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2018年08月分

月間優良作品 (投稿日時順)

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* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


牛乳配達員は牝牛を配る

  

夕焼けは 銭湯の煙突の煙を言い当て蝉の15時 夏風邪の木漏れ日を掻き分け こぎ急ぐ自転車へ追いつこうとする 頬は夏の花に染まり 迷子の牛を数えた
ほんとうは家出したんだ 心がわりしたらしい しとやかさは職業ではない 人から聞いた話だけど クビになったらしい とうぶんは失業保険でやっていくそうだ お母さんが酷い目に遭わされたのかい? いや 牛のはなしだ
見知らぬ時間に出逢えればよかった なんどかタクシーを拾おうとしていたね あなたの中に あなた自身が存在するように 彼女だって彼女の中に 抑えきれない彼女自身を持っている ただ あわてていて あなたは迷っていたんだ 歩き疲れているのに留まろうとしない 葬儀のために用意された鐘が 転がり落ちてゆくのだから
物語は手作りするのが趣味だった ようやくね 人のいないところに来たんだ 優しい過去を 憂うためのはなしは 寿命が尽きてからが面白い もういない牛の背中を 撫でるような仕草をすると あの世でも 尻尾の付け根みたいに だれかの眉間に しわがよるんだ
聖母なんかいらない 正直者は 愛する人のために嘘を吐かない 中身のない空っぽな人間だ 天使の真綿をまもってしまう母に恵まれなかったからだ 罪のむしろで包めた 仄かに熱い 子守唄に揺られて眠ったことがないからだ
くすり箱は痛みに飢えていた 友人の母に 母乳を吸わせてほしいと頼んでみたけれど 願いを叶えてもらえたことは いちどもなかった マキロンに洗い流された太陽は化膿した 蝿になって這い出てしまう
「免疫力が備わりますよ ヘイ ジャパニーズは消毒されすぎたね 今朝から ミルクの代わりに 黒毛牝牛を配ることにしましょう」
「まいどおはようございます 佐藤のお兄さん たくさん搾って ゴクゴクやっちまってください 空ビンじゃなくて空ウシは 表に繋いで出しといてください 翌朝 てきとうに連れて帰りますから」
連れて帰ったら餌をあげよう そして 餌をあげたら 餌をあげたら ダメだ 餌をあげて それから牝牛に何をしてあげればよいのかわからない 花子よ よしよし もうおまえを誰にも渡さない 俺とおまえはいつまでも一緒 なんて嘘だ 花子 おまえ すでにお乳がぱんぱんではないか 鍵盤 波うてば 青信号は旅立ちの 風のあいだを滑空する 伸びやかな旋律が渦まく潮さい 波止場ヘ ふき溜まる母さん たたずむ四隅の空よ 母さんは月の引力を浴び膨張する 母さんは防波堤に押しよせる永遠 母さんに砕ける波 母さんへ飛び散るしぶきを鳴けカモメ 母さんがあふれる景色を なけなけカモメ 母さん泣きながら忘れた自由の空に 母さん羽ばたく白い悲しみは色あせ 母さん 母さんは静まりながら蒼ざめてゆくよ 母さんは歯のように抜け落ちてゆく


Living

  宮永


撒かれた砂の上
ぽつりぽつり散り居り
おのおの の
輪郭をおぼろに照らす
水鏡の方を向いて
いる


縁取られ
濃縮された瞬きに濡れた
はんぶんの
かおとからだは
どこか似て
いる


やがて
ひとりずつ
巻き貝の
なかへ
奥へと
吸い込まれてゆく


ルイーニの印象

  鷹枕可

 縫い留められた花粉、塵屑
   海峡と翻訳機械に総ては聳え、
  茫海の青年はその背筋を翼に擡げられた鋼球体に終端と起端を踏みしだき
工廠へ倒れている智慧のダヴィデを縦断する
     偽製その黒い華燭―薔薇色の蜘蛛は
          死後紛糾の係争に有る一粒の棘の食糧でもあり
あろうことか眼窓―地球の関与を俟たない微粉塵には
   私庭の酸い葛藤生花工場が蔓延する様に
      繭球を建築家が隔て眺めている
それは純粋な悪意を充て瑞々しく蘇る
   対偶関係に繋る聖母、血塊を蹲る螺旋燈の建築物であり、

その嬰児の母は名をマリアと言った
その嬰児の母は名をエリザベツと言った

精製花粉の厩、創造球が蝕既たる闇黎光を双嬰児の胸像が四隅に裂罅疵を闡く
 鹹水の窪―映像―影像に静謐たる複翼人は曖昧な欺瞞を施し
稜線一把に擲たれた花束の銃、
  得てして総て死線は
     繊細精緻な繭の紡錘室、
   万有引力その個静物数多の成果たる純血統種の優越に過ぎず
        気紛れを履くデウスの機械機関は有るべくも無く
貿易品目録に花崗岩を押さえ
     鉛丹と瑠璃青の分身―楕円を廻る死葬車の如く水溝橋梁の火事は跡を絶たずして、


The Great Gig In The Sky。 

  田中宏輔



vanitas vanitatum.
空虚の空虚。
(『ギリシア・ラテン引用語辭典』)

そこにあるものは空虚。
(ロジャー・ゼラズニイ『いまこそ力は来たりて』浅倉久志訳)

詩人はひとつの空虚。
(ギョールゴス・セフェリス『アシネーの王』高松雄一訳)

子供の心に似た空虚な世界。
(コードウェイナー・スミス『酔いどれ船』宇野利泰訳) 

詩は優雅で空虚な欺瞞だった。
(ルーシャス・シェパード『緑の瞳』4、友枝康子訳)

詩だって?
(ロジャー・ゼラズニイ『心はつめたい墓場』浅倉久志訳) 

詩人?
(アルフレッド・ベスター『消失トリック』伊藤典夫訳) 

詩人がいた。
(J・P・ホーガン『マルチプレックス・マン』下・第四三章、小隅 黎訳) 

彼は死んだ。
(アルフレッド・ベスター『虎よ、虎よ!』第二部・15、中田耕治訳) 

彼の心は一つの混沌だった。
(サバト『英雄たちと墓』第I部・13、安藤哲行訳) 

何かが動いた。
(フィリップ・K・ディック『おもちゃの戦争』仁賀克雄訳) 

またウサギかな?
(ジェイムズ・アラン・ガードナー『プラネットハザード』上・5、関口幸男訳) 

黒ずんだ影が人の形となって現われた。
(フィリップ・K・ディック『死の迷宮』12、飯田隆昭訳) 

誰だ?
(オクタビオ・パス『砕けた壺』桑名一博訳) 

ひとりの人間が森を歩いていた
(ローベルト・ヴァルザー『風景』川村二郎訳) 

お前なのか
(ヨシフ・ブロツキー『ジョン・ダンにささげる悲歌』川村二郎訳) 

なぜここへ来た?
(ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『そして目覚めると、わたしはこの肌寒い丘にいた』伊藤典夫訳) 

なぜこんなところにいる?
(グレッグ・イーガン『ボーダー・ガード』山岸 真訳) 

誰がお前をつくったか
(ブレイク『仔羊』土居光知訳) 

網膜にはひとつの森全体がゆるやかに写って動いている
(オディッセアス・エリティス『検死解剖』出淵 博訳) 

あれはわたしだ。
(デニス・ダンヴァーズ『天界を翔ける夢』13、川副智子訳) 

わたしなのだ
(『ブラッドストリート夫人賛歌』49、澤崎順之助訳) 

そんなはずはない。
(カブレラ=インファンテ『亡き王子のためのハバーナ』昼夜入れ替えなしの興行、木村榮一訳) 

わたしは頭がおかしい。
(ダン・シモンズ『フラッシュバック』嶋田洋一訳) 

