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作品 - 20180430_738_10396p

  • [佳]  舗装 - ゼッケン  (2018-04)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


舗装

  ゼッケン

20年ぶりに見たあなたは
休耕田だらけの枯れた雑草の目立つ郊外で
駐車場だけが広々とアスファルトを敷かれたコンビニ
エンスストアのレジ
で、
むくんだ手で
おれが無造作に置いたカウンターのおにぎりを取り、
子供たちが買ってとせがんだ駄菓子の個数を数えた
俯いたまま、おれの顔を見上げることもなかったので、
首の付け根についた肉が目立った

おれは千円ばかりの料金に
国家公務員共済のゴールドカードを差し出して支払いを終えた

クルマに戻ると、運転席に座った妻はサングラスをかけ直し、アクセルを踏む
駄菓子を持った子供たちは広い後部のめいめいの決まった席に座り、シートベルトを締める
あなた、うれしそうね?
ハンドルを握ってクルマを加速させながら、妻が言う
下げた窓から初夏の風が気持ちよく首筋をなでていく
そうなんだ、昔の知り合いなんだけど、すっかりおばさんでさ、笑っちゃうよね
おれはあなたに振られたことを妻に隠した
振られてさえいない、軽蔑とともに拒絶されただけだった

おれは、止めろ!と叫んだ

驚いた妻が急ブレーキを踏み、おれは助手席のドアを蹴りとばすように開け、
丈の高い雑草が伸びた車道の脇を駐車場の広いコンビニエンスストアへ向かって走った
一ヶ月もすれば強い日差しにすこし溶け始めるであろう黒いアスファルトの面積を駆け抜けて
おれはコンビニエンスストアの店内に飛び込む

おまたせ! 迎えにきたよ!

おれはレジ越しにあなたの太くなった手首を掴んで言った
おめえ、気色わりいんだよ! さわんなよ! とあなたは言った
あなたは変わってなかった
奥から亭主だと思われる店長が出てきておれの襟首を締めあげた
また来たら殺すよ?
おれはすみませんと謝って駈けてきた道路をまた走って戻った
クルマはもう止まっていなかった

初夏
片道一車線の道が
果てしなくまっすぐに
空に向かって
伸びていた

車道の脇に立ったおれは息を弾ませ、すがすがしかった

文学極道

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