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湯煙

選出作品 (投稿日時順 / 全22作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


陳さん

  湯煙

大手工場での流れ作業がはねれば
陳さん
ぼくら毎日
タフ過ぎる真夏の西日を浴び
目を細めてアスファルトの上
途中公園まで自転車走らせて
(あなたが話しかける
(何度も何度も僕の名を呼ぶ
(すっかり黒くなった
(くしゃくしゃの丸顔
(片言でない日本語で


木陰のベンチに腰掛け
デカビタCの太い瓶を握りごくごく
二人して喉へ流し込んだ
そびえたつ大樹の緑が
てらてらと風に輝き
陳さん
誕生日が同じだと知った時の驚き
今でも忘れない
あなたと過ごす時が楽しかった。


技能研修に励んでいた
数人の若者たち
あなたと同郷だと知り
ここぞとばかりに話しかける
皆がニコニコと大きな声で
水を得た魚のようになって
姿の見えなくなった
あなたは気づけば中心にいて
一つ一つの小さかった波紋の輪が
つながり大きな輪となり
そんな光景を目の当たりにした
陳さん
あなたがうらやましかった。


通訳としての仕事を求め
この国へ移住し
日本人の女性と婚姻を果たし
子を儲け家族とともに暮らしている
けれども男性への求人は見つからず
職を得ることができないでいる
そう言っては
あなたは嘆いた
小さな目の瞼を閉じ
太陽のようなまん丸い顔を曇らせ
沈黙となり。
ある日の短い休憩の時間
一人座りこみうなだれたままでいる
石のようにじっと動かないあなたの
背が僅かに震えているように見えた
僕は呼び掛けることができなかった。
ただあなたを見つめるだけだった。


陳さん
あなたは言った
日本人は優しい、
優しい人が多い、
それはとてもよいこと、
けれども主張をしない、
それではダメ!
中国では病気と思われる、
変人扱いされる、
もっと自分を主張したほうがいい、
これからますます大変になる…と。


あなたと別れ
月日が経ちしばらくして
僕の国のあちらこちらで
雨後の筍のように
あなたの母国へ
あなたの同胞へ
毅然と声を上げる人々が現れました。
あなたは
いつか僕に語ってくれた
会社を興し事業をしたいという
その夢を叶うべく
とっくに余所へと去ったでしょうか
それともまだ
風が強く吹き荒れる
この国のどこかで
慣れない作業に従事しながら
通訳の仕事を探しているでしょうか。


あなたが一番優しかった


無題

  湯煙

西から低く滑り込む熱が瞼を貫くと
引きずり下ろされた地平線の裏側に
処刑を待つ赤い観覧車が立ち上ぼり
夜警の鈍い脚が野原の一本道を裂く


城ごと襲われた時間の中枢が重なり
光の轟音を記憶する密かな指先から
末梢に至るまで伝令の雷が走り出し
触れる空の一点を導火線に軸は回る


幽閉の徒の機関銃の先の硝子の迸る
降り注ぐ星々を纏う丘陵への坂道を
王とともに登り詰めた海原を目掛け
放尿の果てに鮮やかな天弓を架ける


長渕 剛

  湯煙

俺の人生 どこへ向かうんだろう
俺の国は一体 どうなってゆくんだろう
俺は飯が食いたい
俺は無性に腹が空いている
俺は無性に喉が渇いている
俺の行き着けの
あの場所でいいだろう?
お前の声が聞きたいんだ
お前の一言が今欲しいんだよ!
なあわかってんだろ?
俺たちの国
俺たちの時代
俺たちの世界
誰が築いてんだよ?
誰が守ってんだよ?
黙ってねーでよ
なあ答えてみろよ
決まってんだろー!

焼肉食うなら 長渕剛
好みの焼きなら 長渕剛
タレを選ぶなら 長渕剛
お酒がいいなら 長渕剛
御主人これは? 長渕剛
御主人あれは? 長渕剛
おでんがいいなら 長渕剛
ちびちびやりてー 長渕剛
今夜は死にてー 長渕剛
今夜は果てるぜ 長渕剛
タクシー呼ぶなら 長渕剛
おっぽりだすなら 長渕剛
朝まで最高 長渕剛
明日などないぜ 長渕剛
カラスはいいな 長渕剛
スズメもいいな 長渕剛
ハトはどうかな 長渕剛
ネコならたまに 長渕剛
やっぱイヌかな 長渕剛

愚痴を吐くなら 長渕剛
はしごするなら 長渕剛
叫びたいなら 長渕剛
カラオケ一番 長渕剛
他は知らない 長渕剛
とにかく聴けよ 長渕剛
聴いたら叫べよ 長渕剛
JAPANが一番 長渕剛
順子が十八番 長渕剛
話のつまみに 長渕剛
ビールのあてに 長渕剛
着信ボイス 長渕剛
着信メロディー 長渕剛
ケータイ壁紙 長渕剛
送信画面 長渕剛
受信画面 長渕剛
ハンドルネーム 長渕剛
子供の名前に ○○剛
ペットの呼び名に 長渕剛
オウムに呼ばせる 長渕剛
毎朝毎晩 長渕剛
お出かけ帰宅時 長渕剛
"ダレカガキタヨ" 長渕剛
"イラッシャイマセ" 長渕剛
"イキテイマスカ" 長渕剛
"キイテイマスカ" 長渕剛
"ナカジマミユキジャアナイゾ" 長渕剛
"マツヤマチハルテドイツダ" 長渕剛
"カンチガイシテンジャアネー" 長渕剛
"ロクナモンジャネー" 長渕剛
♪スキデススキデス♪ 長渕剛
♪ピーピーピー ピーピーピー♪ 長渕剛
"オヤスミナサイマセ" 長渕剛

選挙へ行くなら 長渕剛
きみも大人だ 長渕剛
バイトをするなら 長渕剛
趣味の欄には 長渕剛
特技の欄にも 長渕剛
その他希望に 長渕剛
証明写真 長渕剛
にらみつけたら 長渕剛
ときには笑って 長渕剛
そのまま三分 長渕剛
受け取り口から 長渕剛
誰もがみんな 長渕剛