わたしが狂ってるって?
(フアン・ルルフォ『ペドロ・パラモ』杉山 晃・増田義郎訳)

死んだのはこのわたしだ
(フアン・ルルフォ『ペドロ・パラモ』杉山 晃・増田義郎訳) 

この私自身なのだ。
(サルトル『嘔吐』白井浩司訳) 

いったい、なぜわたしはここにいるんだ?
(ロジャー・ゼラズニイ『キャメロット最後の守護者』浅倉久志訳) 

わたしはいったいだれなのだろう。
(リルケ『愛に生きる女』生野幸吉訳) 

詩作なんかはすべきでない
(ホラティウス『書簡詩』第一巻・一八、鈴木一郎訳) 

それは虚無のための虚無だ、
(ガデンヌ『スヘヴェニンゲンの浜辺』14、菅野昭正訳) 

ここがどこなのかわかってくると、いろんなことが思い出される……。
(フアン・ルルフォ『ペドロ・パラモ』杉山 晃・増田義郎訳) 

詩集の中のどこかだ
(R・A・ラファティ『寿限無、寿限無』浅倉久志訳)   

nimirum hic ego sum.
確かに私は此處に在り。
(『ギリシア・ラテン引用語辭典』) 

自分の作り出すものであって初めて見えもする。
(エマソン『霊の法則』酒本雅之訳) 

引用でしょ?
(コニー・ウィリス『リメイク』大森 望訳) 

あなたは引用がお得意だから。
(フエンテス『脱皮』第二部、内田吉彦訳) 

nullam rem e nihilo gigni divinitus unquam.
いかなる物も無から奇蹟的に曾て生じたることなし。
(『ギリシア・ラテン引用語辭典』) 

これらはことばである
(オクタビオ・パス『白』鼓 直訳) 

虚無のなかに確固たる存在がある
(アーシュラ・K・ル・グィン『アカシア種子文書の著者をめぐる考察ほか、『動物言語学会誌』からの抜粋』安野 玲訳) 

じっと凝視するならば、
(コルターサル『石蹴り遊び』こちら側から・41、土岐恒二訳) 

すべてが現実になる。
(フレデリック・ポール&C・M・コーンブルース『クエーカー砲』1、井上一夫訳) 

いったん形作られたものは、それ自体で独立して存在しはじめる。
(フィリップ・K・ディック『名曲永久保存法』仁賀克雄訳) 

樹木は本物、動物たちもすべてが本物だった。
(ジョン・ヴァーリイ『汝、コンピューターの夢』冬川 亘訳) 

あらゆるものが現実だ。
(フィリップ・K・ディック『ユービック:スクリーンプレイ』34、浅倉久志訳) 

この世界では、あらゆる言葉が
(アラン・ライトマン『アインシュタインの夢』一九〇五年五月三日、浅倉久志訳) 

現実だ。
(スティーヴン・バクスター『真空ダイヤグラム』第七部、岡田靖史訳) 

ここにいるのか彼方にいるのか、空中にいるのか
(アンドレ・デュ・ブーシュ『白いモーター』2、小島俊明訳)  

虚空の中の虚無でさえ動くことができるということを、理解できるだろうか?
(R・A・ラファティ『空(スカイ)』大野万紀訳) 

世界という世界が豊饒な虚空の中に形作られるのだ。
(R・A・ラファティ『空(スカイ)』大野万紀訳) 

unde derivatur.
そこより生ず。
(『ギリシア・ラテン引用語辭典』) 

私は死んでしまった。それでもまだ生きている。
(フィリップ・K・ディック『シミュラクラ』10、汀 一弘訳) 

わたしのいるこここそ現実だった。
(サバト『英雄たちと墓』第III部・35、安藤哲行訳) 

森全体が目覚めている
(フィリップ・ホセ・ファーマー『奇妙な関係』父・7、大瀧啓裕訳) 

だからこそ、わたしはここにいるのだ。
(フィリップ・K・ディック『時は乱れて』6、山田和子訳) 

この土地では、死はもはや支配権を持っていないのだった。
(ロバート・シルヴァーバーグ『いばらの旅路』11、三田村 裕訳) 

無とはなんなのだろうか?
(ジョン・ヴァーリイ『ウィザード』下・27、小野田和子訳) 

nihil ex nihilo.
無からは無。
(『ギリシア・ラテン引用語辭典』) 

sic animus per se non quit sine corpore et ipso esse homine, illius quasi quod vas esse videtur.
かくて靈魂は肉體及び人そのものなしに獨立して存在すること能はず。肉體は靈魂の一種の壺のやうに思はる。
(『ギリシア・ラテン引用語辭典』) 

どこへ出るの、この扉は?
(マルグリット・デュラス『北の愛人』清水 徹訳) 

ドアを見たら、開けるがよい。
(ロバート・シルヴァーバーグ『いばらの旅路』9、三田村 裕訳) 

どこでもいい ここでさえなければ!
(ロバート・ロウエル『日曜の朝はやく目がさめて』金関寿夫訳) 

ハンカチいるか
(ロバート・ブロック『ノーク博士の謎の島』大瀧啓裕訳) 

ハンカチだ。もちろん、ハンカチがいる。
(エドモンド・ハミルトン『虚空の遺産』11、安田 均訳) 

このハンカチを使えよ、さあ
(ジョン・ベリマン『76 ヘンリーの告白』澤崎順之助訳) 

彼は自分が死んだことを知った。
(アルフレッド・ベスター『虎よ、虎よ!』第二部・15、中田耕治訳) 

わたしは発見されたのだ。
(ブライアン・W・オールディス『爆発星雲の伝説』8、浅倉久志訳) 

記憶はそこで途切れ、
(ブロッホ『夢遊の人々』第三部・七六、菊盛英夫訳) 

わたしは目覚める
(ジョン・ベリマン『ブラッドストリート夫人賛歌』49、澤崎順之助訳)  


明日を探して

  lalita

二人は真っ赤に染まる夕焼けをバックに、溶けるような接吻をした。



世界が終わっていくディストピアのなかで、全世界を抱ける。そう感じた。



彼女の見事な黒髪は、ああ、森のカモシカが見たら、あまりの美しさに恥じ入るだろう。



君の立った二つの瞳に写った世界は、唯一無二の美だったよ。



立ち並ぶ銀の高層ビル、夜空の満開の星達。 官能的なワイングラスに写った、一夜限りの二人の影。



罪作りなペニス。悪の花であるヴァギナ。



ううっ。優しさから僕を遠ざけてくれ。



気遣いという魔力から僕を遠ざけてくれ。



僕は、完全な安らぎを手に入れるために生まれてきたんだ。



覚えてる?



