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作品 - 20180910_127_10730p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


降りしきる

  宮永




雨粒が
こめかみをはじく
雨だれが
肩をたたく
雨水が
頭頂からうなじをつたい
背中に流れ込むから
つくえのひきだしをあける指先が
中にある
削りたてのえんぴつを
濡らす

ひきだしから出てきたわたしが
洋服だんすの扉をあける
洋服だんすから出てきたわたしは
あの時の服を着ている
あの時どんな服を着ていたかなんて
覚えていなかったはずなのに

あの日と同じ服を着たわたしは
同じ場所に行き
同じ目線を浴びる
憐れみに満ちた
その源泉を
削りたてのえんぴつで
突いてやりたい
けれども
えんぴつはなぞるだけだ

なぞりながら
わずかずつ
記憶を捏造してしまえばよいのに
そうしようとするわたしに
わたしは気づいてしまっているから
流れ去る水が
岸壁を
侵食するような歪曲でなければ

降りしきる雨の中では
色彩を欠いたものたちの
かたちと影とが重なりあって
わたしは淡く変幻する
影のかたちを黒くなぞっている

通りを行き交う人たちの
乾いた話し声が響いてくるから
もう雨はやんでいるのだ、と
カーテンをひいて窓を開ければ、と
わたしは雨の降りつづく
わたしの部屋をノックする

文学極道

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