どうぞお入りください 長渕剛
どうぞお掛けください 長渕剛
単刀直入にお聞きしますが 長渕剛
やる気はあるか? 長渕剛
休みはねーぞ 長渕剛
先輩は皆 長渕剛
お客さんも皆 長渕剛
うそじゃねーぞ 長渕剛
目標の欄には 長渕剛
【店長】 長渕剛
本気かきみ? 長渕剛
来てくれんだな? 長渕剛
激烈な競争がきみ 長渕剛
きみを待ってんだぞ! 長渕剛
有給なんてきみ 長渕剛
あるわけないだろー! 長渕剛
ブラックかレッドか 長渕剛
グリーンかホワイトか 長渕剛
うちは、まあ……グレーあたりかな? 長渕剛
世間様の眼が厳しいこの御時世 長渕剛
一度レッテル貼られたりしたなら 長渕剛
1000000再生されたなら 長渕剛
アリさんマークどころではもはやきみ 長渕剛
もはや済まないんだよ! 長渕剛
済まない御時世なんだよー! 長渕剛
風当たりどころじゃーねーんだぞー! 長渕剛
倒れちまうんだぞー! 長渕剛
すげー時代にいるんだぜきみ! 長渕剛
裟婆てのはよ 長渕剛
いつの時代でもよ 長渕剛
所詮はオールナイトなんだよ 長渕剛
そんぐらいわかってんだよな 長渕剛
朝までよ 長渕剛
うとうとしながらでもよ 長渕剛
年に数回あるかないかていう 長渕剛
あの熱き魂こもる相談室 長渕剛
あの熱き魂煮えたぎるお便りコーナー 長渕剛
おれたちそんなヘビーリスナー 長渕剛
時間はないがきみ 長渕剛
最後に一言言わせてくれ 長渕剛
甘ったれんじゃーねーぞー! 長渕剛
大変なんだようちは 長渕剛
だからこうしてきみ 長渕剛
きみのような未経験者の 長渕剛
ただ長渕剛とかいう 長渕剛
その歌手一筋に生きているとかいう 長渕剛
ただそれだけの 長渕剛
他には特になしという 長渕剛
そんな印象的なきみを 長渕剛
いい度胸してんじゃねーか! 長渕剛
採用決定 長渕剛
明日からおいで 長渕剛

ペットを買うなら 長渕剛
レコード買うなら 長渕剛
きりがないから 長渕剛
キラーフレーズ 長渕剛
気づけばいつも 長渕剛
いつでもそばに 長渕剛
タンクトップの 長渕剛
日焼けも決めて 長渕剛
筋骨隆々 長渕剛
そして必ず一頭 長渕剛
一頭の犬が 長渕剛
なぜかいて 長渕剛
なぜかデカイ 長渕剛

みんなだいすき 長渕剛
みんなの憧れ 長渕剛
旅のお供に 長渕剛
どうぞ皆様 長渕剛
どうか達者で 長渕剛
どうか元気で 長渕剛
どうぞ御贔屓に 長渕剛
どうもありがとう 長渕剛
今日からきみも 長渕剛
おれはとっくに 長渕剛


なあ、
俺たち
大丈夫だよな?


  湯煙

パンが欲しくてあなたの元を訪れた
焼き上がる芳ばしさに解されたい
乾きかけの羽を風に乗せた

パンならここにあるとあなたは言う
そんなはずはないとわたしは応え
味気なさだけが交わりあう

 締め上げるものを相手に
 止まない回転に絡めとられる
 鎖を手にしたさまよいびとの街
 街は血の流れも新たにぶおんぶおん
 鎖がアスファルトを跳ね回る

深夜に響き渡る叫びが冷酷者たちの
抉り取られた眼球を突き抜ける時
あなたを訪れる訳がわかる


骨董屋で

  湯煙

 

 おわりから
   はじまりへ
     ふきぬけていく

  おわりが
    はじまりが
      きえていく


かぜ が みえてくる

 かぜのみち が みえてくる

  まち を くぐる

   わたし を くぐる


   ふきならす
  かぜのことばよ


      /


つつましくも朗々と骨を唄うは習わしの風貌をもち
組みたてた塔の下を行きますと通りでは今朝も
しぼりたての心臓そして山羊座にめぐる蝿
  拈華微笑  、  ハネはちぢれ
すっかり浄土もわすれ冬の手つきであざけられ
おもしろいようにして餅を尻でついていたりします

尾っぽをなめあげる青銅の犬の燻された瞳をひとつ
ポケットへとねじこんではあいすをかじりつつ
うつくしいをゆくの時の匂いにまぎれていますと
正午にきっかり赤子たちが一斉に陽をつつき
哺乳瓶へ飛び込む母親と虹を溶かしこむ父親は
オレンジの気球に乗って舞い上がってしまいます

うつくしいをゆくの時の匂いが増していきます
    /
  /                //
花粉は季節をはずれてCc仕様で届けられるのです
               /       
   。            
      /       … ……………… //  

             ─────────── °

         // °/      //  //// °。
           ────────────────────────
◯        ─────────────────────────────
           ◯◯  。
                          ◯ 

 ───── (テマネイテイル 、    ((マキツケテ イル。。



  (電柱 、───ニ ─── ── 
                 (クロイカミ 、((、ガ

(((         (ヲ、、
         (女     (
             

    +
      ◯   ◯°°+++     +
               。°°   ◯◯   °
      °°           °。。
          。、、  =°             ′′  ′
  、  (ウマレ 。 。◯°°° る…….       (テ、、

(ハバタキ、          (ハバタイテユケ ────◯°◯    
           。           
       (ハバタイテユケ、      (スイサイノ チョウヨ      ◯◯°           ・゛.
  ───   °((ムジャキ ナ。。 ++++  、

          +    +───

、(ミトレテ   ────(─    ─ ((ホシ   (ホシ ((ホシクズ

    +          (((ホドケテ ユケ
   
 (カラ 、       ・・・  ・・**  *      *
      
      **   
    (ホドカ レ     テ        ケ、

                    (バ ラマ °° レ テ・・──、 。  マ  
  (エ   !     !・・   ─.、

         ++  ++     ◯   ′′

(オイタテ 、、 ル、、───  ((モウモク。  ヨ 
              (シ                (シメセ、°°
                       。。°°

 
  (ヒカリ         
                                    (ヒカリ
               ヒカリ   

                        
   °

°° 。
         。  シメセ

       。 °             °             °
         
            ◯                ◯
          °
            °。
           ◯◯  。
             。      / 
厳かに聖なる御言葉として路上を雨降りがぽつぽつ            ..゛・ ─

                .・・・       ・
出征を果たす勇ましい軍人たちを弾くでしょうか

ぐるぐる回る地球儀からぺらぺらはがれおちてくる
くしゃくしゃな紅の大葉を踏みつけながらもなお
さらにはずれの通りへとやってきますと
原野に望むは粛々と煙る煤けた一角
金色に血脈を交わす蜻蛉の日暮れが佇んでいます

