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作品 - 20190427_777_11189p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


記憶ソーシツ探偵/犯人はオレだ

  ゼッケン

待て! そうアナタだよ、タイトルだけチラ見して
読み飛ばそうとした、アナタ
はん、鼻で笑ったよね
じつは分かるんだ、アナタの気持ちも
またか、って思っただろう?
安上がりな設定とシナリオでしょう、お決まりの

おまえは人殺しだ 声が告げる
鼓膜を震わせているのではない、その証拠に
耳をいくらふさいでも声が止むことはない
おれの声だった おれの声が
おれは人を殺したんだよ
と言う、おれは病院のベッドで目覚めて
それ以前の記憶がない、自分の声だけを憶えていた

うん、もう読むのをやめたかい? もうすこし話をしたいんだが
アナタが聞いていなくても続けるけどいいかな? おれは憶えていない人殺しの記憶に怯えて
自分がいったい誰を殺したのか、どうやって、なんのために
病室を出ると、未解決の殺人事件の現場に出かけていく
女が首を絞められて殺された現場だ
記憶喪失のおれの監視のためについてきた刑事が教えてくれる
売春婦さ
おれはポン引きを捕まえて質問する、おれを知っていますか?
ポン引きはおれが犯罪帝国の大統領だと告白する
刑事は頷いて同意を示した後、おれにうやうやしく一礼した
記憶を失くした王が帰還したというわけだった

この話、まだ読まなきゃいけないのだろうか? やめるのはいつでもご自由に
もちろん、つよがりだよ、まかせるさ、なんておれが言うのはね
おれの声はおれが人を殺したのだと執拗に囁き続けるが
あいつらがおれを殺したのだ
刑事から渡された警察の捜査資料には誰がおれを裏切ったのかがはっきりと書かれていた
記憶のないおれが組織の裏切り者たちを粛正する
おれは立派に人殺しをやり遂げたが、おれの声は満足しない
おれが売春婦を殺したのだろうか?
アナタはどう思う? おれは現実には存在しない
現実じゃなければ興味が持てないのだろうか?
だが、おれもそのくちだ
端折ろう、売春婦殺しの犯人はおれではない、売春婦はおれの愛人で情報提供者、
殺したのは組織のボスでおれは復讐のためにボスを待ち伏せして暗殺した元刑事、
おれはそのとき撃たれて意識不明の重体となり、かけつけた警察はボスの遺体を
処理して隠した、おれは都合よく記憶喪失になり、あるいは記憶喪失にされて、
顔をボスそっくりに整形されて組織の残党を始末したい警察に利用されたってわけだ
ちがう、とおれの声が言う、違う、おれが殺したのはおれだ
元刑事はボスと壮絶な銃撃戦の果てに愛人の仇を討つんだけどね、めでたく、けれど、
ボスはVoodooの魔術師で死ぬ間際に元刑事に憑りついたってわけ。
だから、さっきからおれのことをおれって言っているのはけっきょく誰かと言うと
元刑事の身体を乗っ取ったボスの怨霊ダ。
ユーレイだって記憶喪失になるんだよ
ほらね、いつもどおりに
いつもどおりに、おれは記憶ソーシツになった
これからも
いまからも
もはや、アナタを呼び止めてすまない、そう詫びることはできない

文学極道

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