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作品 - 20180709_180_10576p

  • [佳]  誕生 -  (2018-07)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


誕生

  

工場地帯の外れにある
不自然なほど広い空き地は
意図的に繁栄から切り取られ
放置された偽りの草原だ
腰まで茂った草の下に
いったい何が潜むのか
誰も知らないし
知ろうともしない

私は陰鬱な空の下で
いつしか道に迷ってしまい
雑草の中で途方に暮れている
遠くに見える煙突を頼りに
歩いていけば良いはずなのに
草をかき分け進み続けても
一向に出口が見つからない

溜め息をつきながら
周囲を見回した時
二十メートルほど前方で
草むらの中にしゃがみ込む
白いワンピースの少女を見つけた
風に乗って聞こえてくるのは
彼女の苦しそうな呻き声
よく見ればその顔は苦痛に歪み
脂汗にまみれているようだ
おそらく両の手の指は
草を掻き毟っているのだろう

近づいて声をかけようとした時
突然、少女は絶叫した
アアアアアアアアアアアアアアアア!
その叫びに、
別の叫びが入り混じる
オギャアアアアアアアアアアアアアア!
あまりの凄まじい声に
私はその場から動けなかった

やがて少女は蹲り
身体の大部分が草に隠れた
微かに覗く白い背中が
ゆらゆらと蠢いている
耳に入ってくるのは
絶え間ない泣き声だけだ

しばらくしてから
少女は再び立ちあがった
白いワンピースの裾には
いくつかの赤い染み
彼女は放心した表情で
空の一点を見つめてから
私に背を向けて歩き去る
顔に吹き出た汗を腕で拭い
再び前方を見た時には
もう、
その姿は消えていた

その直後
彼女と入れ違いのように
右手の方から草を揺らして
泣き声のする茂みへと
近づいていくものがいる
威嚇するような唸り声は
間違いなく野犬のそれだ

私は金縛りにあったように
動くことができなかった
早く行って助けなければと
心の中では焦るのだが
得体の知れない恐怖から
どうしても足が進まない
唸り声の主は草の中を
高速で移動しながら
泣き声へと迫っていく

そして、
甲高い悲鳴
それに続き、
肉を裂き、骨を砕く
容赦ない、
音、音、音
それから、
唐突に訪れる、
沈黙

どれくらいの時が過ぎたか
正確にはわからないが
とにかく
再び音が戻ってきた
ピチャピチャと
何かを舐め啜る音の後
再び草をかき分けて
「それ」は
元来た方へと戻っていった

何もかもが終わってから
ようやく縛めから解かれた私は
思わず地面に両膝をついた
数回の深呼吸の後で
何とか再び立ちあがり
(おそらくは半泣き顔で)
声が聞こえていた方へと走る
絡み付く草に足を取られ
何度も転びながら
ようやく
少女がいた場所へどり着く

そこで見たのは
予想を覆す光景だった
あまりにも理解不能な状況に
思考を放棄した私は
蒼い波の中に立ち尽くす
ひとつのオブジェと化した

草が足で踏み倒された
半畳分ほどの場所には
小さな血の池ができており
大小様々な肉塊や骨片が
幼子が放り出した
オモチャのように
散らばっていた
残された皮の断片や
噛み砕かれて
脳を食われた頭部から
あきらかに
野犬のものだとわかる
生の残骸が

文学極道

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