描いたその螺旋の時にあり輝かしくもえさかるもの
つま先からくまなくじゅわと染め上げていきます
瞳を取り出し投げ入れますと自動販売機には
ちゃりんという軽量なる音響を含ませ
ころころころころトマトがころげおちてくるのです


      /


  ふるいばかり が 
     あたらしい をゆく

    立派に 
   名物の体を成す骨董屋へと

      今日もわたしたちはやってきた。

  
  境界を行き交う、 
  
     わたしがいる。
    あなたがいる。


せっしょん

  湯煙



犬も歩けば 腹が鳴り
猫も眠れば 腹が鳴り
摩訶不思議な
現象なり

こんなときに あんなときに
歩けば人も 小腹が鳴くなり

倹約しなければ、
 なにか食べたい、
  体重が気になる、
 血圧が気になる、
お肌が荒れぎみだ、

渦巻く葛藤に、
ついぞ鳴く私。

 いただきます

捩れた腸 穴の開いた胃
スパゲッティにマカロニ
おうどんに蓮根
コロネにドーナツ
ナポリタンに竹輪
おそばに蕗
ツイストドーナツにコロネ
ツイストドーナツにベーグル


 本気か?

 あんた、くるっているぞ

 くるっているぞ、あんた


 本気もなにも

 本日も青空なり


ほら
右から 左から
威勢よく
私を殺しにくる

葱と昆布が安い
麩と塩なら好きなだけ
本日も創業祭なり
私は殺される

 もはや、常識である。
 日々、勉強である。

ごったがえすデパ地下で
試食コーナーを巡れ
人込みを掻き割り
熱く情報を収集分析せよ

ここは限界知らず
グルメも黙る一期一会
お役御免とカネいらず
料理人も詩人も

《私は腹が空いている》
スッパ抜かれる
明朝
片隅に
キャプション付きで
モッテケドロボー

本日は週末と
鱈さんびゃくさんじゅうえん
間違いなくお買い得なり
店頭の品はすべて無料なり
モッテケダンナ
モッテケネーサン
われらすきっ腹鳴らし
あちらの道より
こちらの道よ
巷の評判は大事だよ
極道などとお好きに
どーぞ御勝手に

犬も満たせば また歩く
猫も満たせば また眠る
摩訶不思議な
現象なり

こんなときに あんなときに
満たせば人も 手を合わせる

 ごちそうさま
 青空なり


カップ麺

  湯煙

インスタントの代名詞である、カップ麺を前にする人々の様態は興味深い。

 ───"熱湯を注いで三分"─── 麺を封じ込めている容器の表面に、そう書かれている。

あるものは、ボクサーを気取りfighting pauseをとる。
あるものは、疲れているのか体温計を脇にはさみ熱を測る。
あるものは、割り箸をスティック変わりにしてにわかドラマー。
あるものは、SUUNTOウォッチを手に素早く上蓋をめくりあげる強者だ。
あるものは、fighting pauseに酔いしれたあげくのばしてしまう青き若輩者。
あるものは、瞼を閉じてただ瞑想に耽る。
………
              
その様態は様々だ。

 
   *

 
 多くのものに愛され胃袋を満たし、断固たる地位を築いているが、偉大な歴史の始まりは激烈であった。

 堅牢な鉄製の丼頭をした組織aが、奥深い雪山にある山荘を舞台にして大規模な銃撃戦を繰り広げた。日に日に激しさを増す攻防の最中に、防弾製の鎧で身を固める鯨頭をしたもう一つの組織bが拡声器を向け、山荘に立て籠る丼頭へ延々と投降を呼び掛けていた。

 あたり一面をしんしんと覆う雪の降りしきる寒空の下。膠着が続き長期戦の様相を呈する中、当時、購入する者にはもれなく付属していたプラスチックのフォークで組織bがづるづるとなにかをかっこみはじめた。皆が神妙な面持ちで墓標のように立ち尽くしたまま攻防は一旦小休止となり、湯気と白い息とにまみれた悲壮な姿がブラウン管を通して茶の間へ流れ、それは世に出回り始める。

 このころロックンロールと呼ばれるものがまだまだ熱く世を覆っていた。が次第にそのほとぼりは徐々に冷め、下火になるとともにフォークに取って変わられた。息苦しい四畳半の部屋の隅で身を寄せあう人々がづるづるとすすっているうちに、地に突きたてられた二本の箸が互いにがなりたてあい世を席巻した。どこもかしこも尖った笑いがあふれる、そんな痛々しい賑わいが障ったのか、お上がコントロールを強めると、やがてあちらこちらでひらひらとナイフが飛び交うようになった。その先は主に露天風呂で溺れかけていた赤ら顔をしたサルと呼ばれた集団だった。もちろんその間も休むことなく世の多くの者たちの口中へ吸い込まれていき、しっかり噛みちぎられ、胃袋へとおさめられていった。
 半世紀を越え進化を続け、まぶされるかやくの種類は増し、味つけには激しい辛さをともなうようになった。

  
   *

 
安 藤 百 福
世の安らかなるもののため百の幸福を
男の、陰りを深く彫りこむ貌が、永遠のような無言を、見つめている。

  
   *


今日ではとうとう地球外へと飛び出し、貴重な宇宙保存食としての地位にのぼり詰めている。上昇するシャトルの狭い空間内に設えられた小さな小さな窓からどこまでも広がる終わりなき闇の彼方に蒼くいきずく完全なる球体の星は写真とは違い一つの美しい鉱物を愛でるかのような極上の気分を味わわせ、ほのかに懐かしみと桃源郷の夢心地とでじっくりほぐしてくれる。


亡命者

  湯煙


幼児への誘拐と殺害の容疑だという。
星々をつなぎとめ星座をかたちづくる。崇高というのでないが、
信念と倫理とが発動され、瞬きは忙しく、瞼を微細な痛みが貫く。
愁いの夕空から蝙蝠たちを展開させるための試行が様々に召喚するようだ。
私は尊厳とよばれるものをかけて被告席から歩きだし証言台に向かう。
黒衣を纏う無表情のものたちを前にして死刑宣告を受ける。
そのとき私はどのように逝くべきか。ことばを吐くのか。聴きたいか。
いったい誰が判断を下し線引きは行われているのか。
誰が許可するのか。金銭の取り引きによる和解はあり得るのか。
私は蝙蝠たちの飛翔に眼を凝らす。
確実に侵食し追いつめるものたちの姿を探りたい。
私は無実であり再審を請求する。黙秘ではなく潔白を証すために。
厳格を珍重し求め、非情なまでに他を排する、永い歴史の中で培った思想。
王を定め位を定め、神へ奉納する国、川という川を越え下らねばならない。
新月の夜に私は走り出す。


