固定されたツイートには
固定するほどでもないことがあるように
夜空には星が
と、
ここまで書いて
ミカちゃん!
って、
名前を呼ばれた。
オプションの準備は
自分でやらなければならない。
カバンに
チャイナドレスとローターを入れ
車の後部座席に乗り
移動。
/
店長はいつも
村上春樹の小説を読んでいる
読み終わると
待機所の本棚に捨てるように
雑に置く
私は読んだことがない
同じ頃に入店した
ほんわか系のまなみちゃんは
たまに読んでいるみたいで
店長に感想を伝えている
なんだか死にたくなりましたね
とか言っているのを
何度か聞いた。
真夏の夜
まなみちゃんと一度だけ食事へ行った
池袋の居酒屋
左手で
エビとアボカドのサラダを食べながら
右手で
スマフォを見ている
ミカちゃんツイッターやってる?
んんん、やってないよ
そっかそっか
まなみちゃんの両手首は
傷だらけ
真冬の昼
部屋へ入ると
常連の村上さんがロープを持っていた
私は固定され
両手が動かせない
私の両手は固定するほどでもないくらい
そもそもたいしてせめることも
できない
完全拘束
いいのいいの
村上さんはそう言って笑う
知ってるでしょ、俺、Sだから
そっかそっか
村上さん、村上春樹って知ってる?
知ってるよ、読んだことないけどね
今度持ってきましょうか
いや、いらない、てか、読むんだ、小説とか
んんん、私も読んだことはないだけどね
せっせと縛る村上さん
手際よく縛られる私
村上さん、村上春樹と同じ名字ですね
ま、偽名だけどね
ですよね
ミカちゃんは本当の名前なんていうの?
言えませんよ
だよね
この仕事、本名でやると壊れますからね
そっかそっか
そうですそうです
こころまで拘束できるかな
んんん、どうでしょうね
ミカちゃん、好きな人いるの?
死にました
あ、ごめんごめん
平気平気
ほんとごめんごめんごめん
いつかみんな死にますよ
ま、そうだね、リカちゃん、手首、痛くない?
大丈夫です
/
車から降りる
ホテルのエレベーターの中で
スマフォを見る
つぶやきたいことが
私にはない
まなみちゃんは
本名で生きている
それは
本能と言い換えてもいいのかもしれない
まなみちゃんのツイートには
きれいな詩が
固定されていた
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選出作品
作品 - 20190213_815_11068p
- [優] 未来の痛みをめしあがれ - 泥棒 (2019-02)
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未来の痛みをめしあがれ
泥棒