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作品 - 20181119_712_10908p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


耳鳴りの羽音

  帆場 蔵人

こツン、と硝子戸がたたかれ
暗い部屋で生き返る
耳鳴りがしていた
からの一輪挿しは
からのままだ

幼い頃、祖父が置いていた養蜂箱に
耳をあてたことがある、蜂たちの
羽音は忘れたけれど、何かを探していた
耳鳴りは蜂たちの羽音と重なり
ひややかな硝子戸に耳をあてて

蜂になるんだ

やみに耳をあて、描く、やみの先、花は
開き、一夜にして花弁は風にすくわれる
蜂は旋回しながら、花たちに惑う
風はすくわない

どこ?

いつかの夜に咲いた
花の手触りは、あたたかで
一層、孤独をあぶり出し
甘い蜜はより甘く、焦げた
トーストみたいなぼくは
いつもそれを求めていた

蜂になりたい
なんのため?

こころから飛び出した手、だれかの
こころ、触れたい、花から花へと
いくら蜜を持ち帰っても触れられない
こころに触れたい、この硝子戸よりも
あたたかいのだろうか、甘い蜜よりも
苦いものに、このこころを浸したいと
思えたときにはもう遅かった

一輪挿しにはまぼろしですら
花は咲かない、からの磁器は耳を吸いつけ
羽音は吸い込まれ、耳鳴りだけが返される

蜂に……

朝の陽に焼かれて蜂は
ベランダで死んでいた
女王蜂がいない養蜂箱は
死んでいる、耳鳴りだけの部屋

文学極道

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