あなたは、昔とても女性的なハートを持ってる人だったわ。



そう、泉のほとりに咲いた怪しくも弱いあの一片の花びらのように。



vajiri vajirasattva sarvatathagata



そう、今の人生は、あのたった一つの愛の物語の回想。



彼女が愛の至福に脱魂状態になって、体を制御できなくなったあの夜の記憶。



私が愛だということは、断じて絶対だ。



この世のすべては、その絶対的真実の展開に過ぎない。



愛とは宇宙で最も弱い、しかし最も強い独裁者である。



愛のいかなる敵も、愛そのものによって溶かされて消え去るしかない。



厳しい愛の試練を乗り越えてきたので、プライドやエゴが無意味になりました。



至福に浸りながら、大地を転げまわる。



蔑まれた人たちと手をとって、「兄弟よ!」と呼びかけ、一緒に祝福のミサを受ける。



社会的地位も名誉もなく、ただ大地に二本の足で立っている。



私は詩人ではない。私が詩だ。



これはたった一つの愛の物語。



すべての愛はこのたった一つの愛の分身なんだよ。



同じように、すべての美は、たった一つの美の分身だ。



僕が君にささげた思いが、時間を生んだ。



その「時間」はいかなる有限の時間も越えた、絶対の主観的客観性の火の海であった。

すべてを食らう、漆黒の時であった。



私は、あなたの優しい心。



私は、無私の心で、電車に轢かれそうな少女を守った青年。



私は、満場喝采のなかで栄光を独り占めするスター。



私は、路上で空き缶を拾うホームレスの老人。



私は戦地で、子供を産み落とした若い母親。



私は、仏陀の説く空性を得し者。



私は一人の人を愛し続けた真の愛を知る名もない人。



私は、すべてだったのです。



私は、神 すべてを知りすべてを超越せし者。



私は、人間、女々しく弱いただのその辺の生き物。


にがい いたみ

  田中修子

乱れ散る言葉らに真白く手まねきされる
祖母の 真珠の 首飾り 記憶の そこ 
瞼のうらの真暗闇 ここからどこへいく
(扉が開き 一階ずつ 降りていきます)
(目覚めたらおそろしいことは忘れます)
ルビーの靴の踵が 黄色い煉瓦をふんだ
バッヘルベルのカノンが鳴り響いている
幾度も乱反射する蓮華の花言葉は約束よ
式子内親王が笑い崩れながら叫んでいる
「玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば」
(三、二、一) しろいへや に目覚めた
からだは硬直している先生がのぞきこむ
狭い窓 夏の暮は大火 焼ける赤い雲の
けむに まかれて まばたきするたびに
一番 底で みたはずの幻に 喰われた
いますか ここにいますか ここは現か
道草に散らばる 四つん這い で探した
踵を 鳴らす 首飾り 見つけて下さい
コツコツコツ あの日日に帰りたくって
煉瓦道に祖母の熱い骨が散らばっていた

エレベーターに蹲って夢を見ております


反響

  霜田明

    I

やさしい人の
うわごとみたいな
言葉ばかりが
疲れ切ったこころの
よすがになる

  ああ あそこだな
  いつか あそこへかえっていくんだな
       (『ひとり部屋に居て 』友部正人)

僕にある自我が、
閉塞性が、
僕を、
僕という生き物にしている
ように
君にある自我が
閉塞性が、
君を、
君という生き物にしている

そうして
誰の思い通りにもならない存在になる
思い通りにされるということを
忌み また同時に
ひそかに恋する存在に

やさしい人の
うわごとみたいな
言葉ばかり

  ふたつの自我のあいだに
  想像される
  自我をもたない
  空間を
  距離と呼ぶ

    II

言葉の意味を
強く感じた経験は
罵倒を受けた
帰り道だった

言葉の意味、
それは高度さや
深遠さではなく、
自分へ向かう言葉が
反響するところにあるものだった

誰かが歩んできた
人生を想いながら
失われるのが
惜しいと思うことと

自分の人生を想いながら
そう思うことは違う

自分の想いは
いつまでも
自分が想うことの中に
とどまっている

他人の想いや考えは
自分にとって
その責任が負えないところへ
失われてしまうものだ

歯医者へでかけた帰り道、
ちょうど日が暮れ始めた、

小さな天球の下、
わが家へ続く道の周辺だけが
世界に構成されて、
その外側はなかった、

    III

言いたくても
言えない言葉がある

言葉にできないことは
たくさんある
もし、それをかぞえてみるならば

目が覚めたときに 思った
本当に望むものは何か

これがしたい
あれがしたい

そんな希望も、
ぜんぶ薙ぎ払うような
本当に望むものは何なのか


友達の友達の友達の友達の友達の友達の友達

  泥棒


手首を切っている
陽のあたる坂道で
暗い場所を探しながら

街路樹には今日も鳥がいない
枝葉の方角
暗くなったら幽霊がいる

友達がキオスクで
不意に
死にたいって言った午後

レモンがあればいいのに
レモンがないから
リンゴジュースを買う

電車が運ぶのは液晶
もしくは比喩
思い出は交差してみんなを連れ去る

好きな色は青なのに
街に思想が激突して出血
全身の骨が砕けた誰かがいる気がする

優しさで友達を傷つける夕陽が冷たい
超高層ビルの上
やけに大きな鳥を見ました

枝を切っている
来年咲く花の新しい名前を考えたよ
友達の友達を探しながら


もうなにもかも知らないし何も知らなかった

  ゼンメツ

今年のサイコーキオンを弾き出したことを、ニュースサイトから告げられた日、あまりにも金が無さすぎて点けられなかったクーラーのスイッチをついに押してしまった。ついに。言っても昨日と1℃しか変わらない。だけど僕はニュースサイトのたった一言に押されてしまった。きっと来月の電気代は彼女に借りるはめになるだろう。ワリーな未来の僕。ワリーな目下バリバリ仕事中の彼女。こうやって、冷風にあてられていろいろ空っぽで横たわってると、空いた隙間を自分以外のなんかに埋められて、ゆっくりと膨張していく気がして。あのなんだっけ昔よく見かけた、水を吸って何十倍にも膨らむ恐竜のオモチャ、名前も知らないけど。あれって最後どうなんだろ。そのまま、曖昧になった境界線が、欠けゆく夕陽のように小さく震えはじめ、僕は少しづつフローリングの下へ沈んでいった。って、なんだそら、ちょーくだんにい。自分を保とうぜ。おっぱいのどでかい店員さんの事とかを考えて、

そうさ、近所のコンビニに新しく入った女の子が、お釣りを渡すときにけっこー強めに手をにぎってくれるんだけど、その子と僕がエッチするまでの妄想をさ。とりあえず笑顔がかわいくて、そしてなによりおっぱいがアットー的にどでかい。なので当然そこに掛かっている名札も確認しているはずなんだけど、まあさっぱり頭に入ってなくて。つまりおっぱいを除いてほとんどなんにも知らない子だ。僕はそんなほとんどなんにも知らない子を、なんにも知らないまま好きになって、なんにも知らない夜に、誰からも知られずに二人きりになる。そうして見つめ合ったその子のことを、一体なんて呼べばいい? けっきょく最初に思い浮かんだ名前がナナコで、それでなんかもうどうしようもなくなって、とにかくどうしようもなくて、つーかおっぱいだってけっきょくはブラ越し、制服越しの単なる想像で、ジッサイのところ恥じらうナナコが僕の前で制服をはだけて、これねサイズがあれだからあんま可愛いのがないんだとかどうでもいいことを言いながら、僕もそんなことないよすげー可愛いと思うとかどうでもいいこと言いながら、ホックを、そう、だって外すんだし、そしたら、それまでしっかりと膨らんでいた境界線も、どこか曖昧になっちゃって、僕たちは欠けゆく夕陽のようにベッドの下へ沈んでいく。

いや。いいよいいじゃん。張りがどうとかそんなん、ぜんぜんいいでしょ。よくないよ。ガッシャーン。ナナコは唐突にそうはならないもの全部を机から払い落とし、その手をそのまま受け皿みたいに大きくひろげ「この世界にパスタの具にできないものはないよね」ってバカみたいなふりして笑う。で、なんかいろいろあってけっきょくまたエッチする。そんな関係。それがいいんだ。だって暑いから。サイコーキオンだから。この部屋、クーラー、めっちゃ効いてるけど。

こんなことを繰り返しているうちに夏やらなにやらが過ぎ去って、今はコンビニに見つけられる女の子も、気付かないうちにどっか行っちゃって、退屈な日にきみのことを思い出したりするならそれはそれでよくって。んそうか? そんなよくはないな。いまのはナシだ。僕はえっと、きっとただ、こんな自分なんかを受け入れてほしくなかっただけで、ん、いや、違う。僕には11人くらい彼女がいて、違う。僕はたしかきみの、規則的に強弱をつけてチップスを噛む音が、いつだって気に入らなかった。そう、かな。僕はきみの、喧嘩するとすぐに黙りこくって待ちに入るスタイルが気に入らなかった。僕は、きみのページを捲ってはすぐに戻る読み方が、僕は、カーペットの起毛なんかと簡単に一緒になってしまうきみの、細い髪の毛をよく気にしていた、僕はミキの、違う。誰だ。でもきっとポニーテールだ。じゃなくて僕は、きみとエッチがしたい、違う。違う? じゃあ、きみじゃなくてもいい、違う。いや、違わない。じゃあ、僕は、僕はきみの、

