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作品 - 20200713_546_12006p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ひと雫のパイロット

  菊西夕座


頭んなかには空港の岩盤じみた駐機場と
恰幅よろしい滑走路が大河のごとくに延びていて
いましもそこに下りてくるジャンボ機の形態は
度肝をぬくずん胴の緑(あお)い鰐そのものであった

   岩盤は海に囲まれ、海底の根もとには藻類が密生する

頭んなかで待ちうける大食漢のひらたい大皿は
不恰好な鰐のありふれた姿態を口腔へとうながし
依然として空港にはがらあきの滑走路をならべ
つぎなる旅客機のアメーバじみた形状を誘導する

   密生した藻類は樹の根のように分岐してたゆたう

わだかまる細胞の変状に悩める微細なひきつり
どのような形へつぎなる触手を伸ばすべきか煩悶し
もぞもぞと動きながら徐々に空から下降してきては
大なる飛行場の飢えに飢えた皿をみたそうとする

   分岐した梯子へと群がる貝類や甲殻類のみなしご

大皿に触れるまぎわに無数の触手がむぞうさに伸びて
思い悩む細胞のアメーバをいたずらに口腔へとはこぶ
あずけた荷物をベルトコンベアーで待ちうける人々の輪に
唐突に鰐が流れてきて下から食い破られる人間の狂気!

   ずん胴の胃袋にも貝類や甲殻類が密入国している

突き破られた駐機場の分厚いコンクリート片が重なり
野薔薇の花弁のようにめくれあがって太陽にあえいでいる
固いうろこ状に罅のはしった藍の滑走路をめがけて
いましも下りてくる船体の機影はあこがれの恋人

   コンクリート塊の裏側には雑草の根が網を張っている

もつれた頭んなかのとりとめもない幻雲を払いのけて
波うつ滑走路の荒廃を癒やすように折り重なる柔肌
どれほど新規な形態をひねりだすよりも尊いことは
ただひとりのあなたという現身にいだかれること

   あたかも太陽光線のように差しこむ異性の侵入

空虚な駐機場に乱反射するまだら模様を遠くはなれて
みたされることのない大食漢の海図からもぬけだし
あなたという枠外の飛来者とともに離陸する刹那
触手をくわえた鰐が身体をひねりながら海へと飛んだ

   はねあがる水滴の窓には不時着をめざす分裂のパイロット

文学極道

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