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作品 - 20191126_011_11581p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


あざらし

  屑張




痩せたアイスコーヒーの香りが、摩天楼の地下水脈を伝わり、油膜の張った海に紛れているのを、右中指で汲み取るが、変色した舌で味わう事が出来なかった。

星の見えない夜は、昼に太陽の見えない森と同じように、蜷局を巻いた澱みという狩人が、淡い口紅をビルディングの壁に擦りつけ、銃口を自らに向け楽しんでいるようだった。

幽霊は履いた白い天幕を脱ぎ捨て、排水溝には飴色の塵が詰まる。目が見えないのか、〓についた血を触る事も出来なくなってしまったのか。空を舞う蠅の羽が折れ、地べたを這いつくばっている事にも誰も気付かない。

「海を泳いでいる妖精たち」という認識が支配している。その認識をもたらした影は死滅している。古い書物を図書館から引き上げ、捲る度に白紙が増えていく。開かれたページにはあざらしさんスタンプが手を振っているばかりだ。あざらしさんとは何でしょうか。

●あざらしさん

あざらしさんは大手を振ってあざらしさんといってくれます。いってくれたあざらしさんにはあざらしさーん!!と声をかけてあげましょう。あざらしさんは、かならず手を振り返してくれますので、手を振り返してもらったら必ず手を振り返す必要があります。あざらしさんは海に住んでいて、時折顔を見せてくれます。あざらしさーん!!


喉を伝うカメレオン珈琲の香りが湧いてくる。この味を知らないまま中指の爪で引っ掻いた全てを掴み取る必要があるようだが、この端末に残されたトンボの死骸は茶色い屑を突きつけ、引き金を引き続けるばかりだ。


星の見えない夜、幽霊たちが集会を開き自作した口紅を白い天幕に塗布する。その模様がゴマフアザラシにとてもよく似ている事を知っているのは、全てを見下ろした古い摩天楼の街並みだけである。

文学極道

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