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作品 - 20190216_859_11077p

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冬の午後、町内

  ゼッケン

近所でドローンを飛ばしている男を見た
おれは話しかける
上手ですね
男は
おれを警戒したようだった
おれよりは年下だろうが、じゅうぶん
中年だ
色の褪せた冴えないカーキ色のジャンパー
男の操縦する小さなドローンは住宅街のせまい路地の上を行ったり来たりしている
あの、
おれは言った
何をしているんですか?
男はため息をついた
観念したように言う、じつは
ポテチを
ポテトチップス?
それをあの家の屋根の上に撒いています
撒いているんですか? ポテトチップスを
かけらです、袋の底にたまっているでしょ、あれをとっておいて集めて
言われてみれば、ドローンには茶こしのような網がぶらさがっている
あの網からポテチのかけらを人の家の屋根の上に撒く

カラス

餌付けされたカラスが屋根の上に集まるようになる
度を過ぎたイタズラだろう
あんたね、おれは語気を強めた
機先を制して男は言った
わたしの実家なんです
家を追い出されたいい年した息子が老いた両親の住む家に嫌がらせをしているのね
ちがいますよ、両親はどちらも他界してます、でも、
何かが住んでいます
何かがって。兄弟? 
わたしに兄弟はいません、ひとではないんです
もういいや、と思った
おれは男が実家と呼んでいる家の玄関に近づき、インターホンを押す
男はカラス! おーい、カラス、やって来い! カラスを呼び始めた
おれはインターホンのカメラを意識しながら言う、すみません、町内のものですが
一瞬、頭上の光が影に遮られ、おれは首をすくめる、ばさり、と首筋に風がふきつける
おれはたてつづけにインターホンの丸いボタンを押した、背後に渦巻く黒い羽の圧力を感じていた、はやく
はやく開けて! 
解錠される音がして、玄関の扉が内側から開かれた
玄関の扉の枠で切り取られた四角の面は幼い頃の男と
まだ若い両親の三人で撮られた写真だった
男はただいまと叫んで写真の中に飛び込む
写真の両親は平面になった男を平面な微笑みで迎えた
時間は流れないことの証明だ
玄関が静かに閉まる

きっと復讐だったのだろう

冬の陽は低いまま、
空にはポテチのかけらを撒くドローンは飛んでいない

文学極道

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