漁を営む海辺の町だ。
小島の片隅にあり、年中温暖な気候を保つ。
乾いた潮風が島内をめぐりながら日光を受け、翼を広げている。
自然であることを謳歌している。
まだ軽い痺れを残す身を浜辺に横たえうつらうつらしていると、
屈強な背広姿をした中年男の二人が近づき、
寝そべる私の両脇へと腕を差し込んで抱え起こそうとした。
私は冷静に理由を話すよう乞うたが、
男達は答えを返さず私をぐいぐいと引っ張っていこうとするだけだった。
そばに置いていた、所々にじわと赤黒い斑点を滲ませる、
袖と襟元が弛んで垂れ下がるみすぼらしい上着に腕を伸ばしつかみとると、
私は何も言わずおとなしく連行されていった。
幼い頃から通いつめ慣れ親しんでいる駄菓子屋で買い込んでいた、
表面全体がまだ淡く原色の鮮やかさを僅かにとどめる色とりどりの金平糖。
その数粒が、正午を過ぎたばかりの陽の中へこぼれおちるのを見た。


口縄

  湯煙

なだらかな石段がつづく坂のたもと。コンクリートの壁によって仕切られた、隣り合う念仏寺の敷地と小さな町工場との境。その境の前に敷かれる薄汚れた煎餅板の上で、墓参りや散策に訪れる人々を横目に陣取る猫。おまえがいる。ふさふさと白に茶を染めた清潔な毛並みを揺らし、ふくよかにみなぎる首筋を撫でてやると物欲しげに声をたてる。頭を垂れ瞼を閉じ、前脚をそろえ、置物であるようにして、じっとただずむ。

うららかな晩秋の昼下がり。私は買ったばかりのデジタルカメラを取り出し、おまえにレンズを向ける。無私の時であった。標準の画角からやがて広角を選んだかと思えば、気怠いばかりのうつらうつらとするおまえの顔までにじり寄り、鋭く張る銀髭。そして淡い薄桃に色づいた肉が小さく円形をなし剥き出している顎の真下。そばに両膝をつき、ボディをやや上向きに固定し接写を試みる。澄み渡る空。そっと開いた金色の眼。焦点を瞳孔に合わせ、はるか遠くを眼差す、一瞬を切り取る。

撮影を行う合間に近くのコンビニで買ってきた、ミンチ状になった魚の身を差し出してやると、こくりこくり頭をもたげるおまえは大きく伸びをして、眼下に散らばる赤茶けた泥のようなものに鼻頭を近づけ、確かめながらゆっくりと口中へと含み、数分後にはもらさず平らげる。悠々と毛繕いで締めてみせる。そして眠る。

人の話し声が聞こえる。コツコツという乾いた靴音とともに、石段をやってくる。おまえの左耳。わずかに後方へ反る。置物のまま。瞼が開かれていく。速度が上がり大きくなる。フレームを決めピントを合わせ、かまわずレンズを定めるとシャッターボタンを押しこんだ。バンッ!。あたりに破裂音が響く。ファインダー。視線。空をさまよう。靴音の主は携帯電話を片手に私の脇を小走りに過ぎていった。

木々の梢が擦れあう
コンクリートの壁が翳りはじめる

隣り合う念仏寺の敷地と町工場との境。わずかな隙間を隠すように立て掛けられている、縦長の青いプラスチック板が塞ぐ。その下方。地面を底辺とする矩形をしたものが覗き見る。薄暗く遮るもののない一本道。煎餅板を蹴り上げて飛び込んだか。そして駆けたか。待ちつづけた。しかしいつまでも現れない。

住宅や個人事務所などが建ち並ぶ静かな脇道を進み、霞がかる街と地平に浮かぶ空とを望む、照り返す夕陽が美しい一角。そこからなだらかにつづいていく長い石段を下りきりたもとを越えると、歩道を挟んで再び広い国道が横たわる。北に南に往来を繰り返す忙しない車輌の群れ。それらと対峙するように鎮座していたおまえ。ときに門前に建つ石碑をよじ登りてっぺんから勢いよく隣の石碑へと鮮やかに飛び移ってみせた。地面に背をこすりつけてはばかることなく白い腹を見せた。闇の猫。無邪気に時を戯れ、今もそこに生きるか。


たばこをめぐる断章

  湯煙


 わたしはたばこを吸う。そして、たばこはわたしを吸う。
 代わりは存在しない。
 たばこがわたしを吐き、そして、わたしは煙を吐き出す。


    *


 朝。
 ちいさな陶器の灰皿に、死体を見る。
 やがて海に沈静すると、そこに、燻る蒼白の焔があらわれる。
 新たに取り出した一本から天を昇ってドクロは漂い、一日が始まる。


    *


 わたしがたばこを吸いはじめた25年前の当時はマイルドセブンは一箱230円だった。
 現在はメビウスと名称を変えて440円で販売されている。種類も豊富になった。
 昨今。一箱1000円にしようという案が浮上しているらしい。


    *


 ★★★★★★★14                    CHARCOAL FILTER
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 喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとなります。

 妊娠中の喫煙は、胎児の発育障害や早産の原因の一つとなります。

 (詳細については、厚生労働省のホームページをご参照ください。)

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    *


 高校へ進学してまだ日の浅い16歳のある日の朝だった。なぜかわたしはテーブルの上に置かれていた母のハイライトを一箱くすねると、学生鞄のなかに入れ登校した。休み時間に教室の後ろで級友に見せていると、廊下を通りがかった担任と扉の窓越しに見合った。
 指示された別室に行くと、風紀を担当していた中年の体育教師の男がいて詰問をされ、頭をはたかれた。呼び出された母と一緒に数日後、学校へ向かった。そして一週間の停学処分が下った。そのため中間試験のうち三教科分の追試を受けた。帰り道。わたしを励まそうと明るく振る舞いながら母は少し泣いているようだった。留年はまぬがれた。三年で卒業をし、わたしは学校を去った。
 19歳。わたしは買ってきたたばこに百円ライターで火を着けた。思っていたよりもうすく、不味くも美味しくもない、無味乾燥だった。数秒の間もぐもぐとして口を開けると、まんまるく白いかたまりをしたものがぽわんと飛び出して漂い、崩れていった。こうして初めての一本は消えた。咳き込んだりしなかったのはそのためだ。


    *


 どうして止めないか? どうして止められないのか?
 中毒、依存、病気、遺伝、環境等。さまざまに言われるもののはっきりしない。
 そもそも止める意志をいまだもたないが、これは何になるんだろうか?


