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作品 - 20180604_098_10498p

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さくら

  游凪

首筋にできた金魚の尾びれが
春の風をたたいて赤い筋をつくる
まだ見上げる人のいない樹に
絡みついて染み込んでいく

「春のいぶきですよ、
狂わされて、ほころび、こぼれて、
始まりのあいず、あいす色のはじまり、

色づきだした景色の中で
伸びていく影は薄くなっている
野良だった犬はすっかり柔らかくなり
薄汚れた毛布の上で目を細めている

薄茶色の毛がまっている陽だまりで
父の眠る椅子は固く冷えたままでいる
未だ溶けない残雪の奥底で
あの朝の日の記憶はとうに行方知れず

ひたひたと赤い尾びれが首筋を打つ
虚血だった脳内に血がめぐる
光がすぐそこまできていたのに
耳元までにじり寄ってささやいた

「春のめぶきですよ、
戻されて、すくい、またこぼれて、
膨らみ出した、あなたの、

あたたかな下腹部に手をやる
宿らない空洞に水がはり
いつの間にか潜った尾びれが跳ねた
まだ見えない蕾が揺れている

文学極道

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