#目次

最新情報


選出作品

作品 - 20200502_555_11855p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


いつかまた降り注ぐイヌたちへ

  キリン堂

私の砕かれた骨がもういたみもなく
風に乗ってあの雲の巣をすり抜けて
さらさらといつか雨になり雪になり

空を鳴らしているから傘をさし
空から自分を遮っている、まいにち

あの島にいたころ

宇宙にイヌを観ない日はなかった
打ち上げられていく船に乗せられて
小窓からこちらをみているライカ

彼女は十日後に安楽な死を与えられ
今では手紙に貼られて皆がその名を
知っていてもその死は配達されはしない

私もライカの死体を観たわけではないから
島にいた頃から宇宙を泳ぐイヌを観て
無邪気にライカを羨ましく思っていた

いまでは島から遠い座標で

生きていて家にはテレビもなくて
もう、船が打ち上げられたのかも

私にはよくわからないけど
海外の珍しい野菜を炒めて
よくわからないまま生きている

居眠りをする三時ごろにはライカが
遥か頭上を流れ、ベランダに偲びいる
空にはイヌはいない、涙もないけど

いつか砕かれた私の骨が飛散して

宇宙に届き繰り返し死んでいった
ライカとイヌたちとともに宇宙塵となって
痛みもなく漂うなら私も傘を畳めるだろう

文学極道

Copyright © BUNGAKU GOKUDOU. All rights reserved.