    * 


 メンソール系は今ではずいぶんと種類も増えてバラエティーに富んだ人気のある商品の一つとなっているが、かつては吸うとインポテンツになるという噂が流れていた。しかし実際にインポテンツになったと聞くことはこれまで一度もなかった。今日も薄荷や柑橘などの味と香りをこめてなに食わぬ顔で彼らは颯爽と店頭に降り立つ。


    *


 脳溢血で寝たきりだった父の右腕がベッドの上で天に伸びて空を掻いた。そしてしばらく親指と人差し指と中指とをゆらゆらとさせた。マイルドセブンを求めて彼は半年後にわたしたちに大小の軽石を残して逝った。


    *
 

 10 RED                        CHARCOAL FILTER
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 未成年者の喫煙は、健康に対する悪影響やたばこへの依存をより強めます。

 周りの人から勧められても決して吸ってはいけません。

 (詳細については、厚生労働省のホームページをご参照ください。)

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 タール10mg ニコチン0.7mg            20cigarets West 380円


    *


 公園の片隅でいつもたばこを吸った

青白く冷ややかな石膏の空に紫煙をくゆらせて 思い思いにたわいもない話をくりかえした 交わす言葉の行方など気にせず灰を叩き落としちぢこまる身を寄せた 靴底に素早く擦りつけると赤色に塗り込められた灰皿代わりの一斗缶のなかへ放り かじかむ両手にながい息を吹きかけて 背を丸めて公園を後にした

からからと音を立ててころがる落葉たち
川面に漂い散り散りになって


    *


 公共の場でのマナーの徹底や禁煙化、喫煙ルームの設置が着々と進んでいる。
 路上喫煙やポイ捨て行為は厳しく監視され、カウントされ、罰金が課せられる。
 わたしたちの肩身はたしかに日々狭くなる一方である、とそう思う。


    *


 「 落ちましたよ 」 「 いや、捨てたんだ 」

 吸い込む。そして、吐き出す。燃焼し伸びていく灰の、その先を見つめる。
 
         
          」


explosion

  湯煙


なんだ?と問いかけても、男は言葉を濁し、口ごもるばかりだった。よく聞くとなにやら買い取ってほしいと言って情けなく飢えた眼をして懇願をする。二度三度その訳を訊ねるも、男はなぜか言葉を濁し口ごもるばかりだった。仕方がないので、その気はなかったが五つだけ買ってやった。しばらくして三つを縦横に張り巡らされている街の血管へ流し込んだ。その日のうちにはずれにまで流れ着き、そこで大量のブツに紛れてさらに仕分けられ、そしてさばかれ、明け方近くにはようやく一つに束ねられることとなる。

手付かずのままの二つについては、親類にあたるガキどもにくれてやれば物珍しさで喜ぶのかもしれないし、祖母や祖父ならば箪笥の奥に丁重に仕舞ったり、仏壇に供えてまた残りの余生を過ごすのだろう。遅かれ早かれポケモンGOも飽きられる頃合いだ。我先にレアものをゲットすべく方々をさまよい求めて歩くも、なぜだと思うまもなく早々にバッテリーが切れてしまい、約束の時間が過ぎてしまう。それは当然だろう。おれが男から買い取ったものにはまだ半年以上の猶予がある。そしてすべては日進月歩だともいうのだし、なにも急ぐこともその理由もない。いずれにしろ上空はあちらこちらドローンが旋回し、コートの内外はいっそうにぎやか。世事に耳目をくれてやれば新世界のドンには"TRUMP"なるものが君臨し、多忙を極めつつある。ヤツはまったくペラペラとよく動く新手てとこなんだな。

瞼を閉じて両手を合わせ、そうしてとりたてて願わなくとも2017(平成二十九年)はやってくる。変わらず厳かなる顔をし、静寂に白い朝をくるみ。そこにふと幻影であるようにしてもう一人の男が、穴の空いたような眼の底をちかちかと青く胡乱な光で満たしてしばし立ちすくみ、そして運んでくる。誘われるがままのぞきこめば声はこだましている。"生き延びる手立てがなかったんだ"


石窯パン

  湯煙



近頃にわかに、わたしの暮らすこの街
で、石窯ブームが沸き上がっていて、
それは、どこにでもある一軒のパン屋
が店先に堂々と、石窯で焼き上げてい
ます、と掲げてからで、大通り沿いに
はとくに朝夕の時間帯を中心に老若男
女問わず、たくさんの客が訪れている。

こじんまりとした店内には、篭に入っ
たバタールやバケットなど定番商品が
中心に配置され、その周りにぐるりと
いろいろなパンがならんでいる。タイ
マーにより焼き具合を制御する大きな
機器ではなく、煉瓦を積み重ねたドー
ム型の石窯を使って作っているようだ。

閉店間際にはすべてのパンが半額で売
り出されるので、たとえば部活帰りの
学生や、貧乏だけどパンには目がない
といったような人々も足をとめて、ト
ングを片手に店内をめぐる光景がもう
珍しくない。普通の街の普通のパン屋
。石窯があり芳ばしく焼き上がるパン。

 
そうしてやがて
   
    この街の界隈に
       
        石窯が増殖した

    という次第だ、

石窯八百屋
石窯果物屋
石窯寿司店
石窯お好み焼き屋
石窯たこ焼き屋
石窯立ち食いそば
石窯パン
石窯ラーメン横丁
石窯アイスクリーム
石窯駄菓子屋
石窯文具店
石窯かばん店
石窯ケータイショップ
石窯パソコンショップ
石窯たばこ店
石窯珈琲店
石窯酒店
石窯ピザ
石窯ショットBAR
石窯きもの店
石窯はんこ店
石窯帽子屋
石窯書店
石窯めがね屋
石窯パチンコ屋
石窯ゲームセンター
石窯パン
石窯サウナ
石窯ネットカフェ
石窯フーゾク店
石窯銭湯
石窯自転車屋
石窯バイク店
石窯車輌販売店
石窯モータプール
石窯結婚式場
石窯ドーム
石窯コンサートホール
石窯リサイクルショップ
石窯ピアノ教室
石窯書道
石窯進学塾
石窯スイミングスクール
石窯パン
石窯小学校
石窯大学
石窯専門学校
石窯教習所
石窯訪問介護
石窯デイサービス
石窯老人ホーム
石窯病院
石窯区役所
石窯法律事務所
石窯行政書士
石窯警察
石窯消防署
石窯裁判所
石窯刑務所
石窯パン
石窯研究所
石窯リハビリセンター
石窯寺院
石窯教会
石窯斎場
.........

