#目次

最新情報


選出作品

作品 - 20180728_048_10624p

  • [佳]  随行 - 玄こう  (2018-07)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


随行

  玄こう

 夏の

 窓向こうの夕映えが小道に下りた 二度とあらわれない空の轍を雲が飛行している 時計の針が5時をまわるころに 雑木に隠れた蝉のジリジリと嘆く声が 響きわたる 耳に流れる何度も聞くのに 言葉にならない電流を 逃がしながら 左右を交互に踏む 足の親指と踵とを アースがわりにしながら 雑木のなかを一歩二歩と丘へとのぼる。
 黒いカタマりを口に含んで モグモグしながら 声にならないものの 微かな痺れだけが 足の爪先や 頭髪の毛先にも 木々の天辺や家家の尖った屋根にも 遠くの山山の天辺にも 草木の 枝葉の あらゆる先端部に微弱な電流を蓄えているようだ。
 流れないで踏みとめられて蓄えられた静電気が 無尽蔵に微かな痺れみたいなものが 丘を見渡した雲に覆われていた。
 小さなステンドグラスのように精巧で透明な茶色い二枚の羽が 土の上に落ちていた 蝉の胴体は跡形もなく 涼しげにふく風のように 二枚の羽がゆれていた。 
 人差し指ほどの大きな黒いカタマりを 口のなかでモグモグさせながら わたしは再び 夕映えを背に もと来た道を戻って帰った 少し薄暗くなった雑木の道を下りて帰った。

文学極道

Copyright © BUNGAKU GOKUDOU. All rights reserved.