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作品 - 20200307_268_11741p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


わずら ひ、

  湯煙


みくろみちのこ
みちのこみくろ

呼んでは春の
気まぐれ風が
お好み焼き屋の暖簾くぐり
きみに祝福の言葉
おめでとう!
はにかみ笑みを浮かべ
お辞儀をする丁寧な
ありがとう
東京大学に合格を果たした
ミチノコミクロ

 はるはこすり
  はるはすすり


道の子未知の子
呼んでは青白い
ねばつく液
がたらり
鼻から漏れ出す
紺の袖口にこびりつくもの
鼻をすする
鼻の下をこする癖
カナワナイワカラナイ
先生に叱られ
黙ってうつむくきみと
答えられずに
笑い合うぼくらと
答えられないまま
むずむずする春と

遠足
朝礼
整列をして
みえなくなる
きみと授業前のひととき
ジャガイモジャマイカ、
そして
きみの口は天にあり
きみの目は点になり
大きくなる笑い声
ゲラゲラケタケタころげた

ミチノコツチノコ
呼んでは茶髪のおかっぱ
切れ長のあーもんど
白い肌
銭湯にきみは
弟を連れやってくる
つまらないテレビ
アイドルたちの騒がしい夜
煙突の先に更けていく
月の下
湯冷めをする水曜日

  傘を差していた
xとyとの交わりについて
  √アワへんわ
    √あわへんね 
降っては跳ねる
傾いた
教室の雨をなぞりながら
おしゃべりをしながら
閉じては開き
逃してはとらえる
切リ開いた空のあお
おぼえている
おぼえるあまやどり
かえるのあやとり
吸い込む薄紫の
そうして

このみちこのみち
みこのちちのみこ

新大阪駅からのぞみ8号に乗りきみが
弟が向けたスマホに手を振っている10:06
きみの手首は透き通り
こどもたちはいなくなって
おとなたちは見なくなって
ぼくは桜舞うまぶしい春の日を歩く
垂れてくる
づるづると漏れ出してくる
そのたびに鼻をすする
鼻の下をこする
今も

 (リラ
 (薄紫の
 (きみの
 (変わらない、

文学極道

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