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作品 - 20191202_108_11589p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


冬そらの下で

  アンダンテ

(I)
美は捌かれた。涙が剥がれるほどに視界は断ち切られ、冬の色は雪の欠片がこぼれたままに滲んでゆく。いもりが花の陰にかくれて、倒れた木瓜の木の裂けぎわから一筋に降りた蜘蛛の絲を見つめている。やがて居なくなった雀たちを包んで、おそくなって大抵の夜がふけてゆく。

(II)
冬の日射しはすっかり痩せ衰えた地表をねぎらい、高圧線に触れた糸切れ凧をつまみ損ねて出てゆく。差し詰めな間柄でもないのに、除夜の汽笛を合図に生き物たちが騒ぎだし、曲がった煉瓦を風の温度になじませた幾つもの小さな祠がいちどきに冬ぞらの下に現われた。

(III)
 Go to the moon at once! 途切れた太古の吐息がしめ出されて来る。アーキアの確かな足取りを追って迫り来るCO2とN2。燃ゆる海に沈むふたつの月。1兆4600億日のあやまちが搾りたての星空から漏れ始めた。冬枯れのこわれた情念の果実がおどろの道にころがる。

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*註解
・祠:ほこら
・Go to the moon at once! :すぐ月のところに行ってよ!
・アーキア:古細菌
・1兆4600億日:約40億年
・おどろの道:棘の道

文学極道

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