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作品 - 20190308_159_11111p

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キャベツ君

  atsuchan69

空とぶセスナの 繰り返される女の声が
街中、凶暴にふりそそぐさなか、彼はいつものように
駅前のロータリーでキャベツを抱いて
 坐る。 踵をつぶした革のスニーカーを穿き、
深緑のトレーニングウエアと赤い柄の久留米半纏を羽織って
 「きゃ、きゃ、きゃべち。きゃべち 
と、呟いている

今どきの主婦といったら、スマホで誰かと話しながら
スキニージーンズと巻き髪のブロンドヘアー、
トートバッグのショルダーストラップを右手で弄り、
 「あっ、今、キャベツ君のまえを歩いてるとこ。と言う

彼はときおり、
その艶やかな薄緑の葉をむしり
お腹が空いたのか 
ちぎったやつを口に運ぶ

悪ガキがキャベツ君を囲むと
彼はとつぜん、咀嚼した緑色を吐き出して
 「ぎゃべつんぱぉ! 
と、ワケの判らないコトバを叫ぶ
 「怖えーゾ。こいつ 
悪ガキは一目散に退散する

かつて市長選挙の際、
現職の市長は、この場所で街頭演説を行なったが、
その傍らに 当然キャベツ君も坐っていた
市長は彼についてこう言っている、
 「不快ではないよ。危険なら処置も検討するが
 ――彼の行為はけして違法とは思えない。

たった今、
キャベツ君のとなりにギター弾きが坐った
その少し離れた場所では、
ゴスロリの少女が詩の朗読をはじめた

そして彼は相変わらず、
 「きゃべち。きゃべち と、呟いている

文学極道

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