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作品 - 20180321_860_10331p

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深まりゆく春の日に

  宮永




この春は、本当によくジュリアンを見かけた。
窓枠に腰かけているジュリアン。
スーパーの前で自転車に乗っかっているジュリアン。
昨日は玄関先で天気をうかがっていた。
見かける度に違う色や背丈をしていたけれども、あれは紛れもなくジュリアンだった。

この春は、ジュリアンばかりでなく、マラコイデスやオブコニカさえ頻繁に見かけた。
そして僕はきまって熱に浮かされたようになる。
…ジュリアン…マラコイデス…オブコニカ
ジュリアン、マラコイデス、オブコニカ
ジュリアンマラコイデス…

帰るなり本棚を探す。
古い手帳を出してめくる。
あるいは手っ取り早くスマホで検索。
そう。そう、「プリムラ」
プリムラ・ジュリアン。
プリムラ・マラコイデスだ。
プリムラ、だ。
と繰り返し、繰り返す忘却。
どういう訳か、「プリムラ」の名は、僕の記憶から消えてしまう。





春も深まったある日、
僕は意を決して暗い階段を降りてゆく。
たどり着いた足が踏んだ、乾いた土の底…



          そこにはまだ冬枯れた庭があり、

          レンガで囲まれた花壇があって、

          少年が1人しゃがんで、手には

          銀のスコップと苗を持っている。

          緑の葉に包まれた、小さな赤い、

          プリムラ



それは温室育ちの鉢植えの花。
地に植えて、晴れた数日保てはするが、
春先の、冷たい雨風に耐えられない。
薄い花弁は雨に破られへばりつき
葉は茶色くまるまって落ちる。
待ち受けるそんな未来も、
また、この花に、
どれだけの明かりを託しているのかも、
彼は知らない。

知らないんだ。

文学極道

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