、店員の笑顔とか、上品で、繊さいな語り口が永遠にうしなわれてしまった番組の名まえが「世界はほしいモノにあふれてる」であったこと、のびてきた爪の白い部分を爪先(フリーエッジ)と呼んでみたかったこと。根もとの白いところは爪半月でルヌーラって名まえだってことはしっていた?しらなかったことをしってしまった細胞は、あいかわらず60兆個の細胞でイオンチャネルをひらいているし同時にとじてもいるし、毎日1兆個の細胞が入れかわっているのに、総入れかえは2ヶ月かかるというし、たましいやこころの、神経節のサイクルはその勘定に入れてもらってはいないのだろうし、おそくとも、約1年ですべてが入れかわる脳細胞が「世界はほしいモノにあふれてる」という文節を、ぶんせつ、とひらいてみても、bunnsetuととじてみても、それは共時的におもいだされることも、わすれられることもあるのだろう、という予感さえも織りこんで、細胞の入れかわりに巻きこまれていくマーブルは、層になることもできずにふるいまま。いつもなにも叶わないことをしっていた。

文学極道

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