細い髪の毛を、「愛してるよ」とひと撫でし、コンビニへ向かう、きみはきっと、僕に向かって何か言っている。でももう知ったことじゃないんだ。僕は聞こえているふりをして手を振る。きみも応えて手を振っている、と思う。それはとても優しい拍数だ。その手を大切な人とも繋いだし、声だって何度も殺した。だけどね、僕はこのまま僕のこの手で、ぜんぜん知らないコンビニ店員の女の子の、僕よりなんだかずっと小さかったような気のする手を引いて、なんだかとてつもなく大きかった気がしてるおっぱいを揺らしながら、二人で息を切らし、どこだか遠くの夕陽が見えるところへ行きたかった。そうして残されたきみは、この部屋からまたべつのどこかへ行くまでのわずかな時間を、どうして過ごすんだろうか、とか、そんなことを思いはせるより先に、

コンビニの自動ドアをくぐると、レジにはぜんぜん知らない若い兄ちゃんが立っていた。だって僕は、誰のシフトも知らないわけで。仕方なく、気晴らしの炭酸飲料だけ買って帰ろうとしたら、なんか、店員の兄ちゃんのお釣りを渡す手が震えてて、それに気が付いた瞬間、受け取るためだけに差し出した僕の手も、小さく震えはじめた。


空を貫いたぜ。

  変態糞詩人

羨望の残存熱にうだる固形物の満月(漏斗の時間)と鎹を手放さなかった哀愁
(弾力の時間)と詩中主体(万象の始点)の永劫らでまどろみある転生の静観の台で空を貫いたぜ。
固執は諦観が一筋のきらめきなんで辛苦を抱えた繭で儚さと友を旅に道連れてから砂漠のように思惟が朧な座標なんで、
そこで厭世観が湧き上がるほど儚さを逃れられぬものにしてから空を貫きはじめたんや。
永劫らで刹那を肉体にしながら唯一確かなるものだけになりそのようになると定められていた賢者を強靭なる量ずつ自嘲しあった。
流れが微笑んでいたら、安寧の繰り返しが何かを呼びだして来るし、帰結が確定を欲して歴史の中で焦っている。
うだる固形物の満月に安寧の繰り返しを肉体にさせながら、哀愁の安寧の繰り返しを肉体にしていたら、
百年前からの約束のように哀愁が詩中主体の出会いに帰結を轟々々と折り重なって来た。
桜の散る時のように満月も詩中主体も帰結を折り重ねたんや。もう恒久な壁中、帰結まみれや、
永劫らで折り重ねた帰結を出会いで救済しながら同線上の概念に刻みあったり、
帰結まみれの刹那を肉体にしあって失われた記憶で渦巻きしたりした。嗚呼〜〜湿る球体だぜ。
流れが微笑むなか空を貫きまくってから又賢者を弄びあうともう閃光が散る程裏側へ飛ぶんじゃ。
固形物の満月の安寧の繰り返しに詩中主体の刹那を糸どろっ沈ませてやると
安寧の繰り返しが帰結と失われた記憶で絹肌みたいな抵抗を感じて裏側へ飛ぶ。
哀愁も満月の出会いに刹那糸沈ませて居る。
帰結まみれの満月の刹那を深く見つめながら、決して戻れない覚悟をして別れたんや。
鉛が平面に溜まってからは、もう荒野に立つみたいに満月と哀愁の帰結刹那を肉体にしあい、
帰結を刻みあい、振り向きたくなるほどに希望を折り重ねた。天地が消えようとも空を貫きたいぜ。
それが予言されていた命題であるように帰結まみれになると全原子が解放されるやで。こんな、変態詩人と帰結舞いしないか。
嗚呼〜〜巡り合いを確信して帰結まみれになろうぜ。
風のまどろみで確定を促す影なら全原子が解放されるや。詩中主体は望遠*川の中の柱*万象の始点,満月は漣*庚申塔*漏斗の時間や
帰結まみれで空を貫きたい影、宿命をも振り切って、邂逅の手を伸ばしてくれや。
詩人姿のまま渦巻いて、帰結だらけで空を貫こうや。


少女は歌う

  トビラ

ずっと昔、異国の少女は貧しさにひもじさに、空を見上げた。
「神様。どうかお助けください。食べ物をください。せめて弟だけでも食べさせてください」
小さな顔に日は差し、願いは聞き届けられたのか、その年は豊作だった。でも、少女が口にしたのは、わずかなパンもどきだけ。にやにや笑いながら、黄ばんだ歯をむき、息の臭い役人がほどんどの収穫物を持っていったから。少女は心の内で役人たちを恨んだ。
少女は売られた。そこそこの高値で。美しかったから。綺麗なドレスに身を包み、性処理を務めた。食べられるだけ幸せなのかもしれない。うまく飲み込めなかった精液を吐き出してしまい、頬を打たれながら、そう思う。そう思うことにした。
美しく従順な少女には、かなりの客がついた。他の娼婦たちの中には、少女が人生を諦めていないような雰囲気に苛立つ者もいた。悪評を流し、露骨に仲間外れにした。遠い街で一人ぼっちだった。故郷の歌だけが慰めてくれた。休みがあると人気のない川べりで歌っていた。たまに道行く老紳士がお金を置いていってくれることもあった。喜んでいいのか悲しんでいいのかよくわからなかった。ありがたく、いただきはしたけれど。
少女は少女という年齢ではなくなった二十歳すぎに、肺結核を患った。隔離され、近づく人はほとんどいなかった。ただ一人、彼女と同じ村から来た少女が、看病をしてくれた。初めて会ったときから、彼女は少女に村の話をよくせがんだ。話によると、彼女の両親は今も健在で、弟は立派な青年に育ち、妻も迎え見事に親を支えているとのこと。この話は全て嘘だったけれど、彼女は心から信じ、自分の人生がいくらか報われたように感じる。実際は、彼女の両親は彼女を売ったあと間もなく肺結核で亡くなっている。弟は修道院で育てられ修道士になった。姉と同じように可愛らしい容姿の弟は、修道院で性的な慰みものになった。ただ、それで人生を投げ出さず、よりいっそう神の道を歩もうとした。3年前に酔っぱらいに刺されこの世を去ったあとも。
少女の話はほとんど嘘だった。それだからこそ、彼女は少女の話に、自分が幼かったときのきれいなままの思い出を見た。二人は一緒に故郷の歌をよく歌っていた。遠い街で身体と身体を寄せ合い心をあたためていた。喉を傷めた後の彼女の歌はかすれ、娼婦たちは、呪いの言葉を吐いているんだと噂した。魔女に魅入られたのだと。いよいよ死期が近いことを悟ると、少しほっとした。残りの少ない財産のうち、3分の2を家族に、3分の1を少女に渡すことにした。
息を引き取ると、雑に埋葬された。彼女の墓の上には今、マクドナルドが建っている。残された少女は、遺産の3分の2も自分のものにしてしまおうかとさんざん迷ったあと、修道院に寄付をした。このお金のほぼ全てはろくでもないことに費やされた。彼女の死後すぐに、残された少女も肺結核を患い、天に召された。少女の墓の上には今、ライブハウスが建っている。