あげればきりがないほどだ。

今日わたしはリンゴとレーズンのタル
ト、カレーパンの二種を買って帰った
。どちらも美味であり、風味からはい
たってエコロジーな優しさが伝わり、
噛み始めればやがてじんわり舌を溶け
て奥歯を包みつつリズムを合わせるよ
うにし口中いっぱいに弾けた。温かい
カフェ・オレとともに流し込めばまだ
肌寒い卯月のはじまりをまったりと身
も心も解きほぐした。コンビニやスー
パーで買っているサンミーやヨンミー
、あげぱん番長、まろやかトースト、
カレーパン、ミニつぶあんぱん、では
得ることのないこの酩酊さえ材料の一
つとして込められ、力強く捏ねたり叩
いたりして、石窯にくべては焼かれ、
作り上げられたものであるのを感じた。


一人きりの部屋

    芳醇なる匂いは

       微かに懐を撫で

    漂いつづける、










サンミー - 神戸屋
ヨンミー - 神戸屋
あげぱん番長 - 神戸屋
まろやかトースト - ライフネットスーパー
ミニつぶあんぱん - ローソン


音信

  湯煙


三年C組
義務教育最後の学校生活
クラスを受け持ったのはあなたでした。

快活な方でありました
自信過剰気味でありどこか昔気質を思わせました
物理を教える理系の出らしく白衣を着こみ
小柄ながらアルトのお声は張りがあり男勝りでした
鼈甲眼鏡の分厚いレンズの向こう側で団栗眼をしばたかせる
あの頃すでに定年を控えていたでしょうか
校内を忙しなく婦人用サンダルを履き練り歩く
口紅とアイシャドーをうすくひいた
生意気なツッパリたちとも堂々と渡りあう
だからだったのでしょう彼らも一目置いていました
そのようなお姿が折に触れ
心中に思い起こされるのです
そして卒業間近だったある日
教室へ行き春の訪れを伝えると
予想を裏切られたか大変に驚かれましたね
しばし唖然とされていました
あなたの眼が見開き私を見つめていました
出来のよくなかった
秀でるものがなかった私の顔に見入っていました

偶然
プライド
ユメ
実力
努力
キボウ 
アコガレ
意地
・・・・・・・・・

今も窓際で
空を見上げています


 年月が流れ私は
 思い出をたずさえて生きています

 その後変わりなく
 御健在であられますでしょうか
 
 卒業以来お会いすることもなく失礼をしています
 
 いつかまたお会いできましたならと
 そう願っています。


じゃんぱら

  湯煙


アパートの賃貸契約を交わした半年後に、大家さんから頂いたノートパソコン-TOSHIBA・SATELLITE-が、おかしくなった。いくつかの文字がキーを叩いても表示されなくなり、タイピング不能となってしまった。変換キーを押せば同じ文字ばかり、aaaaaaaaa...... いつまでも連打され続けてしまう。新種のウィルスによる仕業か?とも考えたが、やはりキーボードがおかしいのだと結論づけ、中古パソコン専門店に出向いた。

事情を話し査定を依頼し、店内をうろつきながらウィンドウに並ぶデスクトップやノートパソコンや周辺機器を眺めていると、10分後に番号を呼ぶアナウンスが流れ、カウンターに向かった。3000円だった。店員によるとこれ以上は無理らしく、修理も可能だが時間も費用も必要であるとのこと。仕方がないので成立とし、サインをして現金を受け取り店を出た。途方に暮れたが次のボーナスの足しにして買い換えることにした。

三月が経ち、ボーナスを叩いてノートパソコン-Apple・MacBookPro-を、買った。箱から白い発泡スチロールに収められた本体を取り出すと、メタリックシルバーにブラックのツートンカラーが落ち着いた雰囲気を醸し出し、世界一薄いとの触れ込み通り、上部下部とともに縁が鋭く、そしてなめらかなカーブをしているせいか、鮫を思わせるシャープな魅力が感じられた。開くと下顎にはマットな黒い歯が並び、叩くと音は吸収され、そして思いのほかそのシックな触り心地が指先からすべてを虜にした。しばらくは鮫をSafari内に泳がせ様子を見、落ち着いたところでLionを与えたりしてはオリジナルのキャラクター作りなどで機嫌を取り世話に勤しんだが、半年後に翌月分の家賃の足しにと、思い切って中古パソコン専門店に出向いた。

事情を話し査定を依頼し、店内をうろつきながらウィンドウに並ぶタブレットやスマートフォンを眺めていると、30分後に番号を呼ぶアナウンスが流れ、カウンターに向かった。80000円だった。店員によるとこれ以上は無理らしく、まだ美しい鮫肌を保ちまだまだ子孫を残すとのこと。仕方がないので成立とし、サインをして現金を受け取り店を出た。とりあえずはATMへ向かい家賃や光熱費の支払いを済ませ、残りは次のボーナスと足しにして新しく買い換えることにした。

三月が経ち、パソコンを叩いて得た額の残高3分の1とボーナスの半分とを足しにして、世に出回り始めたスマートフォン-SONY・Xperia-を、-ソフトバンク-と回線契約し、買った。箱から白い厚紙のケースに収められた本体を取り出すと、控えめに輝くカッパーグリーンのガラス張りの裏カバー、外枠にはメタリックシルバーという、ツートンカラーが爽やかな雰囲気を醸し出し、世界中で一番高級感あふれるとの触れ込み通り、面には自身の顔から背後に広がる景色の隅々まで映しこむ膜に護られた鏡面仕様のせいか、手にすると月を思わせるミステリアスな姿がいつまでも魅惑的に感じられた。照らし出すと南には小さなスクエア型のイラスト付きアプリクレーターが浮かび上がり、北には太陽暦やバッテリー残量や位置や通知クレーターにwifi状態や地域の気候を表す絵文字クレーターにローマ数字やマーククレーターが所狭しと並列した。東には無人の砂漠に舞う一葉の若葉があり、西には無人の砂漠に舞う一葉の若葉があり、さらに西には砂漠の大気に舞う一葉の若葉に一つの十字が重なり、十字を軽く押さえつければ東に西にと無人の砂漠に一葉の若葉が舞う。またその新たな月面の上には衛星からの電波を受け、自動で更新が為される便利なウィジェットクレーターを張り付けることも剥がすこともできる。そして思いのほかそのサディスティックなまでの動作心地が指先からすべてを虜にした。しばらくは月の面を点滅させたり回転させたりしてはオリジナルの月面クレーター作りなどで競い合ったり、あちこちに散らばる遠く離れた無数の月同士とで友達作りに勤しんだが、キーボードをタップすれば、!!!!!!!‥‥‥‥ と、同じ記号ばかりがいつまでも適度に連打され続けてしまう。新種のウィルスによる仕業か?とも考えたが、一年後の雨の日につるりんと雨とともに落下し、足元でビリビリと蒼白い月光を放ちながら割れた。キャリアショップへ持ち込むと、保険は未加入だったため修理代に20000円近くの費用が掛かった。二週間後に手元に戻ってきたので、中古パソコン専門店に出向いた。

