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作品 - 20200317_437_11761p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


百姓ちょぼくれ節

  ベイトマン

錆色したドラム缶に観音様が微笑んで、女衒に叩き売られる堕胎児が下水道の赤紙と一緒に流される。
狸面した政治家の演説は、歯欠け爺の金玉じゃねえか。
歯欠け爺の金玉じゃねえのか。

銀座にゃ、カルピスなんてハイカラなドブロクがあるんだってな。
おいらにゃ、一生、縁がないだろな。

皺くちゃ婆のセンズリは腐った茄子より始末に悪い。
仏壇拝むおいらのお袋はいつも仏さんに毒を吐く。
八百長で生まれた赤ん坊はカタワもんだったよ。

酒飲みお父のせいでおいらの姉貴は赤線いっちまい、メリケンさんに観音様を拝ませて隣の倅を恋しがっているんだよ。
隣の倅は首をくくって死んだけど。

松の木にぶら下がって、舌をべろりと出してたさ。

舌をべろりと出してたさ。

糞小便たれながしてくたばってたさ。

どす黒い朝焼けの雲に壊れた白いお日様がちょぼくれ、ちょぼくれ、ちょぼくれとサイコロ振ってやがったさ。

おいらの兄貴は二等兵、チャンコロ野郎に背中を打たれて家族残して今じゃ仏様。

おいらの居場所はどこにある。おいらの人生どこにいく。
可愛いあの娘も村長さんのお妾さん。
おいらの居場所はどこにある。おいらの人生どこにいく。

可愛いあの娘の啜り泣き、おいら納屋で貰い泣き、村長さんがあの娘の上に圧し掛かっていたのさ。
辛い、悲しい、辛い、悲しい、泣くしかないおいらとあの娘。
所詮水飲み百姓の倅、おいら逃げたら家族は村八分。

酸っぱくなったドブロクを一杯ずつ引っ掛けて、おいらあの娘の夢を見る。
おいらあの娘を恋しがる。
まぶた閉じれば、ありありと、浮かぶあの娘の横顔が。

色にボケちまった婆さんも兄ちゃん罵るお袋もロクデナシのお父も残していけないおいらなんだ。
おいらの居場所はどこにある。おいらのお天道様はどこにいく。

前を向いても後ろを振り返っても暗い夜道が続くだけ。
どこまでも、どこまでも、暗い夜道が続くだけ。

親父お袋あんたら覚えてるか。あれはおいらが六つの頃だ。水を張った桶の底、小さな赤子が浮かんでた。
ぷかりぷかりと浮かんでいたんだ。産湯に沈められた弟においら駆け寄ることすら出来なかったんだよ。
涙零して黙ってみてた。間引きされちまった弟は沼に捨てられ、魚の餌よ。

なまんだぶ、なまんだぶ唱えても幸せになるわけじゃなし、あの娘が嫁にくるじゃなし、弟戻るわけじゃなし。
お袋、念仏やめてくれ。おいら気が狂いそうだよ。お袋、念仏やめてくれ。おいら気が狂いそうだよ。

ちょぼくれ、ちょんがら、すっペらぽんのぬっペらぽん、ちょぼくれ、ちょんがら、すっペらぽんのぬっペらぽん。
おいらのとこの村長さん、浮世を流す道楽爺、焼酎片手に観音様を拝み倒しの舐め倒し。

すててん、とんしゃん、すててん、とんしゃん。
やれ、やれ、畜生めとその場で殺して、業のごの字の味を知り、悪のあの字の味を知り。
どうじゃないな、どうじゃいな、悪玉踊りはどうじゃないな。
どうじゃないな、どうじゃいな、悪玉踊りはどうじゃないな。
浮世の糸はしがらみで、罪で苦労する行き流し、義理の格子を掻い潜り、おいら娑婆からおさらばするよ。

悪が娑婆からあばよ。

文学極道

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