生まれ変わった彼女は、今は女子中学生だ。明治のマカダミアナッツチョコレートをこりこりかじり、ブルーライトを瞳にうつして。iPhoneの画面に指をすべらせる。生まれ変わっても美しく、にやにや笑いながら男子が近寄ってくる。そんな男を見ると、なぜか無性に腹立たしく、ビンタしてやりたくなった。実際、何人かにはお見舞いした。そんなだからだんだんと敬遠されるようになる。男子にも女子にも。男子にとって、美しく手の早い少女は、憧れであり恐怖であった。女子にとっては単純に嫉妬の対象で、疎まれた。上から目線ということで、一部の女子からはいじめられもした。大抵のことは我慢した。が、ビッチ、ヤリマンといういわれのない噂には、なにかやりきれない苛立ちをおぼえた。
学校でグループに所属しない少女は、一人歌を口ずさむ。
少女には年の離れた妹がいる。「おねーたん。おねーたん」と、とことこ後ろをついてくる妹を愛してやまなかった。両親は仲が悪く、顔をあわせればケンカになった。家の空気はどこもかしこもひび割れていた。夕食時、発火するようにケンカがはじまると、妹を自分の部屋につれていき、部屋の鍵をおろし、アニメをいれた。テレビの中では、ドラえもんが22世紀の道具を四次元ポケットからだしている。終われば、エンディング曲を一緒に歌う。狭い家の中、身体と身体をよせあって、心を守りあった。妹は、前世で彼女の最期を看取った少女だった。
5月の末、夏にむかって気温が上がる頃、少女はラブレターを受けとった。そのラブレターは、青い純真さと気持ち悪さにみちていた。所々、意味不明だった。それでも、最後まで丁寧に目を通し、もらったラブレターとともに断りの言葉をかえした。ラブレターを書いた少年は、一週間後にまたラブレターを持ってあらわれた。その内容は以前にもまして、純真な恋心と、目もあてられない気持ち悪さにあふれていた。少年は目を輝かせていた。少年にとって少女は高嶺の花に思えた。それと同時に、どうしても手中にしたい仔猫でもあった。少女は同じようにラブレターと、断りの言葉をかえした。一週間後に、少年はまたラブレターを持ってあらわれた。やはり純真さの純度は高まり、それに比例して気持ち悪さも膨れ上がっていた。それでも丁寧に最後まで目を通し、何も言わずラブレターだけつきかえした。そのやりとりが合計で10回に達したとき、ラブレターは便箋にして10枚になった。すでにうんざりしてはいたが、少女は家に帰り、その全てに丁寧に目を通す。そして、一度、デートしてみてもいいかな、と思った。なぜそう思ったのか考えた。根負けしたというわけではない。少年のラブレターには一貫して、純真さ、気持ち悪さ、そして謝罪があった。その謝罪がどこからくるのか、少女にはわからなかった。それがどこからくるのか知りたいと感じた。少年は、前世では少女にかなりの額のお金と、性欲と性的嗜好をつぎ込んだ貴族だった。まったく意識はしていなかったけれど、少年には見えない負い目があった。
デートの当日、少年は清潔感とたしかなセンスを感じさせる服装で来た。それは少女にとって意外だった。あんな文章を書く人が、こんなファッション誌にのるような恰好をしてくるなんて。控えめに言っても平均より15点くらいは上だと思った。まずは映画を観に行った。映画の選択も悪くなかった。しっかりと少女の好みを把握して選ばれていた。少年はまったく興味がなさそうだった。けれど、それも自分の好みより少女の好みを優先したんだと考えれば、好感さえ持てた。昼食はマクドナルドでとることになった。割り勘で。それはさしてマイナスにならなかった。まだ、お互いお金のない中学生だから。ただ、時折見せる店員に対しての横柄な態度は、どうしても受け入れられなかった。夕方にはライブに行った。中学生にとって、ライブハウスはまぎれもなく非日常だ。目が回る。人、人、人。熱気。交差するライト。知らないバンド。耳がぼわんとする。そのどれもが新鮮で、刺激的でいつの間にか体をゆらし、声をあげる。
帰り道、少年はあらためて少女に想いを告げる。結論から言えば、ノーだった。少年とのデートは悪くなかった。むしろ良かった点の方がたくさんあげられる。でも、ライブハウスで手を握られたとき、全身におぞけが走った。無理だと思った。最後の断りの言葉を聞き、少年は一瞬うつむいた。それでも顔を上げ、「今日は、付き合ってくれて、ありがとう」と震えた声で言って、駅の3番線のホームに走っていった。その顔に言葉に、心はゆれた。けれど、無理なものは無理だった。
デートのあと、少年はもうラブレターを持ってくることはなかった。学校で顔をあわせても、気まずそうに簡単なあいさつを交わすくらいだった。少女の中には、まだライブハウスのあの残響と手を握られたときの気持ち悪さがあった。少女は自分の歌を風にのせたくなった。そんなことはできないことは、わかっていたけど。夏休みも近づいた午後2時、そんなことを考えながら、ノートに自作の歌詞を書いてみる。


Ooze

  アルフ・O

 
(Take That, You Fiend.)


# hair


抱き寄せる、肩と
少なめのトリートメント
意に反して移ろう眼を隠す為の
ビジネスホテルのツイン、午前0時
意識を取り戻せばまた
ハニーマスタード入りのアボカドサンドを
ぱくついているのだろう
「日常だなんて大見得切っちゃってまあ。
幾何学のテンプレートに
賢くおさまった屋根は、あたしにとっては蜘蛛の糸
エセポケットコイルのソファに飛びこむ
彼女に勧められた練り香水と
ハネムーン土産のチョコレートを長期記憶に追いやりながら
「急に貴女がついてきたんだもの、
焼きすぎたスコーンにリップティントをのせてみる。
「ストロボライトみたい。
「荊の刺青は赤い糸の如く時空を超えて。
「経血に混ざったイエローダイヤモンドを舐め回している。
「悪趣味、
「他人のこと言えた義理かしらね。
「ほら、音に逃げるな。
──脱色、
2度と消さない為の。


# mouth


童貞と口走ったら
それは比喩?と混ぜかえされて
お揃いの中指と薬指にマスターボリュームを操られる
メタルフレームとセルロイドの眼鏡が
険悪そうに摩擦音を紡いでいる
「綺麗な舌ね、
「おかげさまで。
貴女はスキニージーンズを脱がない。
瘡蓋を敷き詰めたような
心に直接
この持て余した犬歯を突き立てられるのなら、
「俄雨を少しだけ細胞が受け入れるから。
「そのあとは轡を嵌めて。
 軽蔑したままで視ていられるように、


# legs


ハッピーバースデー、の葉月。
梔子を咥えて待ってたのに融けてしまった
明るい水音を立てて歩く切り傷だらけのオープントゥ
「傘は全部神様によこどりされたよ、
「双眼鏡と一緒に。
「汚い涙なんて矛盾を抱え込んだままで。
定点観測された噴水の裏にたどりつく
そして季節外れのオーナメントをひとつ
盗み出し
涼風を掬い上げて貴女は呟く
「大丈夫だよ。
 いつまで経っても言いたいことなんか
 これっぽっちもないんだから、


# membrane


「回り続けている、サウンドトラック。
泳ぐ
回帰する
強い相関を示して。
迎合しない暗がりで。
「遠心分離する、デジタルディレイ。
見守っていて、黒猫。
吐き出す溶解したモニュメントに
エーテルの底を映し出す
映し出すの、
「それは目隠しされた貴女の
 見る夢に干渉するべく、
皮肉と復讐に塗れたままの
リターン。


# throat


.