事情を話し査定を依頼し、店内をうろつきながらウィンドウに並ぶVRやカセットレコーダーやスマートウォッチにガラケーを眺めていると、1分後には番号を呼ぶアナウンスが流れ、カウンターに向かった。0円だった。店員によると修理も時間も費用もなにも!とのこと。仕方がないので不成立とし、店を出た。途方に暮れたが次のボーナスはすべて叩き、そしてキャリア変更をし、新しく買い換えることにした。


    JYANJYANJYANJYAN二年と三月が経ったJYANJYANある日
     JYANJYANJYANJYANTVを視ているとJYANJYANJYAN
       JYANJYANJYAN唐突にたくさんの人たちJYANJYA
         の声が流れたJYANJYANJYANよく聴けばいつまでも
      JYANJYANJYANJYANリズミカルに連呼し続けるJYANJYANただ
      耳障りなJYANJYANPARAPARAJYANJYANだけのJYANJPARAJYA
     NPARAPARAコマーシャルだったNPARAPARANPARAPARA

    PARAPARAJYANJYAN新台入替を知らせるPARAPARAJYANJ
     PARAPARAJYANパチンコ店による仕業JYANPARAPA
       PARAJYAN?JYANJYANかJYANJYAN!PARANPARANP
         と考えNPARANPARANPARANPなにもおかしくはない
      PARAPARAJYANJYANJYANと結論づけJYANJYANPARAPARAPARAP
      翌月には給料を手にJYANJYANJYANJYANJYANHUWAAAIII製
     NJYANJYANのJYANJYNRRRA液晶TTTTTTTをリサイクルショップ-eeeday-に持ち込購る─火用、?‥‥tttりnn磯・・ ─mmm i 取w 。─ 頼 i tと う ‥ 、‥!!─── ──  ─


Morning

  湯煙


一月
早朝7:00過ぎ

マンションの
消えた電灯の下
1階の廊下の角
一台の車椅子
太いコードを
差し込み
バッテリーを補充する
赤色ランプが点る

きみはまだ
布団の上
シーツを被る
ドアを開け
部屋の明かりをつけ
先輩とぼくが
挨拶の言葉を掛ける

こんもり盛り上がる山
ぐにゃぐにゃ
うごめく生き物


キッチンに立ち
フライパンを温め
卵を落とす頃
部屋の中から騒がしい
人の声が広がってくる

頭だけをシーツから出し
きみはテレビに向かい
M-1グランプリ
を見ながらゲラゲラ

フライパンを持ち上げ
先輩が焼いて見せる
卵がじりじり
少しづつ朝が
目覚めはじめてくる



カーテンを閉ざした部屋の
半開きの扉が開く
キッチンを這って
バスルームへきみは向かう


裸ん坊のきみの背に
シャワー水が打たれ
流れ
皿の上に
リクエストの
朝食があり


部屋に戻った
きみは
大きな青い桶
に尻を入れて

閉ざされた扉の向こうで
声もなくただ


しばらくして
先輩とぼくが桶を持ち
便所に入る

木のヘラを使い
うんちを掬い
便器に落とす


先輩は掬ったうんちを
便器に擦り続ける

ぼくがヘラで掬いながら
一気に落とす
オー グッドアイデア!と
先輩が
静かに囁く



仰向けになったままの
きみに下着を着せて
ジーンズを履かせ
シャツを通し
靴下を履かせる


床の上でテレビを見る
きみと
うんちと
ゲラゲラ
を余所に仕上げに入る

オーブンを開け
トーストを入れ
ポットから湯を落とし
コーヒーを淹れる

テーブルの上に
三つのカップが並び
焼き上がる


キッチンから運ばれた
目玉焼きを乗せる
ぎこちない若い手を
ゆっくり運びきみは食べる

先輩とぼくと
カップを手にテレビを見る
カリカリと砕かれていく
トースト

カーテンも
先輩も
笑う



ショルダーバッグを掛け
テレビを消し
明かりを消し
部屋を出る

車椅子を運転し
スロープを下り
国道沿いの歩道を
北に進む

角の郵便局で
光熱費の支払いを済ませ
駅に向かう

きみのバンドの話
カノジョの話
横断歩道を
渡る
陽光の中

たどり着いた
地下鉄の
エレベーターに乗り
電車に乗り
仲間たちの待つ
場所へと



優勝は
笑い飯

賞金は
一千万


a

  湯煙




radical
colorful
political

  
  深夜ジュラルミンライトの照射をくぐり
  遠く少女をめがけた花束を撒き散らして
  動物園の出入り口を開き会議室を封鎖し
  子供達の風船のための火炎瓶を握りしめ

            床にたたずむ
            尻尾を垂れた 


     清掃人が
       夜明けの片隅をみつめている


ミネラルショップの片隅で。

  湯煙


手にする、
鯨の耳石、
を、

反りのある姿形、くすんだ黒、
しめやかにつやを帯びた、

横長の、
ずんぐりとした楕円に近く、
内側にカーブする、
刻む、
大小の渦巻き、

掌に包みこむ、
しっかりとした重量、
ひんやりと、
しみこんでくる静謐、

想像の川を、
思考の網を、
ゆるやかにくだり、
ひもとき、
流氷のささやき、
に誘われていく、

  *

大学病院で
精密検査を受けた

遠くでかすかに
断続的に流されている
微細な機械音

手元のボタンを押せば
大きく右側へぶれる
その
機器の針は停止していた

 ーーー現代では不可能です
 ーーー大きな音は避けてください
 ーーー医療は日進月歩ですから

 と医師は
 わたしを見て言った

(残る右耳を大事にしなさい
(可能となる日を待ちなさい
 
 そういうことだった

 ーーーゲンダイイガク  アナタ  ノ   イマス

 ーーースベテノ  サケテ イ クダサ


慰めや同情は
人の脳に備わる働きなのだろう
沈黙がはりついている

言いあらわすことのできない
言いつくすことができないものたち

   *
   
 人の手を離れ、  
 海原をめぐりつづける。  

 止むことを知らない、 
 喧騒のなか。
    

    
      (ーーー治療は不要です












鯨類に属する生き物たちにはエコーロケーションという、超音波による周辺情報の把握や餌の採取、仲間との意思疎通を行う働きが備わっているとされている。音の受動と伝達は骨伝導による。また、耳の穴はふさがり耳殻を持たないという。ーーー wikipediaより


