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作品 - 20180825_103_10691p

  • [佳]  事情 - ゼッケン  (2018-08)

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事情

  ゼッケン

死体を埋める場所は昼間に
下見をして決めていた
夜、
スコップを担いで暗闇の中
斜面を
登る 腐葉土
というのだろうか
柔らかい土に足の裏がいくぶん
沈む
懐中電灯に紙の筒を被せた
不用意な光が
注意を呼ばぬよう
光の輪は細く絞られている
それで、おれは気づかなかった
すぐ耳元で声がした
死体ですか? 埋めるんなら、ここに
おれはとっさに小さな光の輪を声のした横の木に向ける
木が喋りかけてきた、という錯覚を覚えていた
直径10センチ足らずの輪の中に生白い肌が夜の闇に切り取られて浮かび上がる
細かく上下左右に光を移動させると露出した男の下半身
横向きの臀部、前面は木の幹に密着している
勃起したペニスの根元が見え隠れし、木に挿入しているようだ
動きが止まる 恥ずかしいな、見られる趣味はないんで
光、ちょっと、すみません
おれは要求に従って光を消した

おれは市役所に勤めていた
後から後輩に聞くとおれはオタクに見えたそうだ
後輩が昼休みに入ってすぐ、電算室にあるおれのデスクの前に来て言った
センパイ、ちょっと頼み事があるんですけどいいですか? わたし、変態なんです
女子トイレで自分を盗撮して欲しいというのが頼みだった
三日後、カメラをトイレの天井に仕掛け、どの個室か後輩に伝える
翌朝、回収したカメラを渡すと後輩は喜んでおれを部屋に誘った 
今夜はいっしょに鑑賞会ですよ
おれは残業で遅くなり、それでも後輩のアパートの部屋に行った
後輩はもう始めており、洗い髪を頭の上でまとめてタオルで包み、パジャマの上着だけ羽織り、照明を消した部屋の中、モニターだけがついており、そのまえにあぐらをかいていた。むき出しのやわらかい尻がつぶれて横に広がっていた
モニターの暗い画面には女子トイレの個室でマスターベーションをする後輩が見下ろされる角度で映っていた
画面を見ながら部屋のフローリングの床の上で後輩は同じことをしていた
勃起したペニスをしごいている
おれはカメラの映像を後輩に渡す前に見ていたのでもう驚かなかった
背後のキッチンのテーブルの上に置いたコンビニの袋からお茶のペットボトルを取り出す
後輩はおれに振り返るとセンパイもわたしを見ながらオナニーしよう、と言った
おれはそれより、その後の映像を後輩に見せたかった
画面の中の自分といっしょに射精して後輩は大きく背伸びして立ち上がった
ありがとうございます! 気持ちよかったです!
おれは後輩にもう一本のお茶のボトルを渡す
画面ではトイレの個室にジャケットを羽織った中年女性が入ってくる
後輩は見たくないと言ってモニターのリモコンに手を伸ばす、おれは制止する
中年女性はスカートをたくしあげ、ハンドバックから取り出した小さな注射を内股に刺す
こんな時間にインスリンとか打たないですよねー、と後輩は言った
中年女性は市会議員だった
おれと後輩は200万円ぐらい貰ったら山分けしようと決めた
現金を受け取るのは後輩の役目で
後輩は嫌がったが受け取るときにはひげを剃らずに男の格好をして向かう
だが、後輩は現金を受け取ったあと、アパートの部屋まで尾行されたようだ
後輩はおれに電話してきて言った、センパイ、殺しちゃいました、あとをお願いします
市会議員の雇った探偵だろうか、おれはやせた中年男性の死体を運びやすいようにパーツに分割し、それから地図を見て北に向かい、遺棄場所の見当をつけて部屋に戻った
後輩はおれに半分の100万円を残し、お世話になりましたと書いたメモを残して部屋から去っていた

木とセックスする男は死体を埋めるなら自分がいまセックスしている木の根元に埋めて欲しいと言った
この木は今夜、おれの子を宿すので、妊娠中は栄養が必要で、
お願いします、とおれに頼んだ
頼まれたのでおれはそうすることにした
おれが足元に穴を掘っている間にも男は腰の動きを止めず、木を撫で続けた
穴を掘り終わり、おれはいったん降りていき、車から人の各パーツの入ったボストンバックとリュックサックを数回に分けて運んだ
早く栄養になるように死体はカバンから出してほしいと男は言った
おれはむかっぱらを立て、懐中電灯で男の顔を照らした
男の顔からは木の若芽が一面に伸びていた
おれの驚愕をなだめるように男は言った、大丈夫です、この芽は朝になれば枯れて落ちます
いま、精を彼女に移しているので移し終われば朝には元通りです
おれは男の顔を照らしたことを詫び、人体を木の根元に埋めると山を下りた
南に向かってクルマを運転しながらおれは
自分がつまらない人間であることを恥ずかしく思った

文学極道

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