ぬけがら

  

立ったり屈んだりして汗をかいているんだね洗ったシャツの袖をとおす竿の先を中指で抑え透かした布生地のさみしいしわのばす口角を上げてはたいてみせた笑みのまわり大気を弛ませた精神と人をつなぐ管もしくもあなたの子供として生まれてくることができたならばあなたのことを愛さずともずっとまもっていけたのに蝉のなきごえを時雨に喩えた空明く不自然なたまりたまりしずくにたまり溜まる考えられないほど不自然な発散できない不自然な思考の老廃物よ不自然な痴呆症あらわる足首に虫喰い口吻ささるまるくあかい痕あーチンコ勃ってきたさようならいっぽすすむれば片方の足がぬけお元気でにほあゆむれば支えどころを失い片方の足もすっぽぬけとうとう崩壊する世界を六足虫の裸足が見あげる不自然な後ろ姿


house

  アラメルモ


○●

おお大きな翼が遮り
遠く、宇宙の果て白く輝いた申
うしの乳搾り、固まる
赤ちゃんの(屁)実に定かではなく
お風呂
泡のドームから弾ける
わたしが生まれた2008
ティラノサウルスのあくび
みずこなごなとちりぬるをまじわり
灰と汚れた
夏が近づくとよく喋りだす彼ら
質量とエネルギーの導火線
分解
人間なのか、わたしは
尋ねればおまえは人間ではない、と冷蔵庫は言う
わたしは誰なのか
尋ねれば、昔人間だったろうと壁が応えるのだ
片脚でエサをみつめる振り子サギ
ぬるま湯から
不意に小さな虫が出てきたので殺す
手を合わせたよ
お盆休みだったから


●○


高く放り投げたボールは・・・

  空丸ゆらぎ

葉が揺れ
雫が落ちる 
(私のせいではないよ)

普段通りの朝に「普段通りの朝」とタイトルを付け、線路脇の風車小屋で私は風景になる。
(ああ、そう。)
「標準」からはみ出たら闘うしかないよね。

最初に笑った者は何に笑ったのだろうか
涙と笑顔はどちらが早かったのだろうか

空き地になってはじめてわかる
     柱時計とか
     廃棄されたエアコンとか
     積まれた新聞紙とか
     傾いたベビーカーとか

フライパンの柄に手首が付いている
玄関には傘と靴がある
君に軍服は似合わない
雲の流れに音はなく
時刻表通り電車が走る
こらこらこら、、、、
  (猫が通り過ぎる)
  ^-p・@lン hyfげ465 、むhbげdxr 
       *
         *
                     (作者 COCO)

 病室の窓に
 雲が浮かんでいる
 それぞれの雲が
 浮かんでいる

類と個のハイブリッド
おっと、もうこんな時間だ。
昼は、うどんでいいですか。
                            ・・・まだ落ちてこない。


じゃんぱら

  湯煙


アパートの賃貸契約を交わした半年後に、大家さんから頂いたノートパソコン-TOSHIBA・SATELLITE-が、おかしくなった。いくつかの文字がキーを叩いても表示されなくなり、タイピング不能となってしまった。変換キーを押せば同じ文字ばかり、aaaaaaaaa...... いつまでも連打され続けてしまう。新種のウィルスによる仕業か?とも考えたが、やはりキーボードがおかしいのだと結論づけ、中古パソコン専門店に出向いた。

事情を話し査定を依頼し、店内をうろつきながらウィンドウに並ぶデスクトップやノートパソコンや周辺機器を眺めていると、10分後に番号を呼ぶアナウンスが流れ、カウンターに向かった。3000円だった。店員によるとこれ以上は無理らしく、修理も可能だが時間も費用も必要であるとのこと。仕方がないので成立とし、サインをして現金を受け取り店を出た。途方に暮れたが次のボーナスの足しにして買い換えることにした。

三月が経ち、ボーナスを叩いてノートパソコン-Apple・MacBookPro-を、買った。箱から白い発泡スチロールに収められた本体を取り出すと、メタリックシルバーにブラックのツートンカラーが落ち着いた雰囲気を醸し出し、世界一薄いとの触れ込み通り、上部下部とともに縁が鋭く、そしてなめらかなカーブをしているせいか、鮫を思わせるシャープな魅力が感じられた。開くと下顎にはマットな黒い歯が並び、叩くと音は吸収され、そして思いのほかそのシックな触り心地が指先からすべてを虜にした。しばらくは鮫をSafari内に泳がせ様子を見、落ち着いたところでLionを与えたりしてはオリジナルのキャラクター作りなどで機嫌を取り世話に勤しんだが、半年後に翌月分の家賃の足しにと、思い切って中古パソコン専門店に出向いた。

事情を話し査定を依頼し、店内をうろつきながらウィンドウに並ぶタブレットやスマートフォンを眺めていると、30分後に番号を呼ぶアナウンスが流れ、カウンターに向かった。80000円だった。店員によるとこれ以上は無理らしく、まだ美しい鮫肌を保ちまだまだ子孫を残すとのこと。仕方がないので成立とし、サインをして現金を受け取り店を出た。とりあえずはATMへ向かい家賃や光熱費の支払いを済ませ、残りは次のボーナスと足しにして新しく買い換えることにした。

三月が経ち、パソコンを叩いて得た額の残高3分の1とボーナスの半分とを足しにして、世に出回り始めたスマートフォン-SONY・Xperia-を、-ソフトバンク-と回線契約し、買った。箱から白い厚紙のケースに収められた本体を取り出すと、控えめに輝くカッパーグリーンのガラス張りの裏カバー、外枠にはメタリックシルバーという、ツートンカラーが爽やかな雰囲気を醸し出し、世界中で一番高級感あふれるとの触れ込み通り、面には自身の顔から背後に広がる景色の隅々まで映しこむ膜に護られた鏡面仕様のせいか、手にすると月を思わせるミステリアスな姿がいつまでも魅惑的に感じられた。照らし出すと南には小さなスクエア型のイラスト付きアプリクレーターが浮かび上がり、北には太陽暦やバッテリー残量や位置や通知クレーターにwifi状態や地域の気候を表す絵文字クレーターにローマ数字やマーククレーターが所狭しと並列した。東には無人の砂漠に舞う一葉の若葉があり、西には無人の砂漠に舞う一葉の若葉があり、さらに西には砂漠の大気に舞う一葉の若葉に一つの十字が重なり、十字を軽く押さえつければ東に西にと無人の砂漠に一葉の若葉が舞う。またその新たな月面の上には衛星からの電波を受け、自動で更新が為される便利なウィジェットクレーターを張り付けることも剥がすこともできる。そして思いのほかそのサディスティックなまでの動作心地が指先からすべてを虜にした。しばらくは月の面を点滅させたり回転させたりしてはオリジナルの月面クレーター作りなどで競い合ったり、あちこちに散らばる遠く離れた無数の月同士とで友達作りに勤しんだが、キーボードをタップすれば、!!!!!!!‥‥‥‥ と、同じ記号ばかりがいつまでも適度に連打され続けてしまう。新種のウィルスによる仕業か?とも考えたが、一年後の雨の日につるりんと雨とともに落下し、足元でビリビリと蒼白い月光を放ちながら割れた。キャリアショップへ持ち込むと、保険は未加入だったため修理代に20000円近くの費用が掛かった。二週間後に手元に戻ってきたので、中古パソコン専門店に出向いた。

事情を話し査定を依頼し、店内をうろつきながらウィンドウに並ぶVRやカセットレコーダーやスマートウォッチにガラケーを眺めていると、1分後には番号を呼ぶアナウンスが流れ、カウンターに向かった。0円だった。店員によると修理も時間も費用もなにも!とのこと。仕方がないので不成立とし、店を出た。途方に暮れたが次のボーナスはすべて叩き、そしてキャリア変更をし、新しく買い換えることにした。


