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作品 - 20190711_004_11307p

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グレンチェックの太股

  atsuchan69

蜜を垂らしたグレンチェックの太股に群がるメタルボディの虫たちは「Ψ」の甲殻に暗い愛を孕んで、野蛮な大顎にまだ温みのあるバニラの薫る【Eggnog】を零したモザイク画の尖塔を咥え、スミレ色の格子のある柄の上をせわしく羽ばたきつづける格子の千鳥――もしくは、黒と赤のハウンドトゥース――が太股から一斉に飛び立つと、残された綾織りの無邪気に毛羽だった茂みに、機械虫「ζ」あるいは別の機械虫「π」の屍骸が横たわっているのがそれとなく判る。しかし虫たちは、太股の向こうにまた別の太股があって夜と昼の境に若い女の泣く声や笑う声がたくさん埋まっているのを微塵も悟ることはなかった。そして一匹の機械虫の屍骸は、千鳥たちの飛び立ってしまった格子の上では何ら自己の存在理由を知ることもなかったが、果たして虫たちは格子の上をやみくもに動きつづけ、今さら「Θ」であるグレンチェックで覆われた太股の性別が男なのか女なのかも全くどうでもよいことだった。ましてモザイク画の尖塔の隠喩などロックフェラー・センターに飾られたクリスマスツリーに比べたら一体どれほどみすぼらしいものだろうか。なだらかな砂丘を想わせる臀部の曲線に邪な想いを抱くこと、それ自体が生きていることの証なのだ。そして夜と昼の境に、どこの誰とも知れないグレンチェックの太股は、大勢の人と人の行き交うスクランブル交差点を足早に‥‥きっと誰よりも美しく、とびきり淫らに、グレンチェックの太股に群がる「Ψ」、「ζ」、「π」、また太股である「Θ」、「Θ´」とともに、宙に浮き、さも躍るように歩いていた。その歩みは、つよく、しなやかに、ただほんの少し‥‥危険な愛を孕んで。

文学極道

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