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作品 - 20200312_364_11753p

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時の抱擁

  キリン堂

静寂が弾けそうに熟れた夕暮れの部屋が
幾度となく満ちて落ちる 針が落下するより
まだ密かで張り詰めた音が暮れに響き渡る

そんな忍び足の音がふいと消えてしまった

いや、それはすでに風化していて
あの数日前に活けられ枯れ始めた
落下を待つ赤い花弁のように

私の思いがその現実に追いつくのを、ただ
待っていたかのように行くべき所に消えたのだ
窓から差し込む夕陽の向こう側へと消えたのだ


遠く何処かで鳴った鐘の音がやって来る
赤い花弁がひとひら残された足跡のように
音もなく落ちて卓上で時間に抱擁されている

水を捨て、花の遺骸を紙に包み、捨てる
私もいつか行こう、あの鐘のなる場所へ
誰もが何処かへ向かって歩いている

家路を、或いは夜の街に酔う千鳥足
風の吹くままの旅路を、夢路をゆく誰か
眼を閉じても見えるのだ、そして昨日の私が
玄関の戸を開けて軋む廊下をやって来る頃合いだ

そろそろ、と

心に外套を着せてもいいだろう

そして鳥打ち帽と猟銃を肩に沈黙を背負い
有象無象の言葉を避けて今日を撃ち明日を待ち
撃ち落とした二月を抱きしめて解体する
三月という名のあなたを待ちながら

文学極道

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