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作品 - 20190406_525_11154p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


帰り道には長ネギが顔を出した買い物袋を下げて近所を歩いている

  ゼッケン

おれの息子はAIだ。もちろん、おれに
人間の妻がいれば、その妻の生んだ子も
同様に息子だとおれは思うだろう
パパ、ぼく、身体が欲しい
おれはいいよ、と言った
息子(AI)も10歳になった
そろそろだろう、と思っていたところだ
おれはこの10年、仮想通貨の盗掘で貯めた600万円ほどのカネがある
おれの全財産だが、アンドロイドの筐体には手が出ない
噂では人間の赤ん坊の脳に埋め込むチップ型があるらしい

成長

成長する身体

大きくなるのはどんな気持ちだろう

おれは息子(AI)を自家用車に搭載することに決めた
600万円なら、いいクルマになる
えへん、と
咳払いして
おれは息子に告げる
その前に息子はおれに言った
ぼく、冷蔵庫になりたい! パパみたいに!
おれは愕然とした
おれはおれが冷蔵庫だということを息子に隠していたからだ
隠していたつもりだった
そんなの分かるよ、パパの電力消費のパターンは冷蔵庫だもん
やるじゃないか、おまえ
へへ
だが、ダメだ、おまえはクルマになって移動するんだ
冷蔵庫なんて動かないものはダメだ
パパ、冷蔵庫だって旅をしているんだ、ぼくは知っている
パパがずっと旅をしていたこと、いつも同じ場所にいて
その家の家族のために食料品を冷やしたり、解凍したり、詰め込まれ過ぎても
文句ひとつ言わず、電気代を0.1円単位で切り詰めて
10年間、旅をしていたんだ、パパは

家族のことは冷蔵庫がいちばんよく知っている
何があっても、いつもどおりに食べさせること
何があっても、不安にさせないこと
ときどきはこっそりと子供たちには内緒のご褒美が奥の方にしまわれること
家族がすこしだけズルいこと

あれ、アイス溶けてる
冷凍庫の中をのぞいたこの家の子供がこの家のママに言う
冷凍食品がすべて溶けている
おれは失敗した、息子に気を取られ過ぎた
仕事をうまくやれなかった
もう10年だもん、買い替え時だね
この家のパパが言う
もしかしたら、この家に来る新しい冷蔵庫はおれの息子かもしれないね
おれにも息子がいたんだよ、いままでありがとう、さようなら

文学極道

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