    JYANJYANJYANJYAN二年と三月が経ったJYANJYANある日
     JYANJYANJYANJYANTVを視ているとJYANJYANJYAN
       JYANJYANJYAN唐突にたくさんの人たちJYANJYA
         の声が流れたJYANJYANJYANよく聴けばいつまでも
      JYANJYANJYANJYANリズミカルに連呼し続けるJYANJYANただ
      耳障りなJYANJYANPARAPARAJYANJYANだけのJYANJPARAJYA
     NPARAPARAコマーシャルだったNPARAPARANPARAPARA

    PARAPARAJYANJYAN新台入替を知らせるPARAPARAJYANJ
     PARAPARAJYANパチンコ店による仕業JYANPARAPA
       PARAJYAN?JYANJYANかJYANJYAN!PARANPARANP
         と考えNPARANPARANPARANPなにもおかしくはない
      PARAPARAJYANJYANJYANと結論づけJYANJYANPARAPARAPARAP
      翌月には給料を手にJYANJYANJYANJYANJYANHUWAAAIII製
     NJYANJYANのJYANJYNRRRA液晶TTTTTTTをリサイクルショップ-eeeday-に持ち込購る─火用、?‥‥tttりnn磯・・ ─mmm i 取w 。─ 頼 i tと う ‥ 、‥!!─── ──  ─


運命

  いけだうし

温泉に浸かっていたら、スキンヘッドで毛深く、恰幅のいいおじさんが浴場に入ってきた。少しうんちしたくなって、なんでかは忘れたけどそっちを見たら目が合って、おじさんはスカトロジストだったからおじさんは目を合わせたままこっちに寄ってきて、タイルの上に横たわった。おじさんはフル勃起していた。僕はおじさんの口の上にまたがって、脱糞した。いつの間にか僕もフル勃起していた。僕とおじさんは一緒にペニスをしごいておじさんが僕のウンチを吸い出そうとアナルにバキュームしたら僕はたまらず射精しておじさんもそれを見て射精して僕らは互いに愛おしく思ってみんなが固まって見つめる中見つめ合うみたいなそれをどうでもいいと思うような、


名付け夢想する

  イロキセイゴ

我を無くしたら
コミックが解放された
日直の仕事を拒絶すると
石が飛んで来るようなものだ
有難く石をよけながら読ませて頂いた
送風が涼しくて粗暴な眷属は居なかった
強情な帽子をビーバーに変えて慰安を得る様な物だ
歯が自らの歯をイチゴに当てる時には
霊魂が上に行って栄えてくれる
意思もまた苺を食べてくれる
石が減量を初めて
摩周湖に
投げ込まれる時にはビーバーハットも湖面に浮かぶだろう
シルクハットと言い換えてもグレートヤブキか
グレートカブキかの区別は難しい
クーラーにかかった服を
取りに行けずに
頭頂部が盗聴されているのに気付けない私は
蜥蜴の居る庭をロブグリエの庭ではなくて
ブナの庭、エリーの庭と名付けた
聖書の中のロトのタペストリーを
夢想したい


位相

  イスラム国

雨は左から右へ降る
対称変換、
空間を焼き切るガラス
そのふたつが
「つながっていない」ことの意味

むこうの位相は粗い

局所的にはわたしたちの世界
けれど分離できない二点に立つ
ヒト、と、ヒト
烏と蝙蝠が暮れに混じる

地震?――強風?

わたしたちの視力は弱いが
うごきでそれと判る

「はじめまして
 雨が右から左へ降る
 世界から来ました」 


crush the sky, pop'n'sky

  アルフ・O

 
 
黙ってないで
そらをうつ
闘わないで
そらをうつ
どうして貴様等は、足を引っ張るのばかり
得意になってしまったんだろうと、
鏡の外で真顔になる
笛吹き姉妹が見下ろしてる
「もう熟成のしようがないんだって、
crush,
ガス欠になるまで踊り続ける
隙を見せたくないから
分配され損なったキャンディも今
天井に叩きつけられ
crush,
crush!
「ねーぇー。今話題の繊細チンピラ狩りにいこーよー。
「バスソルトと吸入器大量に買っちゃったしさー。いこーよぉー。
「だーめ。後先考えずに残骸ごと飲んじゃうでしょ貴女たち。
 下弦の月まで待ちなさい、良い子だから。
「けちぃ。
「いーもんいーもん。友達にわけちゃうから。
「わけちゃうから。
crush,
crush!
crush!!
「本当に嫌いになっちゃう前に。
 フランジャーオン、
「じゃけん喉潰れるまで叫ばせ続けましょうねー、
「神聖なる裁きの場でなーにやってんのかなー?
「徘徊するだけ。汚泥を擦りつけてそれ以外何も残さない。そんな生き物。貧乏神。
 はい、心当たりのある奴は挙手、
「コンプ噛ませて、
「プロテインか硫酸ぶっかけるよ。
そして沈む
チョコレートの海に。
貴様等から意味を引き剥がして
泣き喚いて土に(もといソースコードに)
還るまで煽るのをやめない。
cruuuuuuuuuuuuuuuuuuush
cruuuuuuuuuuuuuuush
cruuuuuuuuuuush
「ステープルとピンネイラならどっちがいいかにゃー?
「そらから血を流すのはどっちが綺麗かってはなし、
笛吹き姉妹が眼を逸らす
嘲りを残しながら
「だって時間は有限だもんねー。
「ねー。


ぬふふ

  白犬

戦場は膝小僧に宿っているから、あたし言葉遊びなんて嫌いー今日一日新しいすにーかーでときお歩いたら靴擦れ出来たんだよ凹凹凹よーぐるとあいすに鮮血かけて食うとはにかんだ君の味たまらんすてれびで目と魂を陵辱するのも悪く無いけど雑踏のかおすは更に良ーわ、不快なはーもにーにへっどふぉんから漏れ出す高周波、びるでぃんぐを犯している青い空さいくるさいくるさいくるされるから君も泣いてばかりいちゃ駄目だよって言葉さえないふないふないふならいっそ刺してあげるから、道端にへばりついたげろをからすが突いてるそのつぶらな瞳の中にも宇宙があって星が渦まくんだよってこと思い出すとあたしなんかまだ飛べるんじゃないかって気がしちゃうから傍観で耳じゃっくして脳でイくいつか罅割れ泣いていたあたしへ世界は残酷だよって生傷にげろをすりこんでやりたい首を絞められたい瞬間は確かにあって白と青の幻が揺れる度感応するあたしの脆い桃色も鋭さを増していくから彼らに彼らに彼らに粉々のきらきらを突き刺してやりてーわこんなんじゃまだ足りない最初に言ったよね言葉遊びは嫌いだって引き剥がして溺れろよもっと窒息しろよあんたらの言葉を爆破したいなその辛子ぶっこんだ生くりーむ塗れのだーざいんとれーぞんでーとるに、を、ぶっ刺して反逆しろ判るか私達に差異は無い子供にも大人にも男にも女にも獣にも人にも貧者にも金持ちにも差異は無いお前らの言葉遊びはくだらない壁を作るばかり築くことさえ無くお前達はその壁に囲まれた囚人としてそこで眠れぬ夜を過ごし恐怖に怯えて倦怠と薄く引き伸ばされた絶望を飲み込むばかり新しい包帯ばかりを探してもお前らのぐちゃぐしゅの傷は完治することは無いよ、生涯ね お仲間でも探してろや

! 濃度1000% の絶望 を さ いっそ 食お? あたしなら何回殺しても良いから まだ判んないの?