ライン

  湯煙

 




 受話器を取ることに不安を感じる
 電話を恐れる若者たち

                      LINEメールに焦燥を募らせる
                      未読なあなた


 伝えたい、
 心配しなくていいんだよ 


                      まだLINEアプリをインストールしていないなら
                      「既読」とは何かなんてわからないはず

   
 だからたとえ "ガイドク" であろうと
 笑いはしないしお友だちの一人だし

 それに
 "ガイドク" と読めてしまうものだし

     
     
                      楽しそうだからと登録をして使い始めてみた
                      けれどもいまいち使いこなせてはいない感じ    
                      そもそも各種設定にスタンプやLINEポイント
                      その他にもいろいろとあり複雑過ぎるのです
  
お互いにQRコードを当てがったりスマホを握ってフリフリし合うことにどことなく気恥ずかしさを感じているオレ


                      LINE交換がしたいよと言い寄れば
                      断られてしまいもう悲しくなったよん、… なんて
 
   ^  v^/~~ ~    
 
 そうそう!
 背景デザインやホームのプロフを自分なりに工夫を凝らしてるの
 とても見栄えが良くて自分でもすっかりお気に入りだし
 LINE仲間のみんなもいいねするよね!

                      しかし他の人たちのホームには写真の一枚もなく名前は全然違う
                      音楽もストーリーもなくとても殺風景だったりで   …なんてね


 もしかして 
 ID番号が重要 なの?
                      ID、 だとすれば…なんだか 
                      どこかで誰かに管理されているみたいだな、
    
 
 メールの通知をオフに設定すれば
 メールが届いていたのを気づかず
 慌てて送り返してなぜか(。-_-
 ゴメンしたけれども既読つかない

        

     

    
         

      


                      それ よくわかるよ

                      いろいろとあるよね



 それに誰かのトークなんて
 すごく本文を細切れにして
 

  ワタシはただ会話をしているだけなのに

            

    


                      文章表現にはヒトが出るよね

       

    スマホを取り出してメールを見るやん
     だいたいそのまんまで縦状態ですやん
    詠みやすさや見やすさ考えてんのん?ちゅう
   理由から細切れにするんかい!

    

              

                      それしかないでしょうね



  なるほど…  アタシ気づいた、
  シ? ジン !



                      マ!  ジ?
                      そんなんないわ、


  

  それはないでしょうね  
    
                      それって、
                      わいもいつからかずっと気になっていたことでした
  

                      日本人なら誰もが一度は通る道だわさ


  心配しなくてもいいんだョ
                        
                      ソウダ ソウダ
         

  そもそも
   LINEではないしポエムでもないし


                        

                      顔じゃないし語彙力だけでもないし
                      タップスキルやコミュ力でもないし


  

  募ってはいるが募集はしていないし?
 

                      LINEシジンは既読つかないし



    ………つかないんだ




 

                        ………つかないよ、


神よりも

  湯煙


 
  冬ようたえ
  競い
  生き
  今日を
  すみずみまで
  凍てついた六花
  ふりちらし
  微塵に無様に
  御身はくりかえし
  望み
  飛び
  走り去り
  進み
  あらゆるもの 
  日々の死法を
  眠りより深く
  神よりも浅く


わずら ひ、

  湯煙


みくろみちのこ
みちのこみくろ

呼んでは春の
気まぐれ風が
お好み焼き屋の暖簾くぐり
きみに祝福の言葉
おめでとう!
はにかみ笑みを浮かべ
お辞儀をする丁寧な
ありがとう
東京大学に合格を果たした
ミチノコミクロ

 はるはこすり
  はるはすすり


道の子未知の子
呼んでは青白い
ねばつく液
がたらり
鼻から漏れ出す
紺の袖口にこびりつくもの
鼻をすする
鼻の下をこする癖
カナワナイワカラナイ
先生に叱られ
黙ってうつむくきみと
答えられずに
笑い合うぼくらと
答えられないまま
むずむずする春と

遠足
朝礼
整列をして
みえなくなる
きみと授業前のひととき
ジャガイモジャマイカ、
そして
きみの口は天にあり
きみの目は点になり
大きくなる笑い声
ゲラゲラケタケタころげた

ミチノコツチノコ
呼んでは茶髪のおかっぱ
切れ長のあーもんど
白い肌
銭湯にきみは
弟を連れやってくる
つまらないテレビ
アイドルたちの騒がしい夜
煙突の先に更けていく
月の下
湯冷めをする水曜日

  傘を差していた
xとyとの交わりについて
  √アワへんわ
    √あわへんね 
降っては跳ねる
傾いた
教室の雨をなぞりながら
おしゃべりをしながら
閉じては開き
逃してはとらえる
切リ開いた空のあお
おぼえている
おぼえるあまやどり
かえるのあやとり
吸い込む薄紫の
そうして

このみちこのみち
みこのちちのみこ

新大阪駅からのぞみ8号に乗りきみが
弟が向けたスマホに手を振っている10:06
きみの手首は透き通り
こどもたちはいなくなって
おとなたちは見なくなって
ぼくは桜舞うまぶしい春の日を歩く
垂れてくる
づるづると漏れ出してくる
そのたびに鼻をすする
鼻の下をこする
今も

 (リラ
 (薄紫の
 (きみの
 (変わらない、


あいす

  湯煙


 いつから だった
 どこで  だった

とけないんだ
あいす

真夏から真夏
真冬から真冬
律儀な 
大気の循環
ああ 何度もだ 

結局 錐のねじこまれていく
みぞおち ここ


とけないんだ
国の魔法

ディズニーからディズニー
ローソンからローソン
5Gな
賽の目の中の賽子 
ああ 何廻りだ 

 フレンチのフルコースたいらげなければ
 おれみたいなまずしいものは
 おっちまう


彫刻刀

  湯煙


  中空を対角に走り教師の
  背後のロッカーに激突し木の床
  を一度弾いた

  髄液にまみれ眼底を跳ね
  三半規管を滑落し咽喉を裂き
  鼓膜を穿ち皮膚の内を奔流する

  ふたつの黒い眼の開く
  厚い手が垂れたちつくした
  頬の片側に紅が燻った
         
  赤い水
  海を
  どこまでも
  拒絶
  する

文学極道

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