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作品 - 20200617_027_11960p

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空なんてはじめから、はがれてる

  菊西夕座

旅にでるための原動力を。あなたのほほえみに探しもとめるとき。靴よりも蜜を。足にまとうほうがよいにきまっている。からさっそく、この足にぴったりな。黄金色のふりそそぐ。夏空にむかって片方の。膝からつま先を。ロケットのように伸ばすと。なんてきれいな砲身だろうって。見つめた空がわらうから。冴えわたる青い天幕に。このなめらかな脚を吸い込ませ。はちきれそうな砲にたっぷりと。光の蜜をそそぎこむ。それからもう片方のほうも。するとあなたは包装紙。フランスパンでも包むみたいに。シュルシュルシューっと巻きついて。ひとしきり愛撫するから。そのまま全身を浸して。空の奥処へ飛びたつけれど。空気をぬかれた風船そっくり。あっというまに沈んでしまう/こんなはずではなかったと。水槽からとびだして。びしょびしょになりながら。あなたが平静にかえるのを。まじまじとみつめている。せっかく移しかえた空は。どうして愛撫だけのこして。連れていってくれないの。瞳をあげるたびに。あこがれとくやしさで。ますます空はこぼれて。眼窩からあふれてしまう。水面にわたしのしらない。わたしの影が。はがれおちていて。空にいだかれている。もういちどほほえみをもとめて。膝からつま先を。ロケットのように伸ばすと。なんてきれいな砲身だろうって。見つめた影がわらうから。こんどこそは入れ替わろうと。互いに目配せするけれど。号砲をはなつたびに。あっというまに沈んでしまう/なんど裏切れば気がすむの。8の字に脚を交差させ。ふやけた体をパンパンたたき。近くのグラスをひきよせて。たったまま傾けるヤケ酒。夜がすべりおちてきて。あたりが闇に包まれるとき。影も青空ものみほされ。たったひとつだけのこされた半月が。錆びた塗装のはがれのように。鈍い金の裏地をのぞかせて。そこからめくろうと指をのばせば。むきだしの夜空にハッとなる。まぶたで覆ったあなたの笑顔。はじめからすっかり、はがれてた。水面にはった氷のような。固体という名の生存は。やがてくだけて水となり。蒸気となって空に溶け。晴れた日にはせめて。わたしをすくいとってほしい。あなただけの尽きない空槽で。明るい「見ず」をたたえながら。

文学極道

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