あなた達の両腕は ちゃんと 抱きしめることが 出来るんだよ


あたしは渋谷の路上に立っていて 今 君にキスするように煙草に口をつける   紫色の夜に 煙が 白く一筋 立ち昇って   花が開く瞬間 の ピストルの音




震える指に どうか 勇気を




耳が祈りの形をしていること(キミに教わった)


事情

  ゼッケン

死体を埋める場所は昼間に
下見をして決めていた
夜、
スコップを担いで暗闇の中
斜面を
登る 腐葉土
というのだろうか
柔らかい土に足の裏がいくぶん
沈む
懐中電灯に紙の筒を被せた
不用意な光が
注意を呼ばぬよう
光の輪は細く絞られている
それで、おれは気づかなかった
すぐ耳元で声がした
死体ですか? 埋めるんなら、ここに
おれはとっさに小さな光の輪を声のした横の木に向ける
木が喋りかけてきた、という錯覚を覚えていた
直径10センチ足らずの輪の中に生白い肌が夜の闇に切り取られて浮かび上がる
細かく上下左右に光を移動させると露出した男の下半身
横向きの臀部、前面は木の幹に密着している
勃起したペニスの根元が見え隠れし、木に挿入しているようだ
動きが止まる 恥ずかしいな、見られる趣味はないんで
光、ちょっと、すみません
おれは要求に従って光を消した

おれは市役所に勤めていた
後から後輩に聞くとおれはオタクに見えたそうだ
後輩が昼休みに入ってすぐ、電算室にあるおれのデスクの前に来て言った
センパイ、ちょっと頼み事があるんですけどいいですか? わたし、変態なんです
女子トイレで自分を盗撮して欲しいというのが頼みだった
三日後、カメラをトイレの天井に仕掛け、どの個室か後輩に伝える
翌朝、回収したカメラを渡すと後輩は喜んでおれを部屋に誘った 
今夜はいっしょに鑑賞会ですよ
おれは残業で遅くなり、それでも後輩のアパートの部屋に行った
後輩はもう始めており、洗い髪を頭の上でまとめてタオルで包み、パジャマの上着だけ羽織り、照明を消した部屋の中、モニターだけがついており、そのまえにあぐらをかいていた。むき出しのやわらかい尻がつぶれて横に広がっていた
モニターの暗い画面には女子トイレの個室でマスターベーションをする後輩が見下ろされる角度で映っていた
画面を見ながら部屋のフローリングの床の上で後輩は同じことをしていた
勃起したペニスをしごいている
おれはカメラの映像を後輩に渡す前に見ていたのでもう驚かなかった
背後のキッチンのテーブルの上に置いたコンビニの袋からお茶のペットボトルを取り出す
後輩はおれに振り返るとセンパイもわたしを見ながらオナニーしよう、と言った
おれはそれより、その後の映像を後輩に見せたかった
画面の中の自分といっしょに射精して後輩は大きく背伸びして立ち上がった
ありがとうございます! 気持ちよかったです!
おれは後輩にもう一本のお茶のボトルを渡す
画面ではトイレの個室にジャケットを羽織った中年女性が入ってくる
後輩は見たくないと言ってモニターのリモコンに手を伸ばす、おれは制止する
中年女性はスカートをたくしあげ、ハンドバックから取り出した小さな注射を内股に刺す
こんな時間にインスリンとか打たないですよねー、と後輩は言った
中年女性は市会議員だった
おれと後輩は200万円ぐらい貰ったら山分けしようと決めた
現金を受け取るのは後輩の役目で
後輩は嫌がったが受け取るときにはひげを剃らずに男の格好をして向かう
だが、後輩は現金を受け取ったあと、アパートの部屋まで尾行されたようだ
後輩はおれに電話してきて言った、センパイ、殺しちゃいました、あとをお願いします
市会議員の雇った探偵だろうか、おれはやせた中年男性の死体を運びやすいようにパーツに分割し、それから地図を見て北に向かい、遺棄場所の見当をつけて部屋に戻った
後輩はおれに半分の100万円を残し、お世話になりましたと書いたメモを残して部屋から去っていた

木とセックスする男は死体を埋めるなら自分がいまセックスしている木の根元に埋めて欲しいと言った
この木は今夜、おれの子を宿すので、妊娠中は栄養が必要で、
お願いします、とおれに頼んだ
頼まれたのでおれはそうすることにした
おれが足元に穴を掘っている間にも男は腰の動きを止めず、木を撫で続けた
穴を掘り終わり、おれはいったん降りていき、車から人の各パーツの入ったボストンバックとリュックサックを数回に分けて運んだ
早く栄養になるように死体はカバンから出してほしいと男は言った
おれはむかっぱらを立て、懐中電灯で男の顔を照らした
男の顔からは木の若芽が一面に伸びていた
おれの驚愕をなだめるように男は言った、大丈夫です、この芽は朝になれば枯れて落ちます
いま、精を彼女に移しているので移し終われば朝には元通りです
おれは男の顔を照らしたことを詫び、人体を木の根元に埋めると山を下りた
南に向かってクルマを運転しながらおれは
自分がつまらない人間であることを恥ずかしく思った


詩五篇

  朝顔


   鏡
            
おれの中にお前がいて
お前の中におれがいて
時折すすり泣いたり
抱き合ったりため息をついたり
目から涙のようなものを
出したりしている



   脅迫

甘えてください私に
それがあなたの義務です
一度ごとに五百円いただきます
妻と言うものの仕事です



   夕方

ぐるぐる考えて
それが楽しくて
どこへも出て行かないで
スマホをつるつるして
とらわれていて
何時になっても
皿洗いが終わらない



   写真

一眼レフを向けて
お前を閉じ込めてみた
何枚ものうすぺらな
魂の欠けた
貼りついたほほえみが
俺を嘲笑っている



   教育

肩があって
右に少し傾いていて
足があって
正座が下手くそで
私がいて
倚りかかっていて
あなたがいて
硬い指先で
背筋をしゃんと元に戻す


Garden garden

  紅茶猫

名前の無い住人をノートに記す

招かざる客を見送る

こおり紙

葡萄の葉の皿

机を揃える。

カレイドスコープに墨タイツの空

セイウチと木曜の朝レモネードをいただく

手のひらに苺。博士おこる。

何を?

旅を開く回旋塔にかたつむり


   
    
    迷う

詩に迷う
反時計回りの心臓には
今日も白夜が満ちている






    L 字型の空

L字型の空に
賞賛を浴びせよう
何か心にかかるからと
寒暖に閉じ込めた
たえまなく
白い手と
干涸びた呪文のように。




秋めいた庭にシロナガスクジラ打ち上がる

枕辺にcafeタクラマカンパフェ


水筒に彗星と粉塵と円陣と
ざらざら鳴っている

歩く



高さのない




    
     
水滴に
閉じ込めてある星空を
そっと手で押す

garden

garden


死の糧

  鷹枕可

血髄を
純潔―濁流を
撒く人物が
囁き、
飛礫、軋轢機構
曖昧な地底騎行曲
乃ち
鑓穂の幼時私史を綯う紡績婦
歳月、死の糧、
その市街にて

確実の死を
そして死を牽く
不確実に麺麭と檸檬果を
鹹湖畔にて
樹婚の闇を増殖する
花粉艇に痕跡を映し
影像彫刻
その窪、陰を灌ぐもの
兄妹、峰の咽喉より森の血を眺めつつ

峻厳、憤懣を棄て
慈愛、唾の草花を舷窓に享く
落盤隧坑たる酪乳
交錯人物映像機械
死と秘跡
イェリコ、ソドムを鬩ぐ建築草案、
総て果て
公営納骨所が書翰に
一筋の絹が紛れるのを、

    *

きみは薔薇を眺めている
薔薇を眺めているきみを見ている

きみは骨壺を眺めている
骨壺を眺めている
骨壺を眺めている
きみたちを眺めている骨壺を眺めている
きみを見ている骨壺を眺めているきみを
骨壺をきみを、

眺めていた、死の糧は、ミモザ


  イロキセイゴ

船具商をつとめていた私の父は
心に魔界を秘め
死海に臨む
砂浜でモネの絵を拾って
火にくべると
魔界に山が出来たので
山にこもった

文学極道

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