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作品 - 20180412_481_10379p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


夜更けに見た夢見の女の子

  玄こう



 なんだか映画でも見ているような夜道を歩きつも、ふと寝間着姿の女の子が道に立っていた。

 狭い夜路の通りがかりにわたしが坂道を登ると向こうに見知らぬ女の子が立っていた。

 その子は笑いながら声をはしゃげて坂道を降りてくる。両の金網に絡む蔦の葉をつまんだりしては、その子はそのうち蔓を体に絡ませて、ラジオ体操をしているみたいに、くるくると踊りまわりながら、蔦の茎を縄跳びがわりに飛び跳ねていたりもしている。

 坂を降りてくその子は、酔ってるのかな?、、しかしあまりにもその幼い子の面立ちが、懐かしい小学生の時に好きだった子のような、肩にかかる黒髪のショートヘアを風になびかせカールガールのあの子にそっくりだった。

 わたしは、ついつい面食らいながら不思議なその子の姿に見とれてしまった。あんまり話しかけてもいけないが、なんだか楽しそうだから、かけ下りてくるその子についつい手を振ってしまった。その子はまるでわたしの存在など分からない様子だった。


 坂道を足早にかけおりて踏切でいつか下りてくる遮断機を待ちながら、美しく舞っている踊り子さん。

 病院から出てきた女の子だろうか、それとも家から出てきたんだろうか、夜更けに夕涼みに外に飛び出した子なんだろうか。




 砂浜の夏の夜のゆめみし遠退く、通い慣れた道幅狭く行き来たる影の子よ、歩幅は短く我が心は形無し夢みぞわたる子は遠退き、
 子は消え失せ、風をわたり、能わざるものを欲し、与えざるものを抑し、渇きしその子の笑い声も誰一人として人に与えぬ。

 その子は坂道をかけ下りていくとき、とても気持ちのいい風がわたしのこめかみをすり抜けていった。 わたしにはなにも見えていないまるで妖精のようなその姿を、その子もまるでわたしなんかが見えていない君の後ろ姿を、何度も振り返り、わたしは何度も君に手を振った。

文学極道

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