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作品 - 20191230_596_11650p

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花戦争

  kale

逆しまの奥行きは螺旋の中心へ不整地の塔から身を投げる。蝶のおおく眠る島にうまれ花の根もとから還っていく。双子の鷺はリュウゼツランの花茎から樹液をすすり、首のほそさを左右にゆすり、存在のおもさに、唖唖、と啼いている。背の高い葦の群生をかき分けてひくく視線をねかせれば、甘い蜜は嗄れるために涸れていく。いっさいの音をうばわれた。白の草原に火を治め水を統べる王はまだいない。湖を取り囲むのはアネモネと無数の猿の群れ、そして彼らを取り囲むさらにおおくの白の蝶たち。白夜の草原に黙(しじま)のおわりを私(ひそ)かに伝える失明は反映さえも水の戯れと。飛白(かすり)は中心を忌避するための旋回を、帆翔するのだから、何処から覗き込んでも正面から見つめ返されているような。『みずふみ陲(ほとり)のやうやう青さ、赤さ、黒さはしんしん白ひ。『アネモネはたしかにそう云ふやうだ。『猿たちもたしかにそう謂ふやうだ。『けれど此処ではなにもきこへない。『葦の舟にながされて。『獣たちはただだまつて『此処にゐる。『     。いさかいに手折れた数だけもたげる馘のとむらいを、ていねいに、へし折れば、其のひとつひとつを互いの額にかざして視線をかくす。かさねるということを存在はゆるしあえない、ということだから。めまいのような白日のそのさなかの中心へ。ひゃくの花をとむらう花をとむらうせんの花ばな、を取りかこむさらにおおくの花ばなはいっそうたかく掲げられ、とかたられた白の罪に蝶葬される。『花は。『アマデウス。『何処からきて。『何処へ征くのか。『あはれ片芽はうばはれた『吃花(※)に属する我ら忌み枝。『花を吸ひ、花を摘み狩り。『花の死に。『花よ眠れ。『花崗(みかげ)の四翅に遊離して。『しづか光糸の束はゆつくりと。『暴露していつた。『飛沫と。『嘆きと。『螺旋のすきまへ。『沈みからまる。『     。



シダの森の奧から奧へ。おおきく廻りながらまっすぐに。もはや座標には意味はなく系だけが時間の高度をおしえてくれた。なにをきこうとしていたの?加工されたもみの葉の先端で、ずいぶんと遠くまで。枝葉をおとせばあしもとにみえてきたのは、雨だった。雨粒と太陽は刺しちがえ、毎日うまれかわって殺しあう。雨が雨でなくなってゆく。太陽が太陽でなくなって。そうして微かにゆっくりと枯葉の裏べりからなにかが、しめった匂いを漂わせてくる。なにをみようとしていたの?痕跡は痕跡を覆いかくすのに、信仰はおびやかされてしまうから。ひっくり返した石はもとに戻して。きのうときょうとあしたの彼らは、おなじではないいつもちがう。流しつする血漿や剥離した肉腥は種子となり芽吹いた花が、外を目指して内がわの中心へ、咲こうとしている。傷ぐちのいたみを白々としらしめる未分化の体液は漏出し、日常は生を撚りあわせた営みに享受される。わたしは森に属し、森を構成していた。奪ったものはいつか奪われる日がやって来る。信仰はいつでもためされているのだから。いつも予感はかろやかに障害を打ちおとす未来ばかりをみせてはくれない。花の匂いを追いかけて太陽の匂いを追いかけていた花の匂いは追いかけられる雨音を追いかけて太陽の匂いが追いかけていた裏べりの背に滑りおちる。かれらは呼び止めるたび、ふりかえり、時間の高度をたしかめている、ふりをしていた。おとをたてることなく獣たちのみちを征けばあしのうらはまだやわらか。ああそうか。約束の場所はもうすぐそこ。










(※)吃花
  沈黙する花、もしくは、共食いする花

文学極道

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