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作品 - 20190618_589_11269p

  • [佳]  無題 - 屑張  (2019-06)

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無題

  屑張



人間の肌は黒糖菓子で、電車の中で足を組まれている皺だらけの捻れたスーツから臭いの汗が垂れる。紙コップの中身を掛けられたローファーは、切れそうな車内の蛍光灯へ、短い唾を吹き込む。安全靴の先から一匹の蝿が沸き立つ。

背を、少しだけ曲げさせられた、つり革の上に、薄く、預けられた通勤カバンの隙間から、これからの未来について、本が腕を剥ごうと企む。ぶら下がる半透明な爪から、電子タバコの軽い、メンソールが騒ぐ。唇を、薄く、摩る、右肘から床下へ、入水する硬貨。交差する蝉時雨、という耳鳴り。

這いずる黒蜥蜴。老婆は、伸ばしていたとりかえばや物語を包むが、煤けた虫眼鏡を駅舎に置き忘れてしまう。車窓を少しだけ開くと愛染のストールが煤煙の海で踊り狂っていた。浜辺に立つ、形の顔をした残丘は、波を模倣して人のすまない部屋の中を海鳥を買う為に必要な呼び名で覆い尽くしてしまう。水平線の先に俊立する雷鳴は天を掴んだような覚えをした。

耳元で震える、アコーディオンの蛇腹を脇のソファーに蹴り置き、電池の水が噴き出したリモコンで、ふるえながら白鳥を撃ち殺してしまった、という枯れ貯め池をタブレットで頬張る、ワードワックスで短髪を刻刻に立てた男。私は熊が好きだ。トートバッグから、威勢がする。靴紐がほどけ始める。徐々に埋まり行く空白の席に置かれた、温習みかん。矍鑠な口紅が歌い始める。ここは、ここは、ここの穴から、広がったサンダルは、穴の抜けた三角は、どこまでもどこまでも、丸く尖って、血のついたトマトのようにみえなくて、疲れている。もうじき降りなくてはいけないのに。ホームと右足の隙間に落ちてしまった。

文学極道

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